1.異世界
誤字脱字は随時修正中……
VRMMO
脳に認識させる擬似的な世界。
視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の再現……は、ともかく、表在感覚、深部感覚、皮質性感覚などがでてきたところで私はそっとVRの説明書を閉じた。
購入したゲームの開始が待ちきれなくて、手持ち無沙汰をごまかすためにとっくに目を通した簡易説明書から普段は読みもしない分厚い説明書をパラパラやり始めたのだが、普段目にしない単語が並びやっぱりちょっと目が滑る。
VRといえば、以前は実在の空間に擬似映像世界を構築、その映像を見る専用のバイザーを被って、その空間で実際に人が体を動かすタイプだけだったらしいが、今では完全に電脳世界が構築され現実世界では体を動かさないものが主流になった。そのVRゲームを私が好きなゲームシリーズを出している会社が初めて出すというので前々から楽しみにしているのが今の状態。
購入したそのゲーム専用のバイザーは、キャラメイクまではできるがゲームの開始自体はオンラインサービスが始まってからになる。サービス開始は三日後の金曜日夜八時。
働いている身としてはご配慮ありがとうございます、な開始時間だ。
私の職場は週休二日だが定休日は月曜日。
友人達は土日ずっとログインするだろうな、と思いながらシフトを決める段階でランダムなもう一日の休みを日曜日に希望指定、火曜日は有給を取った。ゲーム開始一日目は不具合発生で緊急メンテで潰れたりするしね! と理由をつけたりしてみるが、土日は忙しく、両方に休みを入れる勇気は私にはなかった。
で、待ちに待ったゲーム開始日。
バイザーを被ると仮想空間へとログインする。体調が悪いとログインできない仕様のため、風邪などひかないよう最近は規則正しい生活をしていた。――ウキウキしすぎで血圧とかでひっかからないだろうな?
キャラだけはバイザー自体に保存されるらしく、他に気に入ったキャラを二体保存してあるが、ゲームに登録できるのはワンキャラだけだ。ちなみに下着姿。
散々作っては消しまた作ったキャラは、結局、種族人間の男性に落ち着いている。
初期で選べる種族は【人間】【エルフ】【ドワーフ】【獣人】の四種族だが、獣人はさらに犬系か猫系か選べる。CMでは狼の獣人が前を走り、虎の獣人がそれを追いながらそれぞれ拳を繰り出し戦う姿もあったのでゲーム中の種族はもっと多岐に亘るのだろう。
バイザーにキャラクリエイトの元になる素体は何種類か入っているが、それを使っても理想通り作れないクリエイトが苦手な人はバイザー同士を繋げて、キャラクター保存データのやり取りができる。ただし両方のバイザーに保存はできないそうだ。コピーはできずに移動だけ、双子プレイをするならもう一度同じように造れということなのだろう。
私は青年の素体を選んで、そこからやや筋肉質を選択。この辺はスライダーで調整できるようになっている。腹筋は六つに割れる人と八つに割れる人がいるそうで、それを聞いた中学時代三つに割ったのはいい思い出……そこからさらに縦に割るのは結構大変なのだ。
三日間かけて作り上げたキャラは、青紫がかった腰までの白銀の髪と紫紺の瞳。人間種族で最大より少しだけ低くした身長。髪色だけでも白髪に見え無いように調整するのが大変だった。長髪なんぞ現実世界では面倒なだけだろうが、仮想空間ならできる、と思う。
名前は『ホムラ』。
誕生日は4月4日、某キャラの誕生日。
キャラ名は、別にプレイヤーに割り振られたIDというかバイザーIDがあるため他の人と被っても大丈夫で、気に入った名前がそのまま使える。
このバイザーを購入するときには身分証が必要で、二十歳以上でないと販売されない上にその場で生体認証を済ますことになる。他人に譲渡する場合は真っさらにしないと、新たに登録ができないためゲームのキャラごと他人に売ったり、実は今日は中の人が違います! ということはできない。
普通はバイザーに対応したゲームを色々選べるのだが、このバイザーは実質私がやろうとしているゲーム専用だ。
幼いころから現実にそっくりなVR空間に慣れすぎるとVR空間でできることは現実世界でもできると勘違いして、ベランダから飛び降りるなどの問題が発生したため、VR空間の体感や景色のデキによって年齢制限の規制が厳しく設けられている。
そういうわけで買うほうの規制は厳しいが、成人しかいないこのゲーム内でできることの規制は緩い。第二次性徴を終えた大人が対象のため、男が女キャラを、女が男キャラをプレイするのも自由、ゲーム内に人型の敵がいることも、ストーリー上での人死にも説明書に警告注意がある。
さすがに24時間365日ログインしっぱなしは、現実世界との関係に齟齬が生じるため、R20であっても規制されているが、働いているなら自然とクリアできる規制なので考えなくていいだろう。
そんなこんなでサービス開始まであと三分。
半透明のウィンドウにある灰色のログインボタンを眺めながら待つ。
ウィンドウの色や透明度、大きさは好みに調整できる。操作感はスマホやタブレットをいじる感覚に近い。他のプレイヤーから見える設定にも見えない設定にもできる。
ソワソワしながら取得予定の自分の職業とスキル構成を考える。一般のベータテストもなかったためゲームの情報開示が少ないのだが初期職と種族は発表されていた。
ちなみにPCのOSとまったく技術系統、映像系統が別なためスクリーンショットなどをとって外部掲示板に上げるということが今のところできない。かわりにゲーム内掲示板を設ける予定だそうだ。
今まで灰色だったログインボタンに色がつく。
サービス開始時間だ。
《ようこそ! サービス開始です》
明るいけれどどこか平坦な女性の声でアナウンスが入る。
《このゲームではクエストランキング等さまざまな機会でプレイヤー名を出す場面がございます、プレイヤー名は公表しますか?》
「出さないほうでお願いします」
《コンバートするデータはございますか?》
「ないです」
バイザー同士を繋げてフレンド登録を事前にしたりできるらしいが、私の友人はバイザーを持って会いに行くほど近場に住んでいない。
《まずは【職業】を選んでください。戦闘職、生産職から一つずつ選ぶことができます》
《【職業】は戦闘職と生産職共に、職業リストから選べます》
《選べる【職業】はゲーム中の行動で、リストに増えることがありますのでいろいろ試してみましょう》
職業リストを開いて【魔術士】と【薬士】を選ぶ。
他に戦闘職は剣士、拳士、治癒士、シーフがある。生産職は薬士、鍛冶士、木工士、裁縫士だ。
《【職業】をスロットにセットしてみましょう》
《セットしていない【職業】は覚えていても反映されません》
二つ並んだ職業スロットに【魔術士】と【薬士】をセットする。左側が『本職』右が『副職』となり、ゲーム中ではメイン職・サブ職などとも呼ばれる。レベルアップ時にメイン職に選んだ【職業】に合ったステータスが上昇しやすいらしい。
《【職業】を選んだことによりステータスが決定されました》
《好きな能力にポイントを2ポイント振ってください》
STR 10( 0)
VIT 9( 0)
INT 13( 0)
MID 12( 0)
DEX 9( 0)
AGI 10( 0)
LUK 10( 0)
↓
STR 10( 0)
VIT 9( 0)
INT 15(+2)
MID 12( 0)
DEX 9( 0)
AGI 10( 0)
LUK 10( 0)
知力に2ポイントとも振った。
職業を選ぶとスキルリストが対応した一覧に更新される。職についてもその職で使用するスキルを持っていないとあまり意味がないため、その職に向いたスキルは取得に必要なSPが低くてすむ。
私の職業構成で出たのは以下の通り。
【長杖】SP1
【短杖】SP2
【魔術強化】SP2
【知力強化】SP2
【精神強化】SP3
【火魔術】SP3
【土魔術】SP3
【金魔術】SP2
【水魔術】SP1
【木魔術】SP2
【調合】SP1
【錬金調合】SP2
【武器防具鑑定】SP1
【道具薬品鑑定】SP1
【採取】SP1
【植物食物鑑定】SP1
【採掘】SP2
【鉱物金属鑑定】SP2
【釣り】SP1
【動物魔物鑑定】SP1
【スキル鑑定】SP2
初期SPは15SPを充てられている。
【知力強化】【火魔術】【金魔術】【水魔術】【調合】【錬金調合】【道具薬品鑑定】【採取】【植物食物鑑定】【動物魔物鑑定】を取得。
後で知ったが、【武器防具鑑定】から下は何の職業を選んでも表示されており、職ではなく種族によって必要SPが違った。
ドワーフなら以下のような感じだ。
【武器防具鑑定】SP1
【道具薬品鑑定】SP1
【採取】SP2
【植物食物鑑定】SP2
【採掘】SP1
【鉱物金属鑑定】SP1
【釣り】SP1
【動物魔物鑑定】SP1
【スキル鑑定】SP2
採掘は確かにドワーフに向いたスキルだと思う。
エルフと獣人は森に住む設定なのか【採取】と【植物食物鑑定】の必要SPが低かったそうだ。どの種族もトータルで12SPの範囲で割り振られており、SPが一律のものも多かった。
戦闘職に偏ったスキル取得をしようかとも思ったけれどやはり生産もしたい。中途半端なキャラになるかもしれないけどせっかくの仮想現実、色々やってみたい。あと鑑定したものはメニューに図鑑登録される機能が紹介されていてコレクション魂がこう……【鉱物金属鑑定】も取りたいが、自重した。とりあえず魔物と自分の生産したモノや採取したものが見られればいい。【武器防具鑑定】も最初は大体値段で見当がつくかな? という予想にしたがって除外した、そのうち取ろう。
【水魔術】は1SPなので選択。SPの低さに、使えない魔法だったらどうしようと思わないでもなかったけれど、同じ魔術系で差があるのは、誕生日や名前で属性の相性が決まるのではないかと予想した。相性で取得しやすさ――SPの数値――が違うのではないかと思うのだ。それで言うと私は水と相性が良くて、火とは相性が悪い……って西洋魔術と見せかけて五行なのか。
【金魔術】はどんな魔法か予測がつかなかったので取った。【スキル鑑定】を取らなくてもとりあえずは魔法なら大体予測がつくだろうと思ったが、この【金魔術】だけはさっぱりだ。
スキルを選び終えると確認のメッセージがあり了承するといよいよゲームの始まり。
ゲームの名前は『異世界』
さあ、どんな世界なのか!
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.1
職業 魔術士 薬士
HP 84
MP 116
STR 10
VIT 9
INT 15
MID 12
DEX 9
AGI 10
LUK 10
スキル(0SP)
■魔術・魔法系
【火魔術Lv.1】【金魔術Lv.1】【水魔術Lv.1】
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽系
【道具薬品鑑定Lv.1】【植物食物鑑定Lv.1】
【動物魔物鑑定Lv.1】
■強化系
【知力強化Lv.1】