269.猫ですよ?
修正いたしました〜。
「帝国の状態を軽く説明しとくぞ。なるべく巻き込まねぇつもりだったんだが、今の状態なら知っておいたほうがいいだろうからな」
ガラハドが真面目な顔で言うんですが、小さなイベントならともかく、でかいイベントに参加できないのも困ります。
「先ず皇帝が病に倒れた、これは狐の仕業でアローン宰相の件からも病ではなく呪いの線が濃厚だ。言動からしてあの方――魔法使いマーリンは狐に堕ちてる。いるはずのない皇子が存在して、これが鵺っぽい」
私の膝で猫の宰相が身じろぐ。
「アローン宰相はジジイと同じく皇子の正体を知る可能性があること、鵺を封じる方法もしくはヒントを知る人物として一番に狙われたらしい。ここまではホムラも知ってるな? というか鵺は元々ホムラからの情報だしな」
「ああ」
こちらを見上げてくるまん丸な猫の目。まあ、まん丸に見えるのは照度を落とした灯りのせいで瞳孔が広がって黒目がちになっとるだけかもしれんが。目が合うと宰相が少し首を傾げて眼を細める。
「アローン殿、主に『眼』を使う無礼は止めてもらおう」
可愛いな〜とか思っていたらカルからストップがかかった。
「カルも宰相のこと視てなかったか?」
「護衛の務めですから」
ニッコリ笑ってスルーされた!
「そうだ! ジジイ、跳ね返ってきたらどうすんだよ! 封じたんじゃなかったのか?」
「大概は防げるしな、主の力が規格外なだけだ。またうっかり視てしまうことがあっても、毎朝『庭の水』を飲むことを習慣づけたので問題ない」
「ツッコミどころが満載なんだが……」
ガラハドとカルのやりとりに思わず声を漏らす。心なしか宰相もなんだろうあれは? みたいな顔をしている気がする。
もしかして選び直しで【錬金魔法】を【流星】にしたほかに、【技と法の称号封印】も選び直したのだろうか。なかなかカルも秘密が多い。称号【暴キ視ル眼】、強力な称号だが何時発動するのか自分で制御が効かないと言っていたはずなのに今は自分で制御しているようだし。
「話を戻すとね、今の帝国は偽の皇子の元、騎士パーシバルを中心に小国を次々併合して行っている。元々帝国の属国は自治を許されていたのだけれど、今は兵と兵糧の提供とかけっこう国が立ち行かなくなりそうな無茶な要求をしているようだね」
カルとガラハドのやりとりをスルーしてイーグルが説明してくれる。
「狙いは魔法都市アイル。無茶な要求をされている小国がそれでも帝国に従っているのは、もちろん帝国が怖いのもあるけれど、帝国の戦い方が最大戦力で短期決着型、それを乗り切れば自分の国にも恩恵が入ると算段しているからだね」
「小国の大部分は帝国の騎士が半分に割れているのを知らないのよ」
「いや、すでに小国群にその情報は流してある。狐の影響が広範囲に浸透していると思った方がいい」
カルがカミラの言葉を訂正する。ちょっと目を離した隙に、なんでガラハドはアイアンクローを食らっているんだろうか。
スキルやら魔法があるせいで心理的な駆け引きやら戦略やらが、想定通りにいかない上にすぐにひっくり返る。ある程度、能力が分かっていればそれも折り込めるのだろうが、強力なスキルを隠している相手がいると厄介だ。
あれですね、それでカルが視まくってるんですね? なんか他にも能力を隠してそうだし。帝国側からしたら【流星】も予想外かな? 魔法として使う場合は、MPの関係で私ほど派手なことにはならないだろうがスキルとして使った場合はどうだろう?
玉藻に誑かされて本来の気質では取らないだろう行動をしている人も多いだろう。玉藻を倒して先ずは【傾国】の影響を取り払いたいところだが、王宮にいるのかマーリンの塔にいるのか、はたまた別か。いる場所の特定ができていない。外れを引いたら潰す前にまた国外に逃れる可能性もあるし。
まず逃げ出さないようにアイルの結界魔法とかで国規模で出入り不能にすることが可能かどうか聞いて、可能だったら小国群なんとかして、安全を確保しつつ結界を張ってもらって……。
「面倒そうだし小国は【傾国】にかかっているのもいないのもまとめて倒して、生き返る場所で張り込んで水かけ祭りするか?」
いろいろ考えたら面倒になりました。
「ホムラ……」
「どうしてそう大雑把な結論になるのかしら……」
「しかも出来そうなところがまたこう……」
イーグルとカミラが沈痛な表情を浮かべて言うところに、アイアンクローから解放されたガラハドが言葉を重ねる。
プレイヤーも住人も復活には時差というかイベントに戻るまでペナルティタイムがある。死んですぐ戦線に戻れるわけではないのだ。その復活するまでの時間を利用してスタンバってればいいのではないだろうか。――更地にした場合、神殿とかの復活ポイントはどうなるのか謎だが。
「こう、国ごとに各個撃破して」
「国ごとな時点で各個撃破って言っていいのかどうかが気になるんだけど」
言い直してもダメだしされました。イーグルがスルーしてくれない。
「狐狩りの前に、狐が逃げぬようにしなければなりません」
「鵺もな」
「それにはアイルはもとよりサディラスの協力も不可欠」
カルとガラハドが言う。何気に息が合ってる師弟だ。
「アイルは結界魔法? サディラスは鵺関係とかで何かあるのか?」
「サディラス王家は古い血筋で、初代は神に直接仕える神職だったと言い伝えがあるわ。今も神聖魔法の使い手が多くいる国よ、狐封じには欠かせぬ戦力ね」
「鵺を納める『蓄魂の香炉』があるのもサディラスだと当たりがついてる」
ガラハドが膝の上の宰相を見る。
「知っていそうな人物が喋れないときてる」
そう言って、視線を私に戻して肩をすくめてみせる。
もしかして大規模戦中って封印の獣倒せないオチじゃ……。その場合姿チラ見せで続きは本編で! な気配。いかん、ついゲーム的事情を勘ぐって対応を考えてしまう。
「だいたいこんなところだね。細かい話になると切りがなくなるし、寝ようか」
「結構いい時間だな」
「ホムラ、後で知られるのもややこしそうだから個人的に言っておくことがあるわ」
「なんだ?」
切り上げムードになったところでカミラが口を開く。
「パーシバルと行動を共にしている神聖魔法の使い手は私の妹なのは前にも言ったと思うけれど」
「妹……ああ」
ちょっと待ってくださいね、思い出します。パーシバルの隣にいた女性、女性。
「エイミ、だったか」
「そう、美人だったでしょう?」
「ああ、そういえばカミラに似てるな。あっちはでも少々暗い……おとなしい感じか」
言い直したが微妙に視線を合わせてくれなかった記憶がある。
「あら、似てないって言われるのに」
「そうか?」
何故か困惑気味のカミラ。化粧映えする上、派手目な色を口紅や目元にさしているがすっぴんは似ていると思う。病に倒れたときぐらいしか見たことがないんだが。
「昔は似ていたと思うが」
「美人ってこったろ、素直に喜んどけ」
イーグルとガラハドの言葉。
「私と一緒にいたら色々言ってくるかもしれないけど、気にしないでね」
ウィンクして部屋に引っ込むカミラ。どうやら何かある?
じゃあ私も、と宰相の添い寝を期待して寝室に連れ込もうとしたら全力で止められました。私と違って人の姿を知っているみんな的にはアウトらしい。知らない私は猫としか思えんのだが。
イベント中は特にログアウトの時間制限にはかからないのだが、この世界内で睡眠や休憩をとらないと能力がどんどん落ちてゆく仕様なので夜はきちんと寝るほうが効率的なのだ。本当は一定時間同じ場所からスキルを使わず動かないだけでいいのだがベッドがあるし寝る方向。
胡麻の香りとピリ辛な刺激臭。辛めのオレンジ色のスープに茶色い肉そぼろ、少しシャキっとした歯触りが残るように炒めたモヤシ。ラーメン類には手を出さないと宣言したのだが、個人で食べる分にはいいよな! ということで昼は担々麺です。
午前中は販売物の生産と、カルの休憩中にアイルや小国群の動向を聞いたりして過ごした。マップの小国の国境と名前がはっきりしました。敵方か中立かアイル寄りか、とかその他の情報まで来たのだがカルの記憶力に感心しきり。
「あああ、また腹にくる匂いのものを!」
「ガラハド、あなたお腹周りが……」
カミラが流し目でガラハドの腹回りを見る。そういえば会った時より胴回りが……。
「お前、筋肉も付きやすいけど太りやすいよな」
同情の眼差しを向けるイーグル。
「主の隣で弛んだ姿を晒すのは言語道断だ」
「これでもスキル使ったり迷宮いったりホムラに会う前より断然動いてるんだよ!」
カルの言葉に慌てだすガラハド。なんだろう、地獄のダイエット特訓とかでもあるのだろうか。
「いや待て。スキル使ってても太るのか!?」
聞き捨てならないことが発覚。
「太りやすいひとは、ね」
セリフとともにカミラが座った姿勢を正しぼんきゅっぼんなラインを披露、どうやら太る体質ではない、ということのようだが付いているところには付いてます。
「あー。上に乗せたの回収するか」
「食う!」
カミラも女性にしては食べる方だし、 豚の厚切りあばら肉にスパイスを効かせた衣をつけカリカリに揚げた排骨と呼ばれるものを上にどんと乗せてある。それを回収しようと身を乗り出すとガラハドが器をさっと自分の方へ寄せる。
ちょうどラピスとノエルが席に着き、いただきます。
ノエルの分は少し肉を減らして野菜多め。
「あーくそッ! うまいなッ!!」
「このスパイシーな肉、単品でもいいな」
「辛いのもいいわ〜」
どうやら気に入った様子でなにより。それにしてもカルといいイーグルといい白い服を着ているのに器用に食うな。特にカル、優雅に食う男、だが麺ものはガラハドみたいに豪快にいった方がいいぞ。
子供らしくはねているラピスの服を【生活魔法】で綺麗にしつつ、これもゆっくりだが綺麗に食べるノエルを見る。
宰相には鳥のささみを茹でたものを割いて、茹で汁をかけたもの、調味料無し。あと別に牛乳をちょっと。猫は牛乳でお腹を壊す個体が多いため、一応昨日の晩からスプーン一杯で様子見している。山羊乳ならいけるんだっけか? 幸い宰相は牛乳でも平気なようだ、『天上の乳牛』のものだからかもしれんが。
「こう、なんか完全に猫扱いね……」
「アローン宰相じゃなくってやっぱり猫なんじゃねぇ?」
「普通に猫だね……食べてるし」
なんか食べるのをやめてガラハドたちがこっちを見ている。