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新しいゲーム始めました。~使命もないのに最強です?~  作者: じゃがバター


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360/388

358.白鶴大夫

 足元は霧で下が見えない幽谷。広がるのは所々濃い緑で彩られた針のように突き出た奇岩。


 高く響く笛の音、薄く雲のたなびく中、白と黒の羽根が舞う。


『コォーオォー』


 谷底から鳴き声が響く。


「鶴?」


 そう口にした途端、白い影が目の前に現れる。先だけが黒い真っ白い翼、いや、袖。艶やかに流れる豊かな黒髪に、(くし)(こうがい)と真っ赤な牡丹の花。まとっている白い振袖のようなものと同じ、白い指で飴色の竹笛を抱く。白い顔、黒目がちの瞳、牡丹と同じぼってりとした小さな赤い唇。


 【鑑定】結果、白鶴大夫(はっかくたゆう)


 ――コォーコォー鳴くのって雄ではなかったか? まあ、目の前のコレが鳴いていたのかは謎だが。


「以前通った時と、見た目は同じでも鳴き声が違う――」

カルが呟く。


「ジジイ、やっぱ来たことあるのかよ」

ガラハドがげんなりしている。


「どんな鳴き声だったのだ?」

「このような後を引くようなものではなく、短く強く詰まるような音を繰り返すものでしたかと」


 カルの鶴の鳴き真似は回避されたようです。


「なるほど」

これはきっと、通常ボスは白鶴()夫だな。


 白鶴大夫が袖を振ると、羽根が思いのほか鋭く飛び、私たちの足元にカカカカっと続けて突き刺さる。刃物並みに硬い気配。


 尖った印象の薄い羽がぐにゃりと歪み、溶け、そのまま足場の岩を溶かし始める。どうやら、立てる岩が無くなった時点でゲームオーバーなステージのようだな。


 ガラハドとカル、特に打ち合わせもなく3人とも隣の岩に飛び移る。


「『浮遊』は?」


 『浮遊』をかければ、少々体の制御が難しくなるが、跳んだ時の飛距離が縦も横も伸びる。おそらく、岩の位置は上手く使えば、普通でも飛べる配置にはなっていると思うのだが、高さが違う。


 高く跳べれば、いる場所より高い岩に移る時、側面に張り付いてから登る手間が省ける。


「あんがとさん。だが、パーティーに空きがあるしナックスを喚ぶ」

ガラハドがそう言って、炎のような赤いダイヤを取り出す。


 ナックスは、足に火を纏ったガラハドの黒い馬の名だ。喚び出すには希少な赤いダイヤモンドが必要になる。


「私も――お乗りになりますか?」

カルがヴァイセを喚び出すための青いダイヤを手に聞いてくる。


 現実世界では青より赤いダイヤの方が稀だが、こちらの世界では両方同じように稀。どこで調達してるのか。


「いや、私は自前で飛ぶ」

パーティー枠は6、喚ぼうと思えばレーノも喚べるがな(吐血)。


 レーノを喚び出すには、パルティンに無理矢理はめられた指輪と、サンタマリア・アクアマリンが必要になる。濃い青のアクアマリンは、いざと言う時のためにレーノから一つ渡されている。


 真っ白な体躯に同じく白い翼のヴァイセ、その上には白い鎧に青い裏打ちのマントを背になびかせたカル。


 真っ黒な体躯に足の節に赤赤と燃える炎を持つナックス、その上には黒い鎧に赤い裏打ちのマントのガラハド。


「マント……」

「まあ、たまには。様式美ってやつだな」

ニヤリと笑ってくるガラハド。


「主の前だ、遅れをとるな。行くぞ!」


 カルが剣を掲げると、ヴァイセの肩甲骨あたりに浮く対の翼が広がり、ナックスの足の四つの炎が大きくなる。ガラハドの馬に翼はないが、炎が空を駆ける助けになっているようだ。


「【金】『ブレードレイン』」

白鶴大夫に突っ込んでいく二人の姿を眺めながら、魔法を放つ。Lv.35、その名の通り鋭い刃を雨のように降らせる。援護はいらんだろうが、気は心だ。


 ガラハドの剣から渦巻く炎が、カルの剣から氷のような冷たさを感じる水が吹き上がる。



《ソロ初討伐称号【隠れたる織姫】を手に入れました》

《ソロ初討伐報酬『白鶴の織り機と()』を手に入れました》


《お知らせします、迷宮天鱗ルート地下50階フロアレアボス『白鶴大夫』がソロ討伐されました》


 予想通りというか、大部分の岩の足場をそのままに戦闘終了。距離をとってくる敵は、距離を詰められると弱いことが多いのだが、今回カルも加わって、ガラハドと二人容赦ない攻撃。白鶴大夫が攻撃を攻撃で潰すような戦いで、なかなかひどかった。


《白鶴大夫の羽根×5を手に入れました》

《白鶴大夫の血×5を手に入れました》

《白鶴大夫の牡丹×5を手に入れました》

《白鶴大夫の魔石を手に入れました》

《白鶴大夫の反物×10を手に入れました》

《白鶴大夫の横笛を手に入れました》

《『男の娘の心』を手に入れました》


 おい、おい、最後!


《『転職の水晶板(クリスタルプレート)の欠片』を手に入れました》


 ん? 何か新しいのドロップが。説明を読むと欠片を揃えると更にランクが上の職業に転職できるようだ。ただし、数は100とのことなので先は遠い。


「お疲れ様――って、どうした?」

帰ってきた二人を迎えて、違和感。


「ジジイ……なんで若返ってんの!?」

ガラハドがカルの方を見て、目を剥いている。


「――不詳の弟子の様式美に(あお)られたようです。女神ファルから賜った攻撃スキルを使用すると、こう(・・)なるのですよ」

そう言って何故か申し訳なさそうに微笑むカル。


 私より年上だったカルが今は同年代か少し下に見える。そして細い。いや、細くはないが、いつもよりこう胴回りとかが。


 今までは美形は美形でも、白馬の王子というには少々歳がいっていたが、今は女性が騒ぎそうな完璧王子。なんだろう、この生き物は。


「見た目だけとはいえ、主より年下になるつもりはなかったのですが。別のスキルを使えば、元に戻りますので」

「年齢は別に気にせんが。――驚いた」

いや、本当に。


 学園は乙女ゲームと男性向けゲーム様式とか噂が立っていたし、もしや騎士はそういう?


「いや、俺は若がえらねぇし、年もくわねぇからな?」

ガラハドを見たら、目があったところで否定された。


 とりあえずいつまでも岩の上にいるのもなんなので、転移の登録部屋に移動。いつものようにテーブルと椅子を出し、食事を出す。


 オレンジにフェンネルのスライス、砕いたアーモンドを振りかけたサラダ。仔牛のステーキ、付け合わせはペンネを入れたポテトグラタンを四角く切ったもの、紫白菜のグリル。コーンスープにパン。


 本日は、ここでこのまま一泊する予定なので、ワインも出す。


「ジジイのそれは、やっぱ称号か何かなのか?」

ワインにしては乱暴にグラスをあけて、ガラハドが聞く。


「ああ。呪いなのか祝福なのか判別が付かんが、女神ファルからの称号になる」

対して優雅に肉を切り分け口に運ぶカル。


 若返るというのは普通喜ばれそうなものだが、カルにとってはそうでもないらしい。


「ほとんど先王の時代とかわらねぇって噂だったのに、急に歳くうようになったのは、スキルを使わなかったからか……」

眉間に皺を寄せて肉を口に放り込む。放り込んで噛んだ瞬間、眉間の皺が消える。


 口にあったようで何よりだ。うむ、柔らかだが、噛みごたえはあるし、肉の味も程よい。サシの入った和牛のように溶けるような旨味ではないが、噛むほどに口に広がる旨味だ。


 ポテトグラタンも滑らかで、ペンネの硬さもちょうどいい。現実世界では使ったバターの量が怖いが、こっちでは気にしなくて済むのがありがたい。いや、ガラハドは太ったのだったか。


「おそらく、私のような特別な祝福を受けた者が、この世界に他に5人います。それぞれどのような()し方行く末を辿っているか分かりませんが」

「カルのような人が5人……」

それはまた、表に出てきたら世界が大変なことになりそうだが。


「お一人だけ遭ったことがありますが、その方は魔族でした」

おっと、まだ遭遇したことのない種族。


 魔族は寿命が長そうなので、あまりその祝福は関係がなさそうな印象なのだが。いや、見た目が若返るとかでなく、普通に強力な攻撃スキルということか。


 5人、カルを含めて6人ということは、木火土金水風の各神々一人ずつか? 歳を左右するとは限らず、スキルを使うと何か他に影響が出るのかもしれない。


 もしかして、カルが把握していないだけで光と闇もいるのか? この二つは他と比べて特殊なので、後から実装とかもありそうだが。


「ジジイみてぇのが5人……」

頭を抱えるガラハド。


「その魔族とはどこで?」

「魔大陸で、守護獣をされていました」


 人間じゃなかった上に、魔族という種族も飛び越えてるのだが。そしてどう考えても戦うことになるだろうそれ!!!


 生産職など、サディラスでアルドヴァーンと戦わないクリア方法があるという話だし、確定ではないが。


「人生波瀾万丈っぽいな」

テーブルに突っ伏したガラハドを目の端にうつしながら、カルに言う。


「どうでしょう? 普通とは違う道を辿ったかもしれませんが、淡々と過ごしているうちに過ぎましたので」

静かに答えるカル。


 波瀾万丈でも普通に薙ぎ払える実力もありそうだしな。


「俺はジジイがいてくれてよかったよ」

ガラハドが突っ伏したままボソリと言う。


「私もカルもガラハドも、出会って一緒に過ごせて嬉しい。波瀾万丈だろうと、波のない穏やかな人生だろうと、幸せならどちらでもいいな」

そう言って本日のデザートを出す。ガラハドの好きな酒も追加。


 少々姑息だが、美味いもので幸せを感じてくれたらいい。ガラハドほどではないが、言ったことに照れもある。


 カイザーシュマーレン。ふんわりとした生地の表面をサクサクに焼き、フォークでざっくり一口大に崩したものに、ジャムやクリームをかけて食べるものだ。


 見た目はスポンジケーキの出来損ないのようだが、ハプスブルグ家の皇帝が好きだったという菓子だ。見た目の向上を狙って、粉砂糖を振ってある。


 これのいいところはジャムとクリームで甘さを調整できるところ。


「主人の料理も甘味も絶品です」


 カルに淹れてもらった紅茶を飲みながら、カルとガラハドの騎獣を捕まえた時の話や、帝国の文化――主に食べ物の話を聞く。


 夜がふけて、ベッドを並べておやすみなさい。【ストレージ】でこの辺はやりたい放題。


□    □    □    □    □   

・増・

称号 【隠れたる織姫】

□    □    □    □    □  


4/20 7巻、ドラマCD2発売になります。

http://www.tobooks.jp/newgame/index.html

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新刊発売おめでとうございます!! 通勤のお供の電書はDL済、じっくり読む用の紙本とCDは到着待ちです。 [気になる点] ここまで氷の女王グラキエースの出番なし。 称号【隠れたる織姫】の効果…
[一言] 男の娘の心wwwwwwwww ………そうかぁ、遭遇時の鳴き声に対する違和感はちゃんと伏線だったんだなぁ…………男の娘なら雄よな……… 「大夫」にしても鳴き声にしても、作者さんの知識の幅すげー…
[気になる点] ファルからもらったスキルですと? エカテリーナさんの撲殺治癒はまた別なんです? 5人の中には含まれないのかにゃ(ㆀ˘・з・˘)
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