369.準備OK?
掲示板、もうすこし先にした方が時系列あったかなと思いつつ。
火のダメージフィールドだったボス部屋は、石の柱の底、赤々と燃えていた溶岩は黒く固まっている。
水簾洞の主人は討伐のアナウンスが流れ終わると、「お師匠さん!」と叫び、飛び起きて走り去っていった。
どこかに三蔵法師似がいるのだろうか? さすがにそれは世界観がこう……。まさかどこかに中華風な大陸や島があるのだろうか? 扶桑はあったので、否定しきれない何かだ。
ボスの消えたボス部屋で遊んで、ロイと炎王と別れた。お茶漬とシン、私はクランハウスに帰る。
「おかえりでし」
「ただいま」
「おっす、おっす!」
「は〜、ただいま。なかなかひどかった」
ログインしていた菊姫に迎えられ、挨拶を返す。
「レオとペテロもそろそろかな? ログインしてくる前に、ちょっと休憩してくる」
お茶漬が言って、自室に向かう。
「また後で」
「すぐ戻ってくるぜ!」
私とシンも同じく。
「あい。いってらっしゃいでし」
菊姫が生産する手元を見ながら、片手だけひらひらさせる。
一定時間ごとに必ず休憩を入れねばならんので、これから揃って遊ぶための時間合わせを兼ね、こっちの世界では睡眠扱いのログアウトをする。
クランハウスの自室には、白虎がいる。顔同士をごつんと突き合わせるように挨拶し、手触りのいい体を撫でる。白虎の腹を枕に、おやすみなさい。
で、現実世界で起きだす。
バイザーを外して体を伸ばし、お湯を沸かす間に顔を洗う。休憩時間は15分ほど、本格的に何かをするには短いが、お茶くらいは飲める。
小さなアーモンドとキャラメルのタルトを食べながら、アラームをセットして本に手を出す。紙の本派だが、パラパラとこぼしやすいものを食べている時は、電子が便利だ。
すぐにアラームが鳴り、没頭することは叶わない。ショートショート集か、物語というよりは図鑑や事典的な物を買ってくるか。
さて。
静かなひとりの本の世界から刺激的な世界、友達と共有できる世界へ。
ホムラ:ただいま
ペテロ:おか
シ ン:おかえりぃ!
レ オ:ただいま! おかえり!
レオと私はほぼ同時ログインだったようだ。
ホムラ:あれ? 菊姫もログアウトしたのか
シ ン:みてぇだな
ペテロ:時間調整でしょ
私たちに時間を合わせるために、結局休憩をとったようだ。
シ ン:お茶漬はお茶漬けを掻っ込んでくるってよ
ホムラ:はい、はい
どうやらお茶漬は少し遅れるようだ。待つ間、白虎の毛並みを堪能しよう。むにっと白虎の顔のマッサージをば。しっとり絹糸のような体毛、ぶっとい手、長いしっぽ。うちの白虎は可愛いのである。
猫科でもライオンやトラ、ヒョウ、ユキヒョウなどは吼えることが可能な代わりに、喉を鳴らすことは難しいらしい。が、白虎は喉を鳴らす。低く唸るような声ではなく、ゴロゴロと。
騎獣は背中にも乗れるし、現実世界の虎とイコールではないしな。
お茶漬:ただいま〜。おまたせ
シ ン:おかえりまき
レ オ:おかえりす
ホムラ:おかえりんごパイ
ペテロ:薄焼のを希望します。おかえり
要望が来た。リンゴもパイシートもあるな、よし。部屋から出て、リビングに行くと、シンとレオがカジノの話題で盛り上がっている。もう少ししたら新大陸に行くというのに、大丈夫なのだろうか。
――というか、シンの肩に猿がいるのだが。あそこが定位置に決定したのだろうか。
私はそのままキッチンへ、リンゴの薄焼パイを作り始める。
菊 姫:ただいまでし
ホムラ:おかえり
シ ン:おかえりこーだ!
レ オ:おかえりす!
ペテロ:のりませんよ、おかえり。
ペテロがダジャレっぽい流れを堰き止めている。
お茶漬:おかえり。ちょっと、聞いてください
シ ン:なんだ?
レ オ:どうした?
ホムラ:うん?
ペテロ:何?
お茶漬:さっきお茶漬けの素かけてたら、袋に英語で説明があったんですよ
シ ン:おう?
お茶漬:綴りがOCHAZUKE! 僕、OCHADUKEにしちゃったんだけど!
レ オ:Zの方がかっこいいもんな! 俺はREO! LeftよりRed!
菊 姫:意味がわからないでし
ホムラ:そこはRightじゃないのか……?
ペテロ:www
シ ン:理解しようとするな! 感じるんだ!
菊 姫:とりあえずレオも綴りを間違えたことはわかったでし
レ オ:わはははは!
お茶漬:僕のは英語でなくローマ字ってことでひとつ
相変わらずカオスな話題だなと思いつつ、料理を作る。たわいもない話題が続いて、付き合いも続いているのだから、お互いそばにいて心地がいいんだな。騒がしいが。
レ オ:いい匂い!
ペテロ:あ、ご飯?
お茶漬:待って、待って、行く、行く
生産スキル併用なので、早い。リンゴの薄焼パイは、ちょっと罪悪感を感じるバターの量、オーブンからそれがとてもいい匂いを放っている。
「って、なんでシンの肩に猿がいるの?」
リビングに入ってきたペテロが動きを止める。
「おじさんにも色々あったんですよ」
「具体的にはバナナがありましたね」
苦労した的なシンの演技に、お茶漬が答えながら席につく。
「バナナ……」
ますます困惑するペテロ。
「クエストの途中だったのに、このモンキーに盗られて最初からだ」
「あのバナナ、クエストアイテムだったのか?」
なんで持ってるのかと思ったら。
「ぶあ、いい匂い! 猿のことは後回しで!」
シンが手を擦り合わせる。
「どうぞ。つやつやしたのがアプリコットで、こっちはシナモン、こっちはラムを垂らしてカラメルで少し表面をパリッとさせた。これはノーマルに粉砂糖」
薄焼パイを並べる。
パイシートそのままの大きさで焼いたが、食べやすいように切れ目を入れてある。
「本当に出てきた。だいぶEP減っているので、パスタも食べたいです」
笑いながらペテロが言う。
「僕も」
「俺も食う!」
「もがも!」
口の中にパイが入ったまま意思表示をするレオ。
「……! おいしいでし、パスタも食べるでし!」
飲み込んでから答える菊姫。
そういうわけで、パスタ。カブとホタテのクリームパスタでいいかな? 薄力粉を使わず、生クリームと牛乳のさらりとしたスープパスタで。でもこれにもバター投入。
「黒胡椒はお好みでどうぞ」
クランハウスで賑やかな食事を始める。
事情を知らない3人に孫悟空でのことを話す。場所は『世界の謎』に触れそうなので濁すが、悟空の存在は『封印の獣』と違いワールドアナウンスが流れたので、情報を渡しても聞いた方のクリア報酬が落ちることはない。
「へえ、炎王とロイか。豪華だね」
「僕の盾ですよ。2枚あっても危なかったけど!」
お茶漬の呼びかけに応えたのが運の尽き。なかなか過酷な盾の役割だったようだ。
「お猿の名前はなんでし?」
菊姫がシンに聞く。
「決めてねぇ! お猿でいいんじゃね?」
そう答えたシンの鼻の穴を横にぐっと伸ばす猿。
「このクソ猿!」
肩からつまみ上げようとするシンの手を、素早く避ける猿。
右の肩、左の肩、背中の真ん中と、素早く移動してその度にシンの手が空を切る。なんかこう、猫が猫じゃらしを空ぶってる時みたいになってるな、シン。
「で? 今日は何すんだ〜?」
レオが両手にパイを持って聞いてくる。
「確認だけど、新大陸に渡るのが近いわけだけど、用意できてる?」
「一応できてるでし」
お茶漬の問いかけに、少し不安そうながらも答える菊姫。
「一応できてる、かな?」
戦勝パーティーのダンスの壁を忘れていたが。
「万端――と、言いたいところだけど、毒のストックが。鵺で派手に使ったからね。でも新たな毒も手に入れたし、大丈夫かな」
ペテロ、準備が毒というのはどうなのだ?
「はーい、はい! サディラスも行ったし終わってる!」
「おう! 帝国でアイテムももらった!」
こちらは元気一杯のレオとシン。
「二人は、やっておかなきゃいけないクエストより、むしろ所持金が大丈夫か聞きたいんだけど……」
お茶漬が信用してない目で二人を見る。
「わはははは!」
「……」
答えず、笑って誤魔化そうとするレオと視線を逸らすシン。
「新大陸、新アイテム、新装備。買えなくて泣いても貸さないからね?」
「うっ……」
「……ぐっ」
お茶漬の言葉に呻く二人。
「あー。金になりそうなところって、どこだ?」
どうやらなるべくシルが貯まるところがいいようだが、生憎何が儲かるのか私も疎い。
「今の売れ筋は【採取】と【採掘】になっちゃうね。せっかくみんな揃ってるんだから――迷宮の行けるだけ深いところがいいかに」
お茶漬がそう言って、行き先は迷宮に決定した。
私的にはシンのバナナクエストが気になるのだが、『世界の謎』に引っかかりそうで詳しいことは聞けずにいる。謎すぎる。
8巻 1/20発売になります。
https://www.tobooks.jp/newgame/index.html
プライベートダンジョンも1/9発売!
興味がございましたらぜひよろしくお願いいたします。




