176.冒険者ランク
《『有無の手甲』を取得しました》
さすがに声を聞くだけでは【祝福】には上がらない様子。だがしかし、装備アイテムは贈られてきた。……これも装備したら取れなくなる系なのだろうか。
マント鑑定結果【性質ですよ、性質、という気配がする】
装備が解けないのは、貴様の性質か!!!
着替えてマントを【鑑定】した結果がこれだ。
今度は慎重に、装備前にアイテムの【鑑定】を行う。……、大丈夫特に何も言ってこない。『有無の手甲』という名前が分かるだけだ。――アナウンスで流れたせいで既知の情報だからだろうな。私の【鑑定】レベルで鑑定できるものとは思えない。
外見は、腕を全て覆う様なプレートにはなっておらず、黒に近い燻し銀・金の金属で透かし彫りというか、金属の棒で模様を描くようにして筒状になっており、手の甲に当たる部分にはレンズ状の透明な宝石。触れると、『天地のマント』の色が変わったように、宝石がバハムートの住処である『蒼月の露』と同じ色に変わった。金属部分も着る装備によって、銀・金・黒の色が強くなる。
手甲鑑定結果【……うむ】
装備した結果がこれだよ!! おのれ……っ! "うむ"ってなんだ、"うむ"って!!!!! 名前に掛けたギャグなのか!? もちろん装備は外せないよ!!!!!
マント鑑定結果【有無なだけに】
漫才を始めるのはやめろ!!!
『有無の手甲』は「有れ」と思えば私の手に装備として出現し、「無に」と思えば消える。消えるが、アイテムポーチに入る様子もない。他の装備ができることにホッと一安心。マントよりは融通が利くというか、有るか無いかどちらかなので融通が利かないというか。効果は不明。
それにしても、あの『声』は何だろう。封印されたままでいたい存在、神々を封印したい存在? 封印しまくっちゃうよとかそんな神か? まあ、声の元へ行く方法も謎だし、そのうち分かるだろう。マントと手甲が神々を封じるための装備ではないことを祈る。
昨日は、現実世界でベッドに入ってから、【傾国】が発動してしまうことに気づいて、慌てて入り直した。隣に寝かせていた、黒ミスティフをレーノに託すプレイ。黒ミスティフは怪我と長年の無理が祟ったらしく、見える範囲の怪我は治ったと思うのだが、ぐったりしたままだったのでちょっと心配だ。……タオルでずっと簀巻きにしてたからじゃないよな? 動く様子無かったし。白以外のミスティフの様子から、構わないようにしていたのだが、もう少しマメに様子を見てもよかったかもしれん。
すでにログインしていたお茶漬とペテロ、菊姫に挨拶メールを送って全員揃うまで、何をするか考える。とりあえずフソウ行きの間分の生産、ギルドへ行ってアルの話を聞く、が決定事項だ。
【庭】は現在、神樹が『生命の樹』『再生の欅』『幻想の木』『オーク』が生えている。どうやらある程度、木を離さねば【神樹】は使えないことがわかった。『幻想の木』は『幻想の種』から育ったのだが、銀枝に、桜に似た淡いピンクの花が付いて葉は無し。綺麗なのだが、普通の桜が欲しくなる。フソウにあるか? 探してみよう。
『オーク』はリデルのために。原作がオークの元で昼寝をしていたせいか、オークがあると落ち着くらしい。こちらはアリスの島で適当に拾ってきた普通のオークを【神樹】にしてみた。
真ん中に『生命の樹』、庭を四つに割ったそれぞれの真ん中に一本ずつ植えてあるので、もう一本なにか木を植えたいところ。庭は中心から広がるので、木が大きくなっても多分問題ないはず。例の桃はどうしようか……。『神の糖枝』という名の砂糖黍も植えているし、一面は畑ということでいいかな。他にもベリー類やら枇杷やら取っておいたものが無節操に生えている。季節に関わらず収穫できる模様。【庭】の方向性が決まったら後で植え替えよう。
『月詠草』、『夜露の綿』と『月光の紡ぎ草』は植えられなかったが、『風の実』は『幻想の木』の枝の下に植えることができた。これらはゲームを始めたころ、森を抜ける冒険中に手に入れたものだ。『風の実』は実とあるが、実際は一つの実をつけた草だ。色違いで『火の実』などもあったが、残念ながら根ごと採取は叶わなかった。採取したら、つるんとした実の部分だけポーチに入って、素材になってしまった。――種ではないらしい。
【庭】に入れるのは現在、事故防止に召喚獣・ペットのみ。これらは【傾国】の効果を受けない。ただし、他人の召喚獣やペットなどは稀にかかる、の注意書き。どうしよう、白がクズノハの【傾国】にかかって牙をむいてきたら。攻撃するのは忍びないから、泣いてもモフるのをやめない方向だろうか。
おっと、この世界は夕方だ、アルのところを先に訪ねよう。冒険者ギルドはログインしてきた異邦人たちで混雑しているだろうか。
ギルドに入ると、思ったとおり人が多い。混雑の原因は受付嬢のファンクラブなのだが、この人たちは一体いつ冒険しているんだろうか。
こちらに気づいたエメルに会釈して階段を上がる。お菓子の効果か、笑顔を貰えるのだ! 妬むがいい幼女ども! ……何か違う。お付き合いしたいなら、ファンクラブの皆様はとっとと闘技場へ行って、性別変えてきた方がいいのではないだろうか。というか、当初は男キャラもそれなりにいたはずなのに減ったというか、幼女が増えた?
「こんにちは」
「やあ、こんにちは」
「シーサーペントの結果だけど、毒に弱いことは立証されたよ。ありがとう」
資料室のアルの小部屋に入り込み、挨拶をすれば、眺めていた資料を脇によけてアルがこちらを向く。向かいに腰掛けながら、差し入れを資料が避けられた机に置く。受付嬢たちの分もあるのだが、黙っていても後で配ってくれるだろう。
「転職についての本とかあるか?」
「一次転職なら神殿の方が詳しいかな? 迷宮がらみの二次転職なら、冒険者ギルドでも資料は揃えてるけど」
「スキルが50を超えて、レベルが上がらなくなったんだが」
持ってきた差し入れを自分で出して並べ、紅茶を出す。ガレット・デ・ロワ、なんのことはないアーモンドパイだ。真ん中に焼いているときの蒸気を抜くために口金を突っ込んで、そこを中心にナイフで模様を入れてある。何故かアーモンドパイは模様を頑張ることになっているらしい、口金は焼きあがった後に抜いてある。そしてナポレオンパイ、ミルク寄りの味のする生クリームと白にもらった種から育てた苺。今までで一番やばい一品です。
「……君、冒険者ランクCじゃなかったっけ?」
「そうだぞ?」
「大抵、50超えるのはAランク近くになってからなんだけどね……、だからBランクの合格発表の時に説明がある」
「Bランクになると強制依頼が面倒そうでな。そう思う冒険者も多いんじゃないのか?」
「強制依頼といっても、冒険者の実力を見るか、稼ぎ場所への誘導を兼ねてることが多い。楽な場所にずっと居られると、低ランクが困るからね。特に異邦人はツテ――信用といってもいいかな? ――がないから、ギルドの紹介という保証がないと新しい場所は断られることもある」
あれか、もしや強制依頼でメインストーリーに誘導されるのか。
「Bランクからは生産系か探索系で分かれて、生産系の人たちは大抵、各生産ギルドに籍を置くことになるし、国や神殿に仕官したらそっちが優先される。その人たちの冒険者ランクはAまでで、強制依頼がない代わりに、個人へじゃなく、所属してる機関に直接ギルドからお願いが行くことがある。ランクアップの方法も一般とはちょっと違うね」
紅茶を一口飲んで固まるアル。『庭の水』がいい仕事をしてくれている。
「はー、パイを食べるの怖いね」
しばし固まったのち、ため息をついて紅茶から切り分けられたアーモンドパイに目を移す。
「自分で言うのも何だが、ナポレオン――苺と生クリームの方はやばいぞ」
果たしてこの世界でナポレオンが通じるのか謎だった。いや、純粋なパイの名前としてあるかもしれん。
「……後で頂くよ」
正しい選択だと思います。
「続きだけど、異邦人はツテがないから冒険者から始まる。でも、住人は最初から騎士になる家系の出とか普通にあるからね。そっちは逆に国を跨ぐような仕事に便利だから、と職と所属が決まってから冒険者ギルドに登録する人もいる。その場合も、所属が違うから強くてもAランクまでだね。所属より冒険者ギルドの依頼を優先してくれるなら別だけど」
ガラハドたちの強さは冒険者ランクじゃ測れない、ということか。まあ、私もランク上げサボっているが。
「で、スキル50個超えたCランクの君は、転職しないとレベルが上がらないことは理解しているみたいだけど、何が知りたい?」
「石板で転職後、さらに転職できるかと、職のメリットデメリットだな」
「ん、探してこよう。お茶をもう一杯もらえるかな?」
「ああ」
「転職の方は言ってしまうけど、二度目以降は石板の欠片を集め直せば可能。ただし、枚数を重ねるごとに欠片が出にくくなると聞くね」
三冊ほど本を抱えたアルが戻って来る。
「ありがとう」
新しいお茶を出し、本を受け取る。
パラパラとめくってみるが、目次の時点で神々関係の職が少ない&烏鷺とか黒白とか載ってなくてですね……。
「アイルの図書館の方が揃ってるんだけど。あそこも紹介がないと入れない」
「図書館なら入れる」
「……。紹介状もらえたのか。君の交友関係も謎だね」
どうやらアイルの図書館に行く必要が出てきたようだ。本があるとあるだけ読みたくなってしまってやばいんだが。フソウへ出発までこもるのもありかな?
「アイルの冒険者ギルドは行った?」
「いいや?」
バロンもナヴァイも行ったが、そういえばアイルのギルドは行っていない。
「あそこはスキルをアイテムに変えることで消去できるから、要らないスキルがあるなら消したらいい」
神殿巡りと図書館で終了していたが、スルーしていた冒険者ギルドに特色があったらしい。面倒がらずに少なくとも主要施設は回れということか。
「そういえば、ここのギルマスに【魔物替え】というスキルをもらったんだが、これ、どうやって上げるんだ?」
「……、それSランク依頼の報酬」
アルが呆れたように私を見て、紅茶を飲む。Sランク依頼……、アリスの島を見つけたのが該当したんだろうか? 謎だ。
「【箱庭】と『テイム』を持ってるなら、低レベルを捕獲して【箱庭】に放して、かな。『テイム』がないなら、テイマーギルドで買うとか。今までなかったけど、異邦人でテイマーが増えたとかで、王都にはギルドができたらしいよ」
『テイム』単体で持ってる人はよっぽどの物好きだね、と言いながらまた紅茶に口をつける。
「【箱庭】がないなら、【結界】でフィールドを一時的に隔離して【魔物替え】もありだけど。両方同時に使うのは大変かな」
そういえば【箱庭】にはペットが放せるんだった。でも、一度飼った魔物を実験よろしく使い切る自信がないので、目指すは後者だな。まあテイマーさんがゾンビとか売ってるなら話は別だが。
「こんにち、きゃあ!」
アルと話していると、休憩時間らしいエメルが顔を出し、【アシャのチラリ指南役】先生発動。ボタンがアルの額を直撃。このボタン、必ず誰かの額狙ってないか?
お詫びにナポレオンパイをですね。
いえ、すみません、なんでもありません。




