329.帰属と帰還
《ソロ初討伐称号【雷帝の夜】を手に入れました》
《『雷獣鵺』をパーティ一1人の最少人数で初討伐しました》
《なお、この情報は秘匿されます》
ホムラ:まさかのソロ討伐称号。そしてどの辺が雷獣?
ペテロ:wwwこっちの称号雷獣出てないwww
お茶漬:あんたんとこプレイヤー一人じゃん
シ ン:ひでぇ!
ペテロ:どう考えても「NPCの育成を頑張れば」「後々」とれる称号です、本当にありがとうございましたwww
菊 姫:住人にどんなスパルタしてるでしか!
ホムラ:私じゃない、私じゃないぞ!?
お茶漬:住人の主な行動範囲は、紐づいてるプレイヤーが行ったことのある場所ね
ペテロ:あと渡した資金額とアイテムwww
ホムラ:……
シ ン:黙った
菊 姫:黙ったでし
あれです。雑貨屋と酒屋の倉庫は面倒なので、同居者には自由に使えるように開放しててですね。【ストレージ】があるので使われたくないアイテムというか、私が使うアイテムは持ち歩いてるし。気づくとやたら増えてたりするんで、持ち出してはいるけど、それ以上に何か持ち帰って倉庫に詰めてるなって。
ペテロ:wwww。こっちの称号は【鵺の鳴く夜】で、環境による生命減少削減だね。そっちの効果聞いていい?
扶桑の陰界用だね、とペテロから個人対話で付け加え。報酬削減がなくても、行っていないフィールドのネタバレはよろしくない。
ホムラ:私のは【雷魔法】の範囲拡大、雷吸収でMP回復。弓に雷付与。そういえば鵺って、元ネタでは弓で射て倒してたな。
お茶漬:弓の人の活躍の場をあの派手なスキルで奪ったんですね、わかります。
ホムラ:人聞きの悪い……
『アシャの庭に香炉を』
『以降、鵺は彷徨うこと能わず』
『綻びを塞ぐ封印』
『戻れぬ魂を内包した』
『余分な力は持って行くがいい』
声と共に再びアシャが姿を現し――アシャの姿は巨大で、地面から上半身が生えてるみたいなんだが、その大きな手が鵺のフィールドだった場所にかざされると、白い石の大きなテーブルが現れる。同時に騎士と冒険者たちが戦っていた魔物たちが崩れるように消えてゆく。
鵺を倒してから周囲の魔物が消えるまで少し時間があるのは、その間に大技を叩き込んで倒せとか、そんな猶予か。
私から、お茶漬から、ペテロから、炎王たちから、ロイたちから。それぞれ少し形の違う、だが同じイシュヴァーンから得た香炉が、ふわりと飛び出しテーブルに吸い寄せられる。テーブルの上に、ある物は浮いたまま、ある物は天板にと落ち着くと、周囲に漂う黒い靄がその香炉に抵抗もなく吸い込まれてゆく。
黒い靄もアシャも姿を消し、踏み荒らされた薔薇園はなぜか元に戻った。いや、薔薇はおそらく元の状態より咲き誇り、枝を伸ばしている。その証拠に、先ほど出現した石のテーブルに蔓薔薇が絡み、風に炎のような花を揺らしている。
そして香炉を差し出した者たちの前に現れる、丸い小さな銀。銀の炎が蔦のように細く繊細に渦巻く籠の中に、ゆらゆらと揺れる青い球体が入っている。
手を伸ばして触れると、小さな、鈴とはまた違った硬質な音を立ててアイテムポーチに収納された。
《『雷獣鵺・マーリン』を取得しました》
待て。今なんか余計な語尾ついてなかったか? おい?
シ ン:ひゃっほーっ! 終了! アシャ祝福!
ホムラ:結局レオは帰ってこなかったな
菊 姫:アルファ・ロメオが、敵も味方もはねてたでし!
お茶漬:戦場を一直線に走り抜けて行ったのを見たのが最後ですね
ペテロ:生きてることを願おうw
シ ン:レオはまた変な称号とってそうだな!
お茶漬:とりあえず終わった、終わった。あ、僕の鈴? シルマークついてる。
ペテロ:さっき幻影で見たやつかなw
菊 姫:じゃあきっと、あてちのには酒でしか? 正式チャレンジは白雪思いうかべるでしよ。
シ ン:俺のはどうなるんだ? カジノのねーちゃん!
ホムラ:強いて言うなら炎? マークなかった。
裏にあったのだろうか? いや、おそらく幻影を見ていないので無印にされた気配がする。
ペテロ:炎は基本の意匠だねw
シ ン:無印男!
菊姫、猫に修正可能な可能性。私も宰相とか白虎とか見ておきたかった……。もしくは、白とか黒とかバハムートとか。おのれ……っ! そう思いつつ下を眺めると、暁の尻尾大公開中。――って思い切り見られているのだが、何だ?
お茶漬:ゆるい会話の間に大変なことになってる、コレ。
ペテロ:帝国騎士がwww
帝国騎士? 何だろうと思って振り向いたら、またなんか跪いている帝国騎士軍団。
『帝国の騎士ってことあるごとに跪く習慣か?』
『ねぇよ!』
ガラハドの否定が入るが、この光景を見るのは二回目なんだが。しかも間を空けずに。
『主、いかがいたしますか?』
カルの言葉に下に降りる。
ちょっと近くで尻尾を見ようとかそういう下心ではない。ロイのところはカエデとモミジといい、猫科の尻尾率が高くてですね……。長く付き合うと中の人の印象が強くなって気にならなくなるのだが、ロイとクラウの他はまだ外見の印象の方が強い。
『って、何故カルまで跪く?』
困るんですけど。
『ジジイ……。毎度、右膝かよ』
『絵になる、絵になるのだけれど。私、この状況で立ってていいのかしら?』
『大丈夫、参加した異邦人が周りにいる。――完全に動くタイミングを逸したね』
三人からも困ったような声が漏れた。
それにしても右膝? カルを見ると右膝をついて跪いている。つく膝の左右で違いがあるのか? 後でガラハドに聞こう。
『主、演出だとでも思っていただければ』
伏せていた顔を上げ、笑顔で見上げてくるカル。
そして今日もよくたなびいている私のマントをすくい取り、口付けようとする。ばっとカルの手から離れ、大きく膨らむと、さっきとは反対方向にしれっとたなびくマント。
マント鑑定結果【拒否、という気配がする】
手甲鑑定結果【……うむ】
おい、カルが固まってしまったじゃないか!
『すまん、マントは拒否だそうだ。えーと、これでいいか?』
仕方がないので手を差し出す私。
『マントが拒否……?』
『あのマント、もしかして生きてるの?』
『確かに体に絡むこともなく、いつも整っているね』
困惑している三人。もしやマントと手甲は【鑑定】できない?
指先に口付けられて、演出とやらのミッション終了。終了でいいんだよな?
『手伝えることがないなら、邪魔にならんよう帰るが』
『――むしろこの者どもが主の邪魔になりそうです。先にお戻り願えますか? 私も事後処理を終えたらすぐに帰還いたしますので』
『店番のことは気にするな』
もう、ラピスもノエルも弱々しくはない。
このカルに――湖の騎士ランスロットに跪いた騎士たちは、おそらく最強騎士の帝国への帰参を望んでいるのだろう。皇帝を失い、国を支えた魔法使いを失い、鵺と玉藻を排除したとはいえ、この国はこれから大変だ。
『ではな』
カルを見て、ガラハドたちを見て、ファストの神殿経由で雑貨屋に【転移】。
使命を果たし、苦難を乗り越えて封印の獣から自分の国を取り戻した騎士たち。その中心となった、カルやガラハドたちも国に戻って騎士に復帰することを望まれる。
元々は、それぞれ屋敷を持っているレベルな地位がある気がするし。ガラハドは面倒がって、騎士の宿舎とかにいそうだが。今思うとよくこの狭い家で暮らしていた。
とても寂しいが、パートナーカードもそのままだし、会えないわけではないのでいいとしよう。友達の手伝いができたことを喜ぶべきなのだろうし。
「主、お帰りなさい」
「主、お帰りなさい」
「ただいま」
左右から抱きついてきたラピスとノエルを抱きとめて、頭を撫でる。
「お疲れさまです。終わったんですね?」
レーノも顔を出し、確認するように聞いてくる。
「ああ、終わった」
いかん、結構寂しい。休憩して風呂にしよう。
ホムラ:風呂に行ってくる。
シ ン:いってら
レ オ:わはははは! 羽根の生えたドラゴンゲットだぜ!
ホムラ:いや待て。ツッコミどころが多い! 何がどうした!?
シ ン:とりあえず鳥の羽根が生えたドラゴンらしい
お茶漬:何がどうしたかは、本人からの供述を聞いても謎。
菊 姫:聞くだけ無駄でし。あてちもお風呂行ってくるでしよ
ペテロ:www
レオが戻って来たが、何をしていたかは謎だった。鵺の討伐に来ておいて、何故ドラゴン……。まあ、どちらにしてもレオとシン、菊姫が『蓄魂の香炉』を手に入れてから、鵺とはもう一度対戦するんだが。
現実世界で風呂に入り、お茶を飲んでログイン。
「おはようございます、主」
カルがいた。
「おはよう。帝国はどうした?」
戻ってくるの早くないか? 荷物を取りに来たとかか?
「先代の血筋を新たな皇帝に据え、編成し直すことに。周辺諸国への賠償などもありますが、そのあたりはマーリン殿の私財で補填します。私の凍結されていた私財もそのまま置いて来ました。数年は厳しいでしょうが、民が飢えることはないと思います」
にこやかに話すカル。
「古巣のごたごたが片付き、これでようやく心置きなくお仕えできます」
あれ、これ雑貨屋にこのまま住み込む流れ?
「ジジイ! いくら抜けるからって、押し付けてさっさと消えるのやめろ!」
転移プレートの上に現れたガラハドが、カルに向けて怒りながら言う。
ガラハドはいつもラフな格好をしているのだが、黒い騎士服のまま。どうやら戦の残務処理をしていたようだ。そしてカルはさっさと逃げ出したらしい。書類仕事や調整もカルは得意っぽいのに。
「開戦前から告げていたことだ。この後、変に頼られても困る。残る者が解決するべきだろう」
「だからって……、あだだだだだ!」
言い募ろうとするガラハドにアイアンクロー。
「お前もさっさと態度を決めろ、居候」
「もう籍は抜いてるつーの!」
「そうか」
ガラハドの言葉に、手を離すカル。
「そういうわけでホムラ、俺の帝国に持ってた物、全部置いて来た。装備以外、無一文に近い。俺とイーグルとカミラ、住み込みで雇ってくれねぇ?」
笑って言うガラハド。
「そうだな、大々的に改装してちょっと部屋を広くしようか」
ガラハドの額についた指の跡を見て笑いながら告げる。
どうやら今まで通りでいいらしい。
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・増・
称号【雷帝の夜】
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修正!
思いきり菊姫とシンに鵺渡してました。




