380.悪食
「じゃあ森に入る前に確認!」
お茶漬の言葉に立ち止まる面々。
「まずは食事、川魚も大丈夫っぽいから、道中は【釣り】持ち頑張る方向」
「おー、釣るぜ!」
レオが元気よく腕を振り上げる。
「次は弱毒になる『毒消し』と、『回復薬』確保――これはさっきみんな補充したよね?」
「した、した」
シンをはじめ、全員が頷く。
屋台のエルフの話を聞く限り、大量に必要になりそうだったので冒険者ギルドを出る際にみんなで購入している。
商業ギルドもあるが、『毒消し』や『回復薬』といった戦闘に必要になるものは冒険者ギルドでも扱っている。
「ホムラとペテロはこっちの草でも『毒消し』作れそう?」
お茶漬が私とペテロを見る。
「草」
ひどい言いよう。
「買った時に【鑑定】したら、普通の『毒消し』と同じ素材でできてたよ。全部毒ってるだけで、素材もできるものも一緒」
お茶漬の質問にペテロが答える。
「じゃあ、草が生えてたら【採取】して作ってもらう方向で」
「承知」
「あー……。今回、【ストレージ】封印方向で。常識的な量をアイテムポーチに移動しておく。『毒消し』その他を作るのはもちろんOKだ」
【ストレージ】の封印宣言。
「常識的な量って。どんだけ食材持ち歩いてるの」
半眼で私を見てくるお茶漬。
『毒消し』の話だったはずが、食材にシフトした。『毒消し』も詰まっているのだが、持っているのが食材だと疑われない罠。
「今回食事に条件がつくフィールドだけど、そもそも食事に困ったことなかったね」
ペテロが笑いを含んで言う。語尾にwwwが見える。
「三食おやつ付き、酒付き攻略してたからなぁ」
がははと笑うシン。
「封印は賛成でしけど、お酒は移動しといてくださいでし!」
菊姫が真面目な顔で要求してくる。
「便利だけど、冒険じゃないな!」
レオ。
「レオはいつも無謀すぎ。――ま、最初くらいは用意された縛りを楽しむ方向で」
お茶漬。
そううわけで、【ストレージ】を封印。封印と言っても、ただ単に【ストレージ】の中のものに手をつけないというだけだが。アイテムポーチに移動した分だけ使うことにする。
『ヘビ皮の袋』、後でもう一つ取りに行こうか。大容量のアイテムポーチだったが、【ストレージ】があるからとリデルに渡している現在。2つ目はガラハドに売った。
一応、レベルなりの容量の物は持っているのでよしとする。……ずっと選別せずに放り込むことに慣れていたので、不安があるが。
「あとは商業ギルドで魚介が売ってたら買い込んでいこうか。商品ラインナップもチェックしたいし……」
お茶漬。
現地に売っているものが現地で必要になるものあるある。
「アイアイサー!」
元気よく答え、商業ギルド支店の方角へ歩き出すレオ。
「お肉と野菜、船に乗る前に買っておけばよかったでしね」
「肉がぴりぴりしやがるしな」
菊姫とシン。
なお、焼き串をペテロに買ってもらって食べたが、ぴりぴりはしたものの【毒耐性】や称号が仕事をして、毒のダメージがなかった私です。
商業ギルドの支店で、使いそうにないアイテムを預け、代わりに使いそうなものを補充する。
【烈火】とすれ違い、ギルヴァイツァやクルルに手を振られ、振り返す。炎王にはフンっと顔を逸らされた。
考えられる準備をし、森へ向かう。
「道はあるが、道なりに進んで果たして町があるのかどうか」
呟く私。
森に続く道、先に【烈火】が見える。
「『人に聞いて訪ねるものではない』だったよね。基本隠れ里仕様だったりして」
ペテロ。
「道なき道行くか!」
いい笑顔で聞いてくるレオ。
「【烈火】の後をついてったんじゃ、戦闘できねぇしな!」
がははと笑うシン。
【烈火】の戦闘中に追い越せばいいのだが、道中ずっと追い越し追い越されになりそうで落ち着かない。
「川沿い行こうよ、食材確保も兼ねて」
お茶漬。
「賛成でし」
大きく頷く菊姫。
そういうことになって、道を逸れて川沿いから森に入る。
急に海の匂いがしなくなった。不自然に途切れる匂い、音。ゲームであることをしばしば忘れそうになるが、フィールドの切り替わりでここがゲーム世界だと思い出す。
「綺麗な森でしねぇ」
「でも毒の森なんだよなあ」
菊姫とシンが辺りを眺めて言う。
濃い緑の葉をつけた枝が広がって空を隠しているが、その割りに明るい。ここの木々の葉は陽の光を透過する割合が高いようだ。
「水は汚染されてないみたいだね。飲めるよ」
【鑑定】したらしいペテロが言う。
「『シレーネ』は水神ファルの封じる獣。水はファルの力の方が強いのだろう」
それに一応、浄化やら癒しやら司る神だし。
「なるほど。川沿いで正解かもに」
お茶漬が言う。
「エルフも水は飲むだろうしな」
町の中に井戸があったり、そばに池があったりするかもしれんが、川の水を利用している可能性は高い。
「お客さんでし!」
菊姫が大剣を構える。
「襲ってくるタイプの魔物なのね。嫌だわ」
お茶漬が付与を配る。
「とりあえず【挑発】でし!」
菊姫が走ってくる魔物たちの敵視を集め、ターゲットを自分に固定する。
襲ってきたのは鹿の魔物。『毒の森の青雄鹿』だそうだ。
「いきなり気配が強くなった。【隠密】系かな?」
ペテロが言う。
「目視できないと分からないなら厄介だな」
【隠密】や【潜伏】など、相手の存在を認識しないと気配が分からないスキルがある。
存在を認識した時点で、【気配察知】にかかってきてもあまり意味はないが。
「さて。無難なところで【火】、『ファイヤーボール』」
新エリアの系統の分からない敵、あまり強い魔法を放つと反射持ちだった場合に酷い目に遭う。
私はともかく、お茶漬あたりに反射された魔法が飛んだら大惨事なので、まずは様子見。どうやら大丈夫そうだ。
「【看破】発動させときま、す!」
言いながら魔物に向かって走り、すり抜けざま攻撃を叩き込んでいくペテロ。
「わはははは!」
同じくレオ。
「そういや、フォスに行く道中も鹿だったな!」
走り抜けて魔物の後方に配置した二人の後、シンが鹿の魔物に攻撃を叩き込む。
敵の攻撃を自分に固定する盾役の菊姫は正面。
背後からの攻撃にボーナスがつくスキルの多い、シーフ系のレオとペテロの二人は魔物の後方。
コンボを繋ぐ条件に、攻撃する方向指定がある格闘系のシンは敵のすぐそばの横。
お茶漬は菊姫の斜め後ろで、シンとレオに近く回復しやすい方。盾役は攻撃を受け止めるのが仕事だし、近接はどうしても攻撃を食らいやすいので――あとレオは食らいやすいので。
ペテロは回復が欲しい時は、自分でお茶漬が狙いやすい場所に移動してくる。
遠距離魔法職の私はお茶漬の反対側。魔剣士系なんだが、クランパーティーの時は魔法使いの顔をしている私だ。
「うー。毒ついたでし……」
心なしか耳がへにょっとした菊姫。
「うっわ、こっちも毒!」
「俺も俺も! ナイフ持ってるのに理不尽!!」
シンとレオが叫ぶ。
「返り血かな? 細かいけど血飛沫が避けられないレベルで飛んでるね」
涼しい顔のペテロ。
「そりゃあ【毒耐性】持ってますよね、毒忍者」
お茶漬。
「自分の毒で死にたくないからね」
笑って鹿にスキルを放つペテロ。
【毒耐性】持ちだが、遠距離攻撃なんで範囲外な私。遠慮なく魔法を叩き込む。
毒の問題はあるが、戦闘自体は苦戦せずに終わった。
「戦闘が終わったら、ちょっと楽になったでし。でも毒ついてるままでし」
菊姫がぼやく。
「ダメージは普通の毒の10分の1とか、20分の1とかそんな感じだな。鬱陶しいけど、生命的には気にならねぇ程度だな」
「この毒、蓄積してくんだろ? 敵ってなるべく避けて進んだ方がいいのかな?」
シンとレオ。
「うーん。戦闘はなるべく避けて、町を探そうか。戦闘するなら安全地帯を確保してからで」
お茶漬の結論。
「問題は敵が気配を消してることだね。【看破】は使っておくけど、基本見ている方向に発動するスキルだし、漏れがあったらごめん」
漏れなどないけど、と続きそうな顔でペテロ。
「EPの減りが激しそうだが、大丈夫か?」
「『毒の森の青雄鹿のスネ肉』、パイにでもしてくれない? 食べやすいように小さいやつ」
心配したら笑顔が返ってきた。
そうか、食っても毒にならないから食えるのか。
「了解」
新しい食材での料理、喜んで。
そして私も仕事をしよう。【看破】と【糸】で探るのとどちらがいいだろうか。
「まさかの悪食で難易度激減」
「【烈火】とか【クロノス】はどうするんでしね?」
「うう、おじさんも肉食いたーい!」
「わはははは!」
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