297.クランと迷宮
「ぴぎゃ!」
「……っ!!」
素早く袖に引っ込むクルルカン。
本当に封印の獣なんだろうか? 不安になってきた。
「情けないにょろがいますわ。翼ある蛇たる私にその腕を譲るべきです」
ウル・ロロが冷たい視線を袖口に送る。君たち同族というか兄妹だろう!
「怪我?」
バハムートを抱きとめ生活魔法で血を落として、あちこち見たがどうやら傷が開いた様子も、新たに怪我をした様子もない。
「主……」
「しょうがないわね、もう」
腕の中のバハムートを綺麗にしたら私が血まみれな罠。私がバハムートを見ている間に、カミラが私を綺麗にしてくれました。床に少し垂れた染みはノエルが掃除してくれている。
「何か持ってるな。うをおおおっ!!」
バハムートが覗き込んだガラハドをバシッと羽で払う。
「大丈夫か?」
「痛えっ!」
肩を押さえて顔をしかめるガラハドに回復をかける。
「……元の大きさを考えると手加減してくれてるんだろうね」
「ブラックヒドラ、貫通してたものね」
「気配も大分抑えてくれてるよね?」
「ラピスとノエルもいるしね」
「それにしても何でコイツはすぐ触りたがるんだか」
カミラとイーグルが言い合う。
そういえばガラハドはちょっかい出してバハムートに噛まれてたし、ポチにも突かれてたな。
「あの……」
「うん?」
「こちらのドラゴンは?」
そういえばレーノは初対面だったか?
「バハムートだ」
「バハムート……、ですか?」
相変わらず表情の読みにくい顔だが、声色のせいかとても怪訝そうな顔をしているように見える。
「ぴぎゃっ!」
「ん? くれるのか?」
手を差し出すとバハムートが手に持っていた何か――魔石を落とした。
「何の魔石だろう?」
『混血竜の魔石』
ランク 38
属性 雷・流血
備考 生産で雷属性もしくは流血を付与、または強化することが出来る。
「混血竜……」
何だか最近聞いたことのある単語だ。雷属性ってやっぱり黄色いんだろうか? ……聞いたことがあるのは気のせいということにしよう。誰かのペットだったとしても、とりあえず復活するし!
「ぴぎゃ!」
「ありがとう」
得意げなバハムートの喉元を撫でて礼を言う。せっかく持ってきてくれたんだから何かいいものができるといいな。
「そうだ、バハムート。眷属化していいか?」
「ぴぎゃ!」
元気よく返事をされたんだが、いいってことなのだろうか、ただの反射だろうか。ペットにしているとはいえ、最強と名高い竜がこんなに簡単にオッケーしてくれるものなのだろうか。
少々不安に思いながら【眷属】のスキルを使う。――どうやら受け入れてもらえたようで、無事眷属に出来た。
「ぴぎゃ!」
一声鳴くと、バハムートは私の下げている青い宝石に消えていった。
「そこに住まっているんですか?」
「ああ。ここに住んでる」
「噂は耳にしているのですが、あのバハムートですか?」
「多分そのバハムートだ」
「……」
聞きたいことと言いたいことが山ほどありそうだがうまく言葉が出てこないようで口ごもるレーノ。そのまま考え込んでしまった。
さて風呂に入って寝よう。いや、ちょっと生産しとこう、現実世界の明日は帰ったらすぐ友達と迷宮だ。ハウスや庭の手入れもしたいのだが、さすがに寝なくては。そっと【牧畜】のレベルが一つ落ちたのだが、そもそも飼ってる頭数があれなのでしょうがない。
酒屋の増階も済んでいた。四階には広めの風呂を二つとゴロゴロ出来る部屋を作った。南向きに取れるし、部屋が広く出来るので四階に部屋を移したらどうかと言ったのだが、全員に今のままの配置で満足していると言われてしまい、中途半端になってしまった。
せっせと生産して商品を倉庫に詰め込む。何か新しいものも作りたいのだが、ちょっと時間がない。よし、おやすみなさい!!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホムラ:ただいま
レ オ:来た! 来た!
シ ン:おう! お帰り!
菊 姫:お帰りでし〜
ペテロ:お帰り、今噴水広場w
お茶漬:ミニスカ必須! 薬渡すから早く来て。
ホムラ:ミニスカなのか……
ペテロ:そそw
本日は最近流行ってきたサキュバス討伐予定。迷宮でいくつかの階層をまたいで移動しているサキュバスだが、アイテムでおびき寄せられることが判明、そして全員女性だと【魅了】や【混乱】を避けることができ、厄介な同士討ちがなくなるので難易度がぐっと下がるのだ。
プレイヤーは幼女キャラ多いし取り合いになることが予想できたので、本格的に流行る前に挑戦することになった。お茶漬の言う薬はカジノの景品ラインナップにあった『性転換薬』のことだ。『性転換石』と違って永続的ではないので気軽に利用できる。いや、値段的にも羞恥心的にも気軽じゃないんだが。
「わははははは! こっちこっち」
噴水広場に入ってすぐ、レオが手を振っているのを見つけた。いや、レオが私を見つけたのか。
「揃った、揃った」
シンが笑う。
「はい、これ」
「本当にタダでいいのか?」
お茶漬から薬を受け取りながら聞く。
「元手ほぼタダだし」
チラリとレオとシンを見るペテロ。
「わはははは……はぁあああ」
「うぬううううう」
「二人ともギャンブル向いてないでしよ!」
薬はカジノでレオとシンの賭けるものとは逆張りで、お茶漬とペテロが調達したものだそうだ。
「気を取り直して! ささ、一気にいこうぜ!」
「じゃあ同時に飲もうか」
話題を変えるレオに逆らわず同意する。
『性転換薬』は性別も変わるが容姿がランダムで変わる。容姿のほうは元の体がベースになるのは間違いないのだが、年齢が違っていたり、胸がぺたんだったり、グラマラスだったりと色々なのだ。もっと高い薬ならばある程度指定できるみたいな話だが。
「これも一種の博打だな」
「いぇーい!」
博打という単語に反応するシン。
「楽しみでしね」
完全に他人事な幼女!
「せーの!」
全員の掛け声でごくんとね!
ばほんっと煙が上がって元の姿を隠し、煙が消える。
「うわあ! ひどいでし!」
「ちょっとシン! それただの女装! それに比べて僕の完璧な美女」
「お茶漬、変わんねええええええ」
「わははははは! 俺様のム・ネ!!!」
レオがグラマラス美女になってる!?
「ホムラ、幼女になってるでし!」
「ペテロがポニテ少女!?」
いや、冷静に考えたらポニテは元からだった。
「フフッ。レオが凄いことになってるね」
シンは元の姿のまま女装したような女性、お茶漬は何が変わったのかわからない系、レオはぼんきゅっぼん、ペテロは清楚系少女、私は菊姫と同じ背丈の幼女。
「ものの見事に初期装備になったね、お茶漬以外」
笑いながらペテロが言う。
「僕の装備、男女兼用だったことが発覚」
これから適当な服を買いに行って迷宮に出発する。買った装備は終わったら売り払う予定なので一時的な散財だ。ああでも戦う相手を考えたら絶対に耐久は減るから売り払う時に買い叩かれるかな?
「何を着ても似合うね、僕」
派手なドレスを着込むお茶漬。
「アタシ綺麗!?」
体のラインが出て、胸も半分出てるドレスのレオ。
「いいわねぇ、アタシなんて骨太で」
胸筋で服がぱつーーーんっとなっているシン。
一時的な散財だよね? 戻るよね? そしてシンはなんで元の顔に口紅塗っただけなんだ。
「なんで二人とも一人称がアタシなんだ……」
「こう言うのはノリが大切!」
呟いたらシンに言い切られた。
「ホムラはあてちの装備貸すでしか?」
「ミニスカは却下でお願いします」
「ミニスカ以外ないでし」
生足より絶対領域派ですが、自分で穿くのは勘弁してください。中身何歳だと思ってるんだ。
「え、穿かないの?」
ミニスカポニテが話しかけて来ましたよ! すでに装備済みか! 裾に髪と同じ色のストライプが一本入った黒いプリーツスカート、腰で燕の尻尾のように割れた白いノースリーブのワイシャツにスカートと揃いの短いタイ。黒い手袋とショートブーツ。さてはペテロ、ノリノリだな!?
無難に白のローブドレスに『浮遊のサイハイブーツ』。杖は『白の杖』をメインに、華奢な杖なので小さな手でも取り回しが楽だ。いつもの杖は浮かせて使う方向。白のローブドレスは同じものを何枚も買いました!
装備を揃えたら迷宮へ。
「付与OK」
「じゃあ鳴らすよ」
お茶漬が能力アップの付与をかけ終えたところでペテロが鈴を鳴らす。
「うを! ハート飛んでる!」
レオの言う通り、音が鳴るたびピンクのハートのエフェクトが小さな鈴から飛び散っている。
「インキュバス用もあるんだけど、そっちは唇マークが飛び散るらしいですよ」
「嫌でし!」
お茶漬の言葉に菊姫が一言。インキュバスが嫌なのか、唇のエフェクトが嫌なのかどっちだ。まあ、両方嫌だな。
「インキュバスなんているのか?」
「アイテムがあるんだからどこかにいるんでしょ?」
ペテロが鈴を鳴らしながら私の疑問に答える。
「いたって誰も喜ばないと思うがなあ」
サキュバスは女夢魔、インキュバスは男夢魔。シンがぼやくのも分かる。
「あれですよ、サキュバスから烈火たちがエッチな称号もらったせいで掲示板盛り上がってた」
「下心が満載すぎる」
自分であれなスキル持っていてあれだけど棚上げします!
「あ〜ん、私を呼ぶのはだぁれ?」
「おっと、来たぜ?」
「シンはその顔で不敵に笑うのやめて」
「気持ち悪いでし!」
「ひどい!?」
「わはははは!」
ニヤリと笑ったシンにお茶漬と菊姫のツッコミ。がーんとショックを受けたような顔をするシン。
いつもは渋く見えないこともないんだが。特に戦闘前は自分の職に対する真面目さが出てて時々かっこいい。いかんせん今は口にべったりと塗られた赤い口紅と頬のピンクがですね……。
いつも感想・評価ありがとうございます。
コミカライズを見て新たに興味を持っていただいた方もありがとうございます!