174.それぞれの方向性
「んー、結構時間余りそう? 採掘ポイント探して少し金稼ごうか」
「すまんな」
「いやー、シードル・シー処理してたら今度は朝までかかるし。てかホムラのせいじゃない」
シードル・シーだけ駆除できるのが理想なのだが、生憎そんな器用な調整は出来ず。このフロアの敵は私が殲滅して歩く状態なので、道中の戦闘分だけ時間に余裕が出来た。余った時間で金を稼ぐことをお茶漬が提案。
「ホムラがいなかったら進めなかったでし」
「あれ、地道に倒していかないとダメなのかね」
菊姫が憤るのを聞いて、カーンカーンと採掘しながらシンが言う。『鉱物好物の腕輪』があるため、結局全員【採掘】を取っている。採取のほうもアイテムが欲しいところだが、フィールドボスを探す時間が惜しくて結局行っていない。だって新しいところが見たかったんだ……。今は白虎がいるし、探しに行ってみようかな? ただソロ討伐もパーティー討伐もレアボスしか残っていない。
「『浮遊』かけてもらって踏まずに通るのも、シードルと違ってアクティブな敵だから無理だし。有志の皆さんでキレイにしてもらうしか」
有志の皆さんに自分は入っていないのか、ペテロよ。
「あれです、最終奥義『マップ変え! 俺はここに拠点をつくる』を発動ですよ」
迷宮変動のタイミングは分かっていないが、ボス部屋以外に恒久的な休憩所を設けようとすると、必ず起こる、と教えてくれたのはイーグルだ。その迷宮変動もプレイヤーから見ると、マンネリ防止のマップ変え扱いになるのがなんとも言えない気分。
「拠点の作り方なんて聞いたことねぇぜ」
「安心してください、言っといてなんですが僕もです」
「わはははは!」
「【騎獣】も手に入るレベルになったし、長旅に備えて拠点の作り方もそろそろ出るかもね」
シンとお茶漬の会話をよそに、せっせと採掘する。ここで多く掘れるのは『青銀の騎獣石』『緑の騎獣石』『赤の騎獣石』『黒の騎獣石』『黄の騎獣石』『金の騎獣石』。【騎獣】の餌だ。
「まあ、拠点を作らなくても、一定期間攻略が滞ったら問題ありで、マップが変わるとか。ところでホムラ先生、『浮遊』かけて。ここ、天井にポイントがありやがります」
ペテロの言葉に上を見上げれば確かに天井付近にポイント。
「それにしても騎獣の餌、固そうだ」
「黒が乗り心地、青銀がスピードが上がるんだね。他のがあんまり出ないなあ」
「ん? 私、平均的に出てるけどな」
ペテロはぼやいているが、私は偏りなく掘れている。
「俺は赤がいっぱいだ」
「ああ、属性との相性かもに」
シンの自己申告にお茶漬が推察を口にする、推察ではあるが間違っている気はしない。
緑が次の騎乗可能までの時間、黄色が行動範囲で、赤の積載量増加、金が距離だ。行動範囲というのは、騎獣の種類で行きたがらないところというか、不得意な地形にも行けるようになる。
「あ、天井『水の騎獣石』出る。乗り心地が大きく上がるから『黒の騎獣石』の上位だね」
「水は青のイメージの方が強いんだがな」
「風も青銀だし、ゲームで純粋な青が無いのは珍しいね」
「まあ、人魚姫の故郷も海は黒いしな」
「冬の日本海! 雷は冬に落ちるもの! ところ変われば品変わる、ですよ」
お茶漬たちも混ざって雑談しながら採掘、時々懐の黒ミスティフにそっと『回復』。
「ああ。……そういえば菊姫の白雪は積載量上げないとダメなんだっけ?」
採掘しながら近くの菊姫に聞く。ペテロは器用に掘っているのだが、私は鶴嘴を振り下ろす度、衝撃で飛びそうになる。それでも【空中行動】が効いているらしく、レオのように一振りごとに飛んでいったりしない。あれ、これ【空中移動】発動して、『浮遊』ないほうが安定する? いや、頑張ればペテロのように安定するハズ。
「そうでし、装備が重いんでしよ。白雪は速いし、いいこなんでしけど」
「ああ、じゃあ赤やるから、いらん色くれ」
白虎は最初から積載量は多めなのだ。ガラハドのタイルも二人乗りだったし、職業的に私の装備がこれから重くなることも……、転職で何になるかによるのか。
「あ、俺も赤いらねーや」
「見た目通り、武田君も積載量多いのか?」
「多いぜ! いつか作りたい騎馬軍団!」
「その武田だったのか」
「餌であげられる合計数値に上限あるし、本当は職で選ぶのが正解なのかも。うちの黒焼きは休憩時間は短めだけど、スピードが低めかな」
「そういえばレオのアルファ・ロメオはどうなんだ?」
「オレのアルファ・ロメオは乗り心地!」
「なるほど」
あれだ、レーノの食事に『黒の騎獣石』を混ぜたら乗り心地が良くなるのだろうか。レーノは本来騎獣じゃない(ハズ)だから無理か。騎獣じゃないといえば、バハムートもきっと本来なら騎獣じゃないんだろうな……、私がヴェルスの前で不用意なことを言ったせいで悪いことをした。
【騎獣】が手に入るころにこうして騎獣の餌がでるエリアに入れる。うん、スキル石拾える層と転職の石板出る層近いですね。変なことしなければちょうどよく出るようになってるのだな。
そんなこんなで、移動先にある採掘ポイントで採掘しながらボス前だ。シードル・シーの爆殖を辿ってきたわけだが、この大繁殖を促した馬鹿はボスへと続く扉から遠い行き止まりに二、三回行っている。手間をかけさせおって!
「ぎゃああああああああああっ! 増えたあああああああっ」
お約束でシンがシードル・シー・ドルンに【鳳凰拳】のコンボ、【火属性】をぶち込んで、菌糸が広がり菌糸玉がボコボコと増えた。
「はっはっはっ! 【火属性】は増えるぞ!」
黙っていたことを言える開放感。バラさないように当たり障りのない【金属性】の魔法を使用していた私だ。
「えぇ〜! 俺、属性は火しか上げてねぇ!!」
「わははははは! オレは【風属性】だぜ!」
「レオって【ファルの祝福】もらってなかったか?」
パンツの泉でもらったはずだよな?
「ヴァルは寵愛なんだぜ! 速いぜぇ! 水は何に効いてんのかわかんねぇ!」
「え、まって。君、【回復】持ちだよね? 【治癒士】経由したよね?」
それどころかファルから強いスキルをもらっていたハズです。戸惑うお茶漬、レオが自由すぎる。そして確かにヴァルが面白がりそうだよな、レオ。妙に納得した。
「盾に【侵食】がついたでし!」
「あぶない、私も【火属性】使うとこだった」
「属性で強化される敵の登場か〜、これ以降の迷宮に『属性石』の期待あげ!」
お茶漬、正解。妖精やら出てきて『属性石』に困らなくなるぞ! ついでにあれです、もっと強力な【侵食】を使うナイスバディも出てくるぞ!
話しながらもとりあえず、無属性での攻撃で菌糸玉を潰してゆく。私は『ヘイスト』をかけ直したり、お茶漬から離れすぎているレオに「突っ込むなアホ!」と怒鳴って薬を投げつけたり。……【神聖魔法】『回復』でもいいのだが、蹴りの代わりにレオの後頭部目がけて、ぶん投げている。ダメージ0というか、回復するからいいだろう。
「これからボスは【鑑定】効かなかったら、六属性の【投擲】で弱ダメージ与えて様子見からかな?」
対峙するボスの方が、レベルが上なので【鑑定】は失敗か、名前表示くらいしか結果が出ない。
話しながら【投擲】を実践するペテロ。増えた菌糸玉に向かって、それぞれ属性の色をまとった苦無が飛ぶ。木、普通。火、菌糸が伸びた。土、普通。金、普通。水、増えた。風、ダメージ増加。危ない、水も増えるのか! 氷がアレだったから、同系統の水には弱いのかと思っていた。
「苦無なんてまた忍者っぽいものを」
「自家生産です」
お茶漬の言葉にペテロが答える、やっぱり生産の【暗器】とスキルの【暗器】、両方持ってそうだな。暗殺者のスキルで取得した気がするので、本人には聞けないが。
「魔法は結局全属性とったのか」
「ええ。光以外は結局風まで。神に会って増えたし。おかげでスキルがパンク。スキルポイントも年中0よ」
他にもマイナーなスキルをたくさん開拓していそうなペテロ。
「あー! クソッ、EP回復系とったらコンボ中も【火属性】上げるの取ろうと思ってたのに! 【虎】『蹴』!」
「先に【火属性】の敵からダメージ稼ぐ方法模索してください」
お茶漬が『付与』をかけ直しながら言う。
「【風魔法】『エンチャント』」
「サンキュー、サンキュー」
ダメージを稼げず腐っているシンの拳に【風属性】をエンチャント。
《シードル・シー・ドルンの粘糸×4を手に入れました》
《シードル・シー・ドルン繭玉×5を手に入れました》
《シードル・シー・ドルンの短剣を手に入れました》
《シードル・シー・ドルンの魔石を手に入れました》
《鋼糸×10を手に入れました》
《耐毒の指輪+3を手に入れました》
《シードル・シー・ドルンの『強毒』を手に入れました》
一番のダメージディーラーはレオだったという不可解。三匹のオークの時も活躍してたし、破天荒だが順調に強くなっているのだろうか、もしかして?
迷宮を出るとアイルの食料卸屋、オルグじーさんからメールが届いていた。フソウへ行く商人が街に滞在しているので興味があるなら会ってみないかとのこと。
 




