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219.走るのは爽快

『おそらく距離をとって戦ったほうがいい相手だ。気をつけろ』

遠距離物理が有利なコースのボスだ。どう考えても近接は不利だろう。


『承知したのじゃ』

『もともと触る気はないわ』


 答える二匹に魔法をかける。【時魔法】レベル35『ハイヘイスト』、効果はそのままスピードアップ。ヘイストより効果は高いが効果時間は短め。どう考えても全員魔法系、ドルイドにMP継続回復があるのだが、残念ながら大地に足をつけていないと効果が無い。私も含めて全員浮遊しているのだった。


 威嚇なのだろうか、ヴイーヴルの口からシューシューと気管支を通る空気の音が響く。ぬるぬると私の身長より太い長い体を蠢かせ、鎌首をもたげたかと思うと、高い位置から毒を吐いてくる。人一人覆いそうな毒液の直撃は避けたが、床に当たって砕けた飛沫を受け、慌てて解毒。見れば直撃した石の床には穴があいている。


『飛沫を受けただけで毒か。直撃を受けたらダメージプラス劇毒かな?』

『直撃を受けるほどまぬけではないのじゃ』

状態異常の毒・劇毒状態は耐性薬やら抗毒・劇毒で予防できるのだが、どちらか片方だけだ。とりあえず、劇毒は単なる予想だし、自分も含めて直撃を受けるほど鈍くないと信じて、抗毒薬を飲み、二匹にも投げる。


 白は白虎より大きい。というか長い。道中は狭いので肩に乗るサイズのままだったが、ボス部屋は広いので小さくなっている必要がないため、今の本来のサイズに戻ったのだろう。おかげで薬が当てやすいし、もふもふ増量だ。


 ヴイーヴルは鎌首をもたげたまま、器用にトグロを大きくくねらせ、攻撃をしてくる。部屋の半分近くはくねらせる体の攻撃範囲。身をくねらせながら移動もするため、必然的に避けるための移動距離も長くなり、気をつけねば部屋の隅に押しやられて逃げ場を失う。移動しながら攻撃の出来る手段がないと、本格的にきついのではなかろうか。ヴイーヴルが止まるのは今のところ、毒を吐くためのモーション中のみだ。


 【重魔法】レベル40『鉄塊の拘束』。対象の体に攻撃行動を取るたびに鉄塊が生まれ、動きを阻害、飛行系の敵は地面に落とす。レジストされるかと思ったが、どうやら通ったようだ。蝙蝠の羽根に瘤のように無骨な鉄塊がむくむくと現れ、ヴイーヴルが移動できなくなる。

 さすがはボスなのか足止めはしたものの、完全に動きを阻害するまでは至らず、攻撃は止まない。身をくねらせ毒を飛ばすヴイーヴルの攻撃範囲は広い。


 【氷魔法】レベル35『氷のエストック』。遠距離物理が有利なのは避けながら攻撃ができること、与えるダメージが多いのは弓や投擲具に多い貫通属性のほうじゃないかと予想。白が器用に攻撃を避けながら状態異常をつけている。


『私のスキルは弾かれるのに……』

『直接接触するぶん効きがいいんじゃないか?』

白の攻撃の大半は対象の体に触れて発動させるタイプだ、リスクのある分強力なのだろう。クズノハの魅了や混乱などのスキルはヴイーヴルに効かず、あきらめて【狐火】を放っている。



《ソロ初討伐称号【地底の財宝】を手に入れました》

《ソロ初討伐報酬『古の蛇の皮』を手に入れました》



《お知らせします、迷宮天鱗ルート地下35階フロアボス『ヴイーヴル』がソロ討伐されました》



《ヴイーヴルの鱗×5を手に入れました》

《ヴイーヴルの毒牙×5を手に入れました》

《ヴイーヴルの大皮×5を手に入れました》

《ヴイーヴルの魔石を手に入れました》

《ヴイーヴルのガーネット×10を手に入れました》

《ヴイーヴルのダイヤ×5を手に入れました》

《『ヘビ皮の袋』を手に入れました》



 ヴイーヴル戦は、途中、浮いていなかったら何か食らってたんだろうなーという攻撃がきたが、大した盛り上がりもなく終了。遠くから魔法でちまちま削るのは安全ではあるが退屈だった……ような気がする。


『おぬし、戦闘中に隙あらばもふろうとするのはやめるのじゃ!』

『至福のもふもふが側にあったら触るだろう? 諦めろ』

ルーチンワークに近い戦闘における心のオアシス。


『……側にいる人間の胸でも揉んだら?』

クズノハから冷ややかな流し目が。彼女のほうは人型のイメージがあるから控えていたのになんでだ!


『何故そこで胸』

『男ってすぐ胸を揉んだり口吸いしたがるじゃない。そのほうが健康的で自然なコトなんでしょ? ……私は御免被るけど』

『いや、こう……。誰だそんな知識吹き込んだの』

全否定できないが肯定もできなくて、反応に困るから止めろ! 

『似たような事は大勢から聞いたわ。対象が私じゃないなら止めない』

クズノハの男嫌いの根が深そうなんだが。


『まあ、雑貨屋の連中なら喜んであちこち触らせてくれるじゃろ』

『むしろ油断すると私が嗅がれている気がしなくもないな』

ラピスとノエルならなでさせてくれるだろうが、欲望のままもふると私が犯罪者になりそうなので困る。今のところ思う存分もふってお互い問題がないのは白虎だけだ。


 もふるなと言いつついつものサイズに縮んで、いつもの定位置に納まる白。そしていつものごとく頬を寄せる私。しっとりとした絹のような肌触りに癒される。


 菊姫とレオからログインただいまメールが来ていたので、返信しつつ解放された奥の小部屋に向かい、転移の登録を行う。本日は全員揃ったら、ファガットでクエスト予定だ、今崖から海に飛び降りるのが流行っているらしい。

 お茶漬はすでにいるので、あとはペテロとシン待ちだがペテロはともかく、シンの帰りは遅い。40層まで行ってしまおう。


 ネギマをもぐもぐしながらもらった称号とアイテムを確認。【地底の財宝】は貴石や宝石の採掘でワンランク上が混じるそうな。『古の蛇の皮』は脱皮した蛇の皮で、持っていると普段シルを落とさない敵から、シルが落ちるようだ。今回はお金が貯まる方向の称号とアイテムで、属性石の地域還元を考えている現在、ちょっと嬉しい。

 アホみたいに儲けさせてもらっているので、買取と販売の差額の負担など微々たるものなのだが、貧乏性ですね! 私だけ買取の値段を下げても、他に売られるだけだしな。お茶漬に会ったら属性石のこと相談しよう。


 『ヘビ皮の袋』はアイテムポーチの容量が大きいもの、私は【ストレージ】があるのでこれは売り払うか誰かに譲ろう。



『む、進むのか?』

『ああ、行ってしまおう。少し急ぐから今度は私も積極的に倒すぞ』

『承知したのじゃ』

『あら、じゃあ競争ね』


 扶桑鶏の焼き鳥を食べ終え、出発。軟骨入りのつくねを作りたかったのだが、軟骨はドロップしない。ドロップする骨は乾いており、明らかに料理用ではなく武器防具・薬などへの加工用だ。手羽先とかはドロップするのだが、加工しようとすると露店で買った料理の包装のように骨が消えるのだ。そのまま焼くと骨も付いてくるのに、謎だ。

 軟骨の唐揚げとか牛の骨髄焼きとか無しなのか? いや、ありそうだよな、この異世界(ゲーム)。まあ、骨髄を焼いて食うのはモツ好きや、魚の煮こごりとかゼラチン質好きな人にはぷるんとたまらないらしいのだが、臭いもきつめで脂っぽいので私は好かん。だがしかしダシ用に欲しい……。雑貨屋で醤油を買って行った人が、豚骨ラーメンがどうのと言っていたので、方法はあるはずなんだが。


『ちょ、ちょっと……』

『なんだ?』

悩んでいたらクズノハに話しかけられた。【誘引】プラス『伏雷』で、絶賛殲滅中。『伏雷』は敵が密集しておらんと真価を発揮しないのだが、ばらけているなら集めればいいじゃないかと、クズノハを見て思った次第。幸い36層からは、飛ぶ敵がメインのだだっ広いフィールド、走りながら【誘引】を使って、適当なところで『伏雷』を放てば大層効率がいい。


『ここって迷宮よね? やっていることがおかしくないかしら?』

『他に人はおらんし平気だろう』

マルチエリアではないし、人が狩っている獲物を横取りするような事件は起きないので大丈夫だ。これが明日の金曜日、場所がファストブリムとかだったら非難轟々だろうけど。明日はいよいよ第二陣が入ってくる日だ、今はあまり人の姿をみない初期フィールドは大にぎわいになるはずだ。もっとも、第一陣(ともだち)が手伝うだろうし、生産組が初心者用の装備に気合を入れているらしいので、あっという間に移動する気もするが。


『これのやることを気にしたら負けじゃぞ。ほれ、はよう魅了をかけるのじゃ』

『……私の迷宮の認識が変なのかしら?』

もごもご言いながら【魅了】振りまくクズノハ。白は私の肩から【狂化】をかけている。対象に触れずに、かつ多数にかけられるのが【狂化】と【催眠】で、【魅了】や【混乱】などにかかった状態だと効きがいいらしい。状態を上書きする手法で、かかりにくい状態異常を付加する方法は覚えておいて損はない。


『白、スキルが悪役っぽいぞ』

『おぬし、我をなんだと思っておるのじゃ』

白がジト目でこちらを見る。そういえば封印の獣って悪役でしたね。


 脆い草も生えない地面に、灰色の空。ところどころ蟻塚のようなものがあるが、障害物らしい障害物はない。鱗を持つ羽アリが飛んでいるので、らしいではなく蟻塚だな。他に、迷宮飛びトカゲ、鱗カラス、プチドラゴンの無属性と木と金、火属性。上ばかり見ていると下にも数は少ないが魔物がちらちら。まあ、まとめて始末するのだが。幻想ルートほどではないが、プチドラゴンから属性石が落ちやすいのが嬉しい。


 エカテリーナが到達したという、『炎の巨人』がいる60層まで行けば、ボスの名前的に属性石が取り放題な予感がするので頑張りたいところ。きっと分岐ルートは『水の巨人』やら『木の巨人』だと思うが、さすがに60層をソロはきついだろうか。火と風ならばダメージ軽減されるしいけるかな? 水の属性石も集めたいのだが、60層に突入する前に海中の敵とかも試してみるべきか。


 『伏雷』で倒しきれなかった敵も、ダメージを受けて落ちてくるので斬り払うのに上への移動は不要。スピード重視なので、後方に落ちた敵には倒しきっていないものもあるが、気にしない。追いついてきたらきたで、二度目の『伏雷』を食らって沈むだけだ。


『レベルは上がるけど、ほぼ走っているだけだわ……』

クズノハがため息混じりにこぼす。

『我も早う元の力を取り戻したいのじゃが、比較対象がコレじゃと強くなっているのかどうか不安になるのじゃ』

『白峯を(くだ)しているし、強いのだろうとはおもっていたけれど、あの時は他に式もいたし。でもこれは規格外を通り越しておかしいのではないかしら……』


 なんだかもふもふ二匹が愚痴ってるのが聞こえる。念話なんだから小声に意味はないぞ!



 そんなこんなで40層到達。ボスは『銀翼のワイバーン』、名前の頭に何かついているのでレアボスなのだろう。ここの通常ボスがワイバーンか。ナルンの山を越えるのには一体レベル幾つ必要なんだろうか? たしか山の上の方に複数飛んでいたはずだ。



□   □   □   □

・増・

称号

【地底の財宝】

□   □   □   □ 




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― 新着の感想 ―
戦闘風景の筈なのに、ほのぼのしている。 通常営業だった。
[良い点] 崖から飛び降りるのが流行っているww 理由はわかるけどさあ!
[気になる点] 迷宮の中ってメールとか送れない仕様じゃなかったですっけ? 勘違いだったら申し訳ないです!! あと住人はホムラと一緒に転移する時選べない場所とかは無いんですかね?(国を解放とか) だい…
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