21.新しい友人
「玉鋼がもっと欲しい気がするけど、扱うにはそもそもレベルが足りない感」
「鍛冶あげなくては」
「上がったらトカゲ狩り手伝って~」
「了解」
「はいでし」
「あがるころには玉鋼掘れたりして」
神殿に行く途中で住人に売ったらいくらになるか聞いたら結構なお値段してたのでびっくりだ。たまに国外から入ってくるがこの国では取れないそうで首都に行けば店での販売があるそうだ。
『月詠草』がまたその上行くお値段、こちらは入ってくることもほぼないとのこと。
『質のいい薬草』と『夜露の綿』、『月光の紡ぎ草』の値段差が十倍近かった。『質のいい薬草』はこの街の北でもとれるそうだ。売り値で十倍って買値はどうなってしまうのか。
取り敢えず全員交換は後回しで生産スキル上げしようということになった。
「『質のいい薬草』以外だいぶ先の素材になりそうだし金に変えて生産スキル上げの資金にしたほうがいいかもに」
神殿での登録を終え、現実世界の夕食が近いため宿屋を探す事になった。食後は生産あげるなり釣りするなり各自自由行動の予定だ。
解放された街同士は定期馬車が繋がり利用ができる。ボスを倒して転移石を登録、神殿の転移門を利用すれば一瞬で移動が可能だがお布施と称する利用料が高く、馬車の移動は時間はかかるが転移よりはるかに安い。
馬車に乗り中でログアウト、現実世界で就寝して翌日インすると目的の場所に放置されているという利用法が掲示板に書き込まれたそうだ。広場の石畳で寝ているプレイヤーが量産されそうなんだが、どうなのか。
道行く住人を捕まえ宿屋の場所を聞き、向かうと宿屋の前にロイ達がいて手招いていた。何故だ。
「おー! さっきぶり!」
レオがとんちゃくしないで挨拶する。
「ああ、さっきぶり。ここでさっきの黒百合とかち合ってな、あんまり絡んでくるんで宿替えるとこだ」
「ぶ、入るの止めよう」
同意します、絡まれたくない。
「それがいいと思いますよ〜、私はシラユリと申します」
白いローブを着たほわほわした感じの美人さんである。背丈は普通よりやや小さい薄い金髪のエルフだ、露出はないけれど柔らかい布が流れる胸元はこれまた柔らかそうでますますほわほわな印象だ。名前からして黒百合に絡まれてそうだが。
「俺は暁だ」
こちらは厳つい大男、と言っても背丈はそう変わらないのだが。横幅と胸板の厚みが違う、黒髪黒目に浅黒い肌、顔に傷持つ男臭い男だ。
「クラウです」
こちらも種族は人間、杖を持っているのでご同業か、回復職だろう、砂色の髪と瞳と相まって柔和で大人しい印象をうける。
「モミジですー」「カエデです〜」
双子っぽい印象の二人で、モミジは男の子、カエデは女の子だ。背丈最小で菊姫と違いカエデは胸もあるがアンバランスにならない程度だ。種族は二人とも猫タイプの獣人。
こちらもそれぞれ名乗って別な宿を聞いたと言うロイ達について行く。
ボスを倒しに行く前に補充を済ませて、休憩するために宿屋に行ったところで黒百合と鉢合わせたそうだ。漠然と宿屋の場所を聞くと住人は同じ宿屋を教えるのだな、と学習する。次回から飯の旨い宿屋とか風呂のある宿屋とか条件をつけて聞くとしよう。
「風呂があるほうがいいかメシが旨い方がいいか聞かれて、昨日野宿だったんで風呂優先にしたんで、飯は期待すんなよ」
「メシはホムラから奪い取るから大丈夫だ」
「お風呂上がりのビールも完備でし」
「お前ら……」
食材のほとんどを貰っているので構わんのだがなんか完全に料理人になってるな、私は人が作った料理を食べる方が好きなのだが。
そしてシン、あんまり人のスキルをばらすな、一回別ゲームでお茶漬にキレられたろうが!
とか思ったらシンがお茶漬に笑顔で足を踏まれてます。うん、あの時失礼な生産依頼が来まくって大変そうだったものな。
「ホムラさんは料理をするのですか?」
シラユリがこちらを見上げて聞いてくる、癒し系だ。
「ホムラでいい、"さん"は不要だ。何故かパーティーの飯を作ってるな」
「では私も呼び捨てでいいですよ〜。ホムラは戦闘しながら生産もするんですね」
「レオの釣った魚とドロップした皆の肉焼いていただけだが」
「生産は評価5以上つかないと貰える経験値が少なくて上がり辛いと聞きますが、やっぱりなかなか上がらないんですか?」
クラウが脇から言葉を挟む。
うん、普通低いレシピせっせと作ることを積み重ねてくよな。安定して作れるようになったら次のレシピへ進んでまたせっせとレベル上げ。
スミマセン、気ガツキマセンデシタ。
「レオって主釣り上げたレオ?」
幸い話が切り替わった。
「たぶん?」
「たぶんなのかよ」
「バグでワールドアナウンス聞けなかったんだぜ」
シンが助け舟を出す。
「称号二つ貰ってるっていうからこのレオで間違いねぇよ」
「本人が聞いてないってすごいな」
攻略組というと効率重視のドライで強さを争ってギスギスしてる印象があったがロイ達はフレンドリーで気さくだった。黒百合みたいなのもいるが偏見は止めようと思った次第。ほぼ関係ないはずの黒百合がからんできたのにも謝ってたしな。
「確かに風呂選んだがよ」
「何もご飯がセルフじゃなくてもいいと思うの僕」
「レストランか露店の場所聞くか」
「今から外行くのダルいです、ホムラ先生」
「出してもいいけど、材料を買い足して無いから作り置きで、しかも野菜少ないぞ?」
「ぜひ」
「肉肉しいの大歓迎」
食事が自炊だと判明した宿屋の自由に使える机と椅子のある休憩所のような場所でロイのパーティーが打ちひしがれている。居ないのか料理人。
「そっちも良かったら食うか?」
私の料理スキルが変なのバレるだろうが、まあここで誘わないというのもちょとあれだしな。
「おっ、いいのか? じゃあせめて肉の提供するぜ」
またもや肉。
野菜採取しようぜ、採取。
受け取った肉はシープシープと言うどう考えても羊肉だった。
骨つきだったのでこれはこのまま焼けということかと思い、香草焼きのリブステーキにした。野菜がクレソンだけだがな!
ちなみに香草は虫除けに買った香草です。大丈夫、肉料理にも合うって注釈あった。
そして今、シンとロイが出来上がっています。すごい端から見ると噛み合っていない会話で謎の盛り上がりをみせている。
それを見ながらコーヒー飲んでるお茶漬。つられて飲めないのにビールを飲んで既に撃沈しているレオ。
菊姫と暁は淡々と呑んでいるが、暁がやや菊姫の飲む量に引き気味だ。流石ビールは水と言いきるだけある。ゴッツイ漢に勝ってる、勝ってるぞ菊姫。それでなんの得があるのかは知らんが。
あとビワのタルトを食後に出したらシラユリがニコニコ食べて微笑ましかったんだが、まだ食ってる怖さよ。幾つ食うつもりだ! 思わず作り足したよ!
ペテロはシラユリを眺めている双子に懐かれている。ロリショタめ!
心の声が聞こえたのか、ブルッと震えてペテロがこちらを見てくる。
ろ り こ ん
笑顔で口パクしてやったらむせてた。
「いつもこんな感じなんですか?」
クラウが話しかけてくる。その手にはブランデー入りの紅茶のカップが包まれている、数少ない紅茶派の同志だ。
「いつもこんな感じだが、そちらは?」
「ロイはともかくシラユリがあんなに甘いモノ好きだとは知らなかったです」
ドン引き通り越して心配そうに見ている。私は私で光魔術上げるのを兼ねてライトで部屋の光量を上げている。変なパーティーだと思われているだろうな。
「ホムラさんの料理は何を食べても美味しいですね」
微笑みながら褒めてくるクラウ。周りに居なかったタイプです、いかん、穏やかな人を見ると実は腹黒なんじゃあとかんぐってしまう。完全にお茶漬とペテロのせいだ。ペテロは腹黒というか爽やかにヒドイだけだが。
「初期レシピでもまだ評価10が出来たことがないんだ。シープシープはセカンの魔物? あと、呼び捨てでどうぞ」
「ありがとう。私のことも呼び捨てで。ええ、セカンの草原に広く分布する魔物です。牛も農場で飼っていましたよ。サーからいらしたんですか?」
「いや実は……」
レオが大冒険したいといいだし北に真っ直ぐ森を突っ切ってきた話をすれば、ぽかんとした後、口元を押さえて笑い出す。うん、変だよな。
「いや、失礼。私たちは新しい敵やボスを倒すことが楽しくて、冒険だと思っていたんですが、そんな冒険もあるんですね。街道での野宿よりも楽しそうだ」
ひとしきり笑った後、愉快そうに言ってくる。
その後現実世界の小説の話になり、読書傾向が被っていることがわかりクラウの丁寧語に釣られて時々丁寧語になりながら予想外に楽しく会話して過ごした。現実世界では私の口調は当たり前だが違う、クラウと話していると素が出そうな罠よ。
結局シンと話していて盛り上がったのか、黒百合より早く討伐するぞー! とロイたちは討伐後に休憩を取る事に予定を変更した。マップを見ながらトレスした簡単な地図を書いて渡したので目印が無いとはいえ多少ボスが探しやすいはずだ。
そしてクラウに朝食用の食事を詰め込み送り出す。
「じゃあ、討伐がんばって~」
「いってらしゃい~」
「サンキュー! またな」
「さてじゃあ、風呂入って寝るか~」
風呂は部屋風呂と大浴場があった。ファストの宿屋が昼間食堂を一般に開放しているように、昼間は大浴場を一般開放するそうだ。とりあえず今は泊り客が私たちしか居ないのでだだっ広い風呂を占有している。
菊姫は隣で一人だ。
バスタオル巻き&異次元なので一緒に入ってもなんてことはない気もするが。
「露天欲しいなあ」
「日本実装に期待」
「日本酒が」
「露天で月見酒したいね~現実世界じゃできないだろうし」
「かわりに今ビールくれ!」
レオは泳いでるし他人が居ないからといってやりたい放題である。
「ホムラ結構筋肉ついてるな~ローブとコートでわからんかった」
「シンは無精ひげだけじゃなく脛毛もつけたのか」
「無精ひげのスキンとセットだったからそのまま使った」
「ペテロは細マッチョか」
「お茶漬はうっすいな」
「普通です普通。エルフだし」
お互いのキャラの出来を眺めるなにか。
「わはははは」
レオはまあ、何も言うまい。こっちにしぶきをかけるな。
シンとペテロが茹で上がったところで風呂から上がって部屋に移動、本日の収穫の話をする。
現実世界で風呂飲酒は危険だから止めましょう、倒れるぞ。
「そういえば貰った腕輪、VITだったんだが皆は?」
「同じだなあ」
「街開放のボスは全員同じかな?」
「リザードスレイヤーはトカゲ系にダメージ1.5倍か。トカゲって竜も入る?」
「入らんだろ、さすがに」
「スレイヤー系はみんなダメージ1.5倍増しでパーティー全体に補正かかるみたいだね」
「六人いたらさらに六倍?」
「さすがにそれは無い」
「デイドリザードから短杖でてるけど、お茶漬使うか~?」
「使う使う」
「私は短剣がでた。武器は皆違うのか?」
シンが短杖、私とレオが短剣、残りがグローブでした。
お茶漬とシンが短杖とグローブを交換している横で、ペテロと交換をする。グローブでも短剣でも私には必要が無いので売り払うだけだしな。
「そういえばホムラの魔法ってなんだったんだ?」
「【廻る力】という、謎解き解放アナウンスの報酬だな。詳しく言うと神殿の謎説明と被りそうだから言わないけど」
「派手でいいな~」
「次回のボスでもお願いします¥¥」
お茶漬の目が¥マークに見える。
昼間に夕食の準備は終えて温めるだけになっている、ログアウトしたら風呂も済ませてしまおう、十九時頃ログインすればこちらでは朝のはずだ。