227.盾と言う名の囮
「アンタら、統一性なさすぎじゃない?」
「これが騎獣ですか。真っ赤なタヌキは想像してなかったです」
東門から出て、迷惑にならない場所で騎獣をお披露目、アルムとシズルの騎獣たちを見ての感想。やっぱり真っ赤なタヌキ目立つよな。
「俺のアルファ・ロメオは速いぞ! 乗せてやろう」
「ありがとうございます」
「ささ、乗りたまえ」
ご機嫌にシズルを誘うレオ。シズルは素直に礼を言っているが、横Gすごい気がするんだが大丈夫だろうか?
「シズル」
「はい?」
レオに促され、アルファ・ロメオに乗ろうとしているシズルにそっと回復薬を手渡す。
「え?」
「気力回復効果くっついたやつだから」
調薬ではなく錬金でできた薬だ。
「え?」
「わはははは! じゃあ行くか!」
「え? えぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!」
シズルの叫びが街道にこだまする。その声を残して、赤い残像は視界から消えていった。レーノより速いぞ、あれ。
「うわぁ」
呆然と見送るアルム。
「横Gキツそうでしね」
「また速くなってる」
結果が分かっていた菊姫とペテロの冷静なコメント。誰も止めないクオリティ。
「まって、もしかして守護獣の宝珠使った?」
「ん? 使っちゃあかんのか?」
お茶漬の戸惑った声に、シンが問う。そういえばシンも騎獣に使うか迷ってたな。
「宝珠って一人一個しか貰えないんだけど」
「マジで!? あぶねぇ! 使っちゃうとこだったぜ」
「しかもアルファ・ロメオは色からして火属性だよね?」
「確か同じ属性に使うと大幅に上がって、他だとそこそこなんだっけ?」
お茶漬の言いたい事を察して返しながら、アイテムの説明をざっと見直す。
説明には再取得不可とある、『火華果実』と同じか。そういえば、ガラハドたちはもう手に入れたのかな? まあ、実を取得出来るのはカミラだけだが。
過酷だがパンツで有利な状況で色々底上げが目的らしく、安定したらフェニックスに挑み、その後は、希望があれば他の騎士の護衛。
『火華果実』をもぐことはできないが、高値で売れるドロップ品はあるので、赤字にはならないだろう。中でも蘇生薬の材料は私が買い取る予定なので、頑張って欲しいところ。
いや、今は宝珠のことだった。鸞の討伐報酬の宝珠は風属性を上げる効果。付随して AGIも上昇する。自分に使えば、神々の祝福ほどではないが似た効果を得られる。もちろん既に持っている属性との相性もあるので、合わなければ武器防具に合成するのが一般的だそうだ。まあ、思い切って騎獣に使うのもありだろう。
「レオ、風と水は祝福以上だよね」
「寵愛までいってそうだが」
私と取得のタイミングは違うが【水中移動】をゲットしとったし――私に【人間魚雷】出なくて何よりだ――、ファルとは一緒に会ってもいるので【ファルの寵愛】は確実な気がする。ヴァルの方は確か寵愛だと言っていた、スピード関係のスキルだか称号を貰ったんだったか。普段の行動と性格からしても、あの愉快犯的女神の寵愛持ちは順当だろう。
……。
レオもペテロも忍者を目指して、同じ水と風の称号持ちなのに何故こんなに差が……。闇か、闇の差か。レオが忍者でペテロが弓使いを目指していたはずなんだが、二人とも最初に目指していた職業を忘れている気がする。
「まあ、あたしはトカゲに乗せてもらうよ。一番安全だろ」
「乗るなら馬だろ、馬!」
「飼い主の問題だね」
色々考えているうちに出発の気配、そういうわけでアルムは黒焼きに。私の白虎も酔い耐性があるのをいいことに、乗り心地は上げていないので妥当だろうか。なお、菊姫の白雪は一人乗りだ。
シャカシャカ走る黒焼きを見下ろし、話しながら街道を走る。時折り黒天が視線をやると、黒焼きのスピードがあがる。レオたちの姿は影も形もない平和な道中。
「ボスを倒さんとサーの街へは入れないよな? シズルは大丈夫だろうか……」
「ボス直行だね。サーの敵は序盤にしてはイヤラシイ攻撃してくるけど一撃はそう痛くないから、もし絡まれてもシズルでも耐えられるよ」
「そそ。サーくらいまでは一撃死はしないだろうから薬がぶ飲みでいけるいける」
私の不安に返ってきたペテロとお茶漬の答えがなかなか酷い。薬は初期の生産素材と共に、大量に渡してあるそうだが。
「馬車で行ったセカンの道中は安全だったんだね……。レオの事故防止という意味で」
アルムが遠い目をしている。ボスの初討伐があるまで街は門を閉ざして、人の行き来ができなかった。初討伐が済んだ後は、定期馬車が通り移動が可能となるので、ボスを倒さずとも街に行けるようになってはいるが、倒せば転移門を起動できる。さらに四箇所のボスを倒せば、クランへの登録と他国への移動も可能になるので是非頑張って欲しいところ。
「サーが終わったら、休憩ね。20まで上げてもらわないとフォスとファイナは無理」
「いや、防具揃えて『生命の指輪+5』つけてもらえればギリギリでフォスはイケるみたい?」
「頼むから掲示板で限界に挑戦しているようなヤツを例に出さないで」
お茶漬とペテロの会話に泣きを入れるアルム。
「フォスとファイナのは止められない痛い全体攻撃とかランダムがあるでしよ。勿体無いけど二人とも防具を揃えるでし」
出世払いでシルを貸してるし、ゴミを溜め込む癖のあるシンとレオは素材を提供している。第二陣の生産レベル上げは周りの助けがあれば早いのだ、防具を買ってもすぐに上のランクが装備できるようになる。
「勿体なくてもいいから今防具が欲しいよ、あたしゃ」
【黒耀】を飛ばして
アルムに『シャドウ』をかける。
私がやや離れたボスの正面、シンが側面、ペテロが後ろといつもの配置に着く。
そして始まる戦闘。
数ある小さな湖沼を避け、森を走って到着、お久しぶりのサークルモスさん……と思ったら鉄板モスさん。会ったことはないがお茶漬が以前、ドロップ目当てに昼間通って面倒だとぼやいていた記憶。
「『鉄のサークルモス』か〜! ここでレアボスは運がいいのか悪いのか。こいつのドロップ鍛冶のクエでいるんだよなあ」
ダンゴムシのようなサークルモスの姿そのままに、体を覆う甲殻が鉄板になっていて重機のキャタピラっぽい。黒光りするその姿を眺めながら、シンがため息を漏らす。
「攻撃力はノーマルと大差ないけど、やたら防御が固くて面倒だと噂の。売ってるのはお高いし」
言っている言葉は困ってる風だが、シンとペテロの声が少し嬉しそうだ。
「そいつは嬉しいね!」
アルムもこれは嬉しそう。
「はっ! 私以外は鍛冶屋!?」
「そういえばサークルモスって、防具をダメにする酸を吐いてきたな」
サキュバスほど強力な溶解液ではないので、防御力が少し下がり、焦げたような跡がついて見た目が多少悪くなるだけだが。私たちの装備品のランクが上がっているせいか、鉄のサークルモスの酸も大差がない。
「まあ、初期装備ならロストはしないし」
鉄のサークルモスを影で絡め取る攻撃をしながらペテロがなぐさめる。――なぐさめ?
「新しい装備買わなくてよかったじゃん!」
シンに悪気はない。
「そういう問題じゃない!」
「大丈夫だ。この酸の攻撃、タゲ取ってるヤツに行くから」
「ぎゃ!」
言い切ったところにシンに【酸】。
「あと、【酸】がついた人に特大攻撃がくるかな?」
「いででっ」
言った途端にシンに大ダメージ。
「と、いうわけでシンに【酸】がついたら『中和剤』を投げるお仕事を頼む」
「ちょっ! 遅い!」
アルムは慌てるが、二番目のボス相手にどうにかなるほど弱くはない。食らえば痛いが、私が食らってるんじゃないしな!
「ちょっと待て! ホムラもペテロもダメージでかいの入れられるだろ! コンボぶち込んだ後ならともかく、なんで俺にタゲきてるんだ!」
シンがなにか納得いかないようだ。
「私、柔らかい忍者ですし」
「私、柔らかい魔法剣士ですし」
「私、柔らかい生産職、レベル13ですし。――忍者なんて職業解放されてるのかい?」
「フッ、今は目指してるだけだけどね。転職の石板手に入れれば多分出ると思うよ」
扶桑に忍者がいるからには、条件を満たせばペテロの言うように、職一覧に載ってくるのは間違いないだろう。専用職という感じではなかったしな。
「貴様ら〜〜〜ッ!!」
「私とホムラがタゲとったら、ボスあちこち動かしちゃうでしょ」
「防御型じゃなく回避型だからな」
白装備にすればその場で回避し続けるのもいける気がせんでもない。その前に一撃入れてダウンが取れる気もするが、現在はクランパーティー用装備。VITが職的に高いのはシンだし、防具も布だが、菊姫の初回に着ていたプレートとは遜色がない、そして職業柄その場で最小限の回避か防御だ。守るべき者がいるのにわざわざ事故原因を作ることはないだろう。
「まあ、準備ができた」
私の周りに光の帯が現れ、文字を描いてゆっくりと回る。
「巡って爆ぜろ、【火魔法】『ファイヤレイン』」
炎の雨が鉄のサークルモスのいる場所を中心に降り注ぎ、高温の拳大のそれは丈夫な甲殻を次々に穿ち、焼き、融かしてゆく。
「派手!! やるなら早くやれ」
いや、手順を踏まないとできないからね?
「初めて見た、攻撃魔法。きれいでいいね、標的は悲惨だけど」
「ダウン取ってそうだけどそのまま逝ったかな?」
炎に焼かれながらのたうつ、鉄のサークルモスを眺め三人が言う。
「大ダメージ与えるなら倒しきらんとな」
《鉄のサークルモスの甲殻×5》
《鉄のサークルモスの胸当て》
《鉄のサークルモスの鉄×5》
《ルビー×10》
《素早さの指輪》
「おお! 鉄五個来た! 一発クリア!」
シンが嬉しそうに叫ぶ。
「あらうらやましい、私四つ」
「私も四つ。五ついるのかい?」
「そして関係のない私が五つ」
「ホムラ、一つ売って。剣鍛冶の納品クエストも盾鍛冶の生産クエストも五ついるね、アイテムも数も共通かな?」
ペテロとアルムは一つ欠けて四つずつドロップしたようだ。ペテロがアルムの質問に答えるのを聞いて、薬士のクエストが手付かずなことを思い出す。
「メンツが揃ったし、クランが登録した冒険者ギルドの依頼も落ち着いたら受けようぜ。一個出てるよな?」
「今回、白子来ないのか?」
揃ったと言うシンに聞き返す。
「ゾンビに夢中というか、あっちで取りまとめ役やってるから来ないよ。バイザーは買ってるみたいだけど」
答えはアルムから戻ってきた。
「残念」
「白子は元々集団戦で、敵も味方も予想どおりに動くの好きだからな。普段は気ままだけど」
「レオと相容れない何か。まあ、あっちで楽しくドンパチやってるよ」
「楽しいなら何よりだ」
VRでゾンビは勘弁してもらいたいが。
「もう一つ残念なお知らせです」
会話の区切りで、私たちほど白子と親しくないペテロが口を開く。
「何だ?」
「ギルドからの特殊依頼って、昨日倒した守護獣関連みたい」
「ぶ!」
ペテロの言葉にシンが噴き出す。
「取っておいた意味が」
「まあ、そんなこともあるよね」
マント鑑定結果【そんなことがありすぎるよね、という気配がする】
手甲鑑定結果【……うむ】




