172.迷宮15層
私の白虎『白虎』
ペテロの黒虎『黒天』
菊姫の白猫『白雪』
お茶漬のドレイク『黒焼き』
レオの赤狸『アルファ・ロメオ』
シンの黒馬『武田』
先ほど別れたロイ達にあまりの凸凹さに笑われた。ついでに、迷宮攻略シャッフルして行ったことを、ロイがクランメンバーに話したこと、レオの名前で態度が悪かったメンツが手のひら返し……まで極端なのは、ごく一部だが、クロノスの主要メンバーと親しくしていても、特に視線がトゲトゲしなくなった。
――そういえばレオの名前はワールドアナウンスで何度か流れてるな。何気に有名人である。私たちのクランに対する態度は変わったが、他のクランにはあのままかと思うと少々微妙だが……まあロイたちがうまく締めるだろう。
「ところで、みんなの騎獣、好物何?」
ペテロがにこやかに聞いてくる。
「白虎はアイスだな……」
何で虎なのにアイスなのか。
「アルファ・ロメオはみかん!」
「僕んとこはサラダですね」
「オレんとこは馬らしく人参!」
「わたちの白雪はビスケットでし」
好物は、イチゴアイス、チョコアイスなど同じ系統なら問題はないが、ランク40以上のものと但し書きがある。春さんの乳でアイスのランクは余裕な気がするが。
「あー……、結構ばらけるんだね」
「そういうペテロの黒天は何が好物なんだ?」
一拍おいてペテロが答える。
「トカゲです」
全員の視線がお茶漬の黒焼きに集まった。ついでに、黒天の目が細まる。
「え、ちょっとやめたげて? 名前は黒焼きだけど食用じゃないから!」
「グルル」
慌てるお茶漬に、何のことかと言わんばかりにぶっとい手で顔を洗う黒天。
「黒焼きなんて名前をつけたお茶漬が悪りぃのか、ペテロのだから悪食なのかどっちだコレ」
「両方でし!」
「わはははは!」
シンの疑問に菊姫が明快な回答を出し、レオの笑い声が響いた。
「10層までより過ごしやすいね」
騎獣を捕まえた後、迷宮に来ている。金のないレオとシンが、騎獣を養うことはともかく、思うように成長させたり、騎乗したりすることが難しくなる未来しか見えないので金策ができるよう迷宮探索を進めることにしたのだ。まだ人の到達していない層は、ドロップ素材も高く売れるし、採掘採取ポイントがあるので、来るのに転移の金はかかるが、ソロで来ても敵を避けまくって、採取採掘で暫く籠もれば黒字になる筈なのだ。
「苔がもこもこしてるでし」
「苔といえばクランの島、桟橋つけて小舟も買わないと」
「船釣りしたいぜ!」
苔で島のブロッコリーのような巨大な苔を思い出したのか、お茶漬が言うとレオのテンションが上がった。
【釣り】スキルは持っていないが、普通の魚は釣れるはず、小舟でのんびり釣りというのもいいかもしれない。
それにしても、相変わらずレオは沢山の魚をくれたのだが、私が払った代金はどこへ消えていっているのだろう? 種類別に価格帯を調べるのが面倒というか、委託販売に出ていないような魚が大半なので、ランクに応じた一律の料金を払っているのだが……、カジノだろうか。そういえばまだ犬なままだな、とレオの尻尾を見る私。
「レオは狐になるのはまだ先そうなのか?」
カジノの景品、狐への『進化石』を目当てに通っていた筈である。
「わはははは……は〜」
「いくらスったのか怖くて聞きたくないでし!」
力なく笑うだけのレオに、菊姫が言う。
「二人とも騎獣にかかる分と、迷宮への転移分は金別にしときなさいね?」
「シルはカジノ銀行にちょっと預けてるの! そのうち大金当てるんだぜ!」
「うわー、ダメな人だ」
お茶漬が諌めたのに、シンが返したセリフがもうダメな感じ満載で、ペテロが笑いながらも若干引いている。
戦闘は、菊姫を盾に、ダガーで状態異常をばら撒くハイゴブリンをシンとペテロが倒しつつ、飛び道具を使ってくるスナガをレオと私が倒す。スナガの方が多ければペテロもスナガに回る、といった具合だ。お茶漬は今回、今まで合間に行っていた【投擲】などの攻撃行動はせず、状態異常がメンバーに入ったらすぐさま治せるよう構えている。
ガラハドたちとは違う戦い方だが、気心の知れたヤツラと役割分担をしてそれがかみ合う戦闘もテンションが上がって楽しい。まあ、何かの理由で手順が崩壊して阿鼻叫喚になるのもまた楽しいのだが。強さはマントのお陰で調整が楽になったので、みんなの強さに合わせやすい。協力して進んで一緒に阿鼻叫喚するのがいいのだ。
【ちょっと機嫌がいいようだ】
マントに目を向けると、鑑定結果が表示された。いや、うん、褒めたからか。
ちなみにレオとペテロの役割を逆にする場合、お茶漬が「スナガ三!」とか敵との遭遇時に叫び、三以上の時にレオが駆け出すというリモコン式になる。
私は『ヘイスト』をかけつつ、敵には行動阻害系を範囲でかけ、矢がお茶漬に飛ばないようにする。その間にレオがスナガまで至り、一撃。攻撃ターゲットがレオに移るのだが、【黒耀】の防御効果と、スナガの弓の攻撃は距離が近すぎるせいでそんなにダメージはでない。矢を直接持って刺したほうがいいんじゃあるまいか、などと思いつつ攻撃魔法を放つ。
「蜘蛛もっと出て欲しいでし」
「えーっ!」
裁縫持ちの菊姫がドロップ品目当てで蜘蛛を望めば、蜘蛛が大嫌いなレオが声を上げる。私はまあ、鱗粉を飛ばしてこなければ特に。肉の焼き串をもぐもぐしながら会話はスルー。
盾持ちスナガが混じる13層以降は、敵が面倒なパーティー編成だと見ると、お茶漬が『ルルー』を出し始めたので、阻害系魔法はお休みして最初から攻撃に回る。盾持ちスナガは菊姫がターゲットを自分にガッチリ固定、そこに『ルルー』に【魅了】された弓持ちスナガの矢が、後ろからドスドスと刺さるというなかなか酷い光景。敵に慈悲はない。
「ここまで順調に来ましたよ、と」
お茶漬が足を止めたのは毎度お馴染みボス層への扉前だ。
「休憩してボスだね」
扉前の階段に腰掛けながら言うと、他も適当に座り込む。
「あ、そういえばアイアンテーブル買ったでしよ」
「おお、何処で手に入れたんだ?」
「ナヴァイの雑貨屋と家具屋合わせたようなとこでし。ただ六人用のでっかいのは無かったでしよ」
「うーん、残念」
「でっかいのは動かさない前提の、ガラスの天板のやつになっちゃうでし」
アイアンテーブルなら野外で出しても、飴色の寄木細工の猫足テーブルよりは違和感が無いと思ったのだが。なかなかままならない。
本日の休憩食は、紙包み燻製ハンバーグのキノコソース、グリーンサラダ、小ぶりの焼きたてパン。オレンジピールにチョコをコーティングしたのとオレンジシャーベット。
「アイアンテーブルはともかく、階段対応のテーブルが何処かにないか、そっちが気になってきた」
「お盆は食べづらいでし!」
「うめぇ、パンうめぇ」
春さん印のバターたっぷり塗ったくってるからな!
「これはゆっくり食べたい」
「ふがふふ……っ」
「レオは頼むから、飲み込んでから話せ」
ガラハドたちに食べさせた時よりは反応がおとなしくてホッとしている。
「15階フロアボスって烈火が初討伐したんだっけか? クロノスのほう?」
「烈火のほうだね」
シンの問いにペテロが答える。
「一番進んでるのは、25階『バジリスク』か? その先で『進化石』が落ちるみたいだが」
兎娘が住人とさらに進んでいるので頑張らないと追いつけない。
「そういえばアナウンスあったな。あとボス三回か! 進化なにでんだろうな。狐もでんのかなぁ」
レオが『進化石』に反応する。カジノは諦めさせて迷宮に誘導したいところ。
「いや、一番進んでるのは40階だから」
ペテロが訂正する。
……あれ? 私か! 自分をノーカンにしてた!
「をっ!」
【血闘のオーガ】の攻撃をかわすシン。菊姫がタゲ固定をしているのだが、菊姫に攻撃を入れつつ、シンやレオたち近接職にも手を出す。
【血闘のオーガ】は二回目、あの時は早々にガラハドがダウンをとってしまったので分からんかったのだが、やはりコンボを繋ぐほど強くなるようだ。与えるダメージを上げるよりなにより、コンボを止めることが最優先。【血闘のオーガ】の格闘コンボが15回つながった時、【土魔法】『グレイブ』を内部から粉砕するという芸当を見せてくれた。
「コンボは10回以下で止めて。 たぶん15回繋がったの僕に来たらほぼ即死!」
拳を喰らったシンに『回復』をかけながらお茶漬が指示を出す。
「いいねぇ、燃えるねぇ」
先程出血した箇所の血を拭いながら、武器を使わない人型との肉弾戦に機嫌を良くしているシン。短く距離を調整するステップを踏んだあと、大きく踏み込んで強烈な蹴りを入れる。
「ここはシンのために【毒】の使用は控えておいたほうがいいのかな?」
「一対一じゃないんだからいいでしょ。シンはソロできるようになったら、タイマン張りに来ればいいじゃない」
「そうでしよ! 後で正面から挑んで死ぬ自由があるでしよ」
「そこは死ぬほうなのか?」
思わずツッコミをいれる私。
「わはははは!」
「おう、毒っちゃって! 俺、採掘に通って、寝る前にコイツに挑んで死に戻るの勝てるまで日課にするわ」
おっと、レオより先にもっとダメな感じだったシンが正道に戻った様子。
《血闘のオーガの爪×4を手に入れました》
《血闘のオーガの血涙×5を手に入れました》
《血闘のオーガの籠手を手に入れました》
《血闘のオーガの魔石を手に入れました》
《黒鋼×10を手に入れました》
《力の指輪+3を手に入れました》
《『血闘のオーガの牙』を手に入れました》
とりあえず、ローブの中の黒ミスティフの存在を忘れていました。魔法使いプレイであんまり動き回らなかったから大丈夫だと思いたい。




