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185.扶桑

称号の【CardMaster】を【カードマスター】へ表記の変更及び、効果の変更を行っております。


「釣れぬ!」

「他がこれだけ入れ食いで、釣れないのは凄い。泳がせ釣りは腕もあまり関係ないしな」

左近が哀れみの目で見てくる。


 海竜が連れて来た、豊かな魚群がまだ船の周囲にいるため、ペテロたちや手の空いた船員まで釣り糸を垂らす中で、私だけが釣れない。海竜の騒動後、何かを聞きたそうに遠巻きにこちらを見ていた連中も、今は釣りに夢中だ。糸を垂らして一分もしないうちに当たりがくれば、楽しくてしょうがないだろう。


 騒ぎの口止料代わりに『庭の水』を一樽提供した。海竜に求められたということで、商人のホップよりも船長の方が興味津々だった。うちの船に乗船中の客の様子をペラペラ喋る奴はいないから、と一旦は断ってきたのだが、船員ともども樽の中身が気になって仕方がないようだった。


 本当は一人一樽ずつでもよかったのだが、「もっと勿体ぶりなさい」と、ペテロに止められた。確かに高ランクなものを、あまり出しすぎるのも良くないと思い直した次第。ルバも鍛冶の焼き入れ用の水で欲しいと言っていたので、後でそっと渡そう。そういうわけで『庭の水』でひと騒動あったのち、釣りを再開したのだが、私だけ全く釣れない。


「ホムラはお高い鱗釣ったでしょ」

笑いながらペテロが言う。

「あれは魚じゃないし、針にかかったわけでもない!」

鱗五枚は丁寧に釣り糸に結ばれていた。釣り上げたら四方結びの完全にお土産状態だった、誰だ結んだの! 結んだというか、最後は針が糸にかけてあるだけだが、それにしても器用な……、まさかアザラシがやったのか? かなり高価というか、手に入りにくいものだと言うが、コレジャナイ感が半端ない。だが、透明で薄青い水晶を削ったような鱗はそれだけでも綺麗なのは確かだ。


「魚の群れから離れるよ? 諦めて【糸】とか何かスキルで獲ったら?」

「うう、そうする」

ペテロの助言に【糸】の『捕縛』を使えば、むちゃくちゃ簡単に大漁。魚どころか貝類もゲットだぜ! ……虚しい。虚しいから食べよう。


 串揚げにした、(だいだい)たらこ大葉巻き・赤鎧エビ・銀キス・子持ち金昆布・白身魚を擦って作ったはんぺん。他にも、刺身の盛り合わせ、そして酒。ビールと、もう在庫がないが材料の手に入るフソウが目前なので、日本酒も放出。魚の数々は左近が提供してくれた。


 私の釣った――もとい、獲った魚も、釣り上がる前はランクの高い魚だったはずだが、あげた途端、魔素が抜けて普通の魚になった。魔素入りなモノとそうでないモノが混在しているが、ランクの高い魔素入りなモノは該当スキルがない者が獲ると、魔素が抜けて普通のモノになってしまうそうな。

 

 そしてスキルがない場合、結局普通のモノになるくせに、高ランクな魔素入りは、取得成功率が低くなっているそうで、異邦人(プレイヤー)はわざわざ狙わない。【釣り】スキルがあれば【糸】で捕まえても高ランクが獲れるのかどうかは知らん。結局【釣り】スキルのレベルをあげんと、一定以上のランクは獲れないとかな気はする。


「うを、うめぇ」

(かしら)、やばいですぜこれ」

「円盤ヒラメの薄造りに、酒が!」

船員たちも手が出せるように、取りやすいものと、大皿料理を並べた。なかなか好評なようでなにより。


「……聞いてはいかんのかもしれんが、ホムラは本当に何者なんだ?」

「Cランク冒険者で、雑貨屋?」

「それでなんで金竜と知り合いなのか、僕にはさっぱりだね」

左近の問いに答えると、右近が会話に混じってくる。


「いや、まあ、パルティンと知り合いなのは、コイツらのお陰かな?」

ローブの合わせに前足をちょこんとかけて、顔だけ出して差し出した串揚げをはぐはぐしている黒を見る。


「何だ? 何か文句あるか?」

睨んでくる黒。懐から頭だけだして、食べかけの串揚げを前にすごまれましても。こういうのは何ていうんだ? ツンデレじゃないよな? デレツン? いや、デレギレ?


 とりあえず出ている頭を撫でておく私。「何だ、撫でるのか」という顔で串揚げをかじる作業に戻る黒。規格外ブラシのお陰で外犬程度には頭の毛は柔らかくなった。上半身はおとなしくブラッシングさせてくれるようになったのだが、尻尾と腹を含めた下半身に触ろうとするとまだシャーシャー言って暴れるんだよな。まあ、寝込みを襲ってブラッシングするわけだが。


「もふもふ愛好家なようなので、右近たちも騎獣に乗って会いに行けば気に入られるんじゃないか?」

三人とも立派な胸毛と尻尾の騎獣だ、きっともふりたくなるにちがいない。


「いや、そんな事で懐柔されるような甘い竜ではないと思うのだが……」

「まあ、あまり詮索するな」

ルバが助け舟のつもりか、左近に酒を注ぐ。ミスティフの事をどこまで話していいか図りかねるのでちょうど良かった。フソウのメンツはともかく、商人のホップはわからん。信用は置けそうではあるが、長い付き合いの顧客に頼まれたら、そちらの信頼を取るかもしれない。黒は毛並みの点で、ミスティフと言っても信じてはもらえないだろう。


 

 そんなこんなでフソウだ!

 フソウは扶桑の表記で良かったようだ。伝説では、扶桑という名が表すものは、巨木もしくはそれが生える国。"下に湯谷があり、湯谷の上に扶桑あり。十の太陽が水浴びをする場所。扶桑の大木は水中にあり、九の太陽は下の枝に、一の太陽が上の枝にある"太陽の国。そして湯谷ということは温泉か、温泉なのか。


 近づいてくる大きな赤い鳥居の向こうに見える島に心躍らせる。先ずはあの島に上陸し、封印されるスキルの説明や、使える符の説明などをされるらしい。海の中に建っている鳥居は、封印の裂け目のようなもので外界からの出入りはそこから、となっている。扶桑は国ごと封印の中にあるのだ。


「いよいよだ」

同じように鳥居の方を見ながらペテロが言う。珍しくわくわくしている様子が外に漏れ出ている。念願の忍者も近い。



《お知らせします、扶桑に到達したプレイヤーが現れました。これによりカードゲーム機能を追加いたします》


《カードゲームは、ブランクの『カード』に、『魔物』『スキル』などを写しとって対戦するゲームです。『カード』は交換が可能です。また、『自分』のカードを作ることが可能となります。以降、カジノで対戦が楽しめます》


《詳しくはメニューをご確認ください》



《称号【カードマスター】を手に入れました》



 赤い鳥居をくぐったら、カードゲーム実装のお知らせ。


「クレジットカードみたいね」

「ブラックカードでお願いします」

とりあえずネタに乗っておく。ペテロも同じ称号をもらったようだ。


「まずブランクカードを手に入れなきゃなのか。迷宮60層以降でまれに落ちるって、どれだけ先の話だ」

カードの説明を読んでいるらしいペテロ。

「称号はブランクカードのドロップ率アップか」

「だね。まあ、60層にたどり着くまでは何の効果もないしね」

「ああ」



 鳥居を後に、船着場に接岸すると目の前に石段があり、その先に木々に囲まれた神社のような建物がある。階段の手前に据えられた水盤で手を洗い、口をすすぐ。ような、ではなく神社なんだろう。これで寺だと言われても困惑する。


「昔は海で水垢離をしたのだがね」

「今は手軽になりましたね」

右近と天音が柄杓を戻しながら言い合うが、私は底の見えない海に入るのは御免被りたい。どうするんだ、中に何かあったら! 


「……ホムラさんの『庭の水』の方が浄化能力が高いですね」

ホップが何か柄杓に汲んだ水を眺めて、一人言を言っている。


 石段を上がって、大きな拝殿に着く。拝殿の後ろに神々を祀る本殿は無いようなので、ご神体は、背後にある扶桑の島そのものになるのかな? ここでファルとか祀られていたらどう反応していいかわからん。


「ようこそ扶桑へ」

村人Aみたいな台詞だが、緋袴を穿いた黒髪の巫女さんに言われるとテンションが上がる。巫女さんの案内に従って、もともと扶桑の出の右近たちとは別れて拝殿に上がった。


ルバは鍛冶技術吸収を考えているが、売買メインではないので一緒だが、ホップは商人用の手続きがあるそうで別だ。


個人同士の売買程度なら問題ないが、店とやり取りする程の販売量・大量に扶桑の品を外に持ち出すとなると手続きが面倒らしい。


ここでお別れかと思ったが、「また後で」と右近が言っていたので、手続きが終わるのを待ってくれるつもりだろう。


 しばし待つと、ドン・ドン・ドンという太鼓の音が響き、神主登場。神主が所定の位置についたと同時に太鼓がやむ。


「こんにちは、扶桑は初めてと聞きます。他の国の方には馴染みの薄い習慣や、もしくは今まで当然のように出来ていたことが出来なくなるなど、戸惑いも多いかと思いますが扶桑の国を満喫していってください」

登場が勿体ぶっていた割に、フレンドリーな物言いだ。


「まさか右近様方が、外の方を連れてこられるとは思っておりませなんだ」

右近たち効果だった様子。


 (はた)と名乗った神主から、扶桑でのマナーなどを聞き、『符』について説明を受ける。『符』は、街中にも扱う店はあるが、各神社の社殿で入手することができ、この神社でも絶賛販売中だそうだ。また神社では、本人の持つスキルを『符』に込めるサービスもある。


「自分で作れるようになったりはせんのか?」

「修行をすれば可能ですよ」

おおう、入国したら神社に聞きに行ってみよう。とりあえず扶桑をあちこち見歩いて楽しみたい。その後、自分のスキルの『符』を作ってもらったり、作ったものをペテロと交換したりとなかなか楽しかった。白紙の『符』は、込めることが可能なスキルレベルによって値段が変わる。しかも込める行為が必ずしも成功するとは限らない。


「二人でこれだけ『符』の交換で盛り上がれるとなると、カードゲームのほうも盛り上がりそうだね。コンプリート魂が燃え上がる」

「魔物のカードへの写しは、対象の魔石でするか、本人に穏便にもらうか、だっけ?」

「そそ。ブランクカード拾いにいかなくては!」


 買い物を済ませ、拝殿の裏から出ると、目の前には本島へと続く真っ白い海の中に浮かぶ道。その道の手前で右近たちが待っていた。





□   □   □   □

・増・

称号

【カードマスター】

□   □   □   □

 




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― 新着の感想 ―
飯テロ続行中。旨そう。冷酒合うかな、合うよな。
[一言] ここにも駄洒落が!? >「うを、うめぇ」 魚の料理ですね
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