表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/387

270.潜入中に思い出す猫

宰相の呪いを解かないかと疑問に思ってらっしゃる方が多かったようなので後半はそれへの回答(?)




『はいはい。ちょっと退いてください』

目の前の敵を横薙ぎにして倒す。敵がどさりと倒れた音で新たな敵がこちらに気づいたが、行動を起こす前に黒い影に音もなく沈められた。


『ちょっとホムラ、隠密行動の意味を考えてみようか?』

『隠れながらちまちま近づくの苦手で』

『わははははは!』

ペテロとパーティー会話でやりとりしつつ、帝国の領地に侵入中。なお、同じエリアにレオもいるのだが、早々にはぐれたのでヤツが何をしているのかわからない、声だけが届くのだった。


 イベント日数を半分過ぎたあたりからアイルと帝国が本格的に戦闘状態に入った。どうやらプレイヤーが特攻して戦端を開いてしまったようなのだが、まあ遅かれ早かれだし周囲もさっさと戦闘に入りたかったらしくそれについては長く責められることはなかったようだ。


 大規模戦に入る前は、今まで聞いたことのなかったクランが情報収集を行い、生産クランや戦闘クラン、職別個人の配置など采配を取って目立っていた。だが、開戦したら目立つのは攻略や闘技場で戦闘や対人戦に慣れたプレイヤーだ。見学がてら少し参加した戦闘ではロイや炎王たちが派手なスキルをぶっ放していた。


 回復職のお茶漬は大規模戦の方に参加している、お茶漬と一緒にシンもそっちだ。炎王のところの【烈火】のようにクラン単位で戦っているところもあるが、基本はクランに関係なく盾職が戦線を維持しつつ、アタッカーが暴れ、後方から回復職が回復を飛ばす方法でジリジリ帝国を押して行っているそうだ。


 アイルと連携しているクランもあるにはあるようだが、結局大部分の異邦人がさっさと戦闘に入ってしまった。当然ながらアイルも兵を出してきたが、住人たちの参加はまだ本格的ではない。

 異邦人のお手並み拝見してから出ることにする、とガラハドが言っていたので準備はできているが異邦人と帝国がそれぞれどれほどの戦力なのか情報収集をしてから本格的に参戦するつもりなのだろう。

 

 戦闘が始まってしばらくすると、補給や何やらで今度は生産職が大活躍するはずだ。補給所などもすでにいくつか場所が設定されており、そこへ行けば回復薬の類を補充、休憩と食事、回復もできる。この辺は戦闘前に采配を振るっていたクランが手配しているそうだ。


 裏方や事務みたいなことができる人は大切だなあと思いつつ、どこの集団に入っても悪目立ちしそうな私は、正面衝突している裏で帝国要人暗殺のお誘いをペテロから受けたのに乗った。情報収集しつつ、戦闘に出てこないコアを持っていそうな引きこもり貴族の暗殺のお仕事――暗殺者ギルドの仕事というわけではないが――だ。


 兵士が騎士に預けて騎士が王に預けている場合、王を倒せば死んだ騎士や兵士は復活しなくなる。騎士を倒せば王には影響がないが、兵士の復活にかかる時間が長くなる。プレイヤーは復活はするがステータス低下時間が長くなる仕組みのようだ。


 情報は裏方をしているクランへ流し、替わりにコアを持っていそうな人物の情報やお宝などの情報がもらえる。職業【怪盗】なプレイヤーがいることをこのイベントに参加して知った。


 スキル石狙いのプレイヤー向けに該当する人物の情報なんかも流しているらしく、裏方がなかなか怖くて敵にしたくない。ファストの盗賊ギルド所属のクランかと思っていたら、神殿所属だそうで……。カイル猊下とかエカテリーナ女史が絡んでいるのだろうか、不穏すぎる。



 街中に『シャドウ』を使ったまま侵入したら思い切り光球が打ち上がったので、厳戒下の帝国をこそこそ隠れながら移動している。ペテロの【影潜り】には反応がなかったので、本格的な暗殺者や密偵のスキルならば監視を抜けられるようだ。


『そこの角はこれ見よがしの見張りもいるけどトラップもあるから』 

見張りの目をかいくぐりながら進んで行くのだが、あちこちにセンサーもどきに罠もある。帝国民以外が引っかかると爆発したり派手な音が鳴ったり、光球が上がったりでそれを感知した敵がわらわらと。


 面倒なのでもう反応させて湧いてくる敵、斬り捨てちゃだめかこれ? などと不穏なことを考えていると少し離れたところでちゅどーんと派手な爆発。


『わはははははは!!! ぎゃああああああ!!!!』

そして聞こえてくるレオの声。


 ああ、うん。引っかかったんですね? そうか、引っかかると他の人にあいつ引っかかってやがるとかそう思われるわけか……。私たちの他にも派手な大規模戦ではなくゲリラ戦のようなこっちを選んだプレイヤーは結構いる。レオの行動に真面目にやろうと思い直す私、だが面倒くさいっ!


『うう。バハムートで吹き飛ばしたい』

『それやるとメインの大規模戦終了して、残党狩りでイベント終わっちゃうからやるなら最後にして』

確かに盛り上がっている今、帝国を更地にしたら恨まれそうなので我慢している。最後、最後に絶対更地にしてやる……っ!


『ぬああああああああああああっ!!!!』

レオの叫び声とともに光弾やら警報音やらが路地で次々に上がる。


『密偵とは一体……』

『あれはレオだから』



 あれから宰相がユニちゃんに引き取られるという涙の別れを経験し、やさぐれた私はペテロと一緒に暗殺稼業に精をだしている。

 

 宰相は呪いが解かれることなく猫の姿で引き取られていった。


 雑貨屋で猫のままにするのかと聞かれて、匿っているのだし人に戻して目立つのはまずいんじゃないか? と普通にそう答えたら何故か全員に凝視されたことを思い出す。ラピスにまで。以下、呪いを解くために一応努力したぞという私の記憶。



「猫だからじゃないのか……」

「完全に猫だからだと思ってたぜ」

私の言葉にすごく虚をつかれた顔をしたイーグルとガラハド。


「猫の方がいいのかと思っていました」

ノエルの言葉にこくこくと頷くラピス。


「……そういえば、ご友人からの頼まれごとは匿うこと、でしたね」

最後、カルが珍しく視線を泳がせる。


「ちょっと待て、全員私がもふるために猫のままにしていると思っていたな!?」

そりゃあ黒は島で仲間ときゃっきゃっうふふ中だし、白も戦闘外に呼び出すと叱られそうだし、その戦闘もイベントが終わると経験値無しになると思うと詐欺のようで気が引けるし、もふもふ成分足りていないが!


「主……。僕でよろしければ」

そっと尻尾を差し出すノエル。


「ラピスも……っ! ……っ」

そう言って担々麺を慌てて食べ終わらせようとするラピス。


「ホムラ、思ってること口に出てるぞ」

「えっ!」

ガラハドの言葉に思わず周囲を見回す。


「やっぱりもふもふ足りてなかったのね……」

「黒を呼び戻しますか?」

心配そうに言うカミラとカル。


「う……」

言い訳ができない何か。


 もう帝国に玉藻がいるということはほぼ確定事項として周辺に広がっているし、おそらくマーリンあるいは玉藻が隠そうとした『鵺』についてもアローン宰相のほかにここに知っている者がいる。あとは他に宰相が知っていること――鵺を納める『蓄魂の香炉(ちくこんのこうろ)』のことを誰かが知れば、宰相が狙われることがなくなるか、対象が分散するのではないかとガラハドたちの意見。

 

 そういうわけで、宰相の呪いを解くため『庭の水』を用意。膝の上の宰相も話は当然聞いていて、目の前に水を差し出すと体を伸ばして飲み始めた。

 呪いを入れ替えた、とユニちゃんは言っていたが猫から人に戻った途端、死に向かう呪いが復活したら困る、困るが、今はイベント中だ。むしろ通常ゲーム世界でぶっつけ本番よりここで様子を見ることができるのは幸いなのだろう。


 ペチペチと水を飲む宰相。――変化は見られない。


「『庭の水』でもダメなのか……」

イーグルが眉を寄せる。


「なかなか酷いセリフだな」

「それはホムラのせいだからな?」

素直な感想を口にすればガラハドにじと目を向けられた。


「神殿でもありがたがっていいものか困ってたわね……」

「普通は聖別された小瓶に入れて然るべき場所に納めておくんですがとカイル猊下が珍しく言い淀んでいたな」

「名前があれで、さらに樽で届けられたら困惑するわよ」

カミラとイーグルの話は聞こえなかったことにする。


「主、これは特定の解呪方法が設定されているタイプのものかもしれません」

「設定?」

「はい。基本は動物に姿を変えるだけの呪いのようですが、解呪方法は設定した唯一つ以外受け付けません」

あれかお姫様のキスとかそういう何か。


「結構強力ね、入れ替えのために彼の方の呪いと同等にする必要があったのかもしれないわ。厄介なのは往々にして『先に方法を知ってしまった者は呪いを解けなくなる』のがセットなことね」

カミラがため息をつく。


「ユニちゃんに聞くわけにはいかんということか……。そう難解な設定はしていないと思うが」


 そういうわけでまずガラハドがぶちゅっと行きました。嫌がっとったがカルにアイアンクローを食らって渋々。

 次にカミラ、お試し後に口直しなどと言われてカミラに私がぶちゅっとされました。


「定番のキスはダメか」

「やっぱりこういうものは対象を深く思っている前提ではないですか?」

宰相は嫌そうな顔をしながらも逃げ出さなかったのでキスを我慢しても人に戻りたくはあるらしい。今は前足で盛んに顔を洗っている、猫の姿のままだ。


「奥さんや娘さんと再会したら一発で解けるかもしれないな」

「アローン宰相は独身よ?」

感動の再会を想像していたらカミラに否定された。

「老いらくの恋の相手とか? お堅いアローン宰相じゃねぇなぁ」

宰相の普段の様子と身近な女性を思い出しているのか、上の方に目を向けたままのガラハドが自分の言葉を自分ですぐ否定する。


「まあ、解除しやすい相手に預けてみるなりなんなりユニちゃんが対処するだろう。今はこのままで」

ここでうっかり解いて、解呪方法を知ってイベント終了後に解けなくなったら困るしな。


「主、うれしそう」

「気のせいです」

ラピスの言葉を真顔で否定したが、周囲からの視線が痛い。



 うん。私は宰相を猫から人間に戻すために最大限の努力はした! 




10月10日2巻が発売とコミカライズが決定いたしました。

ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
説得力を感じられない主張。 そして無意識に出るレベルのモフモフ不足。 白虎喚んでこねれば良いのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ