17.全力回避
レオが渓流釣り渓流釣りといいながら先頭を歩いている。
川をさかのぼれば渓流なのだろうか、……この森は平坦なんだが。
ご機嫌なレオのあとに続いて川辺を遡る。
森の中は下生えは短く緑色の綺麗な苔と所々に倒木、真っ直ぐに伸び枝を広げる広葉樹。現実世界だったら人が長い時間手入れを怠らなかった森だろうが、ここでは普通のようだ。
「そろそろ敵がどんな強さなのか、一戦やっておこうか?」
「だな。距離的に勝てないほど強いってことはないと思うが」
「苦戦するようなら逃げようぜ」
「ここで逃げてるようなら戻った方がいいかな、ボスに勝てないだろうし」
「! ボスがいたんだった」
「ボス倒さないと街への移動が徒歩のままだぞ」
「じゃあ次見かけたらやるってことで」
最初の方で現れた鹿に角はなかったが、今時々姿を見せる鹿は立派な角を持っている。鑑定では角がないのがフルール鹿のメス、角があるのがオスだった。
森から姿を見せたところで菊姫が仕掛ける。
「お昼でし!」
「鑑定レベル上がれば弱点とかでるのかな」
菊姫がタゲ取りした直後、ペテロが通常攻撃の一撃を入れる、続いてレオ。そしてそのまま後ろに回り、位置どりをする。
私とシンもその間に左右に分かれる。
「『ファイアエンチャント』!」
「『シャドウ』」
シンは自分に【火魔術】の『エンチャント』を掛けながら、私は取り敢えず敵の動きを阻害する魔法を掛けながら。
『シャドウ』はレベル1の【闇魔術】で、敵に掛けるとダメージは入らないが、一定時間【盲目】にでき、敵の攻撃の命中率を低下させ、自分に掛けると姿を隠すことが出来る。暗いほど効果的だ。
私の攻撃は密偵二人組に当てないよう、奴らが通り抜けた後のほうがいいので、開幕『シャドウ』をかけるようにしている。
菊姫がヘイト上昇効果のあるスキルを使うまでは、全力の攻撃は無しだ。そして挑発系のスキルは一度攻撃を当ててからのほうが効果が高い。
気心の知れた六人での戦闘は時々やらかすけれど、基本的にスムーズに進む。
「【オンリーワンエネミー】でし!」
魔物が一匹のときに、がっちりタゲを固定するスキル。但しスキル効果持続中はその敵から菊姫は逃げることができず、菊姫がピンチの時に誰かがヘイトを稼いで一時的にタゲを交代することも出来ない。
「『ウィンドボール』」
はい、 魔法剣士になったのに杖で戦っています。魔術を5にしないとエンチャントできない上に、剣――というより金属は魔術を阻害するらしく素手より威力が下がる体たらく。
だが、せっかく買ったのだから剣も使ってみたい。
鹿は時々突き上げという高威力の攻撃を仕掛けてくるが、菊姫は危なげなく受けている、装備も新しくなっているようだ。
「【バックアタック】!」
「【ハイドインシャドゥゥ】!!」
「【龍】『突』!」
「『ウィンドボール』!」
あ、思いついた。
近いのはペテロだな。
「ペテロ、次私が魔術をペテロにかけるから【不意打ち】してみてくれんか?」
ペテロのことだからこのスキルは取っているだろう。
「ん、了解」
「『シャドウ』!」
「【不意打ち】!」
「おおお、不意打ち入った」
【不意打ち】は敵に目視された後ではかからないスキルのため、威力はかなり高いが一度戦闘が始まってしまうと使えない。ヘイト管理の関係でパーティーを組んでいると初撃でも使えないという困ったスキルだ。
だが、シャドウで姿を隠してからの攻撃なら発動するようである。
「2人で別々に攻撃入れるより強いじゃん、どんどんいって~」
お茶漬が自作の短剣を投擲しながら声を掛けてくる。
そういうわけでシャドウをせっせとかけることとなった。
「オレも次あがったら不意打ちとろうかな~」
一戦終わってレオが言い出すほど強かった。
シャドウ、不意打ち、任意の魔法とペテロの任意の攻撃を挟んで、シャドウ、不意打ちのループだ。シャドウがスキルを使うと消えるのと不意打ちが続けて使えない仕様のためだ。
「私、全部の魔法は取る気なかったんだけど、闇取りに行こうかな」
「暗殺者とか忍者に姿隠し系スキルでそうでしよ」
「これなら道中、順調にいきそう」
「きつくなるころにレベルがあがってレオが不意打ち取れるだろうしね」
「お昼に足りないでし、あと何回か狩るでし」
「きつくなる前にちょっと剣使ってみていいか……?」
この後の戦闘で、戦闘中に装備ウィンドを開いて杖と剣を入れ替えるということをしたらスキル【装備チェンジ】がでた。ウィンドウを開かず一瞬で装備を変えることができる。早速取得! ……したところでお茶漬に声を掛けられる。
「そういえばホムラは魔法剣士用の剣買わなかったの?」
「魔法剣士用……?」
「まだNPCの片手剣しか売ってないみたいだけど、銀でできた魔法を阻害しない剣。杖みたいに武器の威力の上乗せはないみたいだけど」
初耳です。
「さすが詳しい」
「最近はいつ謎の答えを踏んじゃうか気が気じゃないです。でも止められない」
いいのだ、ルバにも杖の少年にも顔が立つ使いかただし!! SPは惜しくない!! 惜しくないったら!
【刀】もでたんだよな……、おのれ!
「そろそろお昼にしようか」
「鹿肉でし!」
あの後、雌を従えた雄鹿が出るようになり、かなりの肉と角、皮を手に入れた。メスは角がない代わりにロース肉を落とした。
「ささ、焼いてくれ!」
レオがバーベキューセットを出したので、そのまま料理するのかと思ったら依頼が来た。
まあしょうがないかと準備をしようとすると菊姫の声が飛んできた。
「一回ホムラが仕舞うでし!」
「何だ?」
「レオが今バーベキューセットの持ち主、イコール、レオの料理になる危険が危ないでし」
いったいレオは過去にどんな料理を菊姫に食べさせたのかと疑問を持ちながら、菊姫の剣幕に押されてバーベキューセットをポーチに仕舞う。このまま【料理】してもいいが、きっと焼きながら食べたいだろう。もう一度バーベキューセットを取り出し設置、下ごしらえはとりあえずワインに漬けてみればいいだろうか。
「って、おい!」
漬けた肉に時間促進をかけるためにワインを横に置いた瞬間、ペテロと菊姫がさらって行った。
「おいしいでし~」
「焼肉というかジビエ! って感じ」
「ビールおかわりください」
「オレも~」
「ロースうまいぜ!!」
「ここの肉は俺の管理下だ!!」
「たまねぎ焼け~」
「ピーマン乗せたの誰でしか!」
「肉〜肉」
炭火に落ちた脂が肉を焼く音と匂いを辺りに広げ、肉を食べる友人たちの騒がしさよ。
菊姫はワイン、ペテロとシンはビールだ。
料理を作るかわりに肉は全部私が持っていっていいことになったのでこれくらいはサービス、好評なようで何よりです。
「ホムラ、今度コーヒーとウーロン茶つくって~」
「コーヒーはすぐ出来るけど、ウーロン茶は原料を持って来い」
自分がコーヒーを飲まないので率先してださないが、一応豆も買ってきた。お茶漬は酒を飲まない代わりにコーヒー中毒だ。そして紅茶もしくは緑茶派はここに私しか居ない。
食休みはのんびり採取。薬草だけなら緑のある場所なら何処にでもあるようだ。レオは釣り糸をたれ、その下流で採掘組が石を拾っている、鉱物鑑定を取っていない私には唯の石に見えるのだが。魚逃げんのかな。
他より石や岩が多く、採掘ポイントがあるため丁度昼過ぎだったのでここで昼食にしたのだが何だか不思議な感じだ。何故ここだけ石が目立つのか、特に川の真ん中に飛び出た岩とか。上流から流れてきた雰囲気でもないぞ?ってデザイン的な何かか。つい現実世界基準で考えてしまう。採掘ポイント配置とかか。
作業をながめていたらクレソンを見つけた、採取対象外の食物だ。本を購入しておいて良かった。
「何してるんだ?」
目を向けるとシンが首を傾げている。
「クレソンが生えてたから採ってるんだ、ステーキとかによくのってるやつだな。ベリーと同じで誰でも採れる食材だ」
と、採ったクレソンを見せながら答えたら採掘組も採掘ついでに近くのクレソンを採ってくれ、菊姫に至っては薬草そっちのけで採ってくれた。
「わたち、生産裁縫だから売っても薬草安いしいいでし。さっきのワインのお返しでしよ」
休憩を終えた頃には大量のクレソンと魚が手元にあった。ありがたい事だ。
「ありがとう、って、どさくさに紛れて魚が突っ込まれてる!?」
「わはははは、好きに料理したまえ!」
「かはっ、分かったみんなで食べない分は後でまとめて料理したの返す」
スキルが上がって嬉しいのだがこのしてやられた感は何なのか。全部甘露煮にしてやる! 砂糖は足るか!?
味噌煮は味噌がない。
「ん〜、米と大豆があれば味噌醤油も出来そうなんだがな」
「大豆はありそうだけど米がね〜」
「日本酒のために探すでし!」
「味噌醤油できるなら私も捜索隊参加する」
「行ける範囲広げて探そうぜ〜」
「朝食に米を食べたい!」
「味噌汁飲ませろ!」
「和食に飢えるの早いな、現実世界じゃ毎日和食食べないだろうに」
「これとそれは別、旅館に泊まったら朝食は和食食べたくなるのと同じだ」
「日本酒、毎日呑めるチャンスでし」
「右に同じ」
アル中の心配も翌朝の心配もいらんからな。
それぞれの食への情熱を垣間見た後、移動を開始する。川に沿ってマップが詳細になってゆく。森なせいか最大まで拡大しなければわからない違いだが。
一応クレソンが採れる場所を登録しておこう。
「さっきの鉱石とクレソンのところ。なんかあるんだけど」
同じく登録しようとしていたらしいペテロが言い出す。
うん、さっき眺めてた川の真ん中の岩ですね。私のマップにも丸がでていた。
もどることになりました。
「あの石だ」
「ほんとだ意識して見たら地図になんか丸ついた」
「取り敢えず近くに見に行くか」
そういうことになった。
みんなで石を囲む、平坦な場所の川なので流れはかなり緩やかだが、膝まで浸かっていると気をつけないとさすがに危ない。
「菊姫、誰かの影にいると楽だぞ?」
菊姫が大変そうだ。レオはなんかもうシンに掴まって泳いでいるのでいいかな。
「何か彫ってあるね」
「何だろう?」
「ファルのマークか?」
「あー、昨夜散々神殿で見た」
最初に行った拝殿なので、かろうじて覚えていたことを口にすればシンが肯定してくれた。やっぱり高くとも本を買うべきか。
紋章は大部分が水に浸かりそばに寄って石がきる水の流れを遮って水面を凪ぐようにするか、潜って見ないと読み取れない。
お茶漬が紋章に触ると石が光った。なにかデジャブな光だ。
『あはん、誰なのかしら? こんな所までくるなんて』
「精霊だ!」
シンが姿を見せた半透明の岩に座る女を見て小さく叫ぶ。
身体の中心や顔はそうでもないが指先、特に足先と髪は水が流れているのがわかる。青い水でできた女。
あはん?
嫌な予感にシンの影に半身を隠す。
『あたしの封印を解いてくれたのはだぁれ?』
笑みを浮かべながら唇に人差し指をあてて軽く肩を竦めて聞いてくる。
「「この人です」」
ペテロとシンが笑顔で精霊の正面にいるお茶漬を指差す。
「なっ、ちょっ」
『あらん、エルフなのねぇ。美形の男、ふふ』
目を細めてお茶漬を見ている、口の形が嬉しそうに三日月型にかわる。これ精霊の祝福の流れだな。
『でも、あたしと相性のいいひとも男だわん』
流し目でペテロを見る。
「ロリコンなんで遠慮します」
ペテロが祝福回避のためなら何でもする姿勢だ。
次に見られたのは私。
「美しい貴方は人の身には勿体無い、輝く金の髪に森の緑を瞳に持つエルフの彼。最初に触れた彼が運命でしょう、お似合いです」
笑顔で告げる。
「貴様っ!」
『そうね〜貴方にするわん』
お茶漬がこっちを睨んでいる間に首に手を回し、額に口付ける。
『あたしは水の精霊、「ルルー」よろしくねん。ふふ』
そのまま離れず、お茶漬の耳元で名乗って姿を消す。
『その者は水に多くの男を惑わし引き込んだ』
『その者はやり過ぎた』
『その者は女神ファルに封じられた』
『その者は封印を解いた者に従わねばならない』
『その者は惑わす、心せよ』
すると、ルルーと名のった精霊よりも個性のない少女の姿をとった精霊が水が盛り上がるようにして五体現れた。
『私達はその者の見張り』
『最早必要のない見張り』
『私達は封印の見張り』
『最早必要のない見張り』
『ならば共に』
それぞれが菊姫、シン、ペテロ、レオ、私に祝福を与え名前を囁き消えてゆく。
「精霊ゲットだぜ!」
呆然としていたところにレオの声が響き、正気に戻った。
□ □ □ □ □
・増・
スキル
【装備チェンジ】
精霊術
水の精霊【ルーファ】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.20
Rank D
職業 魔法剣士 薬士
HP 527
MP 687
STR 31
VIT 21
INT 41
MID 15
DEX 12
AGI 19
LUK 11
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
■神々の祝福
【ヴァルの祝福】
スキル(0SP)
■魔術・魔法
【木魔術Lv.2】【火魔術Lv.5】【土魔術Lv.2】
【金魔術Lv.3】【水魔術Lv.3】【☆風魔法Lv.3】
【光魔術Lv.1】【闇魔術Lv.2】
■剣術
【剣術Lv.8】【スラッシュ】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.1】
■才能系
【体術】
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.4】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.3】【植物食物鑑定Lv.4】
【動物魔物鑑定Lv.4】【スキル鑑定Lv.2】
【武器防具鑑定Lv.2】
【気配察知Lv.3】【気配希釈Lv.3】
■強化
【腕力強化Lv.2】【知力強化Lv.4】【精神強化Lv.2】
【器用強化Lv.2】【俊敏強化Lv.2】
【剣術強化Lv.3】【魔術強化Lv.2】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】【地図】【念話】
【装備チェンジ】