377.宝箱の選択と出発
「何色を開けたのだ?」
「赤」
私の問いにガラハド。
「ガラハドに魔法か」
イーグルが言外にどうしようもないな、みたいな雰囲気を滲ませる。
「いや、単発で魔法使いでなくとも戦闘中1度使えるようだ。威力は知力じゃなく、使用者の属性の強さ依存。悪くねぇ」
「あら、何が出たのかしら?」
魔法使いのカミラが興味を示す。
「【灼熱魔法】『エクスプロード』だな。一応言っとくが、譲渡不可というか、開けたら即覚えたぞ」
「レベル80じゃない! それは職に適正がないと覚えられない魔法よ、すごいじゃない!」
カミラが驚く。
「どうやらアイルは大盤振る舞いしたようですね。戦への貢献度によって中身が違う可能性もありますが」
カル。
「ガラハドにはぴったりな魔法な気がするな、おめでとう。――赤で【灼熱魔法】『エクスプロード』か」
色で職系統わけかと思ったが、属性別かもしれん。もらった時点で8色からランダムとか。『宝箱ランクS』、赤・青・緑。青があるから違うか。
青は属性との対応がありそうなのにない色だ、水属性を表す色は『黒』になる。どうにもなれん異邦人の間で、水が青で表されることもあるが。
五行で水の色は『黒』――だが、木の色は『青』なのだが。タシャの色は『緑』。微妙に五行ともズレている。
古い日本語では、色については『赤』と『青』しかなく、『白』と『黒』は明るさを指す言葉だったと言う。色の後ろに『い』をつけられるものが、色彩の名と聞く。
色の感覚は国によっても違うだろうし、なかなか奥深い。見ている色が一緒とも限らんしな。
「私は『青』、出たのは【龍王剣】レベル80相当。【水属性】の魔法剣のスキルだね」
イーグルも開けたらしく、教えてくれる。
【火属性】は【鳳凰】、【風属性】は【天花】、【土属性】は【霊亀】、【金属性】は【王虎】、【水属性】は【龍王】、【木属性】は【獬豸】、【光属性】は【星列】、【闇属性】は【月円】。
剣と拳に纏わせた魔法の属性で名前が変わる、シンの【鳳凰拳】とか。ただし、後者の呼び名では咄嗟の時にパーティーメンバーの他の職い伝わらないこともあるので、シンプルに火属性の剣などと言うことも多い。
ところでシンがスキルを回す時、【獬】をカイチと叫んでいるが、ただのカイではなかろうか。
獬豸は頭に長い一角を持つことから一角獣とも呼ばれ、狛犬のモデルとも言われる。獅子が阿吽の対になっているのも見るが、古い狛犬は獅子と角のある狛犬が対だ。
人のが争うと、理が通っていない一方を角で突き倒すという話もあるので、審判者の面を持つタシャと合うのだろう。
「じゃあ、私は『緑』を開けてみるわね。【聖法】『守りの盾』、これもレベル80ね。3秒間ダメージを防ぐ、私は適職ではないから使えるのは一度だけだけれど、強力なスキルね」
『緑』は【聖法】か。
「3、4度連発した挙句、【回復】するMPが不足して死んだ神官がいたな」
ガラハドが言う。
「使い所が難しそうね」
カミラが悩ましい表情を浮かべ、頬に手をやる。
「赤・青・緑と出揃いましたか。物理、魔法、聖法でしょうか? 赤と青の属性は、開けた者の一番強い属性が影響していそうです。持っているスキルと被った場合はどうなるのか――『青』【龍王拳】。被ると一撃だけ威力が少し増すようですが、それだけです」
カルは『青』を開けたようだ。しかもこれ、私に情報を渡すためだけに選んでないか? それに『被ると』ということは【龍王拳】も持っていて80越え? カルの適正職はどうなってるのだ? いや、【騎士】なのは間違いないだろうけど。
「ありがとう」
自身が欲しいものでなく、私のために宝箱を開けた確証はないが、感謝を伝える。
というか、欲しいものが浮かばなかったのかもしれないが。レベル80のスキル、みんな持っていそうだ。武芸十八般、全てに秀でて誠の騎士とか言いそうなイメージが。
「ジジイ、【龍王拳】持ってんのかよ。――MPもEPも不要、条件なしに使えるんなら、いざという時の切り札にできるだろ」
ガラハドがげんなりしながら言う。
「いざという時とは? そこまで追い詰められる様な戦い方はするな」
ガラハドに厳しい目を向けるカル。
無茶言うな。私なんてレベル80のスキル自体まだ持ってないというのに!
お茶漬:ホムラ、箱開けた〜?
どうしよう、この最強騎士、とか思ってたらお茶漬から会話が飛んできた。戦勝会からそのままだったパーティー会話を、クラン会話に切り替える。
ホムラ:私は開けていないが、赤は魔法、青は剣や拳の物理、緑は聖法のようだ。どれもレベル80のスキルが条件なしに1戦闘に1度発動できるようだ
菊 姫:NPCもご褒美もらってるんでしね
ペテロ:検証おつww
お茶漬:80が最高かな? 王族からいるフロアが遠くなるほど、宝箱の中身のレベルが低くなってるっぽいけど、基本は一緒だね
レ オ:俺、【氷魔法】の『氷結』ってのでたー
シ ン:おじさんは【灼熱魔法】『エクスプロード』〜
二人はもう宝箱を開けたようだ。鵺戦で行方不明だったので、レオだけはフロア違い。
ホムラ:そういえば、レオの断罪はどうなったんだ?
レ オ:断罪してきた方が衛兵に連れてかれたぞ!
菊 姫:レオは誰かと付き合ってるって勘違いされたんでし?
レ オ:カークっていう愉快なのと漫才してたら勘違いされたみたいだ
お茶漬:カークは男性名なんじゃないかとか、漫才って? とかツッコミどころが増えたんですが……
レ オ:女の子に『泥棒猫!』って叫ばれたぞ! 犬だけどな!
ペテロ:カーク=アルディバンスって、ホムラが踊った公爵家の末っ子でしょ?
ホムラ:令息と漫才……
シ ン:最後、どう纏まったんだ?
レ オ:みんな一緒にケーキくった!
お茶漬:ダメです。当事者が把握していないんで、状況が不明すぎ
「主、悩まれるのでしたら、もう少し情報が出るのを待ってはいかがですか? 私の方でも収集いたしますので」
カルがにこにこと言う。
クランで会話している間、宝箱のウィンドウを開けていたため、どれを開けるか悩んでいると勘違いされたようだ。
「『緑』を開けよう。【聖法】『守りの盾』、戦闘ごとに使えるのは魅力的だ」
【堅固なる地の盾】は強力だが、一度使うと次に使えるまでが長い。
3秒だけなので、上手く使うには相手が使ってくるスキルの特性や発動のタイミングを知る必要が出てくるが、そこは頑張ろう。
宝箱を開けたあとは、ラピスとノエルを寝かせ、大人はもう少し酒を楽しんだ。私とレーノは紅茶だが。
――翌日、帝国の港。
アイルでの戦勝会を終えたことが解放条件なのか、船の準備が整った。乗ることができるのは、最初に鵺戦に参加した者たち。
掲示板ですぐに検証や攻略法が流れるため、あのあと鵺を倒した異邦人は増えたのだが、鵺を倒すこととは別に帝国への貢献度が必要なようで、乗船者は少ない。
鵺を倒すことだけが条件と思っていたので、ちょっと予想外なのだが。イベント後の鵺戦は、実態のない鵺が度々蘇って――という状態らしい。王妃の演出も玉藻が逃げる演出もない。玉藻が逃げた方向については、帝国の街中で噂として拾えるようになっているようだ。
あとは大規模戦で同じ様なイベントが見られるようになるんじゃない? とはお茶漬の言葉。
「そろそろ船が動くよ」
ペテロが船員の作業を眺めながら言う。
「【酔い耐性】とっておいてよかった……!」
船酔い危険!
「レオは間に合わなかったでしね〜」
「いや、あれレオじゃね?」
シンが目の上に手を翳して遠くの一点を見る。
「何あれ? ニワトリ?」
同じ方向を見てお茶漬が目をすがめる。
「ニワトリに見えるな。だが、飛んでる」
赤い鶏冠に白い体、黄色い足。
「なんでニワトリに乗ってるでしか?」
「いや、鶏冠じゃなくて赤い飾り羽根じゃないかな?」
ペテロがニワトリを否定する。
「間に合った!!!」
鳥はぐんぐん近づいてきて、レオが甲板の上に飛び降りる。
近くで見ればニワトリより少しほっそりしていて、翼の先に鉤爪、尾はトカゲのようなものに羽がついて長く伸びていいる。
「もしかして、鳥っぽいドラゴンってあれか?」
レオを置いて、飛び去ってゆく鳥を見送りながら聞く。
「おう! 町中とかごちゃごちゃしたとこは、アルファ・ロメオより速いんだぜ!」
えっへんと、自慢げにレオ。
「まあ、飛んでるからね」
ペテロ。
「飛ぶ騎獣は次の大陸からしか入手できねぇって聞いたけど。――まあ、ホムラもドラゴンに乗ってるしな」
シン。
「飛んでるなら、船に乗れなくても新大陸いけたのでは?」
お茶漬が首を傾げる。
「なんか上陸しようとすっと邪魔が入る! それにみんなと一緒に行きたい!」
笑顔でレオ。
「うむ。やはり新しい場所はクランで揃って行きたいな」
「そうだね」
「間に合ってよかった、よかった」
「セーフでしね」
「おう! 船が動き出したぞ!」
まだ人の大陸で行き残した場所もあるが、新大陸である。どうなっているのか情報のない場所にゆくのは、わくわくする。
「しゅっぱーつ!」
レオが笑いながら叫ぶ。
私たちの他の異邦人からも歓声があがる。
着くのが楽しみだ。




