324.合流と状況把握
今からみんなが行っている方に向かっても、間に合わないだろう。この塔に、鵺か玉藻のどちらかがいると思っていたのだが、どちらも外れ。
鵺はともかく、玉藻までいないとは。クズノハに封印の獣の称号が付いているので、玉藻を倒すことで新たに玉藻を手に入れるのではなく、クズノハが強化されることを期待していた。具体的にはしっぽが増えることを期待していたのだが。
身外身はいたが、扶桑の陰界への出入りは右近に頼めばいいし、ドロップ品の絵馬もあまり嬉しくない。
「我は、毒の亜竜ヴイーヴル! マーリン様より授かった狂化の力、最強にして最……っ!」
少々しゅんとしながら宝箱でもないかと見回していると、突然大きな声が響き、戦いで半ば崩れた壁の穴から、デカイものが飛び込んで――来る前に、ズボッと三連。
いや、待て。後ろにもなんか二ついたんだが、私がきちんと認識する前に落ちた。呆然と何かいた空を眺めている間に、ずずんと重い音が下から響き、塔が揺れる。
揺れが収まると、魔物が消える時に残す光の粒が立ち上って空に消えてゆく。
《ソロ初討伐称号【狂化を鎮める者】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『毒華乱舞』を手に入れました》
《魔法使いマーリンの奸計『狂化・毒の亜竜ヴイーヴル』をソロ初討伐しました》
《なお、この情報は秘匿されます》
《狂化・毒の亜竜ヴイーヴルの牙×5を手に入れました》
《狂化・毒の亜竜ヴイーヴルの皮×5を手に入れました》
《狂化・毒の亜竜ヴイーヴルの手袋を手に入れました》
《狂化・毒の亜竜ヴイーヴルの魔石を手に入れました》
《ブラックオパール×10を手に入れました》
《毒の指輪+6を手に入れました》
《『狂化・毒の亜竜ヴイーヴルの毒爪』を手に入れました》
《ソロ初討伐称号【暴走を御する者】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『睡花乱舞』を手に入れました》
《魔法使いマーリンの奸計『狂化・邪悪な森の精霊アイ』をソロ初討伐しました》
《なお、この情報は秘匿されます》
《狂化・邪悪な森の精霊アイの髪×5を手に入れました》
《狂化・邪悪な森の精霊アイの魔布×5を手に入れました》
《狂化・邪悪な森の精霊アイの帯を手に入れました》
《狂化・邪悪な森の精霊アイの魔石を手に入れました》
《精霊のガーネット×10を手に入れました》
《浮遊の指輪を手に入れました》
《『狂化・邪悪な森の精霊アイの薄衣』を手に入れました》
《ソロ初討伐称号【混乱を宥める者】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『乱花乱舞』を手に入れました》
《魔法使いマーリンの奸計『狂化・白きズラトロク』をソロ初討伐しました》
《なお、この情報は秘匿されます》
《狂化・白きズラトロクの極上肉×5を手に入れました》
《狂化・白きズラトロクの皮×5を手に入れました》
《狂化・白きズラトロクの腕輪を手に入れました》
《狂化・白きズラトロクの魔石を手に入れました》
《魔獣の金×10を手に入れました》
《力の指輪+6を手に入れました》
《『狂化・白きズラトロクの角』を手に入れました》
極上肉。一体どんな魔物なのかはっきり見る暇がなかったのだが、極上肉。ヴイーヴルは迷宮で狂化していない個体を倒しているので、ズラトロクもどこかにいるのだろう。肉ということはきっと食材ルートにもいるはず……っ! あ、だが狂化の方がランクが上な気がする。――マーリン、惜しい男を亡くした。
またカラカラと塔の壁が音を立てて欠ける。もう塔ごと崩れてもおかしくはないというか、崩れていないとおかしい気がするが、これ以上は崩れないようだ。
「ぴぎゃっ!」
得意げに正面に浮かんでいるバハムート。
『バハムートの前で、最強を名乗るとは馬鹿よの』
『ただものの気配ではないとは思っていたが、バハムートか!! 鬼といい連れているものがおかしい!』
白の言葉にアルドヴァーンが毛を逆立てる。そういうアルドヴァーンも、守護獣と同等っぽい何かだが。自分を棚上げにしている。
そして、バハムートの前で最強の竜とか口にしてはいかんのは白に同意だ。速さも力もバハムートが上だ。私も、黒い何かが脇を飛んでいったようにしか見えなかったし。
血まみれで胸に飛び込んできたバハムートを抱きとめつつ、傷口のチェック。今回はどうやら全て返り血らしく、傷が開いている様子はない。安心して【生活魔法】で綺麗にしようとすると、何か見られている気配。
だが周囲には、座り込んで呟きながらゆっくり大きく揺れているマーリンの抜け殻しか見当たらない。気配は別の――空から?
風の吹き込む大きく崩れた壁から、空を見上げる。称号【気配を見る者】は、【気配察知】系で探られている時、使用者を逆に辿って見ることが出来る。空を見上げると、少年と目があった。
あれはなんだ?
次に目に入ったのは、見覚えのある鮮やかな青い裏打ちのマント、次に赤い髪、次に跪いている騎士。カルとガラハドだけ立ち上がって、こっちを見ているのですごく目立つ。集団行動ができていないのは何故だ。
ガラハドが剣を向けているということは、この少年は敵か。とりあえず一撃を入れておこう。
【気配を見る者】の効果の中には、望めば見ている者に一撃を入れられるというのがあるのだ。鳥のような気弾のような何かが、少年の頬に傷をつけるのが見えたところで見えていたものが消える。
だが消える前戦闘中の冒険者が目に入った!――【裁定者】が使える! 【裁定者】は、認識した戦闘現場へとぶ能力。音は聞こえないが、バッチリ視界に入った! 認識したとも!
急いでバハムートを綺麗にして、戦闘現場にとぶ。忘れ物はないはず!
ホムラ:もう始まってると思ってた! 間に合った!
お茶漬:ちょっと、その情けない第一声ヤメて。
ペテロ:さっきまで最高に格好いい演出だったのにwww
レオ :わはははは!
菊姫 :大丈夫、クラン会話が聞こえない人たちにとっては、セーフでし。
シン :お前、その格好で絶対しゃべるのやめろ。
ホムラ:ひどい。
菊姫 :大勢の幸せのためでしよ。
同じフィールドに来たことで、クラン会話が可能になった。
お茶漬:さっき魔物行ったでしょ?
ホムラ:ああ、極上肉が出たからあとで焼こう
シン :おう! 焼こう、焼こう
レオ :飯!
ペテロ:www
お茶漬:戦利品の前の過程を飛ばすのやめて
ホムラ:今、戦況どうなっている?
お茶漬:そこのショタボーイが、中身マーリンの鵺だって判明したところ。ホムラのとこに行った魔物と似たようなのが放たれて、それぞれ戦闘中。
塔のマーリンも偽だったのか? 酷い! いや、身体はあれが本物で、こっちは鵺を乗っ取ったのか。鵺は何だかはっきりしないモノ、つかみどころがないモノ、主体がなく、見るものによって姿を変える化け物。主体がないから乗っ取れたのか? 少年の姿はマーリンの趣味だろうか。
ペテロ:私とお茶漬は騎士の一団に近いところで戦闘中。
レオ :はぐれた! 知らない人と一緒にやってる!
シン :俺はギルんとこに混ざってる
菊姫 :あてちはソロだったけど、ロイに拾ってもらったでし
人が多いと色々大変そうだ。イベント期間中にあった大規模線も乱戦だったし。
お茶漬:玉藻もいたけど、マーリンに刺されて扶桑に飛んでったね。
菊姫 :玉藻はお預けでし。
本来ならクズノハと同化するのか、もしかして。だが、私が連れ出してしまっているから、クズノハが残したあの狐と同化か。私のもふもふが……っ! おのれっ!
ホムラ:騎士が騒めいてて、大方が戦闘に参加してないのは何でだ? サボり?
ペテロ:さっきまでマーリンのスキルで跪かされてたんですよww
お茶漬:一撃入れて、スキル無効化した人がいてですね……
盛り上がったシーンを見逃した気配! だがまあいい、さっきまで戦闘参加も諦めてたわけだし。
お茶漬:絵面だけ見てる分にはいい場面、絵面だけなら
ペテロ:復活した騎士たちの上で、空中でローブと髪をなびかせて、見た目だけならマーリンと対峙してるからねw
レオ :ぬああああっ! 受けよ、俺の超絶技!
菊姫 :こっちはロイたちの絶賛で、笑いをこらえるのが大変でし
お茶漬:試される腹筋
レオはパーティー会話か周囲に流すべきセリフを、クラン会話に誤爆している。
さて、大体状況は分かったけれど、私はどうしたらいいんだこれ。少年マーリンに突っ込んで、戦闘開始すればいいのか? とりあえず騎士を何とかせんと、魔物が暴れている近くは危ないな。
「く……貴様、どうやって!」
あ、少年マーリンがなんか喋った。
戦闘開始すれば、浮足だった騎士たちも真面目に戦闘に入るだろうか。
「まあ良いわ、そこからすぐに引きずり下ろしてくれる」
そう言ってやる気というか、【覇気】を出すマーリン。
では、対抗して【畏敬】を。
「く……っ、生意気な!」
流石にレイドボス、少しよろめいただけで特に影響がなさそうだ。
「主、ご命令を」
にこやかに跪くカル。
敵の真ん前で何をしているんだ、何を。
「討伐を」
さっさと戦闘に入って下さい。
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・増・
称号
【狂化を鎮める者】
【暴走を御する者】
【混乱を宥める者】
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たくさんの感想メッセージありがとうございます。




