298.サキュバスVSクラン
「どいつもコイツも女じゃな……い?」
サキュバスが怒りの形相でパーティーを見渡し、シンのところで言葉を止める。
「うふん」
唇をすぼめてばちこーんとウィンクをするシン。
「……」
「ちょっとシン、相手黙っちゃったじゃない」
「視覚の暴力は止めるでしよ!」
お茶漬と菊姫からクレームが上がる。
「ひどいッ!」
「どこから出した、そのハンカチ!?」
ハンカチを噛み締めて引っ張るシンについツッコミを入れる私。
「わはははは!」
「……馬鹿にしてっ! 目にもの見せてあげるわっ!」
怒ったサキュバスが大鎌を振り上げる。
「同士討ちがなくなると途端に物理ですね」
喋りながらステータス上昇の付与をかけていくお茶漬。
「いくでしよ!」
自身をすっぽり隠すような大剣を構えて挑発のスキルを入れる菊姫。
「いっくぜぇ!」
「フッ」
走り出すレオとペテロ。
「【黒耀】『闇の翼』」
どうでもいいことを考えながら、大鎌が菊姫に届く前に全員の防御力を上げる。
「ぬがーーーーーっ!」
絶賛空振るレオと、その隣でパンツを見せながら華麗に一撃を入れるペテロ。
「あ、性別変えると基礎ステータス変わるから。いつも通りだと思わないように」
「それより装備かな? レオ、いつも同じ装備だから」
お茶漬の注意にペテロ。
私も『疾風のブーツ』を手に入れた時、装備時とそうでない時でけっこう戸惑った覚えがある。特に物理職はきついんじゃないだろうか。神器装備と頻繁に入れ替えるせいで慣れたけど、普通の装備をしている時はサボって動かず、固定砲台をしていることが多い。魔法使いのフリをしているからちょうどいいんだが。
「溶けろ!」
攻撃を受けて溶解液を撒き散らすサキュバス。
受けたのはお茶漬、白い肩が露わになる。
「あああ、耐久が! 売り払う時に価値落ちるじゃない!」
「そこでしか!?」
菊姫がツッコミを入れつつ、大斧で攻撃を防ぐ。
「もう実戦で使えるくらい武器で防御できるようになったんだな」
「……」
感心して言ったら返事がない。
「菊姫?」
絶賛視線をそらされてる!
「使わないとレベルが上がらないんでしよ!」
「え、ちょっと! まさかの捨て身!? 僕が忙しくなるからやめて?」
お茶漬が抗議するが明後日の方を向いて口笛を吹くように口を尖らせる菊姫、吹けてないけど。
「はっはっはっ! 俺はズボン以外そのまんまだからな!」
そう言ってサキュバスに拳を入れるシン。
いつもの黒革のジャケットにごつい黒いブーツ、胸から太ももを覆う黒いチューブトップ――というのか? バスタオルをぴちぴちに巻いたような格好。
「ちょっと何でズボンもそのままにしなかったの!?」
「パンツ見えてるでしよ!?」
そしていつものボクサーパンツ(白)。
「せめて黒にしてくれたら見ないフリがしやすかったんだが……」
「パンチラ?」
笑顔で本人がパンチラしながら【バックアタック】を入れて戻ってゆくペテロ。
「おおおお!! 当たった!」
「サキュバス動かないように固定してるのに、当たらないと困るでし!」
菊姫は敵の攻撃から守ってくれるだけでなく、当てる方向でダメージが変わるスキルが多いレオやペテロ、シンのためにサキュバスが方向を変えないよう、またコンボが当てやすいようになるべく動かないようにしてくれている。
「うちのクラン、なんで戦闘がこんなにカオスなんだろうな?」
サキュバスに風魔法を放ちつつ、不思議に思う。
回復をそつなくこなすお茶漬、強いというより巧いと言いたくなるペテロ、闘うことに対しては真面目なシン、種族的に適職ではないけれど頑張ってくれている菊姫。レオは……、レオはレオって生き物だから気にしたら負けだ。
「ちょっと、ホムラ。何でサキュバスの溶解液全部返してるの?」
「何か【スキル返し】がよく効くようです」
お茶漬が聞いてきたのに答える。個別スキルに対しては発動しにくいっぽいけど、乱発されるスキルに対しては成功率が高い。
サキュバスは物理攻撃はヘイトが高い者に、溶解液は後衛に多く飛ばしてくる。最初に戦ったレア種は物理攻撃にもダメージ付きの溶解があった気がするのだが、今対峙しているサキュバスにはない模様。
「【魅了】を封じちゃうと楽でしねぇ」
サキュバスの使う【魅了】は三種類、エッチなやつと、惑わせて味方を攻撃したりサキュバスを回復するやつ、混乱させて敵味方構わずスキルを当てるやつ。エッチなやつはパンツを穿いていれば混乱に置き換えられる。けっこう頻繁に【魅了】を使ってくるので、まともに戦闘するとかなりきついそうだ。
「エリアボスとはいえ、この層に出るには少し強すぎたしね。【影の反逆】」
「ああ、【烈火】が苦戦してたしな」
会話に混じってきたペテロが使ったのは、物理攻撃に少し遅れてサキュバスの影にドリルの先のようなものが多数現れるスキル。青白い肌を露出している太ももを貫通するほどの威力だ。
「待って。無視しないで? 僕だけすでに半裸なんだけど」
スルーしていた事実がここに。
「えーと、【水魔法】『ウォーターウォール』?」
お茶漬の前に水の壁を設置する。防御特化や補助特化な人もいるけど、私は攻撃型の魔法使いです、諦めて。
「やっつけ感がひどい!」
「わはははははは!」
レオもどうやら普通に攻撃に加われるようになったようだ。
「何なんだ! アンタたちッ! 何なんだ!?」
思い通りにならない事態にサキュバスが混乱している。
「おりゃあっ! 【鳳】『蹴り』!」
最後はシン。コンボを切らさず繋いでゆくと、後半格闘系はやっぱり強い。
《サキュバスの爪×5を手に入れました》
《サキュバスの黒布×5を手に入れました》
《サキュバスの髪×4を手に入れました》
《サキュバスの魔石を手に入れました》
《ブルームーンストーン×10を手に入れました》
《魔力の指輪+5を手に入れました》
《『サキュバスのスキャンティ』を手に入れました》
……またパンツが!
「菊姫、パンツいるか?」
「いらないでし。布欲しいでし」
「あ、私は髪欲しいから使わないなら布と交換して?」
ペテロ、髪なんて何に使うんだ?
「僕がパンツは買い取りますよ」
「穿くのか?」
「加工して売り払う。女子に今人気の装備です」
お茶漬は相変わらず隙間商売に勤しんでいる様子。
「わはははは! 俺パンツいらねぇからやる! 誰かあと魔力の指輪いるか〜?」
「指は五本、いや装備できんのは限られてっからなあ」
「ああ、じゃあそれは私が買い取ろう」
また錬金でプラス数値を増やして売り払おう。装備できる指輪の数が決まっているおかげで、+4と+5の値段は大きく違う。+6はもっと跳ね上がるだろう。
「どうでもいいけどシン、その腹巻なんとかしろ」
「もうなんか突き抜けててどうでも良くなってきましたね、僕は」
シンのチューブスカートは上から下からめくれ上がり、腹に集まってしまっている。黒い革ジャケットにごついブーツ、白いボクサーパンツに黒い腹巻と完全に変態だ。
「動くとどうしてもなあ」
「凹凸がないからでし!」
上に引っ張って胸を隠し、下に引っ張ってパンツを隠し――いや、隠しきれてない。
「一応女性なんだよね?」
ペテロが笑顔で確認している。
「たぶん? 【魅了】かかんなかったし」
「本人さえも疑問形なんでしか!」
「わはははは。ひどいな!」
パンツと指輪と魔石は金銭でやりとり、その他の宝石や布などは個数は少し違えど物々交換になった。その後はレッサー・ズーの素材が欲しいというので再戦へ。
そして夕食。
「もう諦めてズボン穿くでし!」
またシンのスカートが腹巻になってるのを見て菊姫が言う。
「胸毛が健在なところがまた……」
シンのヒゲも健在、本当にそのまんまの姿に口紅を大きく塗っただけの姿だ。
「ズボン、あれ男用」
「え、穿けないの?」
すごく不思議そうにお茶漬が聞き返す。
「ステータス上では女なの!」
ビールをダンっ! と机に置くシン。
「わはははは! 絶対見えない!!!」
ノーテンキすぎるグラマラス美人のレオが笑う。
「バグのような何か」
丼を各人の前に置いて、ビールも出す。
『黒鞠猪豚』の豚バラブロック丼。みりん、醤油、砂糖で少し濃いめに味付けして焼いた厚切り豚バラを、炊きたてのご飯にどどんと乗せて、卵黄と刻みネギ。キャベツのネギゴマ油和えと冷奴。
てらてらと光る豚肉が美味しそうだ。
「お疲れ様!」
全員に行き渡り、私が座ったのを見てペテロがジョッキを掲げる。
「お疲れ様でし」
「お疲れ様」
「お疲れ様、僕」
「おう! お疲れ様!」
「お疲れ、いぇーい!」
約一名自分にお疲れ様をしていたが、毎度苦労しているのは確かにお茶漬なのでツッコミを入れずにウーロン茶を口にする。回復って特に予想外な動きをされると難易度があがるって聞くけど、うちのパーティーは予想外しかないしな。
「あああ、旨い!! 脂と白飯がたまらねぇ!」
「働いた後はご飯がおいしいでし」
皆それぞれ褒めてくれる、おかげさまで料理しがいがあって嬉しい。
「そういえば、インキュバス寄せをサキュバスのエリアで鳴らすとサキュバス避けになるんだけど、すごく真面目な顔して炎王が買ってるの見て笑ってしまった」
ペテロが思い出したのか薄い笑いを濃くする。
「インキュバス寄せって唇のエフェクト飛ぶやつだっけ? それはそれでシュールだな」
炎王はサキュバスがよほど嫌な様子。
「女体化も嫌がりそうだしね」
「どう変わるか見てみたいようなそうでないような」
シンがジョッキを口元で止めて半眼で虚空を眺める。
「ああ、それにしても早く白虎と黒天と白雪に埋もれたい……っ!」
女体化薬飲んだら一時間貸し出してくれる約束。
「あー、はいはい。ホムラはブレないね」
「後でクランハウスでいいでし?」
できれば幼女のまま埋もれられれば大きさ的にベストです。
電子読み放題からいらした方も、コミカライズからいらした方もありがとうございます。
もちろんずっとお付き合いいただいてる方も!




