320.思わぬ助っ人?
パズル――じゃない、パスコードは別イベントスペースで数組が解除しないといけないようだ。なんかイベントウィンドウを開けると、ゲージが溜まっていってるのでこれがいっぱいになったら転移門が解放されるのだろう。
『何かすごくゲーム的だ』
『ホムラ、いつもイベントウィンドウ見てないでしょ』
そういえばそうだ。
『帝都もけっこうゲージ上がってるね。今から行っても参加途中で終了かな? どうする?』
ペテロがウィンドウを見ながら聞いてくる。
『じゃあもう森に行こうかな』
『私も帝都待機かな。待機というか王宮を探っておきたい』
ペテロは鵺狙い、姿を変える能力があるかもしれないことが気になっているらしい。私も気になるけど、王宮にいるかマーリンの側にいるかは半々――いや、皇子の姿をとっているなら王宮の確率が高いかな? だが、人が行かない方に行くのも浪漫です。
カルたちに鵺が出たら呼んでと頼んだし!
ペテロと別れて帝都を越え、白虎を喚び出し荒野を走る。本当に帝国の地は荒地になっとるな、これじゃ食料が足りないはずだ。食べるためには人を減らすか、他国から食料を確保するしかない。
その荒野の先に黒い森が見えてくる、不釣り合いなほど広い森。中世ヨーロッパ、キリスト教にとって森は悪とされ切り開かれ農地にされた。森の恵みで暮らしていた人々が、もっと安定した供給が望める麦なんかの穀物に移行したんだろうな。
精霊や神々が実際にいるこの世界は、森を丸裸にするような極端なことは起こらないだろうけど、この目の前にある森は焼き払ったほうがいいんじゃないか? 禍々しい。
うろのあるねじれた枝、コブのある絡み合った根、深緑を越して黒く見える葉。
カルやガラハド、騎士たちの話を総合するにマーリンのいる塔はこの方向。ひときわ大きな木が立ち並ぶ一画にある。木が絡み、幹に飲み込まれるようにして建つ塔の前に白い騎士服の男がいる。髪の色はオレンジに見える茶色。
「賢者レンガード! 玉藻様の前には通さん!」
塔の前に柴犬パーシバルさんが番犬してた。白虎を帰して対峙するが、これガラハドやカミラを連れてくるべきだったろうか、イベント的に。あれ? でもカミラの妹がいないな。
「パーシバル! 賢者レンガード様の邪魔はこのアキラがさせない!」
などと思ったらズサッっとアキラくんがどこからか現れた。
「パーシバル様、正気に戻ってください」
声のした方を見上げれば、真っ白く大きな鷹に乗った妹さん。そこから飛び降りたのか?
なんだ? ここにきてこっち側なのか?
「パーシバル! お前は俺の仲間だ! 戦いたくない。戦いたくないけど、俺はエイミを助けてもらった時に、賢者レンガードに従うと心に決めた!」
いや、待って。従われても困る。あと賢者レンガードってなんださっきから。
「賢者レンガード様、ありがとうございました。マーリン様もパーシバル様も明らかに変です、今まではうすうす知りつつも姉への反発で従っておりました。ですが……」
カミラの妹さん、アキラくんの言葉からするとエイミが悲痛な顔で言い募る。
「行ってください、ここはアキラ様と私が……っ!」
私がついていけてないんですが。ここは全部分かってる顔して進むところか? ――まあ、面倒だし進むか。
とりあえず補助系の魔法をかけて、いや、私の補助魔法は微妙だな。思い直してアキラくんに『兵糧丸』を投げる。【薬膳】のおかげでそこそこ食べられるようになりました。まだちょっと美味しいとはいえないけど、はるかにマシだ。
アキラくん大技を沢山持ってそうだし、EPはいくらあっても足らないだろう。後は任せた! ややこしそうだから私は行くぜ!
盛り上がるアキラくんたちを背に、塔の中に入る。
後ろで開いていた大きな扉がゆっくりと音を立てて閉まる。お一人様用なのかこれ? パーティー用かもしれないけど、またイベント空間かな?
『白ちゃん、黒ちゃん、カモン!』
『どんな呼び方しとるのじゃ、おぬし』
『どうしてそう気が抜けることを言うのか』
左右の肩に白と黒が現れる。右を向いても左を向いてもふっくふくですよふっくふく。
『って、おぬし! 戦闘ではないか!』
『そうです、戦闘です』
白に答えながら、襲ってきた敵を倒す。
『それならそうと早く言うのじゃ!』
『なんでこんな好戦的に……。ブチ切れて大暴れしたからか?』
黒、アルドヴァーンがブツブツ言いながら戦闘に加わる。
うん、仲間のために大暴れしたっていうしね、仕方ないね。
塔の中は真っ暗で、時々木のねじれた枝が石壁を壊してその隙間から風が流れる。襲ってくるのはコウモリ、フクロウ、あとキメラみたいな色々な動物の特徴を持つ魔物。
上に上がる階段の前には結界っぽいものがあり、それぞれ鍵を手に入れねば進めない仕組み。鍵は一階は道中に出る普通の敵がドロップ、二階は宝箱、三階は特定の敵だけ倒してゆくとでる。四階は神像の台座の下にあった。
謎解きと合わせた探し物に少々時間を取られた。もう少し分かりやすいヒントを頼む。特に三階の特定の敵、一階の敵より倒す数多いなら多いと教えてくれ。途中で違うのかと思って別なの倒してしまったじゃないか。
これ、住んでるマーリンも毎回鍵探しして上に登るのだろうか? いや、スペアキーがあるのか。むしろこっちがスペア? 鍵を忘れた時のために植木鉢の下やら郵便受けに鍵を隠しとく人みたいだな。泥棒に入られるぞ、これ。この場合、私が泥棒なわけだが。
『おぬし、また変なこと考えてるじゃろ?』
『気のせいです』
『真面目にやらぬか!』
アルドヴァーンが意外と真面目なんです。真面目だからやらかしてしまったのだろうか。
さて、高さからいっても次が最後の部屋だ。マーリンがこれで留守だったらどうしよう? そう思いながら複雑な模様が描かれたフォースシールドみたいに階段を覆っている結界に鍵を差し込む。差し込む場所は模様の中心、模様は鍵を嫌がるかのようにうねうねと動き、虫のように外側に散って結界が解除される。
マーリン、まさか虫系の使い手じゃないよな? フナムシの大群みたいで結界がちょっと気持ち悪いぞ。
そして物理だから結界スルーできないとかそういう……? いかん、考えるのをやめよう。
「あっさりたどり着いたようじゃの。私のための結界ではなかったの? そんなにあなた様の想いは弱いのかしら。悲しいわ……」
そう言って赤いローブの老人にしなだれ掛かる狐耳の美女。
真っ白い肌、真っ赤な唇、とろんとした目元、真っ黒で真っ直ぐなつややかな髪。紅をはいたほっそりとした指先で、ローブの胸をすっと撫でる。
「おう、おう。愛い女よ、お前の望みならば例え皇帝であっても今すぐ退けようぞ」
玉藻の尻を撫でてるダメな感じの老人です。ローブのフードが顔に濃い影を落としているが白い長いヒゲが見える。マーリンなんだろうこれ。
そして玉藻。尻尾がもふもふだけど、人型だしな。鵺はやっぱり王都の方か、残念。
「ふははは! よくこの塔に来たな! だが玉藻様は渡さぬ!」
マーリンが笑い始めたところで、玉藻が後ろに飛んで下がる。争いが嬉しいのか、赤い唇が三日月型に裂け、その顔は愉悦に染められている。
ばさっとフード付きローブを脱いで、マーリンが姿を現す。まあ、もともとマーリンだって分かってたし、今更――
『白、魔法使いのおじいさんがおかしい』
『その感想もどうなんじゃ?』
『あれは魔法使いなのか?』
そこにはムキムキマッチョ老人の姿。ローブは腰紐で上が脱げただけで引っかかってるけど、なんで上半身裸なんだ? ローブの下は全裸なんですか?
そしてやっぱり森のゴリラ……っ!
結界について書きたしました。他のプレイヤーにも見える物理っぽい何かです。




