223.亀と猫とイルカと
※二話まとめて投稿したのでこのお話の前に閑話があります
ラノーゼにつくと早速手分けして、クエストの手がかりを探す。 石灰岩で作られた白い壁に、円錐に尖った灰色の屋根がちょこんと乗った可愛らしい家がかたまって建つ、海辺の小さな町。首都のナヴァイ・グランデは石灰を塗りたくった白い建物で、照り返しも含めてキラキラと大変眩しかった。こちらは屋根と同じ濃い灰色の石が道に敷いてあること、道が狭いため、日陰が多いことで、目に突き刺さるような印象は受けない。なかなか可愛らしい町だ。
そして、ここのクエストをクリアすると、ファガットの海岸から、亀に乗れるようになる。具体的に言うと、クランハウスのある島にタダで移動できるようになり、舟より速い。
大きめの島は区画分けし、冒険者向けに分譲され、けっこうお手頃。環境的にも南の島リゾート、利便性抜群のファストと迷う人は多かったらしいのだが、移動が不便だった。それでファガットに買ったクランハウスを放置気味にしている人が多い、という説明から、「そこで亀です」とお茶漬が言った時には、なんだろうと思ったものだが。
うちは早々に転移プレートを設置したので、ハウスへの移動は亀でなくていいのだが、ここの亀はハウスの他に、ダンジョンのあるラコノス島、海賊島の二カ所も移動先として選べる。前者は定期船が出ているが、海賊島は亀に乗らないと行けない。いや、漁師と熱い友情を育んだり、船を購入したりと渡る方法はあるようなのだが、いかんせん狩場として通うためには、毎度漁師を危険にさらしたり、船を壊されたりするのは心証が悪いし効率も悪い。そこで亀なのである。
同一エリア――今でいうならこの町の中――のパーティ、もしくはクランメンバーであれば情報を共有しても、劣化なあれこれにひっかからないのが検証されているので安心してという、お茶漬にしたがってばらけて探索中。ここには守護獣が出るという話もあるので色々聴き込みたいところ。
ペテロはどこかに姿を消し、菊姫は酒場へ消え、シンは道行く住人に話しかけ、お茶漬はなぜか奥様方の井戸端会議にまじっている。
……レオは亀なら浜だろっ!、と真っ直ぐ海に向かい崖から落ちていった。下は海だがこの場合、浜辺がないことを喜んでやるべきか。
「この町で一番古い家というか、昔の事が残っているところはどこかな?」
「お館様は何度かかわってるって話だし、薬屋かねぇ」
私はというと、店で買い食いしつつ情報集め。図書館があればそちらへゆくのだが、この町にはない。食事のできる店も、小さな宿屋と兼用の一軒しかないが、総菜屋も兼ねているらしく持ち帰りもできる。話している間も、自分の家から持ってきたらしい鍋に料理をよそってもらう奥様が何人か。なかなかびっくりな光景だが、独り者は店で食べて行くし、持ち帰りは大人数用が多いのだろう。
お館様は一応ラノーゼを所領としている貴族だが、繁忙期には一緒に収穫作業をするような方だそうだ。たいして広くない町だし、村長に毛が生えたようなもんさね、と笑う店主。その割に敬愛の情が見て取れる、きっと町の外の人間がお館様を侮るようなことを言えば本気で怒るのではないだろうか。
お茶漬:で、なんで僕たちは亀じゃなくイルカに乗ってるの?
ホムラ:レオがシャコガイに挟まれたから?
レ オ:わはははは! ……痛かったっ!
シ ン:【潜水】あってよかったぜ
レオはあれから海の底で巨大シャコガイに挟まれ、真面目にピンチになったらしい。【潜水】で、長時間潜っていられるので助かったようだ。クラン会話でも悲鳴は聞こえていたのだが、毎度の事だと思ってスルーしていた。シンはいつもの悲鳴な中にも何かを感じ取ったらしく、助けに行った。
【潜水】は海落ち経験から手に入れた【素潜り】からの進化だそうだ。なお、【釣り】持ち全員が持っている模様。魚に力負けして水に引き込まれることも多いそうだ。菊姫は普通にハウスのある南の島で泳いで手に入れ、ペテロは「忍術ですよ」と言いはるのでどういう経路で入手したのか謎だ。節を抜いた竹をくわえて池に潜っている姿しか想像ができないのだが。
ペテロ:ホムラとレオの相乗効果が計り知れないwww
ホムラ:私は真面目に謎を探していただけだぞ
菊 姫:普通は廃墟の掃除はしないでし
ホムラ:私だって普通はしないが、白猫が灰色になりそうだったんでつい
教会の建っている崖の頂上に向かう冒険者の姿を見てついて行ってみたのだが、途中で白い猫と会い、今度はそっちについていったら廃棄された教会の地下蔵だった。誰も入らず、埃の積もった床でごろんごろんと。今思うと、白猫が寝そべった下を調べろというヒントだったのだろう。私は調べるより先に、埃の掃除を生活魔法でした結果、地下への扉を見つけた。扉といっても他の床の石と変わらず、鍵穴がついていただけだが。
ホムラ:白猫ってやわらかい猫おおいよな。もっちもちだった!
菊 姫:うちの白雪もやわらかいでしよ
ホムラ:後でこねさせてください
ペテロ:はいはい、あんまり浮気すると白虎が泣くからねw
レ オ:がおおおお!!
シ ン:遠吠えか!
鐘のない教会の鐘楼と、鍵のかかった地下への扉。そしてシャコガイから助けられたレオの握っていた鍵。
教会の、多分ワインを保管していた地下蔵の床のさらに先、狭く急な階段は終わりが海に沈んでいた。これは引き潮の時に来るべきなのか、と話し合っているところで登場したのが、今乗っているイルカだ。現在海の中を進行中。透明度の高い海の中は、色とりどりのサンゴと小さな魚の群れ。時々ウツボ型の魔物に襲われたりもしたが、なかなか快適に美しい海を満喫。
だがしかし、なかなかイルカの泳ぐ高さの調整が難しい。
お茶漬:息継ぎギリギリにサメとあうのやだね
シ ン:怪我するとわらわら寄ってくるしなぁ
菊 姫:海底をいくと浮上が間に合わないでしよ
ペテロ:かといって真ん中より上はサメがねw
レ オ:わはははは! 【潜水】のレベルを上げたまえ!!!
お茶漬:海に落ちた経験の差ですね
うん、ソロだったら海底を行こう。ウツボはいるけれど風景は綺麗だし、わらわらよってくるサメの相手よりマシだ。息継ぎのいらない【水中移動】便利、便利。
シ ン:なんで貝の中に鍵なんかあったのかね
ホムラ:ああ、昔は教会同士でけっこう宗教戦争やっとったそうで、教会の主たちが、何度か海に逃げ出しているみたいだから、その時落としたとかじゃないか?
ペテロ:ありそうな設定だねw
ラノーゼは、崖の高台の途中にある小さな町だ。町までは手入れがされているので崖と呼ぶのを少々ためらうが、少し離れた教会の建つ一番高い場所はまさしく崖だ。エルフの古老も生まれていない昔、まだ神々の気配がこの世界に薄かった時代。神々の教えを人が代理で布教する場所、『教会』があちこちにあったそうだ。
その後、神々が頻繁にお告げを出し、人前に現れるようになって、教会は神殿に名前を変えた。一柱だけを信じ、時には違う神を奉じる教会同士でよく小競り合いを起こしていたらしいが、それもなくなり、神殿には一柱の神でなく主たる神々全てが祀られることが多くなった。
と、薬屋のエルフの血が混じっているという婆さんに聞いた。エルフだった祖母に聞いたそうだ。こう、千年生きる種族が混じっていると、歴史が過去にならないな!
ついでに十字架こそないものの、見た目が現実世界の教会なので聞く前に普通に教会として認識していた罠よ。
ちなみに、石畳の神とか、主たる神々の属神が祀られているのは大きさに関わらず、『祠』と呼ばれる。関係するギルドの建物の中や、個人の工房にあることが多く、目に触れる機会は少ない。完全に私の中で祠の形状が神棚になっているんだが、訂正される日はくるのだろうか……。
お茶漬:亀の方は、総合すると教会のある崖から飛び降りるでファイナルアンサー?
ペテロ:まあ、他の人も続々と教会のほうへいってるしね
ホムラ:身も蓋もないことを言う
菊 姫:ファイナルアンサーでし。こっちは明らかに違うクエでし!
レ オ:わはははは!
ペテロ:これ絶対、守護獣の方のクエストでしょw
お茶漬:そういえばこの周辺でしたね、鳥。
ホムラ:鐘探しじゃないのか?
シ ン:わかんねぇけど、両方じゃね?
イルカに乗って何をしているかというと、教会の鐘を探している。海に落ちた伝説を聞き込んできたのはお茶漬で、特別な十二の鐘が世界にあり、その一つがこの教会の鐘で、戻して鳴らすと次の鐘のある方向がわかるという、先の長そうなクエストを聞き込んできたのはシンだ。守護獣の話はもうクリアした人がいて、アナウンスが流れている。
ペテロ:両方であってるよw
菊 姫:あってるでしか?
シ ン:バラして平気か? 謎的な意味で
お茶漬:このくらいなら平気平気、アナウンスで分かる範囲だもの。
ホムラ:そういえば、惣菜買いに来た女性が待つ間、鐘の音に聞き惚れて眠る獣の童話を子供に聞かせてたかな?
お茶漬:その場合、今起きてるのその獣?
レ オ:謎がいっぱいだぜ!
ペテロ:鳴らすと守護獣でるって司祭の末裔が言ってたw
シ ン:起きるんじゃねぇかよ!w
菊 姫:あ、何か聞こえるでし
ペテロ:鐘の音?
聞こえてきたのは水の中とは思えない澄んだ鐘の音。




