267.お面
ユ ニ送信:
突然ごめんなさい、ホムラはファストに店を持ってるって聞いたけれど、そこに住人を一人匿って欲しいの。
ホムラ送信:
匿う? いいが、狭いぞ。あと他に人もいる。
などと返事をしたものの、雑貨屋は色々まずいような……。今現在プレイヤーの襲撃受けてるし。まあいいか、クランハウスに連れて行けば。あとでみんなに相談しよう、ダメならミスティフたちに出入りの時に隠れて貰えばハウスでいいかな。
ユ ニ送信:
ありがとう、こちらで急いで隠れ家を用意するので二、三日お願いします。ハウスはアルバルとヴァルノールの間くらいで、今居るのはその先のサディラス。本来なら私が送って行くべきなのだけれど……
ホムラ送信:
ユニちゃんの信者に絡まれそうだからやめてください。とりあえずアルバルに着いたら連絡するから。認識阻害のお面でもかぶっていくかな。
他のゲームを一緒にやっていたユニちゃんの取り巻きがそのまま移動してきているのを知っている。というか、仕事でバイザーを買い損ねたユニちゃんのために【清浄の聖女と星座の騎士】とかいうクランを結成して待っていた、ユニちゃんの中身を知らない可哀……一途な取り巻きたちだ。黒百合のところと違って周囲にあからさまな迷惑をかけるわけではないのだがとりあえず近づきたくない。
ユ ニ送信:
ありがとう。良ければイベントが終わったらお礼をさせてね?
何か神殿の転移門が規制で条件を満たさねば使えないそうだが、転移持ちのプレイヤーが高額で転移承ります、をやっているそうだ。紹介されましたが自力で行けますよ、っと。むしろ『ヴァルの風の靴』を使えばパトカを持っている人の元へは転移可能なのだがそれは使わないでおく。転移したら信者に囲まれてるとか転移したら風呂場だったとかありそうで困る。
とりあえず認識阻害の効果がある仮面を作って……、ってちょうどいいのがあった。人の作った物に自分がつけた付与に対して、【付与入替】が可能かを実験した時に【認識阻害】をつけた物だ。なお、入替はできませんでした。やはり自分で作った装備品やアイテムに限るようだ。
「ホムラ?」
「なんでおもむろに鼻メガネ?」
困惑したかんじのカミラとガラハド。お茶漬に不要で付与の空きがある物をもらったらコレだったのだ。
「主、おひげ?」
きょとんとしたラピス。そしてちょっと挙動不審なノエル。
「いや、友人にサディラスへ呼ばれたんだが」
一人かくまって――と続けようとしたら、ガラハドたちがあからさまに固まった。
「……ホムラ、その国が宰相が臥せっている国だよ」
イーグルが当惑した声で教えてくれる。帝国の皇帝と同じ症状で先に倒れた宰相、魔法使いマーリンか玉藻の関与が疑われる。
「ああ……」
ユニちゃん帝国VSの最前線にいるのかもしかして。絶対ゲーム中表には出さないけど、大規模戦好きだもんなあ。
「それでなぜそのメガネ? なのかな……?」
「サディラスとそのメガネがつながんねぇんだけど」
戸惑ったまま聞いてくるイーグルとガラハドの二人。みんなが【認識阻害】にかからないのは目の前でかけたせいだろうか、それともレベル差のせいだろうか。ラピスとノエルもわかってるってことは前者かな。
「いや、ちょっと認識阻害で正体を隠そうかと」
「主……」
鼻メガネは全員に却下されました。代わりの仮面はクズノハが作った面に急遽【認識阻害】をつけることに。場所がサディラスならついて行きたいというカルとガラハドの分も調達しにハウスへ。
「これでよければ。反故紙を使った手慰みよ」
「ありがとう、すまん。そのうち檜を扶桑からもらってこよう」
もともとクズノハは玉藻に憑かれる前は能面師の娘、面を作るのが好きなようだ。封印から連れ出す時に檜の森の匂いをかぎたい、と言っていたことを思い出す。
今は庭に能面の加工に合う木がないため、写本の時に書き損じた紙を貼り重ねて面を作っている。檜もそうだが、【大工】も随分あがったし、リクエストの日本家屋もそろそろ作り始めようかな。
「私の作る面には必ず【認識阻害】がつくの、場合によってはヒトか人外かさえも曖昧になるほど強力よ。好きなのを選べばいいわ……」
などと気だるげに言われて差し出された面のラインナップはオカメ、ヒョットコ、天狗……以上となっております。狐はないんですか? いや、そっちに白基調から黒まで模様違いが沢山ありますよね?
「扶桑の面はなかなか変わっている。白くふくよかなのは豊穣の女神を表しているのだろうか」
福を呼ぶ面相であるとして愛されてる面だし、合ってる、合ってるけどね?
「こっちは真っ赤だな。火の神かなんかか?」
ガラハド、オカメの対ならヒョットコですよ、いやそうじゃない。あの鼻メガネは却下で面はいいのか! カルとガラハドがオカメと天狗を素直につけるという事故が発生中。
「おい……」
「貴方はこっち」
二人と止めようとする私に差し出される狐面。あれか、もしかして男に嫌がらせか!!!!!
「急いでたとはいえ、側に男を寄せてすまん」
幸いなことに私の周りの人たちはいい奴ばかりなので、つい。クズノハにとっては知らん人で、男だ。反省せねば。
「いいの。玉藻と対峙するには慣れないといけない……、きっとあの狐の周りは男ばかりだから。でもやっぱり目の前にすると嫌がらせをしたくなるわ」
結局、クズノハが模様違いの狐面を出してくれたのだが、思いの外オカメと天狗を気に入った二人を相手にお揃いがいいなどと恥ずかしいことを主張して狐面に揃える事となり事なきを得た。
気に入ったのなら持っていっていいわ、のクズノハの言葉でカルとガラハドの持ち物にオカメと天狗が入ったのだが……。――イベント期間中、どこかにやたら強いオカメの面を被った騎士と天狗面の戦士が現れたら見なかった事にしてほしい。
ちょっと手間取ったがアイルに転移、首都アルスナの火の門からアルバルに騎獣で走る。装備は『銀翼のワイバーンのコート』をメインに、騎獣は白虎だが虎の騎獣持ちは多いので平気。平気じゃないカルの天馬さんは自重していただき、後ろに乗ってもらっている。
『人に乗せてもらうのは久しぶりです。主の騎獣は毛並みがいいですね』
『乗り心地は保証できんが、触り心地は保証するぞ』
声が飛ぶスピードなのでパーティー会話に切り替えている。ガラハドの騎獣タイルの方が速いので白虎がつられてスピードを出しすぎ、途中でスタミナ切れを起こさないよう、落ち着かせるために時々なでる。タイルも時々こちらを気にして速度を調整してくれている。
同じ虎の騎獣だがレベル差が結構ある様子。色々上げねばガラハドに追いつけない!
スキルでどっかんどっかんやるだけでなく、もっとこう判断力とかプレイヤーのスキル的なものを上げたいと思いつつ、白虎をもふり視界にガラハドのタイルを収めてちょっと至福の時。躍動するネコ科のしなやかな動きっていいな、イヌ科の楽しそうな疾走も好きだが。おっと、やる事をやってしまわないと。
ホムラ送信:
アルバルにもう着くがどうする?
ユ ニ送信:
私もアルバルに。首都へと続く街道の門の外で待ち合わせをお願いします。
ホムラ送信:
了解。こちらは狐面の三人だ、【認識阻害】つけてるから私を探さず狐面探してくれ。
ユ ニ送信:
はい、こちらは目立つのでホムラの姿を確認してから行きますね。
夜風が心地よく森の中では世紀末風味なイベントを忘れる。豊かなアイルの森と北の岩山しか行った事がないが、小国群を越えた帝国にはマーリンの住まう森は別として木がほとんどないそうだ。様々な種類の鉱脈があり、木々は人々の生活はもとよりその鉱石を溶かすのに使われてスキル持ちが植える木もその消費に間に合わないほど。
パルティンが長年姿を見せる土地だけあって属性が偏っていると聞くが、地の恵みが薄いのはそれだけが原因でなく、人の欲のせいだろう。
『門が見えて来ましたが、待ち合わせは外でいいのですか?』
『ああ、外で。夜間は出入りできんのだな』
カルの言葉に閉じた門を見る。平常時であれば、荷馬車は入れないが人だけなら身元の確認とスキルによる荷物検査で夜間でも通れるのだが、さすがに帝国に近い街だけあって正門だけでなく脇門も固く閉ざされている。
そして街に入れないプレイヤーが溜まっている……。
『やたら異邦人が多いな』
『アイルと帝国との戦に参加したくって集まって来てるんだろう』
『この時期は好戦的になるとはいえ、戦だというのにお祭り騒ぎですね』
ガラハドの言葉に答えれば、カルが呆れたように言う。呆れつつも嫌悪感が表に出ないのは住人もイベント中は生き返れるからだろう。
それになんでもありのイベントではあるが、プレイヤーも一般の住人を所構わず襲うことはしていないようだ。狙われるのはある程度地位があったりクエストで名前が知れている住人で、他に無体を働く者もいるにはいるが、それを対象に狩るプレイヤーもいて住人と異邦人の間では微妙に秩序が保たれている。
『さて、どんな人物を匿えってんだろうな?』
『私に頼むからには、政治的にというより心情的に守りたい人だろうと思うぞ』
ユニちゃんは政治的駆け引きや主導権争いやらの面倒ごとを私が嫌うのを知っている。そしてそんなそぶりを見せずに周囲を動かしてそっと主導権を握ることが得意なのがユニちゃんである。なので同じゲームをやっていても一緒になることはほとんどない。
門の前で騎獣を降り、声がかかるのを待つ。プレイヤーの格好は相変わらず派手だったり変わっているのも多いので狐面くらいでは目立たない。
「なんかカッコイイ」
「いいな〜。イベント狐面で揃えたクランいるのかな?」
「でかい男キャラだけのパーティー珍しいね。ロリショタばっかりだから目の保養だわ」
「そういうあなたも最小猫耳ロリ聖法」
「自分で使うならおしゃれしたいもん」
「あのコートなんだろ、欲しい」
……目立たないと思ったんですが。
10月10日に2巻が発売します。
よければぜひ書籍版もお付き合いください。




