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新しいゲーム始めました。~使命もないのに最強です?~  作者: じゃがバター


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248.蟹

「『フェル・ファーシの雫』は確保したいところだね」

「だなぁ」

イーグルと叫んで落ち着いたらしいガラハドが話しながらタコ足を一本落とす。 


 私は各種補助魔法を配りつつ使い回しボス――げほげほ。もといファル・ファーシとフェル・ファーシの違いの観察。今回の蟹は凶暴なようで、私たちだけでなくフェル・ファーシにも向かってゆく。だが、敵同士が削り合うのを喜んではいられない。フェル・ファーシは蟹に攻撃を食らうと体液がボコボコと泡立ち、狂ったようにダメージ増量の攻撃を仕掛けてくるのだ。


「げっ!」

「怒ったわ」


 ねじれながら迫る六本のタコ足。このタコ足を駆け上がって顔に攻撃を加えたりするのだが、そんな余裕がないほど速い。しかも引く時に一つずつ魔法を残してゆく。空に浮かぶ水の雫、あるいは花、あるいは小鳥。


「触らないで。【幻想魔法】だわ」

カミラが注意を促す。【幻想魔法】はレイド全体にHP・MP・EPなどへのスリップダメージやら【恐怖】や【混乱】などの状態異常、地味に嫌な効果があり対象となる人数が多いほど強力になる。エフェクトが消えるまで何度か判定があるため種類によっては治療も手間だ。


「【幻想魔法】敵が使うと厄介だな」

私も【幻想魔法】を持っているが、フィールドの敵は普通一匹から六匹までの群れしかいないので、かけてもなかなかレベルが上らない。一度くらいアクティブな敵の中を横切って敵の大量トレインを作って使ってみたい気がする。気がするだけだな、普通に攻撃魔法を連発したほうが早く終わる。【幻想魔法】は数が多いことはもちろんだが、HPが多くて回復手段を持っているような時間のかかる敵向けだ。


 フェル・ファーシの【幻想魔法】は特殊なのかそれともレベルを上げれば使えるようになるのか、触れると発動する置き魔法だ。一定時間過ぎると消えるのだが邪魔だ。


「ああっクソッ! 蟹間引かねぇとダメだな」

「了解、蟹は任せろ」

もともと私の目的は食材確保なので積極的に蟹は狩りたい。蟹が多すぎるといつの間にかフェル・ファーシがぷりぷりと怒っており、【幻想魔法】が地雷原のような有様だ。見た目だけならば名前の通り幻想的な光景だが、触れるな危険の標語が脳内で流れている。


「足気をつけろよ! こっちに引きつけとくが一本くらいはそっちにはとぶぞ」

「ああ、気をつける」


 ガラハドの戦い方は豪快で格好いい。幅の広い金属の塊のような大剣を軽々とふるって足を落とし、重さを感じさせずに動き回っている。敵の攻撃をいなすことが多いが、後ろに誰かがいる場合などその大剣を盾のように使って攻撃を受け止める。同じことをやったら私は吹き飛ばされそうだ。


 系統的には私はガラハドよりイーグルよりの戦い方ということになるのだが、こっちはこっちで無駄な動きが少ないというか先を読んで動くというか、時々ガラハドとカミラに声をかけながら冷静で頭のよさそうな戦い方をしている。剣を振るっていると何も考えなくなる私とは別方向!


 カミラが呪文を使うとこちらも格好良く見える。詠唱中に魔力が溢れ髪とスカートの端がぶわっと浮くのがいい。呪文は自分が詠唱するのは恥ずかしいし、お茶漬あたりが唱えていたら笑うのは異邦人の詠唱にとってつけたような印象があるからだろうか。

 フェル・ファーシには魔法より矢の方が効くのだが、カミラの場合あまり弓のスキルが上がっておらずボス戦で使う場面は少ない。――弓を引くときに胸が邪魔にならないかちょっと心配したが『断罪の弓』は(げん)が実体ではなく光の糸だったので問題なかった。


 前回手に入れた蟹に加えて『夕日蟹(ゆうひがに)』『大毬蟹(おおいががに)』などの蟹と『神宮海老』『騎獣海老』、何故か海老がドロップ。伊勢海老と車海老だろうかと思いつつせっせと蟹を屠る。


「こちらは結構接戦なんだが……」

「あーもう! 美味しそうな匂いだったら!」

「焼きガニ止めろ!」


 【火魔法】での殲滅は三人に不評な様子。まあ、香ばしいというより焦げた匂いも混じっているのだが色が真っ赤に変わって砕け散る前に見せる姿が美味しそうなのは確かだ。


「『フロスト・フラワー』」

仕方がないので冷凍ガニの量産に変更。



 戦うことしばし。


「よし、これくらいで!」

蟹のドロップを手に入れるためにわざわざフェル・ファーシの顔に魔法攻撃を入れて回復させ戦闘を長引かせた。あんまり繰り返してもガラハドたちに悪いのでこの辺で終了しよう。新しいエリアの食材も気になるし。


「おう! 蟹食わせろよ!?」

「【ノックバックソニック】」

「エンチャント! 『炎の秒針』!」

走り出したガラハドに迫るフェル・ファーシの足をイーグルがノックバックさせ、カミラが名前からして攻撃力強化系の補助魔法をかける。


「『スティングハイ』『スティングシェイド』」

私はタコ足を駆け上がってゆくガラハドを視界にとらえながら光と闇の魔法を解放。


「【断罪の大剣】ッ!!」

ガラハドの光の大剣がフェル・ファーシに振り下ろされ、光が溢れる。これでフェル・ファーシの仮面は割れるだろう。


「『スティングハイ』」

【断罪の大剣】のエフェクトが収束していく間に廻る力を乗せた光魔法、再び視界が白に染まる。


 光が収まるとフェル・ファーシが断末魔の叫びをあげ、足の先から光の粒となって崩れるように消えてゆく。



《ソロ初討伐称号【秘された青き幻想者】を手に入れました》

《ソロ初討伐報酬『幻想吸収のスキル石』を手に入れました》



《迷宮食材ルート地下50階フロアレアボス『食材No.11』をソロ討伐しました》

《なお、この情報は秘匿されます》



《フェル・ファーシの星絹(ほしぎぬ)×4を手に入れました》

《フェル・ファーシの魔石を手に入れました》

《フェル・ファーシの雫を手に入れました》

《『金時(きんとき)タコ大王』×5を手に入れました》

《『青の幻想の種』を手に入れました》

《『進化石・花人の欠片』×10を手に入れました》



「ド派手だなオイ」

「【光魔法】はみんな派手だ」

絶対司ってる神の性格だろう。


「見た目もさることながら威力もね」

白装備(しんき)のおかげで魔法はこれでもかと増強されてるしな」

装備で底上げする前に、イーグルのように使う魔法やスキルの選択で最小限の労力で最大限の効果を発揮させる戦闘を心がけたいところだがすぐ楽に流されてしまう。


 MPの多さに任せて無駄打ちしたり、強化されているのをいいことに弱点とは言えない属性を使ったり。でも今回はクルルカンの杖のレベルアップ目的もあるので許してもらおう。


「ふふ。私、ホムラが魔法使ってる姿好きよ」

「焼きガニだったり冷凍ガニだったりしなけりゃ優雅なのにな」

バレてる!


「雫のランクが高い」

「本当だ、これを薬にしちまうのもったいねぇな」

「他の騎士も確保に動きだしたみたいだし薬にするのはいざという時でいいと思うわ。その薬で治るかというと微妙だし」

三人にも雫が出た様子。


 代わり映えしないと思ったが、幻想ルートよりもランクが高い。魔石だけを見ても同じものではあるが生産の材料として見るとランクが高いものは多分価値が跳ね上がる、ハズ。生産の成功率と付加する能力の数値が上がりやすいからだ。私はボスの魔石を使うような生産をしないのでただの予想だ、後でお茶漬の意見を聞こう。


 『幻想吸収のスキル石』は使ったらスキル【幻想吸収】を覚えた。相手がかけた幻想魔法を始めとする幻想系のスキル効果を吸い取って逆に回復したり色々するようだ。称号【秘された青き幻想者】は与えられたダメージ量の5%のMP回復と2%の精神強化、その十分の一のパーティーメンバーの回復。【秘された赤き幻想者】は与えたダメージ、こっちは食らったダメージで回復するようだ。


「このまま迷宮の到達層の記録を抜いてしまいそうで少し怖いかな」

「でもこれ公式に認められるのかしら?」

「なんかギルドカードの情報に秘匿って出てるよなぁ。初めてみたぞこんな表示」

三人が話しながらそれぞれ転移の登録を行っている。


「一応神々によって隠されたルートっぽいからな」

私も最後にぺたりと触れて転移プレートの解放をする。



「敵は強い、強いし普通に苦戦するし正直キツイんだが……」

「なのになんでこんなに緊張感? いえ悲壮感がないのかしら?」

「主にそこで蟹を焼いてるやつのせいだと思うな、俺は」


「何だ?」

聞こえてますよ! 


 『花咲蟹』現実世界にも同じ名前のタラバの仲間のトゲトゲした蟹がいるが形はそれと一緒だ。トゲに負けずに殻を割ると殻から解放された身がぷりんと飛び出す。大きな身を無理やり殻に詰めていたようなそんな印象を受けるほどだ。殻を割ったりそいだりで処理をして、自分で焼きながら食べられるようにする。


 『夕日蟹』は海老と蟹の合いの子のような姿だった。身は塩茹でしてほぐし米と茹で汁で炊く。本日のメニューは蟹釜飯(かにかま)、焼き蟹、『金時タコ大王』の酢の物。


「あら、この蟹綺麗ね」

「全部オレンジに染まったら食べごろらしいぞ?」

『花咲蟹』は白っぽい蟹なのだが焼くと花が咲くように鮮やかなオレンジ系の赤に染まる。焼きすぎても身が硬くなるので目に見える食べごろサインがあるのは便利だ。


「あああ、戦闘中から焼き蟹がちらついてたからたまんねぇぜ」

「いい匂いだね」


 ついでに釜飯に使わなかった『夕日蟹』の蟹味噌のたっぷりついた甲羅は、少し焼いて三人に焼酎と出した。飲めない私には蟹の甲羅で飲む酒は美味いのか謎なのだがよく紹介されているのを見かけるので真似してみた。


「いや、待て。今はただの休憩だ」

「まだ戦闘あるよね?」

蟹の甲羅を口元に持って行ったところでガラハドがはっと気がつき、イーグルが残念そうに焼き網に乗った焼酎入りの甲羅を眺める。


「おっと、失礼」

言われて迷宮攻略中の酒は寝る前だけだったと気がつき、下げようとするのを言葉とは裏腹にガラハドの手が止める。


「ガラハド?」

「ぐっ……」

ものすごい断腸の思いみたいな顔で手を離すガラハド。


「なんで迷宮の深部でこんな葛藤をしてるんだ俺は。もっと能力の限界とかこう……」

「何言ってるのよ、最初から食材のために連れてこられたんじゃない」

「ああ、私たちは食材のために迷宮の攻略最深層の記録を更新しそうなんだな……」

ガラハドをなだめたカミラの言葉にイーグルが遠い目をし始めた。


「諦めなさい」

カミラがガラハドとイーグルの二人にばっさり切るように言い放つ。


 ちょっとカミラさん? 何を諦めさせるつもりなんです?



□   □   □   □

・増・

称号

【秘された青き幻想者】

スキル

【幻想吸収】

□   □   □   □ 

活動報告に書籍の表紙をあげました

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― 新着の感想 ―
蟹ー!食べ比べうらやま。 諦める物…常識?
[一言] 何かこう…食材ルートって神々によって隠されたルートというより神々によって新しく造られたルートでは…?と思えてきた
[良い点] 焼きガニ!冷凍カニ!蟹づくし!
感想一覧
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