236.穴
《銀翼のワイバーンの毒牙×5を手に入れました》
《銀翼のワイバーンの大皮×5を手に入れました》
《銀翼のワイバーンの魔石を手に入れました》
《銀翼のワイバーンの鱗×10を手に入れました》
《銀翼のワイバーンの翼×5を手に入れました》
《『進化の欠片・竜の白鱗』を手に入れました》
《『銀翼のワイバーンのハーネス』を手に入れました》
コートが来るのかと思っていたらハーネスが来た。ペットの散歩用だろうか……? 馬具ということはあるまい。などと思いながら説明を開けば、腰から続いて太ももに渡るベルトだった。あれか、銃とか投擲具とかを下げる用か?
「……」
装備するのはミリタリー系でかっこいいのかSM変態なのか微妙なところ。
進化の欠片は竜系への進化かな? 二十揃えれば『進化石』になるはずだが、もしかして色も揃える必要があるのだろうか。一人で何色も集めても意味がないし、委託販売に出せるなら種類が多いのはあまり問題にならんか。
転移の小部屋でEP回復に揚げパンを食べながら考える。グラニュー糖の甘さときな粉、少しの塩味。スカスカというかパフパフな食感がチープで堪らない。ほろ苦甘いコーヒーシュガー味、バナナを挟んで一緒に揚げたココア味も作ったが、とりあえずきな粉味が先だ。
なお、前回予想した分岐は間違っていたことが判明。イエローヒドラから『鳥』『妖精』『獣』、レッドから『妖精』『獣』『骸骨』、グリーンから『鳥』『妖精』『骸骨』だ。ヒドラのレア種に会った時のみランダムで天鱗ルートとも呼ばれる『蛇』が現れる。なんのことはない、三十五層まではバロンのギルドに豊富とは言えないが資料があった。一回ルートを開けた後というか、ヴイーヴルを倒して転移プレートの登録を済ませた後は『蛇』が出現したままになる。私の場合、グリーンの分岐から『妖精』が消えることになるが、他から行けるので問題ない。
そういうわけでタシャの封じる獣、終わりの蛇『クルルカン』がここにいる予想。EPを回復して四十一層に足を踏み入れる。走り抜けてしまった層をレベル上げ方々隠し部屋などの見落としがないか見てみたが、特に何もなさそうだった。タシャの言う浅い層ってどのへんなのだろうか……。そもそも迷宮が何層まであるのか判っていない。
黄土色にカサカサと乾いた、岩の裂け目のような迷宮。出てきた敵はキマイラドラゴン。頭と羽はドラゴン、虎のような太い獣の腕、足は山羊、尻尾は蛇。
壁を蹴って飛んできたところを迎え撃つと、両断されたキマイラドラゴンの体が勢いのまま左右に割れ後ろに投げ出される。そして何事もなかったようにくっついて地面を蹴って飛びかかってきた! 再生能力が半端ないです。いや、これ再生って言うのか?
斬撃属性不可なんだろうかと、魔法を放てば一瞬動きは止まるものの、ビリビリと帯電したようなエフェクトが体を覆い同じ魔法をブレスとして吐き出してきた。
道中の敵がいきなり強くなりすぎじゃないか!? ギルドの資料では五十一層からアホみたいに強くなるってあったが、まだ層を残しているぞ! いや、もしかして打撃属性に弱いとかそういうオチだろうか。シンの出番なのにシンがいない!
キマイラドラゴンは飛ぶこともできるようだが、スピードは壁や地面を蹴ることで得ているようなので避けがてら山羊の足を狙い機動力を奪う。直ぐに再生してしまうんだろうな〜と思いつつ向き直れば予想外に地面にのたうつキマイラドラゴン。合成獣らしく継ぎ目が弱点とかそういうことか? 分かってしまえば簡単、幸い高い位置から飛びかかってくるので対処は楽だ。
宝箱を開けたらどうやって詰まってたのかというほど猛毒蛇が出てきたり【気配察知】や【糸】で判別できない罠がいくつか。【気配希釈】があるのか【忍び寄り】とかいうスキルでもあるのか、同じく【気配察知】に引っかからないラプトコルという小型の恐竜みたいなのが多方向から集団で忍び寄って襲ってくる。明らかにラプトルがモデルですね、羽毛無しの鱗姿だが。
終わりの蛇『クルルカン』への道がどういった形で用意されているのかさっぱりなので、称号【漆黒の探索者】でも分からない道や仕掛けがないか気をつけつつ進む。罠と分かりつつも箱を開ける、宝箱から蛇が出た後に鍵が一つ、とかいうことがあることを期待して。蛇にはだいぶガブガブされたので数種類の毒耐性がスキル取得可能リストに上がってきている。
【聖法】が効かない毒、薬の効かない毒、【神聖魔法】が効かない毒。回復手段も複数用意しろという前振りだろうか。重複して毒にかかってぐんぐんHPが減った時が今日一番冷や冷やした。
今歩いている通路は曲がり角や枝分かれの多いこの階層の中で一番長い直線。最初の変化は岩肌に刻まれた微かな模様。それがレリーフとなり、柱が現れ壁を掘り抜いた石窟寺院のような雰囲気に変わってきた。
石畳の床と岩がくり抜かれた飾壁。へこんだ飾壁には彫刻でも置いてあれば似合いそうだが、実際設置されているのは腕木で突き出された燭台に火の消えた松明だ。壁と天井の砂岩の黄土色が煤で黒く染まっている。
突き出し燭台は石造りの古い城や教会で松明や蝋燭をさし、廊下や部屋に明かりを投げかけるために設置されている。松明の使用は蝋燭がない時代だったのか、蝋燭より明るかったからなのか、どっちにしても燃えかすが酷かったろうなーと。木造家屋に住んでいた日本人からしたら室内で松明など信じられない暴挙だろう。
気がつけば床石も黒く敵の気配もない。『浮遊』していなければ自分の足音だけが響いただろう静けさの中を進む。【暗視】は持っているが、何もかも黒いため見えていても闇夜と変わらない。時々視界に入る『ヴェルナ白夜の衣』だけが薄っすらと光って見える。ここで【優雅なる者】でも発動させれば傍目には幻想的な気もするなぁとアホなことを考えつつ進む。走法を取得した時にオマケでついてきたエフェクトのでる称号だ。取った当初は面白がってエフェクトを出していたが今では滅多に使わない。レオは砂埃エフェクトを入れっぱなしのようだが。
【心眼】と【気配察知】に頼りつつ長い回廊を行く。そろそろ面倒がらずに【光魔法】で『ライト』を出そうかと思い始めた時、回廊は行き止まった。ヴェルスがいた祠のようにレリーフでもあるのかと明かりを出す。暗い中にいたので眩しくないように少しルーメンを落として……ルーメンは表現があまりにも電球だった。月の光のごとく光度を落として優しい光に……別にルーメンでいいか。元はラテン語だし。ファンタジー世界で使ってセーフセーフ。
突き当たりの壁は特に絵も模様も彫刻も何もなく、ただ穴が空いていた。道を塞ぐ、あるいは行き止まりのがさがさとした面を見せる石壁。その下の方に穴がある。下とは言っても天井が高いので私の腰くらいの高さだが。『ライト』で照らされることによって黒い丸い影となっている穴は、覗いても何も見えなそうだ。【糸】を這わせてみても穴の行き止まりに行き着かない。
さてこの穴はなんだろう? 魔石を一つ弾き入れてみたが、そう遠くへ進んだはずはないのに【糸】で後を追えず、指先から伝わる感覚は細い穴がただただ続くことを伝えてくる。まるで終わりを作るのを忘れてしまったかのような穴。本当に作り忘れのバグじゃあるまいな?
壁の前に猫足テーブルを出して考えついでに休憩。思い当たった穴の用途が正しかったら、壁が消えていきなりボス戦になるかも知れんのでEPの回復だ。HPMPは食べ終える頃にはフルになっているはず。
今回の食事はいくら丼。オレンジ色の輝くようないくらはレオのくれた夕日鮭の卵だ。塩漬けと醤油漬けと両方作った。筋子からいくらをほぐす時に使うぬるま湯で、少し白く濁った色が鮮やかなオレンジに戻るのを見るのが楽しかった。温度が高すぎると濁ったままになるので注意な上、薄皮や筋を取るのはなかなか大変だがこれが残ると生臭い。
ほかほかのご飯にしょうゆ漬けのいくらをたっぷりかけて。口の中に残る味は時々たくあんとアオサの味噌汁でリセットする。いっそウニも一緒に乗せてしまおうか。
幸せな食事を終えて、食後のお茶。このタイミングで白を喚び出す。
「おぬしはまた何か食っとるのじゃな」
そう言う白に茶を出してやる。
「EPの回復ですよ。探索がひと段落ついてボス戦になるか、新しいエリアにゆくかだ。まあ、不発に終わって戻ることになるかも知れんが」
もふりながらついでに現状の説明をすると納得したようで、周囲の様子を観察する白。
「前回の尻尾娘は喚ばんでいいのかの?」
「今日は白だけでお願いします」
「ふーん?」
ちょっと不審そうな目を向けられたが特に何も聞いてこず、ぬるめのお茶をてちてちと飲み始めた。
歓迎会と言う名の飲み会の後、炎王たちはハルナの暴走を謝りつつなだめてみる、と言って帰った。その時に「ハルナのノリはホムラがNPCだと思って安心しているからじゃねぇ? ホムラなことはともかくプレイヤーだってバラせば?」と酒が抜けて起き出したシンに言われた。
うん、すごく自分も思い当たるところがありました。プレイヤーとはしないが、気づけば住人とはスキンシップがだいぶ多く、距離が近い。カミラの胸が腕に当たるのもいつの間にか役得としてこう……。ラピスノエルはセーフだろうか? いや、抱っこまではともかく現実世界で耳の裏を嗅がれたりしない。でもそれは私からしてるわけでなく――自分はNPCとして住人を差別してたんだろうかとか色々考えてしまい、人型の住人には現在会いたくない気分なのだ。欲望にこのままどんぶらこっこと流されそうな罠。
「相変わらずいい毛並み」
私の膝に立ち上がりテーブルに前足をかけて茶を飲む白をもふって迷惑そうな顔をされる。長い毛はどこまでも柔らかで細いくせに絡まない。冷たいような暖かいような不思議な感触。モフる欲望は止めない私です。
まあ、あれだな。差別というより最初から距離が近いだけだな。親しくなると女性はもちろん、男性でもフレンドリーなキャラは肩を組んできたり内緒話に顔を寄せてきたり距離が近い。通りで住人が友人らしいプレイヤーの頬を摘んで伸ばしているのを見たことがあるし、幼女とハグしてキスしているプレイヤーも見かけた。いや、後半は通報案件だ。
白をもふって癒されたせいか、どうでもよくなってきた。現実世界の社会モラルはプレイヤーに適用、住人には私の個人的モラルで対応。ようするにこれまで通り!
マント鑑定結果【諦めついでにハーレム作ればいいのに、という気配がする】
手甲鑑定結果【……うむ】
作りませんし、作れませんよ!?
Wikiさん燭台は蝋燭なのか!(←感想をいただいて調べた)ここででてくる突き出し燭台はsconce(燭台)torch(松明)で画像を引くといっぱいかかってきます。かかってくるのは電気ですがw これをどう訳すのかわからない罠。あれか、いっそマイ○ラ台でいいか。
なお三国志時代は木造にもかかわらず普通に松明を室内で使用していた模様(←危ないので設置形式ではなく持っている専用の係がいたそうです)
ドラゴンキマイラは斬撃耐性ではないです、真っ二つになってるしね!
 




