362. 帰るまでが遠足です
《ソロ初討伐称号【誘いの白波】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『鈍色の雫』を手に入れました》
《お知らせします、迷宮天鱗ルート地下55階フロアレアボス『アハ・イシュケ』がソロ討伐されました》
《アハ・イシュケの目×5を手に入れました》
《アハ・イシュケの鱗×5を手に入れました》
《アハ・イシュケの水×5を手に入れました》
《アハ・イシュケの魔石を手に入れました》
《アハ・イシュケの鬣×10を手に入れました》
《アハ・イシュケの皮×10を手に入れました》
《『アハ・イシュケの器・馬』を手に入れました》
鱗はあるが天ではない気がする天鱗ルート地下55階。もらった称号【誘いの白波】は【睡眠】だとか【催眠】だとか【誘引】【魅了】系のスキルに補正。テイマーに出るスキル系統強化、ということらしい。
テイマーは魔物を捕獲して、使役する職業なので、殺さず服従させるには便利なスキルではある。だが、微妙に【傾国】とかぶるから強化はやめろ。
『鈍色の雫』は増幅系スキルへの補正と耐性。
例えば私の使う『鉄塊の拘束』は黒い球が動くたび増えてゆき、行動を阻害する魔法だが、その増え方が上がる。逆に私が『鉄塊の拘束』を食らったときは、増え方が抑えられる。
あとは治さず放置していると食らうダメージが上がっていく系とか、ペテロの毒スキルに、最初は少しのダメージしか入らないのに2回目に使った時は倍、3回目は4倍の毒ダメージを入れるえげつないやつがあるのだが、それのダメージ倍率が同じパーティーにいれば上がる。敵から食らった場合は下がる。
……レオのよくわからんマッスルポーズを取るたび輝いて、ステータスが上がっていくやつにも補正がかかるのだろうか。なんか嫌なんだが。というか、輝くだけだったネタスキルを何故進化させているのか。あれ絶対アシャでなくファルのスキルだよな? 脱いでいるのも条件だし。
いや、うん。【傾国】の効果も増幅系な気がするが、気のせいだよな? 【封印】してあるし、セーフだ。たぶん。
「『アハ・イシュケの器・馬』か〜。ナックスが喜ぶかな」
ドロップ品を確かめているらしいガラハドが言う。
『アハ・イシュケの器・馬』は騎獣やペットの餌入れで、味も美味しく、餌やりの成長補正もかかる一品。だがしかし、私は馬は飼っていないのでシンの武田くん行きか。
「主、器は何が出ましたか? 獣が出たのですが、私の騎獣とは合いませんのでよろしければ」
「馬以外も出るのか? アハ・イシュケが馬型だったので、馬なのかと思った。というわけで、出たのは馬なので交換してよければヴァイセに」
「ありがとうございます」
そういうわけでカルと交換し、もふもふ用の器を手に入れた!
ドラゴン用とかもあるんだろうか? 白虎と黒の分、バハムートの分も入手したい。いや、黒は懐からずぼっと出てきて、私の手から奪って、ずぼっと帰っていくので、皿は使わない……? 白はペット分類ではないし――リデルのペット分類は見なかったことにします。
「ここ、タイルのためにまた来たいな。――ソロは難しそうだが」
「私もいくつか欲しいし、暇ができたら来よう」
アハ・イシュケがいなくなった鈍色の空と黒っぽい海を見るガラハドに、私も同意。
「おう! じゃ、帰ろうぜ『雑貨屋』に。『大酒飲みのガルグイユの酒杯』も試したいしな!」
ガラハドが笑う。
「まだ鯨飲できればなんでもというバカ舌のままか?」
「友達と一緒に酔う酒はなんでも美味いんだよ! そういうジジイは、いい酒でもどれ飲んでもだいたい同じ反応だったろうが!」
言い合うガラハドとカル。ガラハドは怒鳴るように言い返しているが、どこか嬉しそうだし、カルも辛辣なことを言うがやっぱりどこか嬉しそうだ。
後半はヴェルス由来の攻撃スキルを使っていたようなので、カルの容姿も問題ない。一応外見と若さもファルの領分だったか? どちらにしても残念女神は愉快犯と並んで訳のわからんことをする神だ。
「帰って寝るぞ」
「はい、主」
「おうよ!」
転移の登録をして『雑貨屋』に帰還。
「ただいま」
「お帰りなさい」
いつものレーノ。
「お帰りなさい、ホムラ」
「お疲れ様」
腕に抱きついて部屋に迎え入れてくれるカミラと、こちらに笑みを向けてくるイーグル。
イーグルの笑みは、若干ガラハドへの憐れみの笑みに見える気がするが、気のせいか。
カルもガラハドも鎧装備をとき、いつもの服装へ。私は白装備が雑貨屋でのいつもの服装なんでそのまま。
居間のテーブルの上には、飲みかけのグラスとつまみが少し。時間的にラピスとノエルは寝ており、三人で飲んでいたらしい。レーノは水だが。
レーノとイーグルが使っていたグラスを移動させ、席を作ってくれる。
「どこまで行ってらしたんですか?」
「55層のアハ・イシュケまでだな」
ソファに座りながらレーノに答える。
「ふふ」
笑ってイーグルに手を差し出すカミラ。
「……キリのいいところまで行くかと」
カミラの手にシルを乗せるイーグル。
「60層はそれまでのボスより段違いで強くなるって聞くじゃない? ホムラなら2人のために準備に時間をかけてから出直すことにすると思ったのよね」
にこやかなカミラ。
すまん、戻ってきた理由はカルの寝不足です。60層のボスが強くなると聞いても、2人の強さに不安は覚えなかったので、体調というかちゃんと睡眠を取れていたら多分普通に行っていた。蘇生薬もあったしな。
カミラとイーグル、2人が留守の間にガラハドはずいぶん強くなったと思う。それを知っているレーノは。
「レーノは賭けなかったのか?」
「僕は賭け事はあまり好みませんので」
どうやら損はしなかったようだ。
さて、つまみと酒を足すか。
焼いたバゲットにチーズと生ハム、スモークサーモンなど組み合わせを変えていくつか。アンチョビ入りグリーンオリーブのディップとアボカドディップ。芽キャベツのフリットにシシトウの素揚げ、フルーツトマトのマリネ。
マルチキの手羽元と手羽先の鶏ごはんというかリゾットもどき。手羽元と手羽先を玉ねぎとニンニクで茹で、その茹で汁を濾したものでご飯を炊いて、肉を上に並べてさらにオーブンで焼いたもの。
私は酒を飲まんので、ツマミだけでは寂しいし、ガラハドも〆に何か食べるタイプなので。
「作り置きの料理もおいしいけど、やっぱり目の前でホムラに出されるともっと美味しいのよね」
カミラが嬉しそうに笑う。
「酒だ、酒! 見よ、この『大酒飲みのガルグイユの酒杯』!」
「酒杯?」
ガラハドのばーんと大袈裟に掲げた酒杯を見て、イーグルが不思議そうに訊ねる。
「なんと、これに注ぐとホムラの酒が倍に!」
とぽとぽと私の出した酒を杯に注ぐガラハド。
「ほう」
「あらいいわね」
俄然興味を持ったようで、イーグルとカミラが杯に向ける目の色を変える。
『大酒飲みのガルグイユの酒杯』は少し曇りのあるごく薄い水色。水が凍りかけているような色が、少し厚くなった杯の縁と装飾された金属で覆われた底に色づく。注いだ酒が倍になるだけではなく、酒の香りをたたせ、冷たいのも熱いのも酒の適温を保ち、口当たりがいい、と説明に書いてある。
――酒以外にも効いてくれんかな? なんで酒だけなんだ。
「大酒飲みのガルグイユとアハ・イシュケの水を手に入れたのだが、飲み比べしてみるか?」
盛り上がっている3人を横目に、レーノに二種類の水を差し出す。
「いいんですか?」
「ああ」
後でマーリンにも渡そう。いや、マーリンにはカルが渡すか?
「主、どうぞ」
「ありがとう」
カルがアイスティーを淹れてくれた。
カルは大きめの優美な白いポットから、ティーポットにお湯を注いで紅茶を淹れてくれるのだが、私と違ってアイテムポーチに限界があるはずなのだが……。迷宮でも変わらずだったので、荷物を圧迫しまくっているのではないかと、少々申し訳ない気に。
私と違って整理整頓は得意そうだが。
「この水美味しいですね。ガルグイユのほうはどっしりして、アハ・イシュケのほうはどこか華やかです。――『庭の水』には敵いませんが、すばらしい」
どっしり? 華やか?
レーノから水とは思えない感想が来た。もう白い仮面のような顔にも慣れたが、たまにこうして種族の違いを知る。あと『庭の水』が最強すぎる。
マーリンは何故かぐぬぬぬしながら飲んでいるが、毎日飲んでいるので、まあ気に入っているのだろう。
【庭】で直飲みが器による劣化を起こさず一番なのだが、クズノハがいるので連れて行けない。はやくクズノハの家を完成させて、【庭】でも棲み分けができるようにしたいところ。
やりたいこととやることが山積みなんだが。とりあえず今は飲んで食べて、楽しんで、風呂に入って寝よう。
騒がしいガラハドたちと、それを見ているカル。そしてガルグイユの酒杯を試しているレーノ。とても……って。
「レーノ、酒は……っ!」
慌てる私。
「うをっ! やべっ!」
「一口で……っ!?」
「きゃーっ! ここで脱がないでちょうだい!」
悲鳴が上がる。
「風呂に水を張ってきます」
微笑んだまま華麗に対処するカル。
なんというか、平和だ。
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・増・
称号
【誘いの白波】
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