22.フォスの街と暗殺者
予定通りにログイン。
《お知らせします。特殊条件のあるスキル取得の際、取得者本人に取得条件の開示をするよう仕様を変更致しました》
《条件を他人から聞いて取得した場合、スキル性能が劣化したものとなりますのでご注意下さい》
《また取得に、世界の謎に関わる条件がある場合、スキルの取得自体が出来なくなることがございますのでご注意下さい》
また何か自力で見つけろ系のアナウンスが。
聞いた聞かないは何で判断しているのだろうか。バイザーさんに嘘発見器の効果とかありそうで怖いのだが。もしや思考が丸わかりなのだろうか。本人の記憶で風景の細部を補正しているというし。
取扱説明書のプライバシーポリシーに、わざわざゲームデータ以外の個人データは社員であっても見えないシステムとか案内があったのはこのせいか?
ロイ達は無事討伐した&食事ありがとうとそれぞれからメールが届いていたので、おめでとうメールを返しておく。ペテロとシンがいたのでこちらにも挨拶メールを。
さて、朝食を出す露店を探そう。
朝から開いている食事できる場所と、食器を扱っている場所を教えてもらい宿をでる。
ファストの街より若干鄙びて見えるのはプレイヤー用の大型店舗がないからか、ファストの街では昼も夜も溢れていたプレイヤーの姿自体がないせいか。朝の空気の中、行き交うのはこの世界の住人だけだ。
あれか、露天風呂、ボス初討伐したら貸切になるのか?
初めて攻略組に入りたいと思ったぞ。
『白、おいで』
温泉の欲望をもふもふに置き換えて昇華しよう。
『お主、ろくな事考えておらんじゃろ』
『気のせいです』
呼び出した途端、言われました。
『ここはフォスかの?』
左肩に乗った白が聞いてくる。いい頬ざわりです。
『来たことがあるのか? 陶磁器が有名だというからティーセットを買おう。白も自分の選んでくれ』
つい朝食を取る前に呼び出してしまった。時間制限がある以上、先に食器を買いに行こう。
『我もか』
『気に入った器で飲んだ方がいいだろう? カップじゃなく皿のほうが飲みやすいならそっちでもいいし』
白が肩で身じろぎする。
『なんだ?』
『む……』
『どうした?』
白は言いたいことがありそうなのに何も言わないで黙り込んでしまった。仕方が無いので会話が止まったまま工房区を目指す。なでるのは止めないがな。
『……そこを左にゆくのじゃ』
『ん?』
白が口を開いたかと思うとナビをし始めた。取り敢えず何も聞かず従う事にする。何回か方向を示され言われた通りに進む。
『無いのう』
『どうした?』
進んだ先にあったのは大きな工房で色とりどりの食器を扱っていた。色があふれすぎて正直好みではない。また黙り込んでしまった白を連れて工房を離れる。
大きな木の下にあるベンチに座り、白を膝に移動させベリーティーを淹れる。
『昔、知っている店でもあったのか?』
『うむ。だがエルフが代替わりするような時が人の身にそのままのはずが無かったのじゃ』
あの女も弟子を取るような性格はしておらんかったからの、と言って気を取り直したように茶を飲み始める。どうやら相手は女で陶磁器を作っていたようだ。エルフが代替わりするような時とは白が封じられていた時間か。
『どんな食器だったんだ?』
『我は人の使う器はようわからんのじゃ。じゃがはじくときれいな音がしての、白地に緑がきれいじゃった』
はじくときれいな音ということは磁器か。
過ぎた時の感傷に浸っている白を念を入れてもふったらしかられました。
そのままそこで荷物からサンドイッチを取り出し白にお茶のおかわりを淹れ食事にした。白が帰還して一人になっても何となくしばらくそこに座って通りを眺めていた。
気を取り直して工房巡り。ビール用に陶器製のタンブラーの様なカップを一応パーティー分の六脚、中は黒っぽい素焼き外側は青っぽい釉薬の掛かったものを選ぶ、あと同じデザインでオレンジっぽいものを六脚。
パーティが六人制なせいか基本は単品、三脚、六脚で扱っているようだ。
次にティーセット、白磁に青い細かい模様が縁近くに入っただけのものを一セット。カップのみを何脚か。コーヒーカップは買わぬ!
別に茶も今まで通り飲み終えれば消える器でいいのだが、これは趣味だ。
「すまん、古い昔の磁器を扱う店はないか?」
会計を済ませながらダメ元で聞いてみる。
「良いのはオークションさね。だけど半端もんなら古物屋にあると思うよ。古い食器や古着なんかを裕福でない人達が買うところさね。あんまり治安は良くないから、行くなら気をつけな」
気の良さそうなおばちゃんが注意しながら場所を教えてくれた。
途中食材を買い足しながらやって来ました、古物露店街。現実世界なら治安が悪いところには近づかんがね。ここはどこからか仕入れてきて手入れもしないまま出しているような商品が多く、日用品のほかは短剣の扱いが多く感じる。
あれか、短剣はシーフ用? ファストの街の治安が良くないと言われた露店よりそれらしい雰囲気だ。プレイヤーがいるかいないかの違いかもしれんが。ここで見かける住人は服装も元の色からだいぶ褪せてしまったらしい色合いで見た目からしてくたびれた沈んだ印象を受ける。プレイヤーの色とりどりな髪と服の姿がないため住人の印象がそのままこの路地の印象だ。
スリっぽい奴を何人か躱し店を見てゆく。気配察知さん大活躍です。身長最大に近い男だしもっと人気のない路地に入り込んだりしなければ喧嘩を吹っ掛けられる事もないだろう。
朝の早い時間だし、そんな輩は寝ているだけかもしれんが。
食器を扱っている所を見て回り、いらんものを売りつけられるのを回避して、見つけました、白地に淡い緑の器。磁器の白地を基調に植物の葉が縁と中央に描かれている、埃をかぶっているがきれいなカップだ。残念ながら組であるはずのソーサーは無いようだが、他の店にデザイン違いで小皿があったので購入、こちらは縁に蔦の模様と金の縁取りがあるものと金の筆記体のような文字が取り巻く中四方に葉の模様があるものの二種類だ。
どちらも裏返すと高台に小さな緑の長方形に白く抜かれた動物のマークがある。間違いないだろう、たぶん。白の方だけでなく相手もマークに白を選ぶほどには想っていたことが嬉しく、提示された金額より多めに店に払い神殿に向かう。
このマークの食器がオークションで怖い金額になっている事を知るのはまだ先の話だ。
食器の購入を終えると早々にファストに移動するため神殿へゆく。フォスにあるだろうクエストもきになるがファストにまだ行っていないところもある。
神殿もファストより小造りだが拝殿と転職手続きをする部屋、その間にある転移の間と基本的な機能は変わらないようだ。
一応神殿を使うので、最初くらい拝んでおこうと拝殿に入る。広い一つの間に神像がぐるりと配置してある。神像自体も台座に乗っているため高い位置にあるが私の半分程度しか無い。
これ手のひらサイズで売ってないかな。
さて戻って参りましたファストの街。古本屋に行くには早いだろう。先ずは行った事のない北区へでも行ってみようか、地図を埋めるところから行こう。薬師ギルドにもいかねば。
やりたいことは沢山あるというのに馬車に乗りたくない私。
「すまん、町内移動用の転移門とかないのか?」
あったらいいなと転移門にいた、ふくよかな女性の神官に聞く。
「はは、流石に無いですねぇ。一応これ、神様からの授かりものなんですよ〜」
何やら新しい神殿を建て石のプレートを設置、神官数人で所定の儀式を行うとプレートに文字が現れゲートの出来上がりらしく、どういう構造で動くか謎なまま運用しているそうな。
プレートにする石自体もお高いそうだが、神殿からプレートへの一方通行であるならもう少し簡易な儀式で作ることが可能なため、その販売が神殿の特権となっているらしい。それでも手間がかかるため、一般では手の届かないような価格になるそうだ。
「他に『帰還石』という街の外から此処へ移動する、錬金術で出来るアイテムも聞きますが街中用は聞きませんね〜」
おや、そんなものが出来るのか。
「馬車の移動で十分では?」
「その馬車がダメでな。酔う」
「あらあら、【酔い耐性】のスキルもありますがお酒にも酔えなくなりますからね〜」
「どこで貰える?」
「貰えるというか、酒癖の悪い者への罰則でここで与えてますよ?」
欲しいんですか? えぇ〜信じられない〜 みたいな顔をされた。
神殿では冒険前に一時間ほど効果の続くエンチャントを有料でかけてくれる場所があり、そこでお布施という名の料金を支払い酔い耐性のスキルを貰った。
基本罰則として与えているが、たまに同じく馬車酔いがひどい女性が貰いに来ることがあるそうだ。
戦闘に使うスキルでないためかスキルポイントの消費はないが、何か男の癖に自分から酒に酔えなくなるのかコイツ、みたいな雰囲気の視線をたくさんもらった。
元々飲めんわ!
神殿のエンチャントは属性付与ではなく、身体防御や素早さアップの効果のある付与だった。神の祝福でアップするしこれじゃないか治癒士の神殿廻り。
興味はあるがスキルポイントも足らないのでスルーだ。六種類×3ポイントなんぞ無理!
さてこれで馬車に乗れるようになったはずだが、北西の区画、神殿の裏側に行った事がなかったので結局歩く。ここは西のフィールドで農業に従事したり、工房の雇われ人などの居住区だそうだ。
南西の露店近くの家よりしっかりした造りであちら側よりグレードが高そうである。それでも細い路地に入り込むと洗濯物が干してあったりと生活感丸出しだ。
そして私は現在、暗殺者ギルドにいます。
何でだ。
住宅街にこんなもの作らないでください!
「私は職業シーフでも密偵でもないんだが?」
「魔術士の暗殺者だっているだろう?」
まあ、医者の暗殺者だっているよな、表の職業は疑われないようなのやってる奴もそれは居るだろう。シーフででる職業だと思ってたよ!
ここを見つけたことが重要なんだと男は言う。中肉中背特徴のない顔、群衆の中に紛れたらわからなくなってしまいそうな印象の薄い顔。
「それにあんた、俺たちと相性いいはずだぜ? 観察してるだけじゃここは見つからねぇよう隠蔽されてるからな」
「相性が良くてもあんまり嬉しくないな」
暗殺者と相性良くてどうする!
「あんた、シーフじゃないが闇の気配がするんだよ、それがなければここの存在に気づいても入ることはできねぇ」とのたまう。
闇か、うん。闇属性どころか祝福も貰ってますよ。もしや祝福のせいで無茶苦茶見つけやすくなっとるのか。
不特定な人の出入りが多かったんで隠れ家的料理屋かと思って前のやつらを真似て入ったんだが。冷静に考えれば確かに料理屋じゃ入るのにノック三回爪先でドアを二回蹴ってまたノック一回なんておかしいな。
ヴェルナの祝福のせいではなさそうです、すみません。
「というわけで、ルールを破らねぇ限りあんたはお仲間だ。ルールは五つ、ギルドの場所をバラさねぇ、誰が暗殺者だかバラさねぇ、暗殺者のスキルをバラさねぇ、勝手に暗殺の仕事を受けねぇ、依頼の内容をバラさねぇ、だ。簡単だろ」
拒否権ないんですかそうですか。
「スキル使って周りにバレるのも駄目か?」
「スキルの内容や効果を話したり、仲間を売るような真似をしなけりゃ大丈夫だ。積極的に自分が暗殺者だと吹聴するのはオススメしねぇがな」
「冒険者ギルドの依頼とかで盗賊の討伐頼まれたりとかは?」
「そりゃ暗殺じゃねぇだろ」
「そうだな」
そう言う訳で暗殺者に成りました。
職業欄に暗殺者が増えた、二足の草鞋なのかこれ。いや、生産入れたら三足か。
ペテロが言っていた通りルールを破ったときのペナルティは二度と暗殺者になれないこと、暗殺者になったことで得たスキルを失うこと、ギルドの場所が変わりたとえ見つけたとしてもギルドの建物に入れなくなることだ。基本、行動で自分が暗殺者だとばれるのはかまわない様なのでしゃべらなければ大丈夫のようだ。
スキルに【隠蔽】がでたので慌てて取得、これで暗殺者と暗殺者に関わるスキルがとりあえず人に見せる時にギルドカードに載らず、相手の動物魔物鑑定のレベルが低ければ鑑定結果にも出ないらしい。
隠蔽より鑑定のレベルが10以上あると見えてしまうそうだが、まあ鑑定しまくった私で現在5レベルなのだからまだ大丈夫だろう。
ちなみに目の前の男を鑑定しても名前と鎧師という職業しかでない、職業はあえて見せているんだろう。
「【隠蔽】のレベルってどうやって上げるんだ? 【鑑定】に上げる方法があるということは【隠蔽】も積極的に上げておかんとそのうち見られることにならんか?」
「そうだな、そのまま自然に上がるのを待つだけでバレる馬鹿は多い」
ニヤリと笑ってスキル上げの方法を教えてくれた。基本取っただけでずっとかかっているものだが、意識的にかけることも可能とのこと。
あとギルドカードにかけようとして人にかけるものだと笑われた。
暗殺者のスキルには取得したスキルから派生するものの他に「仕事」をすることで解放されるものがあるそうで、どうだ? と早速のお誘い。
「安心しな。このギルドは真っ当なと言っちゃ語弊があるが、騎士団か冒険者ギルドの仲介がなきゃ仕事は受けねぇ。他の街には無差別で金さえ積みゃ何でもするギルドもあるがな」
後半怖いんだが。フォスで変なところに入らなくて良かった。
依頼をバラさなければ特にペナルティもないとの事なので一応受ける。盗賊ギルドからの依頼で掟を破って街中で殺しをした盗賊の暗殺依頼だった。この街の盗賊ギルドも基本はダンジョン探索などに力を入れる真っ当なギルドらしい。
問題は私に仮想世界とはいえこのリアルな世界で人が殺せるかということだ。
殺せるだろうな、殺せなかったら最初のウサギの段階でツンでる。光になって散るエフェクトのおかげなきもするが。これから先人型の敵も出てくるだろうしプレイヤー同士の戦闘もあるかもしれない、というかそういう機能はすでにあるけれど私が"受けない"を選択しているだけだ。
心情的に何も知らない真っ当な住人を殺すことは出来ないが相手も人殺しなら話は別だ。その時点で私の思考はゲームに切り替わる。殺すなら殺される覚悟もしなくてはね。
【隠蔽】の消費はEP、【動物魔物鑑定】をしながら【隠蔽】もかけ続ける、ますます食欲増進だ。
魔術の方も光を上げなくては。他の魔術と違って闇に使える魔法が増えたのは1、3、5、だ。奇数で増えるのかと思ったが闇が7になっても何も覚えなかった、2になっても魔法が増えなかったので光も闇と同じ増え方をするのだろう。闇はシャドウがあるのでいいが、光魔術が地道に上げておかないと上がりそうにない不安がある。
MPは自動回復と就寝時の回復頼りだ、早く調薬せねば。
暗殺者ギルドを出たところで暗殺者同士ならスキルのことなど話していいか聞きそびれたことに気づく。ペテロ絶対取ってるよな、まあいいか。
□ □ □ □ □
・増・
職業
暗殺者
スキル
【酔い耐性】【隠蔽】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.22
Rank D
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 605
MP 778
STR 34
VIT 22
INT 43
MID 16
DEX 15
AGI 22
LUK 14
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
■神々の祝福
【ヴァルの祝福】【ヴェルナの祝福】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔術Lv.3】【火魔術Lv.5】【土魔術Lv.3】
【金魔術Lv.4】【水魔術Lv.3】【☆風魔法Lv.3】
【光魔術Lv.2】【☆闇魔法Lv.8】
■剣術
【剣術Lv.9】【スラッシュ】
【刀Lv.1】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.2】
■才能系
【体術】
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.6】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.3】【植物食物鑑定Lv.4】
【動物魔物鑑定Lv.4】【スキル鑑定Lv.2】
【武器防具鑑定Lv.2】
【気配察知Lv.3】【気配希釈Lv.3】【隠蔽Lv.1】
■強化
【腕力強化Lv.2】【知力強化Lv.4】【精神強化Lv.2】
【器用強化Lv.2】【俊敏強化Lv.2】
【剣術強化Lv.3】【魔術強化Lv.2】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】【地図】【念話】
【装備チェンジ】