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285.モザイク

 連れて行かれた広間にはたくさんの柱とそれに支えられたアーチを描く高い天井。高い位置に大きく取られた窓が並び、明るい光が入ってくる。正面のステンドグラスが嵌った丸い窓は薔薇窓と言うのだったか。そして肝心の床は――。


「思ったよりも地味?」

大小様々な形をしたタイル。粘土を焼成したものではなく、八種の異なる石を薄く削ったもののようだ。それが不規則に敷き詰めてある。


「これは石畳の神に愛された異邦人の傑作」

そう言って宰相が足を踏み入れると、小さなチリンというかカランというか――珊瑚の風鈴が出すような音を立て床が波立つ。


 宰相の足元に咲くモザイクの花。黒みがかったそれでいて透明感のある深い海の色と銀色の石が、他の色の石をかき分け、耳に心地いい音を立てて宰相に寄って行き模様を作った。先の尖った花弁の小さな海色の花と銀色の葉が精緻で規則的なモザイク模様を作っている。


「この石は相性の良い属性のものが寄ってくる仕組みらしいが、結果的に神の祝福を計ることができる」

私たちに場所を空けるようにさらに広間の奥に進む宰相を追って、澄んだ音が響く。花が宰相が歩くたび一瞬解けそうになるのとすぐに集まるのを繰り返し、ついて行く。


「アローン殿はファルの寵愛持ちだ」

「何も持たない住人だと模様を描くまで行かないの」

そう言ってイーグルとカミラが広間に足を踏み入れる。


「おお」


 途端に咲く赤、金銀の花。

 カミラの足元に咲く花は真っ赤でその赤い石の外側を金と銀色が彩っている。カミラらしい大きな花。イーグルの模様は花だけでなく蔦の模様が混ざり派手ではないが綺麗だ。


 カミラはアシャとヴェルスの祝福、ヴェルナの加護? イーグルの花は海色も混じっているのでアシャとヴェルスの祝福、ファル・ヴェルナの加護だろうか? カミラの赤い石はイーグルより多く、宰相の黒い石より少なめなので寵愛か祝福か判断が難しい。守護かな?


 んん? ということは宰相はファルの寵愛だけでなく、もう一つ量からして祝福か加護を持っているのか。色からしてヴェルナ?


 同じ祝福でもガラハドたちを見る限り、量が違うようなのでちょっと悩む。まあ、本来は属性との相性というか愛され具合らしいしな。


「ほう? 火神アシャの加護以上は当然として、光の祝福もか。――それに銀」

感心したように二人の作り出した模様を眺める宰相。


「一応アシャの庭の騎士を名乗ってたんでね」

そう言ってガラハドが広間に足を踏み入れると、赤と金、銀のシンプルな模様ができた。赤い石が主にガラハドの近くにあって、金銀の大部分が外側にある。燃え上がる様な赤。


 模様は本人の気性とか元々の相性だろうか? イーグルは赤い石の方が多いけれど、黒い石がけっこう側に集まっている。あと形がガラハドがシンプルなのに対してイーグルは入り組んでいる。


「三人とも、とてもらしい模様だな。格好いい!」

これクランメンツ放り込んだら模様がすごいことになりそうなんだが。


「では私も」

カルが足を踏み入れると床が波打って黒と金が押し寄せてくる。大きな花の中に小さな花が咲き、なかなか派手! 良く見ると黄色と銀も。


 石の色は同じ色でも透明度が高かったりくすんでいたりと微妙に違うが、木は緑、火は赤、土は黄色、金は白、水は黒、風は半透明の青銀、光は金、闇は銀色の石のようだ。四人の足元に集まってきた石は薄っすら光っているようにも見える。


 相変わらず水は青じゃないかとつい思ってしまうが、五行の水は黒なんだよな……。寒い地方の海の色なんだろうなこれ、つい癒しを求めて南国の海を想像するが、人魚姫のデンマークの海も日本海っぽい黒さだしな。


 本来、木は青だが緑でも置き換えられる。青々とした緑とか野菜とか、古来緑が青の範囲だった日本独特なのか、大元でもそうなのかは知らん。黒も青入れとるし、イメージで採用かな?

 そもそも風が入っとる時点で五行じゃないし。


「ジジイ、やっぱりあんたヴェルスの寵愛持ちかよ!」

ガラハドのツッコミを春の陽だまりのような笑みを浮かべてスルーするカル。


「……湖の騎士殿は複雑な模様をお持ちのようだ」

少し硬い声で宰相が言う。


「綺麗だな」

素直な感想を述べたらカルの笑みが濃くなった。


 あと、ドゥルは祝福でヴェルナは加護? ドゥル(きいろ)と比べて量が少ない様な……? レーノと話してた時、剣を持つ者に加護でも破格とか言ってなかったか? ああでもあの盾スキルが強力なのはこのせいか、ドゥルは盾系スキルくれたしな。ヴェルナはあれだ、知っているだけで二回会っているはずだが、祝福に届いていないような……? ヴェルスの寵愛持ってたら嫌がりそうなので納得。


 相性が良くない属性の祝福やその系統のスキルを持っていると、祝福以上を貰うのは大変らしい。プレイヤーでさえ、会う回数をこなしても守護しか貰えないこともあるそうだ。――なんで私は寵愛コンプリートしてるんだろうか……。


「ん? よく見るとみんな全部の色があるのか?」

とても少ないけれど、ガラハドの模様にも黒や黄色などの石が一つ二つ、模様の縁取りに混ざるようにある。シンプルな模様なので気がついたのだが、よくよく見るとイーグルやカミラにも全ての色がある。


 なお、カルの模様は大きいので確認しきれていないです。


「持たぬ者は異邦人と赤子くらいだ。この世界で生きてゆく者は量の多寡(たか)は問わず全ての属性を持つ様になる。そうでない者は火は冷たく、風はそよがず――呪いのような生を生きておるのだろう」

厳かな顔で宰相が告げる。


 ところで私の番なんですが、これいきなり私だけシマシマとかないよな? どきどきしながらそっと足を踏み入れる。


 途端に押し寄せる石。


 小さな音は今、波のように大きく音を奏で、石は生き物のようにうねる。ちょっと怖いんだが!


 広間の床一面に描かれるアラベスク。足元から花のように広がる模様は歩くたび姿を変え、静かに広がって全体の模様を変えてゆく。


「床一面模様じゃねぇかよ」

呆れた顔をするガラハドの言う通り、見える範囲は模様で埋まった。


「予想はしてたけどね……」

「あら、ガラハドの模様変わったわね。私とイーグルも少し……」

「主の模様にうまく溶け込む形に変わったようですね」

そう言われて見ると、カルたちの模様も含めて一枚の絵のようになっている。宰相の模様だけがぽつんと浮く感じだ。


「歩くたび模様が変わるの面白いな」

「私は変わらないわよ?」

カミラがそう言って歩いて見せてくれたが、確かに同じ形の花がピンスポットライトのように一緒に移動するだけで形は変わらない。


「何でだろうか?」

私が動くと床の模様が万華鏡のように変わる。


「ふふ。この広間で貴方とダンスがしたいわ」

「楽しそうだが踊れないぞ?」

カミラが手を差し伸べてきたので、握ってそのままカミラを一回転させる。日本の一般人がワルツを踊る機会なんかないと思います。オクラホマミキサーとかジェンカとかのフォークダンスでいいですか? 


「お教えしましょうか? 簡単なものを一つ覚えておくといざという時便利ですよ」

「カルは似合いそうだな、ダンス」

イケメンめ。あといざという時が今だった件について。


「それにしても模様の変わる条件は何だ?」

そう言って宰相に視線を向けても無反応。


「宰相?」

呼びかけても反応なし。


「まあ、叫ぶか固まるかだよなぁ」

「慣れてきた自分が怖いね」

ガラハドがしみじみと言えばイーグルがうんうんと頷く。


「あら、執務室ではひどかったじゃない」

「能力的なやらかしは予測できるようになった、行動のほうは無理!」

お手上げのポーズをされた!


「このままでは話が進みませんね」

そう言ってカルが宰相の顔の前で手を叩く。


「ば、馬鹿な……っ。神の寵愛の深さが測りきれぬっ」

「その言い方は何か嫌だから止めろ」


「何故だ、しかも闇の女神まで……っ。ランスロット殿ほどならば私と同じく化身に賜ったと思えなくもないが。何をしたらこのような……これではまるで、まるで……」

宰相が口を開いたが、正気に戻ったわけでなく視線を床に釘付けにして独り言を言っている。


「そういえば闇の女神は名前さえも伏せられた神……。私は染まっていないと思っていたのに、いつの間にか慣れていたのか……」

「諦めろ」

何故か愕然としているイーグルの肩を、うれしそうにガラハドが叩く。


「私も今更そっちに重点が行くとは思ってなかったわ……」

「アローン殿がここまで感情を出されるのも珍しい」

困惑気味なカミラとやはり何故かうれしそうなカル。


 そういえば何のために床踏んでるんだったか。


「アローン宰相、これで信頼は得られただろうか?」

思い出したのでにっこり笑って聞いて見るテスト。でも、何のための信頼だか分からなくなっているのは内緒だ。私の猫は幻のように消えてしまったので、もう一つのついでを聞いておこう。


「できれば鵺について教えて欲しいのだが――って、だめだ聞いていない」

宰相が思考の迷路から戻ってこない!


「困りましたね」

「ちょっと殺気ぶつけてみっか?」

「神殿で物騒なことすると神官兵が飛んでくるんじゃないか? 姿は見えないが宰相に護衛がつかないなんてことはないだろう」

「護衛が居たとして固まってるんじゃないかしら?」

「猫ならこの隙になで放題だったのに」



「アローン!」

五人で途方に暮れつつテーブルを出して茶を飲んでいたら、私たちの入って来た場所とは別の開口部から宰相の名を呼ぶボーイソプラノ。


 声のほうを見ると床と、そしてこちらを眺めて驚いている少年と妙齢の女性。


「はっ! ハディル様、シルヴィア様」

名前を呼ばれてようやく正気付いた宰相が入って来た二人の名を呼ぶ。


「どうしたのこれは?」

「これは……」

言いかけて私たちの方を見る宰相。


 そして紅茶のカップを持ったままの私と見つめ合う。良かった大口開けてタルトかじってなくて。


「どうしたのだこれは」

真顔で聞かれた罠。


「いや、少々手持ち無沙汰になってな?」

テーブルの上にはカルの入れてくれた紅茶と、私が用意したアフタヌーンティーの料理。宰相に会う前に食べた菓子がイマイチだったらしく、カルからリクエストがあったのと、ガラハドが小腹が空いたというのでこうなった。


 皿の乗った三段のスタンド、一番上はデザート、二段目には温かい料理、下段にはサンドイッチ。サンドイッチは貴族が自分の荘園で取れた新鮮な野菜を自慢する意味でキュウリサンドが人気だったんだか。お茶会も貴族の財力の見せ合いかと思うとげんなりするが、ハイティーセットは華やかに見えるし気に入っている。なお、今出ているサンドイッチはハムとルッコラのバターロールサンド、蟹サラダのフォカッチャサンドです。



レオの模様は多分ターゲットマーク。


すっかり忘れていたヴェルナの加護追加しました。

※運営さんの調整結果、相性が悪いとなかなか好感度が上がらないけれど、条件を整えて封印の獣を倒すなど使命を果たせば相性が悪くても寵愛までゆく仕組み。

ちょっと五行前面に出しすぎた感があるので、フォロー追加。ホムラがこれが元かなと推察してるだけで、風がある時点で五行じゃないです。

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― 新着の感想 ―
この場面は、是非カラーで見たい。書籍の口絵とかに付いているだろうか。 宰相がんばれ。非常識な存在を、常識で測ろうとするのが間違っているだけだ。
[良い点] カミラのダンスがしたいって発想がとても素敵です。
[気になる点] 同じ祝福でもガラハドたちを見る限り、量が違うようなのでちょっと悩む。 →ガラハドは、まだ部屋の中に入ってませんよ。
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