211.過去の仕掛け
ボス戦を終え、停滞&休憩中。魔法陣フェンスが行く手を阻んでいる。魔法陣が描かれたマンホールの蓋みたいな丸い石に乗ると、同じ模様の魔法陣フェンスが開くのだが、一つ進んだ先の丸い石はこの先の魔法陣フェンスと模様が合わない。たぶん、奥のプレートを菊姫たちと同時に踏むと、全て開いた状態になるのだろう。
「フッ! かかったな愚か者よ!」
「な、なにぃ!? 貴様、裏切っていたのか! 出せ!」
空中に光る魔法陣フェンスの向こうで、唇をゆがめて嗤うシンに向かい、叫ぶ私。
「助けは来んぞ! 貴様はそこで滅びるのだ!」
シンの足はプレートから離れ、魔法陣フェンスの前に移動している。
「くっ……!」
そのシンに手を伸ばそうとして魔法陣フェンスにはじかれる私。
「……暇なのか」
「すみませんねぇ、あんなのばっかりで」
うちのクランのピンクのローブの男が、炎王に何か言っているのが聞こえる。
こちらはボス戦が終了したのだが、菊姫たちは時間がかかっている。相手はロックゴーレム、こちらはシンとギルヴァイツアでごり押ししたが、あっちは職業的に時間がかかるだろう。ハルナの魔法は効きが悪く、ペテロとレオの器用と速さ依存の攻撃は、物理の中でもロックゴーレムの硬い体には通りにくい。
「打ち合わせもせずによくあんな小芝居できるわねぇ」
「連携難易度高いにゃ」
ギルヴァイツアとクルルがコーヒーを飲みつつこちらを眺めている。
「ふはははは! あがけ! 命乞いをしろ!」
「……貴様っ! って、あれ?」
「何だ?」
真顔に戻った私に、シンが聞いてくる。
「いや、なんか書いてあるというか、これ開けてはまずいヤツだ」
シンが透けて見える魔法陣の下方、そこに文字がある。
「まずい?」
「ああ。そっちからは文字の認識できんかったが、こっちから見たら読めるんだが……」
こちらの文字は日本語ではない。読めると言ったが、正しくは読めないのに何と書いてあるか日本語で理解ができる、だ。反対側から見たときは魔法陣の一部としか思わなかった。
「うん?」
「『三区画中央・ダンジョンの魔物の大部分を収集封印。解放する場合は、三区画から魔銀採掘師を退避させること』だ、そうです」
「ぶっ! やべぇじゃん! 三区画にいるヤツラに開けたら後でフルボっこされるわ!」
「どうしたにゃ?」
シンの大きな声に、他も集まってきたので、いったん魔法陣フェンスを開けてもらい、皆で読んでもらう。
「っておい。知らずに開けたら悪者かよ」
「モンスターハウス解放を非戦闘員があふれたマルチエリアで、ってかんじかしら?」
「大惨事キタコレ」
「魔銀って今あんま採れないハズにゃ。安全に採掘する仕組みが、掘れなくなって破棄されたのかにゃ?」
魔銀は魔法銀のことだ。錬金でも作れるが天然の方が珍重されるらしい。私には違いがわからんが人造物とは色が違うそうだ。
「ダンジョンにしては一区画、二区画とかってかわってんなーって。階層違うのによ」
「三区画に帰還用のプレートあったものねぇ。あれ、ダンジョンに置いたら構造変わって直ぐに無くなるはずよね?」
フェンスの中で言い合う五人。
「フッ。かかったな愚か者よ?」
「はいはい、出るからさっさと踏んで?」
ちょっと疎外感を感じて小芝居を始めようとしたら、お茶漬に流されました。
「あっちはまだボス戦中だな。連絡つかん。メール入れといたし、こっちは帰還するか?」
「ボス戦終わったら、初攻略アナウンスでんじゃねぇの? こっちが帰ったら向こうもクエスト失敗とかでおん出されるんじゃねぇ?」
シンが首をかしげる。
「ああ、初討伐はちょっとおしいにゃ」
「終わった後、勢い余ってメール見ずに踏みそうで怖いな、レオとか」
「大量虐殺で有名になるチャンス! 特に名前の売れてる烈火さん。僕は辞退します」
すぐ浮かぶ事故を口にすれば、お茶漬も思い浮かべたのか安全策押しだ。
「こっちが踏んでなければ開かないから大丈夫だわよ」
「ボス終了待って、外に出たら掲示板にここのこと書き込むにゃ」
「プレイヤーはまああれだが、住人が採掘してたら目も当てられん」
「攻略は日を決めるか、予告してになるかしら。掲示板見ない人もいるし、月末は攻略するので採掘の方は気を付けて~とか浸透してくれるといいんだけれど」
「あとは三区画で今からモンスター解放しますよ~ってシャウトかな?」
シャウトは広い範囲にお知らせや注意を案内するために大声を出すことだ。こう、私一人だったらギルドに情報落として放置して終了だったな、と思いながら炎王たちとお茶漬の話を聞く。
いろいろ動く炎王たちに触発されて、知り合いにメールを送る私。知り合いといってもロイたちくらいしかおらんのだが。まあ、攻略してそうだしちょうどいいだろう、たぶん。
《お知らせします。パルミナダンジョンの『ロックゴーレム』がアキラ及び他パーティーによって討伐されました》
「…………」
「おい」
「ちょ! やばい!」
「こ、ここは安全にゃ、だけど!」
「今から三区画もどれないわよ!」
「誰か三区画に来てるやつに知り合いいないか!?」
「変わってなければアキラ君のお供が住人二人だよな?」
しかもガラハドたちと同じ帝国の騎士。って私もガラハドたちにメール入れれば連絡取れるかもか?
「確かめてらんないからフレに一斉送信した。いたら逃げながらシャウトしてくれるはず」
お茶漬の対応を聞きながら、ガラハド、イーグル、カミラ、再び派手なことになりそうな不安はあるが、カルに送信。
ホムラ送信:パーシバルピンチ。開けたらモンスターハウスだってすぐ伝えられるか?
カル 送信:パーシバルの連絡先は分かりませんが、カミラの妹がいるはずですので伝えさせています。主はご無事ですか?
ホムラ送信:私は現在安全圏。
大 地:遅れて申し訳ありません。プレート乗ります。
菊 姫:時間かかってごめんでし、メールみたでし!
ペテロ:大惨事把握。
レ オ:祭りか!?
ペテロ:住人がいる疑惑
レ オ:まじぃじゃん!
大地のアライアンスリーダーからの一報とともに、一斉に入るクラン会話。
「向こう終わった!!」
「とっとと行って開けんなって怒鳴るぞ」
炎王の言葉に、慌ててプレートに乗り魔法陣フェンスを解放する。開いたフェンスの向こう、転移プレートに乗って転移した先は予想通りの三区画。
「開けるなあああああああっ!」
「ストップ!!!!!」
付いた途端、炎王とシンが絶叫する。
「早いもの勝ち。聞けませんよ」
何を誤解したか、プレートに乗るアキラ。驚いた顔でこちらを見ているパーシバルと女性。これがカミラの妹か? 誰だ、忘れたが思い出しているヒマはない。
「やめろ、そこはモンスターハウスだ!」
「え?」
重ねて声をかけるが、遅かったようだ。警報音に合わせて点滅する扉の魔法陣の模様、部屋の手前で行く手を阻んでいた魔法陣フェンスが解除され、扉の真ん中に上下に筋が入り徐々に広がってゆく。
「逃げろ!」
「イヤ、盾、盾! 住人いるって連絡来た。帰還石ないのが大半!」
ギルヴァイツアの叫びをお茶漬が止める。
「プレイヤーは盾! 住人を逃せ!」
再び炎王がシャウト。
「復活できない住人逃せ!」
続いてシンもシャウト。
「聞こえた人もシャウト頼む!」
恥ずかしがってる場合ではないので便乗。
大 地:こちらは間に合わず。盾は住人ですが、高レベルの騎士で協力の申し出がありました。アタッカーのプレイヤー四名は平均、パーティーリーダーの回復職はレベル37。パーティーごとアライアンス加入許可を求めるであります。
炎 王:了解。
大地から「こちらは間に合わず」と、チャットが来たが、多分扉は同時に開くものなのだろう。
「って! あの野郎! ふざけんな!」
「この状況で帰還しやがった!」
炎王とギルヴァイツアが悪態をつく。扉はプレイヤーへの猶予なのかゆっくりと、しかし確実に開いてゆく。小さな魔物からこちら側に抜けてくるのを炎王が斬り捨てる。
「まあ、連れてたの住人だしいいんじゃないか?」
「普通、自分は残らないかにゃ!?」
「私にとっては好都合かな? 色々喚ぶから、ちょっとパーティー抜けるぞ。魔法当てるの怖いから、アライアンスに改めて誘ってくれ」
パーティーを抜けて装備を替える。ボス部屋を含む仕掛けは二パーティーでしか進めないが、マルチエリアに留まるだけならば問題無い、はず。
『アシャ白炎の仮面』特殊効果は認識阻害、戦闘における自分と仲間の鼓舞と高揚、敵の畏怖。自分と仲間のSTR・VIT・AGIが3%上昇、敵のSTR・MID・DEXが3%降下。
『タシャ白葉の帽子』INT及びMP50%増しと魔法防御50%増し
『ヴェルナ白夜の衣』MID及びMP50%増しと魔法以外のスキル耐性50%増し。
『ファル白流の下着』【全天候耐性】と装備同士などの【相克無効】、【魅了】。パンツじゃなくてノースリーブのタートルネックみたいなアンダーだ。パンツじゃない。
『ヴェルス白星のズボン』効果はクリティカル率の上昇と稀に攻撃を消し去る回避。
『ヴァルの風の靴』【浮遊】【空中移動】【飛行】、パートナーカード一覧から任意の人の場所まで転移できる。
『天地のマント』【俺はヤルぜ! ……の気分のようだ】
『有無の手甲』【……うむ】
……なんでマントと手甲だけ説明があれなのか。正しい鑑定が不能だからといえばそれまでなのだが。体験から、『天地のマント』は神の名のつく装備が四つ以上、増えるごとにステータスが跳ね上がり、『有無の手甲』は称号、スキルの強化。
「くっそ……! 名前伏せとけよ!!」
炎王が何故か悪態をつきながらアライアンスに誘ってくる。
「カッコイイにゃー」
やはり装備、装備なのか。
「NPC説がはかどりますね」
「何だそれは」
何がはかどるんだ、お茶漬よ。
アライアンスはダンジョンなどの場所によって、先に進めないせいで実質、人数の制限がある。だが、アライアンスへの参加自体には、人数の制限はない。そのせいか、名前・ステータスを伏せて参加することが可能だ。パーティー一覧は【???】と表示されるらしい。
「なんか僕のステータスが上がったにゃ!?」
扉に向かって、矢を射込みながらクルルが言う。
「シードル・シー殲滅再び?」
扉から出てくる敵は、近くにいる炎王やギルヴァイツアに襲いかかるモノ、すり抜けて先に進もうとするモノがいる。すり抜けたモノをシンが刈る。
「部屋が一つで大地たちの出口と繋がっとるといいんだがな」
喚び出すのは、紅梅、酒呑、紅葉、小次郎、そして白。
「御前に」
「応よ」
「うれしや。ぬしさまのお呼び」
「呼んだかね」
影から染み出したそれぞれが応えて姿を現わす。
少しの乱れもない白い狩衣姿の紅梅。
着崩し逞しい胸と腹をのぞかせる酒呑。
燃えるような紅い襲の紅葉。
折り目正しい袴姿の小次郎。
『なんじゃ、珍しく戦闘か』
『あ、白は危なくなったらすぐ帰還してくれ』
『速さでそうそう後れは取らんのじゃ』
「すまんな、今度は酒宴に呼ぶ。今は蹂躙を――」
炎王たちが溢れ出す敵を留める先、今や完全に開き切ろうとしている扉の奥を指差す。
アキラ君のアライアンス相手の匂わせ(?)のほうが良いとの感想をいただきましたので再び修正。次話冒頭ですぐバレるんですが!w




