プロローグ、或いは物語の紹介
暗雲渦巻く空の下、異形のモノたちが、地上と言わず空と言わず無秩序に散開する。共通点は空に浮く彼らの主人らしき、黒い鎧の男に目を向け耳をそばだてていることだけ。
そして片側には、一糸乱れぬ隊列を組んだ騎士たち。空には天馬に乗った、白と青を基調とした鎧姿の騎士を中心に竜騎士隊の姿も見える。鎧の形式が違うのは、一国からの出兵ではないからだ。騎士たちの耳目も、宙に浮いた黒い鎧の男に集まっている。
「取り繕うな! これは血と欲望にまみれた戦いだ! 慈悲もいらん、情けも無用! 死を恐れるな! 決してためらうな!」
白い獣と黒い獣を従えた、黒い鎧の男が声を張り上げると、異形のモノたちから地響きのような雄叫びが上がる。
「蹂躙せよ!」
男の一声で、異形のモノたちと騎士たちが山津波のように一斉に動く。――プレイヤーたちに向かって。ここはVRMMOの特別に作られたイベント空間、大規模戦開戦初日だ。
「一人残らず滅びよ!」
プレイヤーの陣に巨大な光の大剣が振り下ろされ、異形のモノと騎士たちがたどり着く前に、前線が大きく崩れる。直撃を食らった場所は大地がえぐれ、当然プレイヤーの姿も消し飛んでいる。前方にいた盾持ちの列にも被害は等しく及んでおり、その空いた防御の穴から、地をゆくものたちがなだれ込む。
「はーっはっはっ!」
空中でひとり、男が笑う。
そして入り混じる軍勢を見ながら、友人たちにチャットを入れる。
ホムラ:悪役はこんな感じでいいでしょうか?
ペテロ:いいんじゃない?
シ ン:聞くな!
お茶漬:一瞬でひどい有様。ちょっとは手加減してください。
ホムラ:お断りします。
菊 姫:せめてそっちの騎士、全部よこすでし!
ホムラ:お断りします。
ペテロ:あの絵面だと、普通は騎士VS鬼だよねw
レ オ:わははははは!
マントをなびかせ、騎士と百鬼を従えた黒い鎧の男もプレイヤーである。この話はホムラ、あるいはレンガードと呼ばれる彼が、他の大多数のプレイヤーの前に立ちはだかり、攻略不能のイベントボスと呼ばれるようになったり、最強のサポートキャラとして憧れを抱かれたりするようになる物語である。
――なお、中身は残念な模様。
なお、こうなるのはだいぶ先の模様。
基本主人公的にはのんびりマイペースに進みます。