378.ノルグイェル大陸
船は海を進む。
サウロイェル大陸、主に人間族が住む大陸
サウロウェイ大陸、主に魔族が住む大陸
ノルグイェル大陸、主にエルフ族が住む大陸
ノルグウェイ大陸、主にドワーフ族が住む大陸
サウロイェル大陸から始まった冒険は、海を超えてノルグイェル大陸に舞台を移す。
船には私たちだけではなく、ロイたち【クロノス】の中心メンバー、炎王たち【烈火】の面々、それに組んだことのない人たちが数人。
【クロノス】はロイが船酔いで、船室に引っ込んでいる。大変だな、後で炭酸水でも差し入れよう。
私たち【ゾディアック】と【烈火】は甲板で海を眺めている。――レオは走り回って、帆柱に登ったりしとるが。
船員の邪魔になっておらんか心配したが、何か遊ぶついでに手伝いもしているらしく、船員に渡されたロープを引きずって走ったりもしてる。謎のコミュ力。
「続くプレイヤーは少ないだろうな」
炎王が言う。
「そりゃなんで?」
シンが聞く。
「黒き獣イシュヴァーンも、雷獣鵺も生産職でもクリアできるって聞いたでしよ?」
菊姫。
「初討伐後に現れる鵺の難易度を下げる条件の一つは、『帝国の騎士がいること』みたいね」
お茶漬が会話に参加。
「初討伐後?」
2度目の鵺は条件が違うのか?
「そそ。1度目は絶対戦闘能力も必要だった感じだけど、2度目はいくつか条件満たして騎士を連れていれば生産職でもいける。レベルはいるけどね」
「1度目、どう考えてももっと時間をかけて挑戦するボスです、ありがとうございました」
お茶漬とペテロ。
「人間の大陸でもまだ行ってないとこいっぱいあるにゃ。絶対レベル足りないまま鵺を倒してるにゃ」
クルルがうんうんと頷きながら続く。
そして炎王が私を見ている。すみません、最強騎士とか戦力過多で。
「――騎士より異邦人の数の方が圧倒的に多いのでは?」
1度目と2度目以降で変わるのは分かったが、騎士と親しくなってパートナーカードをもらい、さらにパーティーに参加してもらうとなると、大変ではないだろうか。
「帝国に手伝いをお願いすると、『今はまだ、国を落ち着かせることで精一杯で……』とかなんとか返ってくるから、そのうち国が落ち着いたら帝国が騎士の派遣してくれるようになるんじゃないかに」
「ああ、楽に攻略できるよう難易度下げる的な?」
お茶漬の言葉にシンが言う。
ネットゲームでは、クエスト実装からある程度時間が経つと、先に進みやすくするために攻略難易度を下げることもあるのだ。
「今はまず騎士と知り合って、ある程度好感度をあげるところからだから、時間かかるわよ〜」
ギルヴァイツァが言う通り、鵺の攻略目的で慌ててとなると、信頼を勝ち取るために時間がかかりそうだ。
「しばらくは手探りで新しいクエストを探すであります」
大地。
大地はプレートメールを脱いで、顔を晒している。最近、ちゃんと顔を覚えたが、はっぱりまだプレートメールで顔も隠れているイメージが強い。
ハルナは引っ込み思案なのかほぼ喋らず、そのハルナに寄り添っているコレトともあまり話したことがない。
「未知の場所をゆくのは楽しい」
クエストのフラグを回収しこねてやり直せず、後悔することもあるが、未知の場所は心躍る。
「エルフ大陸で早いうちに転移門を見つけられるといいんだけど」
お茶漬。
「これだけ手間をかけて移動できるようになったんだ、しばらくは見つからないか、見つけても利用できないのではないか?」
簡単に元の大陸と移動できるようになってしまっては、苦労が霞む。
「新しい大陸が目の前なんだぜ! 戻ることなんか考えてちゃテンション上がらねぇぜ!」
シンがお茶漬の背中をバシバシ叩いて上機嫌に笑う。
「わくわくしようぜ、わくわく!」
通りがかりのレオも楽しそう。
「何でもう帰りたくなっちゃったんでし?」
「帰りたいというか、いち早くエルフの特産品を持ち帰って売りたい、暴利を貪りたい!」
菊姫の質問に、拳を握りしめお茶漬が力強く答える。
「そっちか」
「お茶漬らしいね」
私とペテロが納得。
ファガット周辺の海の色はアクアマリン、バロン周辺の海は紺青。ノルグイェル大陸が近づくにつれ、エメラルドグリーンへ変わってきた。
「いや、木々が沈んでいる?」
海の中に低木が生えている。
「ここは、海竜が海底トンネルを通った後の数日だけ海面が上がるんだって。いつもはあの木々が水面から顔を出してる遠浅の海つーか汽水域なんだってよ!」
大陸が近づいたことで、船内の探索をやめたのかレオが寄ってきて一緒に下を覗き込む。
「船員さんに聞いたのか?」
「うん!」
海の中の植物は、綺麗な黄緑色。広葉樹のようなのだが、どこか海藻か珊瑚っぽさもある。
「この植物から塩取るとかも言ってたぞ!」
「へえ、面白いな」
レオが集めてくる話は雑多で面白い。
雑多すぎてとりとめがなく、話をつなぐ中心の情報が丸っと抜けている時も多々あるので、時々話の繋がりに混乱することもあるが。
陸が近づくと、ロイたちが船室から出てきた。暁がロイに肩を貸している。
「大丈夫か?」
「無理……海船だけは無理」
げっそりしているロイ。
「『炭酸水』やるから飲んでみたらどうだ?」
船酔いは【神聖魔法】レベル25の『回復』をかければ治せる気もするのだが、あれは危険が危ない魔法なので封印中だ。ガラハドたちにかけて惨事だったからな。
「サンキュ」
礼を言って受け取り、『炭酸水』を飲むロイ。
「ありがとうございます」
ロイの脇のクラウからもお礼を言われる。
クラウは本を抱えているので、おそらく乗り物に強い。乗り物に乗って、文字なんか読んだら、すぐさま酔う自信しかない私だ。
「おー。港だ!」
シンが手を翳して叫ぶ。
「港っていうか、桟橋と建物が数軒だけ?」
その隣、目をすがめるようにしてお茶漬。
「エルフは森に町があって、港には交易用の家しかないって! みんな森から離れるの嫌がるんだってさ」
「一番最後に乗り込んだのに、レオが一番詳しいでし」
「さすが密偵」
字面とは合わない気がするが、情報収集能力はすごいと思う。
「あ、俺今、【義賊】経由で転職して【風神の大怪盗】!」
あっけらかんと言い放つレオ。
「は!? 聞いたことない職なんだけど、どうやったの!?」
お茶漬が驚いて、レオを見る。
いつの間に【義賊】になって、いつの間に怪盗になったんだ? そして明らかにヴァルに気に入られている様子。愉快犯が愉快なレオに目をつけたか。
「カジノとなんかいろいろクエスト!!! あと雲釣った! 一応、上位職だぞ!」
「おお、すげぇな。おじさん、カジノ通ってるけど転職まだー」
カジノに通っている財布が危険な二人。
「雲って何!?」
お茶漬が軽い混乱中。
「相変わらず何をどう進んでいるのかわからない」
理解するのを諦めている気配なペテロ。
そうこうしているうちに着岸。
「お疲れ様です。ギルドカードを拝見します」
にこにこしたエルフ3人が桟橋に立ち、出迎えてくれた。
「第一エルフ発見!」
「第二、第三エルフも発見!」
レオとシンが船から桟橋に飛び降りる。
「発見というか、普通に出迎えでしょ」
縄梯子を降りるお茶漬。
出迎えのエルフたちはニコニコしているが、身元の確認役だな。ギルドカードに犯罪者のステータスがあった場合、おそらく桟橋を渡り切ることはできない。
【暗殺者】は職業の一つであって、特に問題ないことは分かっているのだが、少し緊張する。【水神の大怪盗】のレオは緊張しないのだろうか、笑顔でギルドカードを見せている。
何事もなくチェックを通過し、長い桟橋を渡る。2メートルにも満たない小さな陸地があちこちにあり、建物のある場所がようやく大陸の端というような印象。
先ほど海中に見た木々が、そこにひと叢、あっちにひと叢と枝を伸ばして茂っている。
船を着ける場所以外は、浅いようだ。浅いといってもおそらく5、6メートルはあるのだが、透明度が高いので底まではっきり見える。黄色い小魚の群れが視界を横切って行った。
「いえーい! ノルグイェル大陸!」
「SS撮ろう、SS!」
「邪魔になるでしから、少し避けるでしよ」
桟橋から地面に足をつけた途端、盛り上がるシンとレオを菊姫が注意する。
「気持ちはわかるにゃ」
「来たわね、新大陸」
クルルとギルヴァイツァ。
「ふふ。綺麗なところですよね」
シラユリ。
「一緒に記念写真とるです〜」
「一緒に写真撮りたいですー」
後ろから来たカエデとモミジが笑う。
「うう、陸も揺れてる気がする……。俺が揺れてるのか?」
ロイはまだ大変そうだが、暁の肩を借りずに一人で歩いているので多少マシになった様子。
桟橋から建物群への道は避けて集まり、【烈火】と【クロノス】と記念撮影。
「ふん」
面倒そうな顔をしつつも一緒に写真におさまる炎王。
「いいな〜、【烈火】と【クロノス】と記念撮影」
「まざりたい〜」
「【Zodiac】もレアじゃない?」
「レオを見られたんで、いいことがあるはず!」
「【クロノス】も【烈火】も格好いい」
「【烈火】の赤毛揃いも格好いい。混ざりたい」
「この3つのクラン、仲いいんだ?」
「【クロノス】と撮影いいなあ、羨ましい」
周囲から羨ましがる声があがり、気のいいロイがそれを受けて【クロノス】はそのまましばし記念撮影タイム。
ロイたちを生贄――いや、ロイたちに後を任せて、私たちと【烈火】は建物を目指すのであった。
レオの職、訂正いたしました!
ありがとうございます




