382.英気
レ オ:ホムラ〜
ホムラ:なんだ?
レ オ:魚焼いて〜EP減った!
レオから料理の依頼。
シ ン:もう!?
お茶漬:スキル使いまくってるんでしょ?
レ オ:わはははは! 食材がとれる今がチャンス!
ホムラ:そちらに行くからしばし待て
ペテロ:気をつけて――いや、私もEP回復しておこうかな?
食事のタイミングがズレると二度手間だし
菊 姫:あてちも行くでし
そういうことになって、【採取】【採掘】組3人でレオたちのいる川辺へ移動。
「サンキュー! これよろしく!」
レオからの生産依頼のウィンドウが開く。
基本はアイテム交換ウィンドウと同じだが、アイテムの移動がないままに生産ができる。今の場合は魚と枝の持ち主がレオのまま、私が生産可能。
アイテムの持ち逃げや、評価が低いアイテムとのすり替えなどの詐欺が初期のころに横行したのだが、店を持つともらえる機能というか、最初は商業ギルドから買うカウンターについていた機能だ。
今はこうして、店の外でも使えるようになった。
「……って、店持ったのか?」
今までは、レオにはアイテムを渡されて生産していたはずである。
「うん!」
元気よく頷くレオ。
「え!? 魚屋?」
お茶漬が驚いて聞く。
「いんや、服屋!」
「「「「「えっ!?」」」」」
レオの答えに全員の声がハモる。
「何がどうして服屋なんでし!?」
「もうパンツ押し付ける先がなくなった!」
わははと笑うレオ。
「ブーメランパンツ専門店……」
思わず遠い目をする私。
レオの店は闘技場のある島にひっそりと営業中のようだ。行く機会はないだろう。
レオからの生産依頼のウィンドウに並ぶのは魚と枝。
魚を釣るレオのおかげで、出先で『魚の串焼き』や『魚の塩焼き』を作る機会は多いので、使う素材はみんな知っている。
レオは【釣り】のほか、植物系が取れる【採取】、鉱物系が取れる【採掘】も持っている。私の移動の待ち時間に枝を用意してくれたのだろう。
「料理完了、全部『魚の串焼き』――って待て。毒になっているのだが」
生産した者の責任として、できた料理の説明書きに目を通したら毒の文字。
「え、魚もダメ!?」
慌てるお茶漬。
「あ〜。枝じゃない?」
ペテロが言う。
「なるほど、ここで採取した枝も毒か。リアルでも夾竹桃の枝をBBQの串に使用して中毒などということもあるし。すまんな、素材の方も確認すればよかった」
納得して謝る私。
「枝まで料理に影響すんのか」
「まあ、料理の素材なわけだししょうがないに」
シンとお茶漬。
「食べられなくなったでしか、もったいないでしね」
「ダメか〜」
菊姫にわかりやすくレオが落ち込んでみせる。
「【毒耐性】系のレベル上げにはいいけど、回復できる方法とか安全地帯を確保してからにしたい」
お茶漬。
「99本までなら私が引き受けるよ」
「では私も」
ペテロの言った99本は、アイテムポーチひと枠分である。
弱毒を食らうが、ランクも評価も高い美味しい『魚の串焼き』である。
そんな事故もあったが、レオの他の魚やお茶漬、シンの魚を塩焼きにして食べた。食べなかった分は、それぞれ魚の持ち主のアイテムポーチで保管だ。
この大陸では魚以外の食材という食材、薬の素材という素材が毒なので、食べる物と薬草類の管理には気を遣わねばならない。サウロイェル大陸から持ち込んだ毒に汚染されていないアイテムは、何か他の毒に影響されない回復方法を手に入れるまで大事にしなくては。
アイテムポーチには【ストレージ】に放り込んで使わずにいた、『エネルの藻塩』と『迷宮の岩塩』を移して、99スタックした。塩が足りなくなると言うことはあるまい。
【ストレージ】のものには手をつけず、アイテムポーチ内のものしか使わずに進もうと決めたとはいえ、だいぶ有利なところからである。
――【ストレージ】から移したのは大目に見て欲しい、何せアイテムポーチの中にもやばいものが詰まっていたんで。それを【ストレージ】に移して封印したので褒めて欲しい。それに使いたい放題の『神饌の塩』とか選ばなかった分、自重はしたはずだ。
EPを回復して、再び【釣り】とそれ以外に分かれて活動、テントに隠蔽陣で野宿。魔物を倒しては川沿いに進んで、採取と釣り、野宿を繰り返す。
本日も色々終えて野営の準備。夜の敵は倒すこと自体は簡単だが、毒がえぐいので夜に切り替わったらさっさと『隠蔽陣』を持ち出している。
『隠蔽陣』は寝ている間の魔物避け。何回かランクが上のもの、上のものと買い替えている。
最初のころは『隠蔽陣』を敷いても人の気配の多さに惹かれて魔物がくるのではと、テントを離して設置したりしていたが、今はもうそんな不安も感じず、近くに張っている。
『隠蔽陣』は起きている時よりも、就寝中の方が効果が上がるとのこと。
「腹減った!」
「おじいちゃん、さっき食べたでしょう?」
レオの言葉にボケる私。
「釣りながら焼き魚食ったわな」
げんなりしながらシン。
食材を減らさないため、毒のない魚が獲れる川のそばにいる限り、魚料理、しかも調味料などが最小限におさえられる『焼き魚』が続いている。
「焼き魚だけだろ! EPの回復用じゃん!」
「このゲーム、EPの回復をするために食事をするんだけどもね」
叫ぶレオの隣でボソリとペテロ。
「立派な焼き魚だったでしよ? ちょっとずっと焼き魚だっただけで」
こちらもげんなりした様子の菊姫。
「レオじゃないけど、今まで3度3度バラエティに富んだ美味しいものを食べてたせいで、食事時になるとEPが減ってなくてもお腹が空いてる気がする……」
「求む! ちゃんとした食事!」
お茶漬とシン。
「では普通の食事にするか? モチベーションを保つ意味でもそろそろ――」
「賛成! 何かスパイシーなものがいい!」
即座にお茶漬。
「食う!」
「肉!」
「スープが飲みたいかな」
「酒はあるでしか!?」
他の4人にも依存はない様子。
「酒はないけど、煮込んだチキンレッグ入りのカレースープにしようか」
そう言って湯気のたつスープカレーを出す。
アイテムポーチの容量の関係で、色々食材を使うタイプの料理は、調理済みで持っている数が多かったものをいくつか選んである。
カレー系は炎王用に何種類か作っていたために、99ストックがいくつかあるのである。その中から家庭の味っぽい豚肉のカレー、チキンレッグ入りスープカレーを選んでいる。
「やった! ホムラのスープカレー好き。スパイスが絶妙だし、ちゃんとスープだし」
「ちゃんとスープという日本語よ。でもわかる、世の中には湯にちょっとなんか溶きました! みたいな味のぼやけた薄っいスープって呼びたくねぇモンがあることを、俺は知っている!」
妙な喜び方をするお茶漬に賛同するシン。
「わははは、魚以外のタンパク質!!」
チキンレッグを齧るレオ。
「ホムラの料理は普段も美味しいでしけど、格別でし」
しみじみと味わってくれている菊姫。
「ん、おいしい。今まで食事の面で恵まれていたからキツかった。焼き魚も美味しかったけどね」
ペテロがスープカレーを飲んで、パンに手を伸ばす。
「こっちの食材でも料理してみたいけど、毒問題を解決しないとだな」
魚以外にも何種類か食材を手に入れている。
「ずっとこうじゃストレスが溜まるだけの新大陸になっちゃうし、解決法が何かあるとは思うけど。とりあえずはエルフの町探さないとね」
スープを飲み干してお茶漬。
「わはは! がんばろうぜ!」
「おう!」
レオとシンがいい笑顔。




