221.疑い
レオの庭について不思議に思っている方が何人かいらっしゃるようなので説明追加しました。
お茶漬が「髪は赤・オレンジ・黒・金がいた」というので、アキラ・柴……パーシバル・カミラの妹さんがいたのは確定か。お茶漬が黒髪を認識していなかったのなら、私だけ【ヴェルスの眼】で、金髪が黒髪の女性に見えていた可能性を考えていたのだが。カミラも妹がパーシバルたちと一緒にいると言っていたしそれはないか。うーん?
「どうしたの?」
ペテロが聞いてくる。
「いや、私その金髪認識できてなかったから」
「バグか〜?」
「それは嫌すぎる」
笑いながらバグだというシンに嫌だと返す、VRでそれは軽くホラーじゃあるまいか。
「ホムラの場合、うっかり視界に入ってなかった可能性」
「そんなところまでスルー能力高いにゃ!?」
お茶漬がひどい!
「さすがにいた・いないくらいは認識できる!」
名前が覚えられないだけですよ!
「アキラの連れているNPCは気持ち悪くて好かん」
「あ〜。炎王、初めてあいつらと組んだ時からずっと言ってるわねぇ」
「炎王キライなの、NPC全部かと思ってたにゃ」
「最初に戦闘で組んだのがアレだったから、NPC全部ああなのかと思ってたしな。普通のNPCはNPCで人間臭すぎて違和感あるぞ」
遭遇が短すぎてわからんかったが、アキラくんとその連れは、九尾の【傾国】やら『魅了』で軽くイっちゃってるのかもしれん。
九尾が違うとなると、はて?
帝国にいるのは、九尾と鵺。右近は鵺についてなんと言っていた?
『鵺は一般的に"猿の顔、狸の胴体、虎の手足、尾は蛇"と言われているね。けれど本当は、"鵺の声で鳴く得体の知れないもの"だよ。主体がなく、見るものによって姿を変える化け物だ』
鵺はもともと夜に鳴く、姿が確認できず声だけ知られる鳥で、雉だか鳩だかに似た鳥と思われていたらしい。現在鵺の名を持つ雷獣とも言われる妖怪は、姿も名前もないモノだったらしいが、いつの間にか姿が知れないもの同士、混ざったようだ。
夜鳴く鳥は、今はトラツグミがその声の正体と言われているがどうなんだろうか。そして、アキラくんたちに鵺がくっついている疑惑。
「うん。ホムラの場合、パーティー組んだことのないハルナとコレトは覚えられてるか怪しいね!」
「え〜、それはないんじゃないかしら? ごはんいっしょに食べたわよねぇ?」
「そこはホムラクオリティ、食べた料理は覚えていても人の名前は覚えていないハズ」
「白の賢者さま、かっこハート、とか呼ばれてるのが、それでいいのかにゃ!?」
「わはははは!」
真面目に鵺について考えていたら、何か違う方面に話が進んでた!
「烈火のメンバーは覚えました!」
「なお、着替えられたら分からなくなる模様?」
「……っ!?」
間髪入れないペテロの補足に詰まる私。今いる三人はともかく、ほかはやばい気がする。
「ただいまでし〜。わたちが最後?」
言葉を探してもごもご言っている間に、菊姫がクランハウスに転移してきた。
「おう! おかえり〜」
「おかおか!!」
「おかえり」
「これで全員だね」
「みんな来たばっかりですよ、また新しい服なの」
「ちょっと買い物に夢中になっちゃったでし」
お茶漬が気づいた通り、菊姫はジャケットコートにコートの裾から少しだけのぞくミニスカ、ファー付きのハーフブーツという、見たことのない街着。菊姫が同じ服を着ているところをあまり見たことがない。
「ギル、クルルも炎王もこんばんはでし〜」
「邪魔をしている」
「こんばんは、おしゃれねぇ」
「こんばんにゃー」
菊姫は荷物が溢れそうなのか、クランハウスの個人ストレージでごそごそしながら、炎王たちとも挨拶を交わす。
「あ、ハルナから伝言。昨日は騒いでごめんなさいって」
「一日で収まってよかったにゃ〜」
「収まったと言うより、掲示板に移動しただけだけどねぇ〜。初めて書き込んだところで、いきなり特定されて怖がってたけど、無事書き込みして交流できるようになったみたい」
「え、あのノリで掲示板に書き込みを……?」
「大丈夫、みんな似たようなノリだから」
大丈夫じゃない気がします、掲示板怖い。
「じゃあ、私たちは行くわ。ありがとう」
「明日の二陣が来る前にクランハウスの土地買っちゃうことになったにゃ!」
「出遅れた感はあるが、ここを見て欲しくなった」
ここはせっせとお茶漬と菊姫が居心地よく整えてるからな。
「大丈夫、街中の賃貸借物件以外は高いからまだガラガラ」
「街中も立地が良かったり広かったりするところはまだあるしね」
お茶漬とペテロは本当にいったいどこから情報を持ってきてるんだろう。ペテロはともかくお茶漬は歩き回っている風はないのだが……。掲示板、掲示板か!
「迷宮があるし俺はバロンでいいんだがな……」
「あそこ景色が荒涼としすぎてるにゃ! 癒しがないにゃ!!」
「雨が降らない割に、天気が悪いのよねぇ。晴れても空は灰色混じりのはっきりしない水色だし」
クランリーダーの炎王の意見は弱い様子。
「そこでカジノだぜ!」
元気よく笑顔なレオ。言ってることが爽やかじゃない。
「転移プレートおけば、距離の問題は万事解決! 俺と一緒にレッツルーレット!」
笑顔ウィンク付きで炎王たちに親指立てた人差し指を向けるシン。
「はいはい、ギャンブラー二人は黙って、黙って」
そしてお茶漬にぞんざいに扱われる二人。
烈火の三人を見送って、全員でナヴァイに移動する。ここから西の突端に移動することになるのだが、以前サーペント狩りに来た時と違い、白虎がいてくれるので楽だ。強い日差しに代わって、今は夜風が気持ちいい。店が開いておらず、ナヴァイ貝の串焼きが買えないのは残念だったが。
東側の街は、ハウス建築の材料集めで転移門を開いている。今回は西側の街の転移門もついでに解放してしまう予定だ。まず目指すはドロミル、その後南下してラノーゼという小さな町へ。
ドロミルはドワーフとの交易が盛んな港を持つ、首都に続いて二番目に大きな都市だ。ファガットの国民より他国者が多い闘技場があるハダルは除いてだが。あれは特殊だし。
「釣りしたいなあ」
「クエスト終わってからにしてください」
海に熱い視線を向けるレオにお茶漬が釘をさす。まだ早朝と言っていい時間だが、港は荷船だけでなく、漁船も入ってくるため、街の海辺は暗いうちから活気がある。水揚げされた魚が、同じ方向に運ばれてゆくのを見て、私も実は市場に行きたくなっているのだが、我慢する。
ここに来たのは転移門の解放と、朝飯のためだ。神殿と冒険者ギルドは開いていたが、港から離れた街中はどこもまだ開店前だったため、神殿で教えられたこっちまで出張ってきたのだ。こっちは海から帰る男達を迎え入れる朝と、漁に出る前の夜の方が活気があり、逆に人のいない日差しの強い昼間は閉めてしまう店が多いそうだ。昼間開いているのは交易品を扱う、商人向けのちょっとお高い店とのこと。そういうわけでさっそく、港と船で働く男達に混じって、繁盛してそうな店に適当に入り、食事を注文する。
一仕事終えて酒を飲む男達に混じって、席に着き運ばれてきた料理に手をつける。
「パプリカって一時間だか、火にかけると甘くなるって聞くが、現実世界だと電気代を気にしてしまう」
ナスやオリーブ、ケッパー、アンチョビなどを詰めて、じっくりオーブンで焼いたパプリカの詰め物。パプリカの甘みが最高においしい!
「肉詰めかと思った、これもうまいけど」
上にパン粉がふってあるので詰め物の中身が見えず、完全にピーマンの肉詰めを想像していたらしい男がぼやく。
「シンの好きな肉がないでしね」
「まあ、たまには魚もいいさ」
ハムやチーズの入ったマッシュしたポテトのオーブン焼きを切り分けながら菊姫が言えば、レモン水を飲みながらシンが言う。上の焦げ目と、とろけるチーズが美味しそうだ。
「レモンとオリーブオイル、魚介が基本なんだね」
ペテロが新鮮なイワシをオリーブオイルで漬け、レモンを絞ったマリネを口に運びながら言う。
「途中、レモン畑あった!」
「なんかグレープフルーツくらいの大きさだったな」
一般的なレモンよりはるかにでかかったので、最初見た時は何かと思ったのだ。
「散策もしたいな」
「ラノーゼのほうが狭いけど観光地っぽいってよ?」
「どうせクエストのフラグ探しでウロウロするから」
私の希望はペテロとお茶漬がラノーゼの方へ誘導、ペテロはともかくお茶漬のほうは身も蓋もないというかなんというか。
「これから行くところはワールドアナウンスで『守護獣』討伐流れたところでし?」
「そそ。あわよくば討伐したいね、倒せるのは一回きりだけど報酬おいしいらしい」
ちなみに初討伐は【黒百合姫】。ロイのところほどではないが結構な人数のクランメンバーがおり、二軍のパーティーに偵察させてから、最適な職で組みなおして討伐するスタイルだとか。黒百合がいないのにクリアすると叱られるので二軍でクリアしそうな場合はワザと負けるそうだ。
それはともかく、ドロミルムール貝を白ワインで蒸し、胡椒とレモンをかけただけの料理、貝とイカ、エビの入ったトマトソースのパスタ。大変美味しゅうございました!
店から出ると、ちょうど港に大きな帆船が入ってくるところだった。ジアースのセカンで見た船よりもだいぶ大きく帆も多い。何より優美だ。
「頼んだらドワーフの国に乗っけてくれっかな!」
「まだ断られるって。何かクエストがあるんじゃないかな」
「船が作りたいって言って、造船方面に進んでる生産職もいるみたいだし、クエストなのか生産なのか」
「船に忍び込んで行こうとした人が、海竜に船ごと戻されたっていうから何かクエストがあることは確定じゃないかな」
レオの言葉に、今の現状を教えるペテロとお茶漬。海竜さんはおいしい水を流したら通してくれるかもしれないぞ!
お腹いっぱいになったところで、騎獣たちにもおやつをあげて、ドロミルを出てラノーゼへ向かう。
「そういえば、ミカンの苗木あるがレオいるか?」
レオの騎獣、アルファ・ロメオの好物はミカンだ。
「おお! いるいる!」
「レオは土地とスキルもってるでし?」
「ない!」
「だめじゃん!」
「まあ、高いからね」
笑いを含んでペテロが言う通り、庭へとつながる扉は少々お高いため、レオには買えない模様。
「扉さえ買えれば、結構な広さだと思うんだがな」
モンスターハウスのあの事件のおかげで多分参加者全員広くなってるはず。クランハウスの自室に庭の扉をつける事もできるので、あとは扉だけのはずだ。ちなみに高い所に扉をつけると、庭の出入り口も同じ高さに出来る。菊姫が開けて落ちかけたそうだ。ハウスがのった巨木もハウス扱いされるのか、ちゃんと同じ形で生えているとのこと。
ついでにいうと、クランの島に家を建てるのは自由だ。いや、正しくは申請しておくとクランマスターのお茶漬か、バイスの私か菊姫が承認する仕組みだ。クランの土地によって建築面積に制限があるが、余裕で足りる。実際、ペテロは家というか、倉庫を一部屋作り、その中に毒草園への扉をつけている。
大きなクランは、さすがに制限してクランハウスに部屋だけだったり、部屋どころか下手をすると共有スペースの出入りだけ許可されている場合もあるらしい。なかなか世知辛いが、クランのランクをあげれば、共通の庭も手に入るらしい。
「島に植えちゃいかんの?」
「植えてもいいけど、生育環境が整ってないとダメだから。うちの島はミカンには暑いでしょ」
「あと成長速度も普通になるね。収穫がその季節にならないとできない」
シンの問いにもお茶漬とペテロの解説コンビが答える。
「おー、じゃあオレンジとレモン植えてみようぜ!」
そしてレオ。
「おい。ミカンはいらんのか」
「あ、そうか。ミカンだった! わははははは!」
通常営業です。




