24.商業ギルド
やってきました商業ギルド。
やってきましたギルド長室。
何でだ!
目の前に渋い顔したギルド長がいるのだが。渋いダンディなことはダンディだがこの場合苦々しい顔のほうだ。
「君が冒険者の代表かね」
「いいえ」
即否定だ、なんだ代表者って。
「では代理かね?」
「いいや、冒険者にはそもそも代表者は存在しない。個人の集まりだ」
「はて、あれだけの集団が代表者もなしに狩りや生産、同じような行動をしていると」
「ああ」
なにせやりたいことがあるゲーム選んでるわけだし、行動は似通う。格闘対戦メインでしたければそっちへ、農業したければ育成ゲームがVRである。
困惑しているギルド長。お互いに名乗り、しばし認識の相違のすり合わせをする。
「君たちは、生産所や露店などに金を落として街を潤してくれている反面、広場で勝手に売買を開くなど街に迷惑をかけているのでな。冒険者ギルドに一度代表者と話をしたいと申し入れをしたところだったのだが、個人の集団となると厄介だな」
ギルド長室のソファに座りだされたお茶を飲みながら当たり障りの無い現状を話す。ギルド長の斜め後ろに秘書っぽい褐色の肌の女性が控えている。
私にとっては当たり障りが無いのだが、街にとっては当たり障りがある様子。まあ、いきなり街の人口の倍どころではない人数が増えたわけだし、冒険者に関することは当たり障りばかりかもしれん。
「冒険者ギルドに寄り付かない生産ばかりしている人もいるしな。ではやはり広場のバザーは迷惑なんだな?」
「ああ、場所を占拠しているのも、冒険者だけで売買が完結してしまっているのも両方まずい。売買をしないよう定期的に知らせて歩いているのだが効果が無くてな。とうとう取り締まる話になったところに君が来たのでギリギリ間に合ったかと思ったのだが」
「露店を整備しているというのは?」
「そろそろ整備は完了するのだがどう知らせたものか。有料になるし人の通る門から離れる、果たして素直に従うかどうか」
「有料であっても売買をする場所があり、且つ取り締まりにペナルティがあるなら従うと思うぞ。流行っていそうなバザーの何人かを露店にひっぱればそこで売買することが定着するんじゃないか?」
「それは検討している。指定場所以外の販売については罰金のうえ、商業ギルド所属の店で一定期間売買出来ないよう罰則を規定した。だが個人の集団では話が広まり定着までだいぶかかるのではないかね? この街に金を落としてくれる冒険者も多いからね、事前周知不足が原因で事を荒立てたくないんだよ」
冒険者はこの街にとって微妙な存在のようだ。
「割と広がるのは早いと思うぞ? 個人の集団とはいえ連絡手段は一応あるしな」
掲示板とか掲示板とか掲示板で話題になるだろうしな。
「そうかね? では進めるとしよう。と言うか進めざるをえんのだが」
「後は私個人の意見で言えば委託販売をしてくれると嬉しいかな。冒険者としては商売よりもあちこちふらつきたいので拘束される客商売は遠慮したい」
「広場のバザーが盛んなのも好きな時に好きなだけできるから、か」
「それもあるだろうな。露店の場所が決まれば、客が集まるだろう露店側に移動してバザーをひらきそうだ」
またギルド長が難しい顔になる。
「どうしても集団管理したければ、集団で登録したものに限って土地・建物を売るとかすればあっと言う間に集団ができると思うぞ」
私も家は欲しいが個人の家を持つのは高いだろうなあ。
「定住しないものに土地を売るのはできん、街の土地は限られているからな。貸し出しなら可能か……」
「冒険者は自分達の拠点を造るとか大好きなんだ。団体登録有料で多少高くしても登録してくると思うぞ」
冒険者ギルドとか商業ギルドがある場合、クランとかなんとかギルド以外の呼び名になるのだろうかと思いつつ適当なゲーム知識を披露するワタクシ。
「ほう? 冒険者ギルドと合同で検討してみよう」
「私の適当な意見は話半分に聞いてくれ。ところで、露店の話はどこで聞けばいい? 私はその事を聞きに来たのだが」
「君も販売をするのかね? どんなものを?」
「ずっと店番が必要なら却下だが、売るなら飲食物か薬になるかな?」
「持っていたら頂けないかね?」
なんだか試験のようで微妙に気恥ずかしく思いながらチョトツのサンドイッチとブランデーを添えた紅茶を出す。
「これは?」
ギルド長がブランデーの酒瓶を目の高さに持ち上げ中の琥珀色の液体を見る。紅茶用に小瓶を用意したいのに作ると大瓶に入って出てくるのだ、瓶から瓶に移し替えるのもなんなのでそのままにしている。収納個数に大きさは影響しないからな。
小瓶も欲しい気がするがそれよりいっそ専用の樽が欲しい。
「紅茶に香りづけに入れる酒だ」
「どこで手に入れたのかね?」
「これも作ったものだ」
ブランデーはこの世界にないのか? ピンポイントで食いついてるんだが。
「醸造のレシピはほとんど出回る事がなくてな、実質王都の専売になっているのだ」
ぶっ! ギルド長が食いついたのは酒自体だった!!!
酒塩タバコは国家の専売か?
「個人が扱うことに問題があるのか?」
「いや、レシピが出回らなくて作れんだけで法的には問題がない。ただ作れるのがわかると王都から引き抜きが来て結局この街には酒を作る人間が居なくなる」
大変面倒そうです。
「仕方ない酒の扱いはやめるか」
「いや、ギルドとしては扱って欲しい。特にビール・ワイン以外の酒は王都から入る量も少なくてな、少しでも流通が増えるのは嬉しい」
「面倒ごとは御免なんだが」
「ではそれこそギルドに委託してくれんかね? 委託手数料は低くさせて頂く、かわりに販売先と料金はギルドに任せて欲しい」
「私が販売するのも制限される?」
「いや、それはする気はないから安心して欲しい。それに君の方で辞めたくなったら止めてくれて構わない、少し猶予はもらうことになると思うがね」
「私に都合が良すぎて逆に怖いんだが」
その言葉にギルド長が少し身を乗り出すようにして答えてくる。
「君を王都に取られたく無いんだよ、この酒も初めて見るし、ワインは移動させると質が落ちる。腹蔵なく話すと、珍しい酒を扱えれば領主を始めこの街のお偉方と結び付きを強くする材料になるという下心も有る。形の残るものは扱いを増やせば希少価値がなくなる、珍しい食べ物も飽きられる。他の食べ物と違って毎日食事に上がっても酒は飽きないのでね、重宝するんだ」
一息に話すと私の紅茶を飲み旨いと褒めるリップサービス。
「それに君の話を聞いて他の冒険者の委託販売も受けようと思ってね。預かる際にこちらで価格帯を提示してその範囲で販売額を決めてもらう方式にすればある程度市場をコントロールできる、住人の露店が立ち行かなくなるのは困るのでね。委託販売には売り上げから5パーセント料金をとって、冒険者用の露店は自由価格、日数で固定費にすれば売る自信がある者は露店に流れるだろう」
話している間に方針を固めていた様子。
「君の販売物は3%で請け負う、顔を出したくないならある程度稼いで余裕が出来たら人を雇って店舗を持つのもいい。この街で酒を流通させてくれるなら商業ギルドは便宜をはかるよ。委託の際は受付で名乗ってもらえれば話が通るようにしておこう」
話が大きくなってる気がするんですが。
「個人が作れる量は限られるぞ」
「希少性がでていいだろう」
にっこり笑って言い切られた。
一応私以外も作れる可能性を伝えたが、そのときはまたその人と交渉するなりするそうだ。
《称号【経済の立役者】を手に入れました》
《お知らせします、商業ギルドと売買権の交渉をしたプレイヤーが現れました。これにより情報を開示いたします》
《三日後より商業ギルドの『委託販売』と、プレイヤーが『露店』を持つことが可能になります》
《売買の際の金銭と商品のやり取りが簡単かつ安全になります》
《それに伴い、本日より商業ギルドでストレージの貸出を開始致します》
ギルド長室から出たとたんのアナウンス。
待て待て、今までで一番やらかした感が凄いんだが。あとこれ無茶苦茶人目にさらされるシチュエーションじゃないだろうか。自意識過剰ですかそうですか、でも裏口から出ますよ私は。
何せ別のゲームでプレイヤー間で有名になったお茶漬の煩わしそうな様子を見ていると言うか、紹介を頼まれたりフレなのを妬まれたりと巻きこまれたからな!
出口まで見送りについてきてくれた秘書のクエロに裏口を聞くとロビーを通らず西の小売店街にでる通用口に案内してくれた。
称号の効果はNPC売買価格、売値5%増し・買値5%減、委託料が通常5%手数料のところ3%だった。
そしてギルド長のパトカを貰ってしまった。ちなみに名前はモス=バゥワー、某ファストフードだろうこれ。笑いそうでギルド長としか呼べんわ!
武器防具屋の裏の道を通って大回りで広場にもどるとバザーを開いていたプレイヤーがざわついていた。聞き耳を立てつつそ知らぬ顔でそばを通ると話しているのが聞こえる。
「正式販売きたーっ!!!」
「ここじゃなく別なところに金だして移れってこと?」
「委託販売って売るのにずっとその場に居なくていいなら便利じゃん」
「前から見回りきてたしね~、場所があってシステム的にアイテム詐欺とかできないようになるならいいよね」
「今日、商品渡したとたんシーフで金払わず逃げたやついたもんな」
などなど、よかったおおむね好評のようだ。
ここを追い出されると感じる人が多かったらどうしようかと思った。
昼の時間が近いのでそのまま広場を横切ってレストランに入る。ハンバーグと紅茶を頼んでぐったりと机に伏せたくなったのをこらえる。なんだろう今日は、午前中にいろいろイベントが起きすぎだ。
午後はギルドの資料室と古本屋でのんびりしよう。
ハンバーグはデミグラスソースがたっぷりでパンにソースをつけて食べたら美味しかった。大根があれば和風ハンバーグは出来る気がするな。シンじゃないけどそろそろこちらでも日本食を食べたい。正式な和食じゃなくていいから醤油が欲しい。
商業ギルドで米のことを聞いてみればよかった……!
《フォスのフィールドボス『グロートレント』が黒百合他5名によって討伐されました》
のんびりしていたらワールドアナウンスが。
黒百合のパーティーが討伐したのか、やはり強いことは強いんだな。デイドリザードの報酬は採掘量が増える腕輪だった。では同じフォスのトレントの報酬は何だろうか、名前からしても採取量が増える腕輪ではないだろうか?
……うらやましくなんかないんだからな!
ひとり飯でまったりした後、冒険者ギルドへ移動する。商業ギルドは先ほどのアナウンスのせいかプレイヤーの出入りが多い。ストレージの申し込みと委託や露店の話を聞きに来ているのだろう。
よく考えれば、冒険者ギルドと同じような大きさの建物なのに今までプレイヤーの出入りはほぼ無かったのが不自然だったのだ。三日後からは委託販売の申し込みなどでにぎわうことになるだろう。空いたら私もストレージの申し込みをしよう。
「プラムさん、先ほどはありがとう」
受付嬢の手が空くのを待って話しかける。
「話は聞けましたか?」
にっこり笑って応えてくる。美人な受付嬢揃えてるなあ。
「ああ、他の冒険者も販売許可の話を聞きに商業ギルドへ押しかけているようだ」
「あらよかった。広場は避難所でもあるので冒険者ギルドでも注意喚起をしていたんですが聞いてくれなくって困ってたんです。やっぱり注意だけじゃなく対案も用意しないとだめなんですね」
「そうだな。では今度こそ資料室を利用させてもらう」
磨かれた階段を資料室へと向かう。
商業ギルドも宿もここも木造で土足なのに磨きこまれた床は壁につけられた魔法の灯りを淡く映しこんでいる。長い年月丁寧に管理していないとこうはならない、いや、掃除の魔法でもあるのだろうか。片付けの嫌いな私は清掃や整理整頓の魔法があったら現実世界でも欲しい。
□ □ □ □ □
・増・
称号
【経済の立役者】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.22
Rank D
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 605
MP 778
STR 34
VIT 22
INT 43
MID 16
DEX 15
AGI 22
LUK 14
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】
■神々の祝福
【ヴァルの祝福】【ヴェルナの祝福】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔術Lv.3】【火魔術Lv.5】【土魔術Lv.3】
【金魔術Lv.4】【水魔術Lv.3】【☆風魔法Lv.3】
【光魔術Lv.2】【☆闇魔法Lv.8】
■剣術
【剣術Lv.10】【スラッシュ】
【刀Lv.2】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.2】
■才能系
【体術】
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.7】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.4】【植物食物鑑定Lv.5】
【動物魔物鑑定Lv.4】【スキル鑑定Lv.3】
【武器防具鑑定Lv.2】
【気配察知Lv.4】【気配希釈Lv.4】【隠蔽Lv.3】
■強化
【腕力強化Lv.2】【知力強化Lv.4】【精神強化Lv.2】
【器用強化Lv.2】【俊敏強化Lv.2】
【剣術強化Lv.3】【魔術強化Lv.2】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】【地図】【念話】
【装備チェンジ】