224.守護獣
海の底、ゆっくりと流される鐘が鳴る。その後ろに死人の行列。
ついて行く人々の状態は様々で、ただただ青白い美しい女性、魚についばまれたのか、骨の見えている者、斬り付けられた傷そのままの海賊。様々な屍体が鐘の後をついて歩く。鐘の音は最初高く美しく響き、最後は低く小さく震えるように後を引き海に飲み込まれる。
シ ン:ぎゃあああああああ!!
レ オ:うぇえええっ!?
お茶漬:これはなかなか……
ペテロ:これはまたw
ホムラ:突然のホラー
菊 姫:葬列でしか
ペテロ:歩いてるように見えるけど、これ海流に流されてるのね?
お茶漬:近づいたらお仲間入りになりそうでこわいですね
海水の温度差があるのか、少しゆがんで見える。ためしにローブを流してみると、ゆらゆらと揺れていた大きな布は海流に触れた途端、あっという間に巻き込まれ葬列の仲間になる。
シ ン:こえぇよ! 中身ないのに人の形に膨らんでるんですけど……
菊 姫:海流に触るとこれに巻き込まれるでしか?
お茶漬:いろんな屍体があるのは、どの時点で巻き込まれたかで差がでてるの?
ホムラ:やたら装飾品が多い女性は生贄でFAだろうか
ペテロ:本当だ。他と違ってほとんど傷んでないし、重りがわりにつけられて沈められた風だねw
ホムラ:海流が低温っぽいな
いったいいつからある流れなのか知らないが、そこかしこ海底を削って流れているので、流れの道筋はわかるし、よくよく見れば温度差があるのか海水の中に歪みも見える。しばらく眺めていると赤いブーメランパンツが目の前を横切って行った。
お茶漬:ちょっと、レオさん! 何流してるの
菊 姫:一気にホラーがシュールになったでし
ペテロ:気が抜けるwww
レ オ:わははははは! 一応確かめてみた!
シ ン:罰が当たるからやめろ!
シ ン:ぎゃあああああああっ
【糸】で回収するか、と思ったところで悲鳴。シンがパンツを掴み取ろうとして海流の中に手を伸ばし、巻き込まれた。そういうところ、嫌いじゃない。原動力はただホラー系が怖いだけなのかもしれんが。
お茶漬:何をやってるんですか
ペテロ:あの姿勢は決まってるのねw
ホムラ:シン……惜しい漢を……
レ オ:わははははは
菊 姫:あ、【潜水】のレベルあがったでし♪
意識のあるはずのシンも海底から少し上を浮遊しているような状態で、ややのけぞったような格好で手をだらんとさせて運ばれてゆく。どうやら自力で出られないようだ。
シンの乗っていたイルカが隣できゅ? っと鳴く。くっ! けっこう凶暴なくせにつぶらな瞳しおってからに! とか思っていたらレオの乗っていたイルカが、海流に向かって体を勢い良くくねらせレオをシンのちょっと後ろにイン。
「きゅっ!」
若干ドヤ顔に見えるレオのイルカ。そう、君たちはフグをつついて毒の痺れを楽しんだり、なかなかヒドイ遊びが好きだよね!
レ オ:ぎゃあああああああ!!! 寒いいいいいい!!!
シ ン:貴様らああああああっ! 助けろ!!! 冷てえええ!!!
お茶漬:順当な二人
体はだらんとした感じなのに、二人からはめいいっぱいの叫び。
自分のイルカに不安を感じたのか、申し合わせたように降りて流されるレオとシンを追う。まあ、イルカとかクジラは肌が弱いと聞くし、長時間触りまくるのは良くない、騎獣のこともあるのでそこはファンタジーかもしれんが。
菊 姫:なんかシンとレオに赤いバーが出てるでしよ?
ホムラ:減ってってる減ってってる
お茶漬:どうしたらいいのこれ
ペテロ:やっぱり先頭の鐘かな?
ホムラ:壊すのと引っ張り出すのどっちだ?
菊 姫:教会に戻すんなら引っ張り出すでし?
ペテロ:了解
そう言ってペテロが投げた鉤爪のついた縄が鐘に絡む。忍者の道具を着々と揃えていっている気配。
ペテロ:ととっ
菊 姫:手伝うでしよ
お茶漬:けっこう重いのね
力持ちのシンが抜けているし、海流の圧がかかった鐘はなかなかの抵抗を見せる。
ホムラ:うんとこしょ、どっこいしょ
ペテロ:それでもカブは抜けません?
お茶漬:どんな話だっけそれ
菊 姫:おっきなカブが抜けなくて、家族全員どころかペットも交じって抜いた話でし?
ホムラ:ロシアの民話だったかな?
ペテロ:三本の矢的思想の刷り込み寓話ですねwww
シ ン:お前らああああああ
レ オ:凍傷、凍傷になるううう
お茶漬:大丈夫、大丈夫、まだ君達のバーあるから
菊 姫:あ、ぬけたでし
鐘は海流から出ると、ひときわ大きな音を鳴らし見る間に崩れた。同時に海流も消えたらしく、流されていた屍体が急に推力を失いゆらゆらと浮いて、あるいは海底に横たわって行く。
レ オ:ひー! 寒かった!
シ ン:息、息!
解放されたシンが慌てて浮上して行く。
お茶漬:なんか海底揺れてない?
ペテロ:揺れてるね
ホムラ:うをう!
菊 姫:きゃーでし!
揺れはあっという間に大きくなり、サンゴのテーブルを崩し亀裂が出来たらしい場所に砂が吸い込まれて行く。そして甲高い声をあげて巨大な鳥が現れる。
ペテロ:うわ、でた獣
お茶漬:鳥型だって読んだから油断してた!
菊 姫:鳥なのに海中戦なんでしか! ふんばれないでしよ!!
ホムラ:綺麗な色だな
レ オ:鳥でも獣!?
ターコイズブルーにも見えるエメラルドグリーンの翼、胸から腹にかけては真紅、長く繊細な尾羽。【鑑定】結果は、守護獣『告げる鳥鸞』。
ホムラ:王様即位の時に良いやつだと鳴く鳥か。
ペテロ:鳳凰の青いヤツとかだっけ?
お茶漬:あんたらの知識はどこからくるの?
リーンと、鐘の音に似た鳴き声を一つ上がると、こちらに向かって羽ばたく。たちまち瀑流にさらされる私たち。透明度が高かった海水があっという間に濁り、視界が利かなくなる。海水は平気なのに、砂混じりのそれは痛く、ついでに【暗闇】の効果付き。すぐさまお茶漬が治してくれたが、まともに目が開いていられない。
シ ン:ごふっ
シンが上から落ちて海底に叩きつけられた。水の抵抗も浮力も無視した下降海流とかそんなのか? 高気圧障害とかでないだろうなおい。でたとして、回復とかで治るものなのだろうか。
菊 姫:とりあえず【オンリーワンエネミー】でし!
お茶漬:ごめんちょっと息継ぎ!
レ オ:おう!
ペテロ:いってら〜w
ホムラ:じゃあ、お茶漬が戻ってくるまで俄か回復
シ ン:ぎゃー! またか!
菊 姫:きゃ〜、スキル解除されたでし〜!!
ペテロ:私の準備スキルも消えたwww
再びの砂嵐、割れたサンゴの欠片も高速で飛んでくるので軽いダメージを負う上、どうやら発動しているスキルの解除効果もあるようだ。
お茶漬:あばばば
そして落ちてくるお茶漬。
ペテロ:これ、もしかして呼吸に上がるとくる攻撃?
ホムラ:そんな気がする
菊 姫:一緒に上がった方がいいでし?
ペテロ:次は一緒に浮上してみようか
シ ン:連れションみてぇだな
レ オ:わははははは
お茶漬:叩きつけられるのけっこう痛いです
ホムラ:ごほっ!
お茶漬:菊姫のスキル解除ですよ?
お茶漬が自分を回復しないので、なんだろうと思いつつ回復をかけたら攻撃を食らった罠。敵の注意を引きつける用の【オンリーワンエネミー】が無効にされた状態で、ヘイトの高い『回復』をかけたらそりゃ食らう。改めて菊姫がスキルを掛け直し、お茶漬が回復してくれる。
回復は最大HPをオーバーした分だけ、攻撃はダメージ量が多ければ多いほどヘイトが高くなるため、何も考えずに行動すると盾役から敵のタゲを奪ってしまう。攻撃の方は単に手控えればいいのだが、回復は控えると対象が戦闘不能に……。ついでに普通は防御力も高くないので攻撃がきたら最悪死ぬので、パーティーが回復役がいないまま戦闘をする羽目に陥る。そういうわけで回復は気を使うから嫌いです(吐血)
尾羽の先が上がっていたらランダムに二人、あるいは三人が狙われて、三角のターゲットマークがつく。狙われた時にいた場所が数秒後に大爆発、さらに数秒後にターゲットのついた対象を中心に爆発の二連。なので真ん中にぴったり集まって、尾が戻ったら真ん中が爆発しないうちに蜘蛛の子を散らすように散開。
お茶漬:ちょっ! レオ、ついてこないで!!
レ オ:ぎゃあ!
お茶漬かペテロ、私が行く方向が安全地帯だと認識しているきらいのあるレオが、反射的にお茶漬について行って惨事が……。まあ、三角が付いていたのはお茶漬だけなのでセーフ。レオと両方についていたらダメージ二倍でアウトだったが。
シ ン:うへ。痛そ
菊 姫:本人が巻き込まれただけでし。それよりも、攻撃受けると後ろに流されるでしぃぃ!
ペテロ:ふwww
ホムラ:そのうち踏ん張れるスキル生えるんじゃないか? がんばれ
あとはファストのボス達とそう変わらない力押しの攻撃。HPがだいぶ多いようだが、パターンさえわかってしまえば作業に近い。が、途中ボスが回復を使ってきたりするので長丁場の様相。
お茶漬:クリア情報見ると、僕たちは適正レベルより上で来てるから、変なことしなければクリアできると思うけど、ちょっとだるいですね。
シ ン:レオが事故を起こすフラグか!
レ オ:わははははは!
ペテロ:ホムラ、高位エンチャント持ってる?
ホムラ:そのようなものはない!
お茶漬:ボスに時間がかかるようになってからハイエンチャント人気ですよ、あと聖法の高位付与。
真面目にエンチャントをかけて、回数をこなしていれば出ているはずのものなのだが、サボっています!
菊 姫:あー、ギルがエンチャント、幾つかとるっていってたでし
ペテロ:触ったほうが効果が高いスキルとかあるから、敵にかけるのは近接が便利だけど、知力低いから威力がねw
お茶漬:初期職が魔術士とか治癒士の近接が【付与士】にこぞって転職よ
シ ン:強いのか?
お茶漬:弱点属性持ちの魔物相手ならけっこう劇的ですね。
シンが鸞に拳を叩き込む。海中なので高さはどうにでもなるのだが、足場がない。
シ ン:踏ん張れないときついなあ
ペテロ:【水中移動】でたけど、足元は安定しないね
レ オ:ぬあ!! うらやましい!!!!
ホムラ:ダメージ行く気がするけど、使えるかな? 『ウォーターウォール』
水の壁を作り出し盾とする、本来なら敵の攻撃を阻んだりする魔法だ。突っ込んできたりしたらそれなりのダメージを負う。
シ ン:おお、サンキュー
ペテロ:これはいいものです
レ オ:おお!!
お茶漬:ちょっと、レオ加減してください! ダメージ、ダメージ!
菊 姫:痛覚解放してるはずでしよねぇ? 鈍いでし?
攻撃力は安定して上がったが、お茶漬の苦労度も上がった。まあ、いつもどおりですね。
《守護獣『告げる鳥鸞』を倒しました》
アナウンスとともに、鸞の体が砕け、光の粒が消えてゆく。
――そして再び鐘が鳴る。
シ ン:ぎゃあ!
菊 姫:襲ってくるかとおもったでし!!!
不規則に漂い、離れていった屍体が再びあちこちから集まってきた。そのまま覆いかぶさってくる勢いだったが、復活した海流に引き寄せられ、次々に飲み込まれてゆく。どうやらこの海流はボスステージを取り囲む大きな円だったようだ。
『ああ、私の声を聞く貴方』
『ああ、私の姿を見る貴方』
『ああ、守護獣を倒した貴方』
声の主は、葬列の中の生け贄判定を出した女たち。薄物をまとい、装飾品で身を飾る、一様に美しい金の髪を持つ女。
『この地の守護獣は狂ってしまった』
『この地の守護獣は地に縛り付けられた』
『この地の守護獣は閉じ込められた』
『集めた力を還元できなくなった故に』
『故に守護獣は倒されねばならない』
『力を還すために』
『守護獣の力の一部を持って行くがいい』
『いつかその力も還すために』
《守護獣『告げる鳥鸞の宝珠』を手に入れました》
《守護獣『告げる鳥鸞の鐘』を手に入れました》
お茶漬:長かった〜。お疲れ!
ペテロ:おつおつw
シ ン:こええよ!
菊 姫:おつかれでし
レ オ:お宝ゲットだぜ!!!
ホムラ:お疲れ様〜
シ ン:鐘は教会の鐘鳴らすところに行って鳴らすのか。またホラーじゃねぇよな?
ペテロ:さあ?w
『告げる鳥鸞の鐘』は、きれいな色をした手乗りのハンドベルみたいな形状。各地に残る教会の鐘楼で鳴らすと、鐘が呼応して鳴り、次の場所がわかるらしい。でかい鐘引きあげて設置するのかと思ってたのでちょっと拍子抜けした。
菊 姫:宝珠は風属性強化でしか。ここ海の中なのに……
レ オ:鳥だったし!
ホムラ:ペンギンは果たして風属性なのかどうか……
お茶漬:ぐっと身近な事例。
ペテロ:鸞とペンギン比べないでwww
シ ン:んー、ペットに使えるんだ。同じ型なら超強化か〜。武田くんに使おうかなぁ
などとわいわいやっていたら、イルカが並んでこっちを見ていた。ハイハイ、帰ります、帰ります。
――亀のことを思い出したのは、転移でクランハウスに帰ってからでした。




