381.石飛びミニゲーム
あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします!
「ひゃああああああっ!」
お茶漬が情けない声を出しながら川に落ちてゆく。
「次俺が先頭!? あと一回ドボンしたら戦闘じゃん!!」
シンが叫ぶ。
「わははは! 先頭で戦闘か!」
「今回のはおやじギャグじゃないんですぅ! 嫌ああああ!!」
レオのツッコミにシンが叫び返す。
「いいから早く進むでし! 全員沈めたいでしか!」
菊姫がぷんすか怒っている。
川沿いに魔物を避けながら進むと決めたものの、魔物の数が多く、とてもではないが避けられなかった。川沿いに魔物が集まっているような印象だったのだが、川の中は安全地帯だった。
で、不自然に川の中に点在する石を足場に進むのでは? という話になり現在に至る。川の範囲は『浮遊』もきかないし、完全にミニゲームでした。
5回川に落ちると強めの魔物との戦闘となり、毒を食らう。石の足場は、滑るものと、沈むものが混じっており、正しい足場もずっと乗っていると沈む。
基本、先頭の者についてゆけばいいのだが、先頭が沈んだら最後尾に入れ替わる。また失敗なしで沈まなくとも、10進んだら入れ替わらないと全員沈む。
「ちょっと緑の石は滑る、ちょっと白っぽい石は沈む! うをおお!!」
シンが石の判別方法を叫びながら、次の石に飛ぶ。
色の差は、冷静に見ればわかりやすいのだが、瞬時に判断しなくてはいけないため、間違いやすい。誰かが沈んだ後は少し間がもらえるのだが、通常は止まって迷うようなことはできない。
「今のお茶漬、ただ石に届かなかっただけ?」
シンの後を進みながら、ペテロが確認する。
「毒のスリップダメージ被りで普通に目標に届きませんでした! 無理ゲー!!!!!」
一番後ろの石に這い上がりながらお茶漬。
「どんどん難易度高くなるでしね。弱毒は平気だったでしが、毒はダメージくるとき一瞬硬直するでしよ」
「異常回復使いたい……」
お茶漬がぼやく。
「『MP回復薬』も『毒消し』も節約しないと」
ペテロ。
「ここの『毒消し』でよければ使うか?」
私。
この大陸はシレーネの毒に侵されており、食物にも薬にも【弱毒】がついている。【毒】を治しても【弱毒】、MPを回復しても【弱毒】である。
ペテロの言った『MP回復薬』と『毒消し』は、元いた大陸から持ち込んだ分のことだ。
「毒忍者に毒忍者フレンドが涼しい顔をしてる……っ」
悔しそうなお茶漬。
「ははは」
空々しい笑顔のペテロ。
「毒忍者フレンド」
どういう分類なのか。
「よっしゃ! クリア! 交代!!!」
ガッツポーズのシンがペテロを先に行かせるため、脇の石に避ける。
「って、ぎゃあああああああああああああ」
そして沈んだ。
「馬鹿〜〜〜んでし!!!」
菊姫が叫んで岸に飛び移る。
現れ襲ってきた魔物との戦闘開始。
「戦闘自体は問題ない……んだけど、毒ぅうううっ!!」
半泣きのお茶漬。
お茶漬は種族的職業的に生命が少ないため、毒で削られるダメージが馬鹿にできない。
「なんで食材がドロップするでしか! なんでエルフの大陸で『春菊』なんでし!」
「おじさんのポッケには『豆腐』〜」
「わははは! オレんとこには『卵』!」
「『肉』きたコレ」
「私のところには『糸コン』、すき焼きかな?」
魔物を倒すと食材が落ちる率が高い。が、全部【弱毒】付きで必ず一つは【猛毒】か【強毒】がついている。ちなみに私のところには『割り下』が来た。
「お腹減るでし!」
「戦闘終えたら昼だし、ご飯にしよう」
戦闘後は、周辺にしばらく魔物が出ない。
「やたあああああ!!」
私が言うと、シンが最後の魔物を蹴散らす。
「『異常回復』『異常回復』……! 【チャクラ】!!」
お茶漬が毒を消し、【チャクラ】でHPMPを回復させる。
【チャクラ】は便利だが、回復量はそう多くない。連続して使えば、すぐにEPが減る。
そういうわけで、EPを回復がてらご飯。
簡易調理道具で作って提供。――アイテムポーチ内にあるものだけ使うという縛りで進んでいるため、他の道具類は【ストレージ】の中だ。料理になる素材も絞っている。
「完成品が素材の数よりできる料理で選んだから、リクエストは受けられん」
本日のメニューはステーキです。
焼くだけ、食材の肉1に対して、3枚できる。EPの回復量が多くなるよう、ランクの高いいい肉を選んでいるが、ステーキだけというのも微妙な気分になる私だ。
「はぁ〜肉うめぇ」
「分厚いステーキィ!」
シンとレオには文句がない様子。
「お酒がないのが辛いでし」
「食べられないとなるとカレーとか食べたくなる」
3度目の食事にして、菊姫とお茶漬は少しぼやきが入っている。
「ステーキが続くのも大変だね」
そう言いながらすき焼きを小皿に救うペテロ。
「ネギが旨そうだな」
私も豆腐とお肉、少しくたっとしたネギを。
「ネギとエノキは材料になかったのに入ってるね」
「ああ、スキルを使うと味の調整はできんが、素材になくても出来上がりには入っている」
スキルで作るための素材が揃っていさえすれば、味も具材も決まったものが出来上がるのだ。
「いいお肉だけど、味が少し濃いかな? 生卵は思ったより生臭くないね」
「ここのドロップ品はランクが高いからかな? 肉も美味しい。調味料を揃えて味の調整をしたいところだ」
手動で作るには調味料や具材が色々不足している。
ランクが高い素材でできているので当然評価は高くなり、好みから微妙に外れているが、美味しいと感じる。
……ちょっと毒がピリピリするが、一味をかけたと思えば。
「く……っ、猛毒すき焼き美味しそう」
「毒の酒が出たら呪うでし」
お茶漬と菊姫がステーキを噛み締めながら不穏な様子。
こうして魔物を避けつつ――避けられていないが――川を遡る。ミニゲームゾーンも抜け、川辺を歩いてる。
「お? この辺良さそう、【釣り】していいか?」
レオが聞いてくる。
「もちのろん! 毒のない食材確保は最優先だぜ!」
そう言ってシンも釣竿を取り出す。
「ミニゲームがあったから、きっともう少しで町か何かあるんだと思うけど、もういい時間だし、ここで野営する?」
お茶漬。
流石に何もないところにミニゲームだけあるというのも変なので、お茶漬の言う通り何かあるのだろう。水辺だし、町の確率は高い気はする。
「そうだね。夜の魔物はけっこうエグいし」
ペテロ。
見た目の話ではなく、毒を撒き散らす量が昼の魔物から倍増する。ここの毒は蓄積してゆくタイプなので、【弱毒】はすぐに【強毒】に代わり、一定時間ごとに生命が減る毒のダメージがえげつない。
フルパーティーの6匹で現れたりすると大惨事になるので、【隠蔽陣】を出してさっさと寝てしまう方がいい。
「じゃあ私はこの辺で【採取】【採掘】できないか見てみるか」
とはいえまだ陽があるし、レオたちが【釣り】をしている間、何もしないのも暇だ。
【釣り】スキル持ちは釣り、持っていない組は【採取】【採掘】へと分かれる。もちろん分かれる前に魔物が周囲にいないか確認はしている。
「ホムラ〜これなんでし?」
「『赤の綿』『白の綿』、それぞれ【火属性】耐性つき、【極寒】耐性つきの糸や布ができるようだ」
【鑑定】をして結果を菊姫に答える。
「ありがとでし!」
【裁縫】持ちの菊姫が嬉しそうに採取ポイントに戻ってゆく。
毒の飯が食え、毒のMP回復薬が使える私とペテロが【鑑定】役や、警戒役をしている。
面倒ではあるが、まだお互いスキルが揃っていなかった頃、アイテムポーチの容量が少なく、全員やりくりに頭を悩ませていたゲーム開始初期のようで楽しい。




