246.使命
ちょっと短めです
「ホムラ、前に俺は他のヤツの使命を手伝ってるって言ったよな?」
「ああ、言っていたな」
「ありゃ嘘だ。すまん」
「うん?」
餃子をたいらげたタイミングで、ジョッキを置いて頭を下げてきたガラハドに少々驚く。
「アシャから使命の神託を受けたのは俺自身だ」
「……まあ順当な気はするな」
アシャが気に入るならば、カルよりもガラハドな気がする。強さから言うならばカルやガウェインなのだろうがアシャが彼らを選ぶイメージは浮かばない。
「黙ってて悪かったな」
「いや会ったばかりの頃だし、手出ししてくる邪魔も多そうだしな。手伝うことはあるか?」
「もう助けてもらってる」
「?」
何だろう、手伝った覚えがないのだが。
「俺の使命は『蓄魂の香炉』を手に入れ円卓の部屋の中央に据えることだ。あれから色々調べて『鵺』を納めるもんだってアタリをつけた」
「彼の方に資料を始末されなくて良かったわ」
「人のものであっても古いものを、特に本は捨てられない方だね」
おや、それは気が合いそうだ。
ガラハド曰く、最初は『ハスファーン』関連で調べていたのでさっぱりだったそうだが『鵺』を念頭に調べ直したところ、わずかだが『蓄魂の香炉』について手がかりが見つかったという。
「世話になったヤツの主が呪いにかかったってぇのも嘘じゃねぇが、同じ症状で帝国の王が倒れたからそれにかこつけて解呪方法を探してたんだ。帝国には敵も多い、王が倒れたなんて言えねぇからな」
「当初は両方病気だと思われていたわ」
カミラが補足してくる。
「帝国なのに王?」
「気にするところはそっちか。対外的には皇帝だけれど国を起こした時の王が偉大すぎて、他の国を併合し帝国を名乗るようになってからも国民は慣例的に王と呼ぶことが多いんだよ」
話を聞くと、『世話になったヤツの主』というのは隣国の宰相だそうだ。カルと同じく隠蔽を見破る系統の『眼』を持ち、そして鵺についての記録のある本の持ち主。それが理由で狙われたのだろうとのこと。しかもその宰相の不調は国内が不穏な雰囲気に変わる前――カルが追われることになるより二年も前からの話らしい。
本来はお使いクエストを一緒にこなして、その国まで行って情報をもらうイベントだったんだろうか……。あとで炎王たちに聞いてみよう、って大勢が聞きそうだから邪魔になるかな。攻略法やイベント詳細を聞いておいて達成報酬下がった! とキレるやからもいるらしくギルが珍しく愚痴っていたのを思い出す。
同時にエリアスが自分の名前をアナウンスで流さなかったのは生産職は隠れるのが難しいからだろうと思い当たる。戦闘職は狩場に行ってしまえばある程度逃げられるが、生産職は店があるので逃げるのが難しい。宣伝にしてもちょっとリスクが大きそうだ。などと考えていたら話が進んでた。
「多分マーリン様の仕業だね。彼の方は長生きしてる分、気も長い。変化が緩すぎて気づくことが難しかった」
「今も呪いの解き方さえ不明よ。私たちが集めたものもただ症状の進行を遅らせただけ」
目を伏せ手に持った杯を眺めながらイーグルが言えば、カミラも。
「あの方は森の『魔術師の塔』に住んだまま、どれだけのことに目を光らせ糸を引いてるのか分かりゃしねぇ」
「あんまり怖れすぎるのもよくないんじゃないか? 疑心暗鬼になるぞ」
「彼の方は用意周到、張り巡らせた策も一つや二つではないよ。用心しすぎるに越したことはない」
「まああれだ! これで隠し事は無しだ! 『蓄魂の香炉』がどんなものかさっぱりだが、使命を果たすにゃ、どうしたって彼の方と九尾をなんとかするしかねぇんでな。ホムラのおかげでジジイとも再会できたし感謝してるぜ!」
そう言ってガラハドが脇に退けられていたジョッキを持ち残った酒を一気に飲み干す。それを合図に重苦しい雰囲気が三人から取れ宴会が再開する。
なのでカリッとジュワッとな唐揚げとどこまでも柔らかい塩唐揚げの追加。ビール、レモンや柑橘系の爽やかな香りのする白ワイン。肉だと赤の方がいいのだろうか、酒好きの助言を求めたいところ。色々作れるけれど、ぱっと出すのは普段慣れた料理になるな〜と思いつつベリーを突っ込んだ炭酸水を飲む。
そして就寝準備。
「はい、こちらの羽毛布団。ダウン増量してお届けします、布団三点セット! 今ならもう一組付けて十万シル! 四半刻以内にお買い求め頂けた方にはなんともう一セット! 三セットで十万シルです!」
「ホムラ何を言っている?」
「確かに前より良くなってるわね……。野営に使うものだと思うと微妙な気になるんだけど」
隠蔽陣を兼ねた布団敷きを手伝ってくれているイーグルとカミラが呆れた目を向けてくる。以前迷宮に来た時には人数分なかったが、今は【ストレージ】があるのをいいことにフルパーティー分持ち歩いている。それだけでなくベッドと雑貨屋の自室から撤去したバスタブもあるのだが自重中だ。
「いやまあ、その布団なら買うけどもよ」
火の始末を終えたガラハドも会話に加わる。
「布団販売の真似しとっただけで別に本気で売りつけるつもりはないぞ」
それぞれ装備を解いて生活魔法で軽く身を清めて就寝準備。……離して敷いた布団がぴったりくっつけられてるのはなぜだ。
「ふふ、私はホムラの隣ね」
えーとカミラさんや、貴方は寝ていたから知らないだろうけれど前回起きたら同じ布団だったという事故が起こっているのですが……。
「おー! とっとと寝ようぜ」
「ホムラ、『ライト』消してくれ」
「ああ」
何故気にしないんだこの二人。三人での冒険生活長いからだろうか? まあ私は異邦人の眠りのせいで色々ノーカンなのだろう。
若干腑に落ちない気分になりつつ布団に潜り込む。明かりを消した直後は真っ暗だったが暗闇に慣れ周囲がぼんやりと浮かんで見える。無意識に【暗視】を切っていたようだ。
「そういえばカミラ」
「何かしら?」
「妹さんといたっていう金髪、多分『鵺』じゃないかな」
「え?」
「ぶっ!」
「ホムラ……」
起き上がる気配が三つ。
「なんで寝る直前に爆弾落とすかな」
「どうしてこのタイミングなの……」
「そう思った根拠はなんだい?」
「"鵺の声で鳴く得体の知れないもの"主体がなく、見るものによって姿を変える化け物だ――私にはその金髪の少年は見えなかった」
高い高い天井は闇に飲まれて見えないがそれを眺めながら話す。しばし落ちる沈黙。
「……『穢れなき騎士』の情報を森に入って彼の方から聞き込んできたのはパーシバルだ」
「その時に【傾国】にかかったんだろうね」
「『穢れなき騎士』『穢れのない騎士』、一応ヒントにはなって呪いの症状を抑えるところまではいったけれどそれだけね」
「真実を含ませた上でわざと曖昧にしてるんだろう。そのヒントを辿ってももしかしたら解呪まで到らないかもしれない」
暗闇で言い合う三人。なまじ症状を抑えることができてしまったら、その方向性が間違っているとは気づきにくいだろう。マーリン、頭いいな!!
「じゃあ本物の王のお子はどこへ?」
「……待って、ランスロット様とグィネヴィア王妃の噂って王との間にいつまでもお子ができなかったからじゃなかったかしら……?」
「おかしいね、確かに"お子がいる"と思えるのにそのことに関する記憶が全くでてこない。結婚・即位……後継が生まれた披露の警護の記憶はないね」
「いやだ、気持ち悪いわ」
「暗いところで考えとるとますます不気味になるぞ。明るいところで考えた方が健全じゃないか?」
深刻になってゆく三人の声に、布団の中から声をかける。
「誰のせいだ、誰の!」
「もうっ! ひどいわ〜」
隣のガラハドがまくらでぼふぼふと叩いてきて、反対側のカミラは自分の布団から転がってきた。
「自分の記憶と認識が頼りにならないなんて嫌だね。さすがは『森の賢者』というところか」
「『森の賢者』と呼ばれるのは私の世界ではゴリラとフクロウだ。マーリンには会ったことがないが、魔法使いだしここはフクロウを想像しておくべきか? ゴリラを想像したら絶対話が変わるよな?」
まだ思考中のイーグルを混ぜっ返す。
「……ぜひフクロウで頼む」
「そういえば彼の方の髪型って耳の上の毛がミミズクみたいに左右でっぱってるよな」
「あんたたち……」
とりあえず就寝。考え事はまた今度!




