370.クラン迷宮攻略再開
「では元気に行こう36層!」
「おーぅ!!!」
「おー!」
「おー!」
「おーでし!」
「おー」
シンの宣言と、それぞれの気合声。ペテロは若干棒読み。35層バサンを倒したところからである。妖鳥ルートがしばらく続く。
「何で俺ら、遠距離物理ルート進んでるんだろうなぁ」
そして早々にぼやき始めるシン。
「いや、アンタ。アンタがクエスト起きてるからアナト倒したいって言ったんでしょ! 言い出しっぺ!!!!」
お茶漬がレオに回復をかけながら叫ぶ。
翼の先が黄色い鷲が雷を、青い鷲が雹を降らせてくる。それを避けつつペテロが礫のようなものを投げる。
「はっ! そうでした。テヘペロ!」
「可愛くないでし!」
「わはははは!」
菊姫は爪や嘴を使ってくる物理系の攻撃を防いでくれているが、上から使ってくる雷と雹のスキルは全員もれなく食らっている現在。
「35層でも出ない、アナトが対象のクエストって一体どこで受けたクエスト?」
「フッ。おじさんの記憶は遠く、追憶の彼方だな」
ペテロの問いに遠い目をして答えるシン。
「受けた場所どころか、クエストの存在すら忘れていた気配」
バナナといい、いったいどこで何をしてクエスト受けてくるんだろう。
「この駄犬は!!!」
お茶漬がぷりぷりしながら、【感電】の状態異常を起こしたレオを治す。
ここの敵は、弓職などの遠距離攻撃がないと攻撃を当てることが難しい。近接系――シンの殴り職でも当てられないわけではないが、降りてくるのを待つなど面倒だ。しかも物理ダメージに弱いので魔法も効きづらいものが多い。
「【金魔法】『ブレードレイン』」
出現した剣が真っ直ぐに鷲を貫き、地面に刺さる寸前に消える。
「おっしゃー!」
翼にダメージを受け、落ちてきた鷲にシンが止めをさす。
「なんか感電狙われてる気がする!」
「突っ込んでくからでしょ!」
「鷲め、こうだ!」
お茶漬の話を聞いていないレオがナイフを投げて黄色い翼を持つ鷲を倒す。
「レオ、さっきから何を投げてるでしか?」
菊姫がレオに聞く。
怪訝というか、あからさまに疑っているというか、嫌な予感と顔に描いてある。たしかに、道中の雑魚とはいえ、この層の魔物を一撃に近い。
「『剣屋』のナイフ! 10本組!」
「ちょっ! 高い、高い! 道中の雑魚に使うやつじゃない!!」
お茶漬が悲鳴を上げる。
「金を貯めに来て散財してるのか……」
「どうしても不経済になるけどね」
「そういうペテロは何を投げてるんだ?」
小石などでは当たったら下に落ちるのだが、どうも貫通している。
弓職に有利なルートなだけあって、【打撃】や【斬撃】より【貫通】の方が与えるダメージが多い。何か用意してきたのだと思うが、何だろう?
「鏃の自作改良版。コスパ重視ですよ」
小さな黒い金属を摘んで一度私に向け、そのまま投げて鷲を落として見せる。
「レオも鍛冶持ちだよね? 見習って! 消耗品を買わないで!!!」
お茶漬が嘆く。
「カッコいいのに!」
「そこでスタイリッシュさを求めないで!」
「魚で稼いでるはずなのに、いつまで経ってもシルが貯まらないわけでし」
菊姫がため息をつく。
「あー。【錬金魔法】でダガー出そうか? 二人分出すと流石に攻撃に参加できなくなる気がするが、【金魔法】が効くとはいえ、多分二人の【投擲】ほどじゃない」
【投擲】は投げるものによってダメージが左右されるので多分だが。二人の場合、何か他に補正がかかるスキルも持っていそうだ。
「お願いします」
「おー! よろしく!」
というわけで。
「【錬金魔法】Lv.30『金のダガー』、『金のダガー』、『金のダガー』――いや、もう無言でいいか」
「さんきゅ!」
私が出した『金のダガー』を掻っ攫うように手に取り、間髪入れずに鷲に投げるレオ。
「派手なダガー」
笑いながらペテロも同じことをする。
ダガーは『ダガー』『銀のダガー』『金のダガー』が出せる。ソードやランス、ハンマーなども同じく。ちなみにどんぐりも出せます。
レオには『金のどんぐり』が良かったろうか。
「相変わらず詠唱早いでしね」
「杖が1本ではない上、【重ねがけ】を使っておるからな」
【重ねがけ】は使った魔法と同じ魔法をほぼ同時に出すスキルだ。
「【錬金魔法】って割とMP消費するでしょ?」
「出している間は減るのだが、この状態は出してすぐ当ててるからそうでもないかな?」
レオとペテロが速い。
正直に言えば、MPについては回復量がひどくてよくわからない。レベル60とか70越えの魔法を連発すれば違うのだろうが、満遍なく上げているせいでそのレベルに到達していない。
「おじさん、ヒマ〜!」
「サクサク行こうサクサク」
シンはちょっと手持ち無沙汰のようだが、散財もなく効率よく進むようになったため、ご機嫌なお茶漬。
進んでいくと属性違いの鷲が出現し、時々地上の敵も混ざったが張り切ったシンが片付けて問題なし。
そしてボス前の休憩。
本日の飯は『猛毒豹紋河豚』。その名の通り猛毒である。【料理】だけではなく、金平糖の時の様に専門のスキルを派生させないと毒が抜けない代わり、とても美味な一品である。
獲って来たのはレオではなくペテロということで、毒の具合は察して欲しい。
「おお! テッサ! ふぐちり!」
シンが歓声を上げる。
「お皿の模様が透けて綺麗でし」
テッサを見て、目をキラキラさせる菊姫。
テッサは青が綺麗な大皿に、透けるほど薄く削いで花のように並べた刺身だ。ふぐの刺身は繊維質で弾力が強いので薄く切る。湯引きして氷水で冷やした皮付き。薬味はもみじおろしと、細ネギ。
「何でふぐの刺身ってテッサって言うんだ?」
「毒に『中る』から『鉄砲』とふぐのことを呼ぶのだが、テッポウのサシミの略でテッサだな」
「へぇへぇ」
レオに聞かれて答えると、お茶漬もやたら感心してくれた。
「唐揚げうめー!」
「あ! そんな一度に!」
一つを口に頬張りながら、もう一つに手を伸ばすレオ。
「あちっ! 白子の天ぷら! ふわっととろっと罪な味! はぁ〜たまらねぇ」
「テッサ、ちゃんとポン酢と薬味以外の味がする、いいですね」
ふぐのランクが高いこともあって、大好評の様子。
「酒はどこですか?」
「ヒレ酒いきたいでし」
「これからボスですよ、ボス」
酒スキー二人を宥めるお茶漬。
「締めは雑炊だから」
腹を少し空けておけ。
わいわいと料理を囲む。
「エルフの大陸に行ったら、新しい盾を買うでしよ。大剣で盾になるやつ、あるでしかねー」
菊姫は大剣を盾にするスキルを持っているのだが、そのスキルを強化する『盾にもなる大剣』を、住人の店舗で見ることは少ない。
ちなみにその大剣でシールドバッシュ系統のスキル――手に持った盾を相手に叩きつけたり、盾で殴ったりする攻撃技――を使うと、エフェクトが出て大剣を叩きつける割と派手な技になる。
相手の攻撃が当たった瞬間出すと、与えるダメージ量も多くエフェクトも派手だそうで、練習中だそうだ。
「エルフだと、大剣のイメージがそもそもないな」
「NPC販売はドワーフの大陸からとかかな? 新しい素材を手に入れたプレイヤーが作り出すのを待つしかないんじゃない?」
私と同じく、ペテロもエルフに大剣のイメージはない模様。
「うーん。素材持ち込みで、造ってもらうのがいいでしかね」
「その方が安く上がるし、それがいいのでは? 職人紹介しようか?」
悩む菊姫にお茶漬がそう言って、後で職人を紹介することになった。
「は〜〜〜!! 雑炊が染みる」
目を閉じてため息をつくシン。
「出汁を吸った米粒! 薄黄色くたなびく卵!」
何か実況し始めたレオ。
「ぽかぽかしてくるでしね。やっぱりここは酒だと思うでしよ」
話が酒にいきつく菊姫。
「優しい味で大好きですね」
薄味というか出汁の味が好きなお茶漬。パクチーは別枠なのか?
「捕まえて来た甲斐がありました」
満足そうなペテロ。
「またよろしくお願いします」
おいしかった。問題は満足しすぎて、すぐにボス部屋に入る気にならないところだ。
免許はないけどふぐです。




