313.涼しい顔をして空回り中
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王城の庭でアイルの文官と騎士がセットになって、帝国遠征の兵を募っている。
いつもは多分、王族がテラスで手を振って民衆が詰めかけてる的な場所なのだと思うが、今は異邦人の冒険者が闊歩している。闊歩というか、フレンドを探してウロウロしてる感じだけれど。
帝国との開戦のために、今まで協力していたロイたちや兎娘は王城の広間にいる。他にも帝国のイベントを進めていた者たちと名の知れた住人の騎士たちは、お外とはちょっと差をつけて軽食が用意された広間でくつろいでいる。
濡れたらよく滑りそうな白い大理石の床、魔法の明かりが灯されたシャンデリアはガラスなのかクリスタルなのか判別はつかないけど光を乱反射させている。白いクロスのかけられたテーブルには料理の乗せられた銀の皿やトレイが並び、壁にはタペストリーとそれを窓に見立てて重たげな真紅のカーテンが下がる。休憩用に壁際や柱の周辺に並べられた椅子。
給仕のメイドさんに群がってるプレイヤー。ミニスカメイド服で給仕に回ろうとするプレイヤー。
私は何故かその広間の奥でテーブル席に着座している。兎娘を避けたかったのでカルの誘導にホイホイついてきた結果がこれだ。ちょっとあれです、向かいに座ってるの大規模戦で見たことがあるんですが、私の股下通ってったここの王太子じゃないか? 気のせい?
何で私ここに放り込まれてるんだろう。カルは涼しい顔で私の隣に座ってるし、ガラハドも隣にいる。なぜかイーグルとカミラは後ろで立ってるしで落ち着かないことこの上ない。カルがここにいるのは元帝国の騎士たちをまとめているのがカルだからでそれはわかるんだが。
でも兎娘の騎士、ガウェインも座ってるけどその隣は神官で兎娘は広間に放牧中みたいなんだけど。よく見るとエリアスとロイたちが連れていた騎士も座ってる。私、この騎士の名前聞いただろうか? 覚えがない。
ペテロ:笑うwww
ホムラ:私は何でこんなとこにいるのでしょうか。
ペテロ:真顔で言うのやめてwww笑うと【認識阻害】解除されそうwww
ホムラ:仮面被ってるのによくわかるな
ペテロ:レオの所業に無表情になってるのと同じ顔してる気配がするw
テーブル席の会話が聞こえるギリギリをキープしているペテロが壁に向かって肩を震わせている。こっちを向いては目をそらして壁に向かってふるふると。
【認識阻害】解除されてしまえ!
「私はここにいていいのか?」
「もちろんです、主はアイルのすべての転移門を解放されています。アイルからの信頼は私より厚いです」
こそっとカルに聞いたらにっこり笑顔で答えが返ってきた。
転移門全部解放したから信頼度マックスとかなのか? いまいち納得いかないまま目立たないよう大人しくしている私。こういう時、仮面は便利だ。
【鑑定】に上がってこない九尾の『魅了』の存在や、マーリンの人を使った暗躍のせいで、結束できないでいた小国も、帝国の目を憚らずアイル側についたり、やっぱり攻められるのが不安なのか秘密裏に誓約を交わしたりと態度に差はあるものの、ほぼアイル側についた。
サディラスがアイルについてからは早かった。今は帝国やアイルより国力は弱いが、サディラスの方が古い国で敬われる小国の盟主のような存在だ。
今の状態なら帝国の端、パルティンの狩場まで障害なく進軍できる。
「進軍ルートは休耕地と麦の刈り入れを終えた道沿いで決定、後はパルティンが出ないことを祈るくらいですか」
冬小麦は秋に種をまき、冬を越して初夏に収穫する。休耕地も話題に出てるということは三圃農法しとるのかな? 稲、大豆、麦の輪作はしないんだろうか。米はこの国では作ってないみたいだったし、しないんだろうな。
左右に束ねられたビロードっぽいカーテン、一段上がった広間を見渡せる半個室みたいな場所で戦略的な話がなされる。もうすでに大筋は決まっていて、確認みたいなもののようだ。
戦は田畑を荒らさない農閑期で且つ、雪が降る前の時期が多いと聞くけれど、今回は畑を荒らさないルートの確保ができたことと、兵糧については異邦人が運ぶことで暑いけど食品が傷まないようにできるので決定したようだ。間のパルティンの狩場は遮るものなくカラカラに乾いてるし、小国を抜けてしまえば帝国まで大軍での進行も可能だ。
「パルティンは私が――」
「おお、止めてくださるか! ありがたい」
食料持ってって狩りをお休みしてもらう、そう言い切る前になんかお礼を言われた。やたら感極まってる感じなのだが、戦前からこんなに興奮してて大丈夫なんだろうかこの人。
一度口を開いたら、なんかそれぞれ話しかけてくるようになったのだが、私が面倒がってるのを知ってか知らずかカルがさばいてくれてるので、後はまかせて黙って座っている。
ホムラ:閑。
お茶漬:ひな壇の人はおとなしく飾られてて
菊 姫:広間の人はシャッターチャンスでしね
シ ン:サービス、サービスゥ。はーいちょっと上着脱いでみようか~?
ホムラ:脱がん
お茶漬:一枚いくらで売れるかな¥¥
ペテロ:レンガード様wが、こんな長いこと人前にいるの珍しいからww
レ オ:わははははは
菊 姫:庭園の方もプレイヤーのフレンドじゃないフリーの騎士がいっぱいでし
シ ン:パトカ貰うの今がチャンスかな
レ オ:ナンパか!
お茶漬:強いNPCがいるとソロが捗る
ペテロ:レオの場合は生産させてもいいんじゃない? あちこち暴走して素材めずらしいのあるでしょ?w
菊 姫:ちょっとあてちも仕留めてくるでし
ペテロ:www
実際はクラン会話で馬鹿話をしてるのだが、黙って座ってます。
広間にいるのはクランからはペテロとお茶漬。あと知った顔はロイたちとエリアスくらいかな。
この部屋にいるのはどうやら帝国関係かアイルでのイベントをこなして国の信用度をあげて、アイルの他の都市の【転移門】を解放した人たちのようだ。
烈火たちはイベントにはあまり熱心でなく、迷宮攻略に力を入れているからここにはいない。戦闘では参加するつもりみたいだけど。
住民たちの進軍コースやら、補給地点、物資の供給の要望やら。
ホムラ:この広間にいるメンツでレイド組めってことかな?
お茶漬:大規模騎士ナンパ会場
ペテロ:真面目にイベントこなした報酬が騎士ですねw
シ ン:大規模戦と何が違うの? 教えてエロい人
お茶漬:基本変わらないんじゃない? ただ別鯖でやるイベントは年一回あるけど、これは一回きりってだけで
ホムラ:あとはボスがいること?
菊 姫:ホムラのことでし?
ホムラ:何でだ!
レ オ:わはははは
ペテロ:ボス多すぎ問題。皇帝は確実でしょw
ペテロが報酬減につながらない範囲でヒントを出してる。
今回のボスで一番わかりやすいのは全軍の目標である皇帝、騎士たちの間で話題になっている封印の獣、傾国九尾――これもルシャの封じていたクズノハではないので微妙だが。次が何かをはばかるようにはっきりしないもの言いだがこの広間で度々住人たちの話題に上がるマーリン。そしてアシャの封じる獣【雷獣鵺】。
果たして鵺の存在を知っている人がここに何人いるのだろうか? カルやガラハドたちには話してあるので、国の上層部や神殿は知っている。はっきりとではないが元々情報も持っていたようで、そこには私の知らないこともある。
実際ここでの話を注意深く聞いているとヒントがそこかしこに。
色々聞き流してたんですがあれです、皇帝相手の軍はカルとアイルの王太子が指揮するようです。補佐にガウェインと私の知らないアイルの騎士。何でどんどん中心人物になってるのか、カル。
ああ、座っている元帝国騎士は円卓の騎士の名前持ちのうち、こっちについた奴らか。
こっちで『アシャの庭の騎士』と呼ばれる帝国騎士の中には、円卓の騎士から名前をとった人物がいる。カルのランスロットしかり、ガラハドしかり。ガウェインも緑の騎士の二つ名を持つ、円卓の騎士の中でも有名な部類だ。消去法でここにいない騎士は帝国側にいるということだな。
……。
ホムラ:先生! ここに座ってるののうち帝国騎士が円卓の騎士から名前とった人だって気づいたけど、円卓の騎士を覚えていません! 差し引きで敵の勢力わかるのに!
ペテロ:www
お茶漬:またマニアックなこと言い始めた
菊 姫:アキラくんにくっついてたパーシバルくらいしかわからないでし
レ オ:さっき帝国側の主な注意人物言ってたぜ?
シ ン:んだ、んだ
お茶漬:広間でも言ってましたね
ホムラ:聞いてなかった!!!!
真面目に考えてたし、発見した! みたいな気分だったのに恥ずかしい!
菊 姫:きっとホムラをキラキラした顔で見てるだろうギャラリーがかわいそうでし
シ ン:中身を出さなければ大丈夫!
お茶漬:憧れは遠くで見るだけにしといたほうがいいですね
ペテロ:炎王見てるとそう思いますwww
絶賛思考が空回りして終わった決起集会でした。




