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新しいゲーム始めました。~使命もないのに最強です?~  作者: じゃがバター


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294.イシュヴァーン

「ありがと」

ガラハドに柄杓どころか桶で水をかけられたらしいカミラにバスタオルを渡す。チラリ指南のおかげでタオル類と誰でも着ることのできるローブは常備してます。


 白が頬を前足でたしたしと軽くたたいてくるので、男どもにタオルを投げてイシュヴァーンに回復をかける。なんか私の回復対象って毎回大きくないか? 気のせい?


「こっちの呆けてるのはどうするの?」

「【魅了】が効いている状態です、放置しておけばそのうち正気に戻るでしょう。【傾国】を浴びて無事かどうかは知りませんが」


「不穏すぎるので水をかけてください……」

カルの言葉に不安になって頼む私。

「こっちの惨状をとりつくろった後にね」

イーグルがタオルで髪から滴る水をぬぐいながら答える。


「お前の飼い主、変じゃないか……?」

「おぬしの飼い主じゃろ。我はペットではないのじゃ」

私の肩の右と左で話す二匹。二匹の普段目立たないお髭がふこふこしてですね、くすぐったいのともふもふなので幸せだ。


 白が無事でよかった。


「王女の婚約者か」

ガラハドが一人だけ酷い状態の体を一通り確認し、首を胴体へ。一見して二つが離れているようには見えないようにした。荒事から程遠い、王女やスイグへの配慮だろう。


 イーグル達も中身が留守(・・)なことをいいことにローブの男達を調べている。視界に入った男達の胸には赤黒い魔法陣が浮かんでいた。


「その男だけ香炉を持っていなくてな」

残り一個の香炉が神官長バーンのものとは思えなかったし、ここ以外に隠してあったのかもしれないが、王女やスイグをあの状態で放置してわざわざ探す義理も感じなかった。


「王子……王が無事だって時点でな。騙されたのかも知れねぇけどアウトだろ」

ガラハドの言うように、少年王や王女が傀儡にされていないことを考えると神官長バーンと体の持ち主の間に何か取引があったのだろう、本人の同意なしが可能ならばもっと好き放題だ。

 

『その人に香炉は無いよ。必要がないくらい体に馴染んでいるから……』

「イシュヴァーン」

『会えて嬉しいよ、ハスファーン』

くったりと身を横たえたままだが、どうやらイシュヴァーンの意識が戻ったようだ。


 空洞内に気配が満ちる。


「う……う……」

うめき声とジャリっという膝をつく音が聞こえてきた。


「おっと、こっちも正気に……、いや、とりあえず【魅了】からは抜けたな」

ガラハドが後ろを振り向いて言う。どうやらイシュヴァーンの気配に刺激されて、ユニちゃんたちが気が付いたらしい。


 そっと『庭の水』をかけてくれているイーグル。有難いんだが、ガラス瓶に入れて聖水のフリをしているように見える、桶は嫌なんですか?


「……何故だ?」

『アルドも無事だなんて夢みたいだ』

「何故だ?」

重ねてアルドヴァーンが問いかける。


『何で君の魂を留めたのかというなら消えて欲しくなかったから。――何でこんなことが出来るのかというなら、僕が邪神に力を貰ったから』


 ……アルドヴァーンに乗っ取られてたんじゃなくって、イシュヴァーンのほうが危険思想持ち?


「いつからじゃ?」

『守護獣になる前から。僕は君たちと違って臆病で結局何もできなかったけど、ずっとずっと何かしたかったんだ』


 何かしたくて邪神に走るの止めてください。神々も邪神と交流あるのを守護獣に選定するの止めてください。……そういえばタシャとヴァルはあんまり邪神に関して興味を持ってなかったな。邪神よりも境界を破ることの方にうるさいような? 何でだろう。


『――元の体が空のまま(・・・・)近くにあるのなら、香炉の蓋を開ければ元に戻れるよ』

白とアルドヴァーンから視線をそらしてイシュヴァーンが言う。


 少し離れたところで倒れたままの王女を抱えてこちらを見ているユニちゃんたちに向けた言葉だろう。


 浮いている香炉を【糸】で引き寄せる、同じ方法でスイグたちの体も。ゆっくり引き寄せられる王女の体にユニちゃんたちが付き添ってくる。


 ローブの男たちもついでレスキュー。こっちは元に戻しても、もしかしたら今回の醜聞の責任を押し付けられるかもしれんが。婚約者殿だけで済めばいいけれど、事件を隠しておくには貴族と権力者の行方不明者が多すぎるだろうし、体だけ利用されたと言って果たして通るかな。


 香炉の蓋を開けると、白い靄がふわりと抜け出し体へとそれぞれ戻ってゆく。王女の婚約者の体へも。


「う……」

「……! ウィリアム様!」

スイグと王女が目を覚まし、ローブの男たちもよろよろと起き出す。


 シルヴィア王女は起きてすぐに婚約者の姿を探す。


『シルヴィア様……。申し訳ございません』

一人だけ起き上がらず、倒れたままの体の上に佇む白い靄。


「ウィリアム……様」

溢れそうな涙を浮かべるシルヴィア王女。香炉がないのを見て、迷うことなく始末してしまったことに少し心が痛む。だが迷ったところで最終的にやることは変わらなかったと思う。


『魂はまだここにあるけれど、その人の体は別の魂に染まってる。体を治してももう……』

「そんな……っ!」

イシュヴァーンの言葉にシルヴィア王女が崩れ落ちる。


「『蘇生薬』ならありますよ。試してみますか?」

カルが言う。笑顔だが、それこそどこか王女と婚約者殿を試しているような視線。


『……いいえ。私はこのままで』

一瞬迷ったようだが、ゆっくり首をふる婚約者殿。


『宰相が倒れた今、年若い王で国が立ち行かぬと……。神官長の口車に乗り、他の魂を受け入れるためとは知らず、誓約と力を得るために体に魔法陣を刻みました』


『これは私の自業自得、その者達は私に従い騙されたようなもの。どうか処罰はこの身一つで』

「ウィリアム様!」


 騙されて体乗っ取りはあれだが、少年王を引き摺り下ろす計画には普通に乗ってる気がするんだが。私が思っていたより大幅にアウトな告白が来た! だがつっこめない雰囲気で進行しているので黙っている私。とりあえずこれ以上の権力者のゴタゴタには興味がないし、愁嘆場も御免被りたい。


 蓋の開いた香炉から出たり入ったりを繰り返す人よりも小さな白い靄。それを見ていると、その中の何体かにユニちゃんたちが連れていたミスティフが近づく。――どうやら黒がアルドヴァーンにしたのと同じようなことが起こったようだ。


 肩から動かんやつもいるようなのだが、相性の問題だろうか。


『ミスティフとの絆を結んだ君たちに祝福を――』

イシュヴァーンの顔の前に飾り紐のついた丸いものがいくつか浮かび、ふわふわと漂う。魂を受け入れたミスティフのパートナーたちの手へ。私の手元にも一つ。


 鈴のように口の開いた、どうやらこれは小さな香炉。そしてペット用の装身具のようだ。


「他のミスティフたちはどうなる?」

例え島にいるミスティフを全部連れてきたとしても、ここにいる魂には足りない。


『ここにいてはいつまでもこのまま。だからこれからここを訪れた者に連れ出してもらう、僕が体の代わりに閉じ込めずに自由に動ける香炉を。酷いことをしてしまったから、生まれ変わる前にせめて信頼できる相手を見つけて満ち足りて欲しい』

静かに目を閉じて伏せるイシュヴァーン。


「もう一つ、『鵺』を知っているか?」

『『鵺』は姿があって姿がないモノ。人の見る姿に映るモノ。人の能力を奪うモノ。戦って姿を奪えば閉じ込めることはできる。僕の香炉を一つもって行くといい』


「姿を奪う?」


 問いかけが届いたのか届かなかったのか、答えがないままその姿が消えてゆく。



《守護獣『黒き獣ミスティフ』をクリアしました》


 

 ――そして再び鐘が鳴る。



『ああ、私の声を聞く貴方』

『ああ、私の姿を見る貴方』

『ああ、守護獣を正気に戻した貴方』


 声の主は、香炉から惑うように出入りするミスティフたち。尾を引く白い靄。ポッ、ポッと火が灯るみたいに叩き落としたはずの香炉が戻ってゆく。


『この地の守護獣は狂っていた』

『この地の守護獣は思いに縛り付けられた』

『この地の守護獣は閉じ込められた』

『集めた力を還元できなくなった故に』

『今、力が巡る』

『今、力が還る』


『守護獣の力の一部を持って行くがいい』

『いつかその力も還すために』



《初討伐称号【気配を見る者】を手に入れました》

《初討伐報酬『ミスティフの裏打ちマント』を手に入れました》


《お知らせします。守護獣『黒き獣ミスティフ』がユニのパーティー及び他一パーティーによってクリアされました》


《守護獣『黒き獣ミスティフの宝珠』を手に入れました》

《守護獣『黒き獣ミスティフの鐘』を手に入れました》


《条件『鵺』を満たしているため『蓄魂の香炉』を手に入れました》


《称号【ミスティフの守護者】を手に入れました》

《称号【裁定者】を手に入れました》


 

 マント鑑定結果【マント……だ、と?、という気配がする】

 手甲鑑定結果【……うむ】


 『ミスティフの裏打ちマント』は内側にイシュヴァーンの毛皮なのか謎だが、黒い手触り抜群の毛皮が裏打ちされたマント。白の手触りの方が断然勝ってるけどな! アイテムの効果としては【気配察知】系のスキル阻害で夜に効果が高まるようだ。


 【気配を見る者】は【気配察知】系で探られている時、使用者を逆に辿って見ることが出来るのと、望めば相手に軽い攻撃を入れられるようだ。


 称号がやたら多いと思ったら、最後ふたつは謎解き称号。【ミスティフの守護者】はアルドヴァーンのイベントクリア報酬、効果は【闇属性】のペットや召喚獣などのステータスアップ、特にミスティフ。これバハムートも強化されてしまうんだろうか……。


 【裁定者】の効果は認識した争いの場所に移動可能という微妙な……。なんで自分から巻き込まれに行かねばならんのか。出たのはシルヴィア王女の婚約者イベントと関わったかららしいが、説明にほぼ婚約者殿のことしか書いてないのでユニちゃんたちとは別の称号な気がする、後で聞こう。



「賢者……」

「このイベントって邪神関連だったんだね」

「それでバハムートじゃなかったのか!」


 もらったものの確認をしていたら何か後ろで会話が。ユニちゃん達はユニちゃん達で邪神関連のイベントが進んでるんだろうか? なんでバハムートが出てくるのか分からん。気になるが謎解きなら聞いてはダメなんだろうなこれ。


 満遍なく水もかかってるようだし、問題ないな。着替えてはいるようだが、早く四人を風呂に入れてやりたいところ。ユニちゃん達も入るだろうし、風呂の順番待ちだろうか。



□   □   □   □

・増・

称号

【気配を見る者】

【ミスティフの守護者】

【裁定者】

□   □   □   □ 




いつも感想評価ありがとうございます。

前回は後書きへのツッコミを見てニヤニヤさせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミスティフが精神世界の存在であることが生かされた場面だねぇ... 前にも繁殖する時にあっちの世界でしようとすると最悪「存在ごと交わって二匹で一匹のミスティフになる」みたいなこと言ってたのはこ…
[良い点] 裁定者、これ実は便利じゃな?
[良い点] ユニのパーティーと他1パーティーってアナウンス、その場にいるプレイヤーにはホムラに中の人居るのバレちゃいますね。 掲示板とかに書き込まれちゃうと、すぐにNPCじゃないの拡散されちゃう気が……
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