254.姉・兄・妹
「今この時に我らが全員集まり酒を飲んでおる、不可解よのう」
「ほほ、木神殿は相変わらずこ難しいことを考えよるのぅ」
満たされた杯を眺めひとりごちたタシャに愉快そうにヴァルが言う。
「一対一で会いたくないのもいるけど、全員揃えば思いのほか愉快で穏やかな気分だね」
ルシャさんや、穏やかなんですか? 言葉の前半がえぐるように辛辣なんですけど。
「主人、こちらを」
「ありがとう」
焼きガニを食べ終えたタイミングでクルルカンがフィンガーボウルとおしぼりを出してくれた。ちなみにウル・ロロが神々のために蟹をほぐしているが、私は自分で分解したかったので断った。ヴァルを始め最初は全員面白がって身をほじり出していたのだが面倒になったようだ。
アシャがファルの気を引こうと暑いフリして前をはだけたりしているのが視界に入ってしまって微妙な気分になる。胸筋は素晴らしいのかもしれんが演技が大変大根ですよ!
「クルルカンも食べたらどうだ?」
デザートの後もまだ酒宴は続いている、飲めない私はひたすら食っている現在。
「うっ……。申し訳ございませんが、飲み食いは巣穴で一人でする所存です」
何故か嫌そうな顔をされた。なんだ? 宴会に嫌な思い出でもあるのか? あとまさか私の袖の中が巣穴認定じゃないよな?
「ホムラ様。この愚兄は宴席で酒に酔いくらい、よりによって姉のウル・ララに夜這いをかけたのですわ」
「ぶっ!」
近親相姦はやめろ! 油断した頃に成人指定もってくるのもやめろ!
「違います! 寝込みを襲ったのです!」
「違いがわからん!」
ドン引きです。
「気が大きくなって夜討ちをかけたんです!」
夜討ち。
「鞭でビシバシでしたわね」
「くっ……」
悔しそうに黙るクルルカン。返り討ちの気配。
「鞭……」
やばい踏まれているクルルカンしか浮かばない。封印の獣、封印の獣のイメージが大変なことに! なんだろう姉にも妹にも勝てないのか?
ククルカンの姉妹は元は姉だったものが姉妹の区別が重要視されない英語やスペイン語を経由し、日本で妹にされたんだったか。この世界には両方いるのだな。ついでに姉と弟で酒に酔っ払って沐浴や苦行をサボっただけだったのに話が盛られて最終的に閨を共にしたことにされてるんだったか。神話のククルカンも難儀。
「ホムラ様、愚兄は能力的には高いのですがこのようにヘタレです。気合いで格下に負けることがございますので戦闘は器物での運用をお勧めいたします」
ウル・ロロがスカートを摘み綺麗な礼をしながらアドバイスという名のクルルカンいじりを……。
もともと杖で使っているので問題はないのだが、もしかして生身を選びレベルが上がったら強いクルルカンを見られたのだろうか? いや、強くなってもクルルカンはこの姉妹に勝てない気がする。
「あ」
などと考えていたらクルルカンが蛇形態になって袖口に逃げ込み、ウル・ロロが声を上げる。ヘタレすぎじゃあるまいか? まさか泣いてないよな?
かと思えば袖口からちらりと顔を出し、ウル・ロロをじっと見て引っ込む。
「くっ……、愚兄のくせに!」
ギリギリと悔しそうに袖口を睨むウル・ロロ。とりあえず侵入禁止をドゥルの前で宣言して、追認してもらっていてよかったと思う。クルルカンのほうも止めさせたいのだが……。
兄妹喧嘩に巻き込まれるのも遠慮したいので、スルーして蟹の続きに。うっすらと薪の香りのする肉も我ながら美味しい! 食材ルート素晴らしいな。
「私はお肉がやっぱり好き。でも蟹も美味しかった、みんなは魚介も食べたいのかしら」
残念女神が肉を確保しながら言う。懐いてくる魚を食べるのには抵抗を持ちつつも迷宮では甲殻類で協力してくれた様子。
「タシャあたりは肉より魚のほうが好きそうだが、無理はしなくてもいいのではないか?」
「力が極まり過ぎるのもよくないの。迷宮は減らすための仕組みだもの、でもただ倒されるのなら食べてもらったほうが嬉しい」
極まる力ってなんだろうか? 魔素のようなものかな?
「料理を出す時には必ず魚以外も出そう」
「ありがとう」
きっと食べるほうには抵抗があるだろうファルに約束する。
「ホムラ、我が可憐で聡明なる妹が認めた男よ! そなたがやさしき破滅の道を進みその末にどのような選択をしようともこの光の神ヴェルスは肯定するぞ!」
「いや、まて。なんだその進路」
「我が可憐で美しく聡明なる妹が認めた男……認めた男っ!」
シスコンのからみ酒か! 本物と降臨の時の印象との落差が激しくて辛いんだが。ドゥルだけが姿が丸々違うせいで別物として割り切れる。
「ん。それの言うことは聞かなくていい。放置」
妹のヴェルナは兄に対して辛辣。黒い猫耳猫尻尾の幼女、黒い長い髪に黒い膝丈のフワッと広がるワンピース、そして鈴付きの黒い首輪。
「こう、首輪はやめなさい、首輪は」
ボンテージファッションとかならともかくワンピース幼女に首輪はいろいろあれです。
「ん。ヴァルが可愛いって」
白い肌と黒の対比、特に喉元のそれは幼女のはずなのに艶かしい。ああ、最初に会った時の印象はそっちのほうが強かったな、と思いつつ。というか、ヴァルは何を考えてコーディネートしたんだ!
問題の女神を見ればニヤニヤと酒を飲みながらこちらを見ている。愉快犯確定!
「せめてこっちにしておけ」
「ん」
小瓶やらリボンやらを集めているリデル用に、気がついたら買うようにしているリボンの中から黒いものを選びさし出す。どうやったものか、ヴェルナが触れたとたん手からリボンが消え、首輪も消えて鈴のついたリボンに変わった。
「うむ。可愛い」
そして健全。
「ありがとう」
ヨカッタヨカッタとプリンのお代わりを差し出せばヴェルナが礼を言ってくる。
「愉快であった」
「料理っつう共通の話題があるせいか普段話さねぇようなのとも話したしな」
「木神殿は喋らずに飲んでおっただけじゃがのぅ」
タシャの言葉にヴァルが突っ込みを入れる。人の会話を聞きながら静かに飲むのもいいものですよ、と言いたいところだが飲めない私には言えない罠よ。
土の神ドゥルはタシャと仲がいいようでタシャの隣に座っていたが、来るもの拒まずで神々と愉快そうに会話を交わしていた。――ドゥルの前のウル・ロロが料理を運び、途中も整えていたので一番いろいろなものが食べられる場所だったのだ。
「次はいつになるかの。楽しみにしておるぇ」
タシャに言うだけ言って消えるヴァル。
「あれにも困ったものじゃ……」
「木神タシャ、風とはそういうものだ。ホムラよ、愉快であったぞ」
嘆いてみせるタシャにアシャが言い消える。こう、ファルさえ絡まなければ言動も普通なのに。
「まあ属性の違う全員が集まることが稀のはずよの。感謝するぞホムラよ」
ため息をつきつつタシャが消える。苦労人で影の薄さがですね……、頑張ってくれ! 魔法を司る神!
「お肉おいしかった。だからとっておきをあげる」
そう言って消えるファル、なんだろうとっておきって。
「今度はまた辛いのお願い」
そう言って消えるルシャ。彼の言う辛いのはグリーンカレーのことだろう。巨大金槌持って降ってくるイメージと噛み合わないなあ。
「ホムラ、また」
「ああ、また」
鈴の音を残してヴェルナが消える。
「くっ……、負けん負けんぞ!」
何かこちらに対抗宣言しながらヴェルナを追ってヴェルスも消えた。
「あー……」
残ったのはドゥル。――と、ウル・ロロ。
「どうした」
「ロロを時々そっちにやっていいか?」
「お断りします」
即答する私。
「何故ですの!? 私はお役に立ってみせます!」
「なんだったらクルルカンを時々そっちにやるぞ?」
巻きついているクルルカンが身じろぎしたが気にしない。服の中で兄弟喧嘩を始められるの回避したい。
「でしたら愚兄と入れ替わりで私がその具合のいい腕に巻きつかせてもらいます」
「弁当やるから帰れ」
品行方正に見せかけてなんで言動が卑猥なんだこの白ニョロは!
「まあ、押しかけてゆくようならなんか持たせるぜ」
「そこは止めろ」
メイドの襟首をつかんで一緒に消えてゆくドゥル。
あの様子では絶対ウル・ロロが押しかけてくる気がするが、まさか鞭振るう姉までこないよな? 不安だ。
《称号【アシャの破壊】を手に入れました》
《称号【ドゥルの血脈】を手に入れました》
《称号【ルシャの興味】を手に入れました》
《称号【ファルの水産物】を手に入れました》
《称号【タシャの天秤】を手に入れました》
《称号【ヴァルの薫風】を手に入れました》
《称号【ヴェルナの楽園】を手に入れました》
《称号【ヴェルスの裁き】を手に入れました》
《スキル【アシャの鉄腕】を取得しました》
《スキル【眷属】を取得しました》
《スキル【ドゥルの優しき繭玉】を取得しました》
《スキル【付与入替】を取得しました》
《スキル【癒しの水玉】を取得しました》
《スキル【魔法吸収】を取得しました》
《スキル【うつろう心】を取得しました》
《スキル【夜の帳】を取得しました》
《スキル【ヴェルスの真実の楔】を取得しました》
《『アシャの掃討の大剣』を取得しました》
《『アシャの掃討の大剣』を取得したことによりスキル【掃討の大剣】を取得しました》
《『ルシャの飽食の剣』を取得しました》
《『ファルの最新パンツ』を取得しました》
《『水落つ樫』を取得しました》
《『ヴァルの風の守り』を取得しました》
《『ヴェルナの絵本』を取得しました》
《『ヴェルスの星占い』を取得しました》
そして今でも覚えきれないのに再びの大量アナウンス。
とりあえず『最新パンツ』ってなんだ! 宴席でおとなしかったと思ったらあの残念女神!
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上とかぶるので増減おさぼり
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称号スキル、さすがにこの数は時間がかかるので神々には個別訪問してほしいところ。
お待たせしてすみません。
そして活動報告に人気投票&アンケートのリンクを貼りましたので興味がありましたらご参加ください。