350.二人攻略
ペテロと二人、迷宮を行く。
「HPが少なくなると、上に逃げる。なるほど、面倒な敵だね」
そう言いつつ、『赤雨大鷹』に苦無を投げるペテロ。
苦無が当たった瞬間バシュッと音がして一瞬『赤雨大鷹』が光る。一定時間ごとに毒のダメージが入るタイプだと音とエフェクトでわかる。ペテロはエフェクトや音のない毒のスキルも持っているが、そういったスキルはEPやMPの使用量が多いので、あまり道中の魔物相手には使わない。
「時間じゃなく、回復するまで降りてこないのか。上に行く前に毒を入れても意味ないね、でも【投擲】は有効。さすが遠距離物理職ルート」
「あんなにカオスだった道中が平和だ」
「お茶漬もあの二人に引きずられるしね。大変そう」
笑いを含んだ声。
私やペテロも含め大体全員引きずられている気はするが、確かにお茶漬が一番影響を受けているような気はする。
「よし、覚えた。じゃあ、さっさと進もうか」
ペテロが色々実験しながら確認すること数度。『赤雨大鷹』のHPの残量の調整を含め、敵の癖をあっという間に覚えた。
「はいはい。相変わらず手際がいいというか、覚えが早いというか」
「フッ。毒入れるから倒しちゃって? 攻撃くらうと相変わらず瀕死になる可能性が」
毎度『赤雨大鷹』のHPの調整をしながら戦うと時間がかかる、【投擲】はあるが投げる物に金がかかる。なので高く飛び立つ前に【誘引】を使い、さっさと倒す方向だ。
ただ、【誘引】は周囲の他の魔物もわらわらと寄ってくるわけで、盾不在の道中では攻撃をくらう率は跳ね上がる。回避は得意でも避けようのない範囲攻撃なんかもあるしな。
「【雷】『伏雷』」
白っぽい雷が飛び火するように群がる魔物に次々と移ってゆく。
【誘引】を使用して近寄ってきた敵に、ペテロが範囲攻撃の毒を入れた後、雷魔法を放つ。『伏雷』は便利で気に入っている。
「相変わらず派手、綺麗でいい」
横に走る稲妻の網の中でペテロが笑う。
『伏雷』は近距離にいる魔物の間を進みながら、ダメージを与える魔法だ。普通は魔物があまりいないか、魔物同士の距離が離れていてすぐに止まるのだが、【誘引】で群がっている状態のためだいぶ派手なことになっている。
今は白装備と『疾風のブーツ』装備。魔力が攻撃力にのっているため、HPが低めの魔物や、雷系が弱点となる魔物は、ほぼこの一撃で沈む。そして鳥系は雷を弱点としているものが多く、雷を浴びて光の粒となって次々に弾けていく。
「私も頑張らないと。ホムラ、毒耐性は育った?」
「あまり育ってはおらんが、『毒属性強化のオーブ』を使用して色々強化はされてる」
「何それ欲しい」
「頑張って入手してください」
カビ竜系を倒せば手に入ると思う。
竜種は倒しても、似た系統の竜がやって来て、倒された竜の巣に居着くので機会はあると思う。竜や強大な精霊が長くいた場所は、その属性に傾く。で、居心地がいいため同じ属性の竜や精霊がやってくるのだ。なので戦闘する機会を他の冒険者から奪ってしまう心配なしに安心して倒せる。それに行ったことはないが竜の島があるしな。
ちなみにペテロから貰ったスキル石【総毒耐性】を取得した。毒をくらうことで育つスキルで、どの毒にも効く代わり、かなり育たないと効果が薄い。だが、育てば【猛毒】だろうと【劇毒】だろうと怖くないし、かなりレアなスキル石なのだと思う。
どこで拾ってきたのか聞いていないが、だいぶ高レベル帯でのドロップか、難しい暗殺者クエストの報酬な気がしている。
『毒属性強化のオーブ』を貰ったことだし、ペテロVSナルンの戦いを間近で見た身としては、あって嬉しいスキルだ。HPが少ないので、回復ができない状態で強毒をくらったら死ぬ自信がある。
「そういえば貰った『緑竜タラルの壺』の毒、かなりいい」
「それは何より?」
貰ったと言っているが、その対価として渡されたものが【総毒耐性】のスキル石だ。
「うん、ボス戦でお披露目するからお楽しみに」
胡散臭い笑顔で唇に指をやるペテロ。
えぐそう。
「で、ホムラの毒耐性育てるためにも、ちょっと毒になりますよ。結構きついと思うから、『活性薬』飲んで。できれば上位の」
笑って告げるペテロ。
まて、それどんな毒を使う気だ? しかもパーティー組んでいる私も巻き込まれる系ということは、かなり強力。使う側――この場合味方含む――にリスクがあるスキルは強力なことが多いのだ。
「一応、体験してから薬飲む」
何事も経験です。
「了解」
笑って答えるペテロ。
そしてペテロの体から広がる毒の領域。ぼとぼとと落ちて地にのたうち、毒に黒く染まっていく魔物たち。
「これはまたひどい光景」
ペテロに近づく魔物が落ちるので、なんかのたうつ魔物の円ができている。
おそらく途中で気づけば、その効果範囲外から攻撃することに切り替えるのだろうが、生憎【誘引】のせいで、魔物は近づいてくる以外の選択肢がない。毒になるって、ペテロが毒か。
「周りに人がいるときは使えないし、これを使うとしばらく姿を隠す系のスキルが無効にされるから、使い所が難しい。それにレベルがなかなか上がらない難儀なモノです。一人の時はEPMP回復しながらずっと使ってるんだけど。あと私に近いほど効果が大きいんだけど、ホムラ薬飲まなくて大丈夫?」
「ああ。回復してる」
「な・ん・で? 薬飲んでないよね?」
なんでと言われましても。
「最近、毒の領域で微弱回復する称号が増えました」
【悪虐の緑竜の討伐者】は毒属性の領域での微弱回復だ。
ペテロが発生源で毒の領域展開になっとるのかこれ。効果が毒属性の領域での微弱回復なせいか、毒はその場で解けている感じ。毒に一瞬かかってダメージを受ける、解毒、微弱回復、を素早く繰り返しているようだ。一瞬減る量が常時展開のスキルとしてはえぐい気がするが、元々の回復系スキルや称号のせいもあり、私の回復量がややまさる。
「称号増えすぎ問題」
「【総毒耐性】のレベルが上がったんですが、どんな毒ですか」
「こっちも毒にする対象がいるせいか、スキルレベルがあがりました」
レベルが上がるとテンションも上がる。笑い合いながら毒まみれな戦闘を続けていると、ボス前に到着。
「食事は?」
いるのはわかっているが、ガッツリなのか簡単に食べられるものがいいのか。
「宴会やった後だし、簡単で」
「ではおにぎりで。シャケ、焼きタラコ、大葉味噌、昆布の佃煮、ジャコ入り青菜巻、あさりの佃煮、味噌の焼きおにぎり、どれがいい? 珍しいのは扶桑で手に入れた青菜」
扶桑で手に入れた『山型青菜』。結構大きくて葉が開くと株全体が山の形に見える。どう考えても山形の青菜がモデルの野菜だったので、素直に漬物にした次第。現実世界の青菜は、高菜と同じアブラナ科で漬物にしても歯触りがいい。
「難しい。とりあえずシャケと青菜巻をもらおうかな? 他は後で食べたいから、一セットください」
「了解」
メニューウィンドウ内で容器の選択と盛り付けを済ませ、ペテロに渡す。
「竹の皮におにぎり、卵焼きにウィンナー。ベタだけど、嬉しい」
「たくあんもあるが、まあ青菜が漬物だからな」
私は青菜巻とあさりの佃煮。あさりは真ん中に詰めるのではなく、細く切った大葉とともに混ぜ込んである。
「美味しい」
「何よりです」
食事でEPを回復し、装備の耐久度や回復薬の数を確認し準備完了。
「さて、どんなボスなのかな」
ペテロがボスへと続く扉に手をかける。
扉を開けると目の前には、天を目指して伸びる真っ黒な竹。少し弧を描くそれは、地下にあるはずのない月に影を揺らめかせる。
レアボスです。まだ姿を見ていないけれど、ステージが違うのでレアボス確定です。前回来た時は、ひと抱えもある大きな竹が明るい空を目指して伸びていた。目の前にある竹は明らかに違う。
舞い散る竹の葉とそれに混ざる羽根、黒い竹の隙間が同じく黒い影で埋まる。
「ゲエエエエエエエエッ!!!!」
バサンよりも濁った鳴き声、黒に覆われる視界の中、カッと見開かれる赤い目。
「【神聖魔法】『リフレッシュ』。叫びには【暗黒】と【混乱】の状態異常付きか」
【混乱】は平気だが、【暗黒】は視界がブラックアウトした。かなり強力なようだ。
「私の方は【毒】と【裂傷流血】だからランダム?」
「『回復』」
隣のペテロを見ると、笹の葉で切ったような細かな傷。たぶん毒はかかっていない?
「ありがとう。『犬鳳凰』、これレアボス?」
「うむ」
波山という妖怪がいる。住処と形状から考えて、バサンのモデルだろう。バサンと戦った後、どんなものか調べた時に知ったのだが、犬鳳凰は波山の別名や類するものとして上がる名だ。ただ、どんなものかははっきりしない。
同一視されるだけあって、犬鳳凰の姿はバサンに似ている。バサンは鶏冠が目立っていたが、こちらは真っ黒な中、異様な赤い目に視線がいく。
一声鳴いた後、犬鳳凰は姿を消している。状態異常は強力だが、異常回復のための時間はくれるようだ。これがさらに高レベルなボスになると、回復の時間も与えられなくなるのだろう。
姿を消したまま、羽根だけが舞う。バサンの羽根は触れると爆発したが、こちらの羽根は【裂傷】と【流血】がつく。そして、竹に触れた羽根は黒い炎に変じて灯る。
「【神聖魔法】『治癒』、【土】『大地の癒し』。この火、何かありそうだな」
【裂傷】は回復させるだけでは傷が塞がらない状態異常のため先に治し、また同じ攻撃がきそうなので継続回復の魔法をかけておく。
土魔法Lv.45、名前の通り回復系の魔法でほんの少しずつHPを回復させる。【神聖魔法】や【聖魔法】ほど効果は大きくないが、回復役の補助にはいい。なお、【神聖魔法】で継続回復の魔法も覚えているが、『聖歌』なので使いたくない模様。
回復量が多いのだが、【無詠唱】があるのに歌わないと発動しないという嫌がらせ仕様。さすが残念女神の司る魔法。あの残念女神、筋肉並べて歌を歌わせる趣味が……?
ペテロの放った苦無が、火の灯る竹の節に当たって弾かれる。
「消えないね」
「これが一定数灯ったら大ダメージがくる系か」
【流血】で常にHPが減る状態、油断して回復を怠ると戦闘不能コース。
「範囲攻撃だろうね、私フルでもHP足りるか不安」
けっこうギリギリなレベルで来ているので、お互い盾なしでダメージを受ける自信はない。ただ、火属性のダメージならば私は耐えられる、たぶん。
「『蘇生薬』はあるぞ」
「お高い」
姿を現した『犬鳳凰』に攻撃を入れ、火の吐息を回避し、走る。ペテロが背後から毒を入れれば、『犬鳳凰』が向きを変える前に私が正面から薙ぐ。私が弱点らしき目を狙えば、ペテロが紐で『犬鳳凰』の動きを止め隙を作る。
「技は見ておきたいところだけど、それで死ぬ趣味はない!」
「さっさと沈め!」
《お知らせします。迷宮蒼天ルート地下35階フロアレアボス『犬鳳凰』が討伐されました》
《ボス初撃破報酬『陰火の蕾』を手に入れました》
《称号【闇夜の侵入者】を手に入れました》
《犬鳳凰の羽×5を手に入れました》
《犬鳳凰の炎×5を手に入れました》
《犬鳳凰の鉤爪×4を手に入れました》
《犬鳳凰の魔石を手に入れました》
《犬鳳凰のブラックトパーズ×10を手に入れました》
《『犬鳳凰の瞳』を手に入れました》
素早さと攻撃力だけは高い二人組。
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・増・
称号
【闇夜の侵入者】
スキル
【総毒耐性】
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