168.集合
《称号【???の加護】を手に入れました》
《『天地のマント』を取得しました》
《お知らせします、初めて【???】に接触し、【???の加護】を取得しました。なおこの情報は秘匿されます》
《称号【天地の越境者】を手に入れました》
ログインしたらアナウンスが流れた。【???の加護】ってなんだ、【???の加護】って。
まあ、順当に言って邪神か、光と闇の神のように伏せられた九番目の神かな? ここ太陽神がいないから太陽神とか。普通は光の神が太陽神兼ねてそうなのに、ヴェルスは"星"の記述は見るのだが、アイルの図書館でも古本屋でも、文献に太陽という表記は見たことがない。
だが、あの二柱については文献もほとんど無いし、見つからないだけで太陽も司ってるのかね? ヴェルナと兄妹というので金色の月の方かと思っていたけれど、今回の【???】さんが、どっちかの月かも知れん。ストーリーが進めばこの辺も明らかになってくるのだろうか。いや、そもそも何故あんな声を聞いたのか。イベントが起きたトリガーは何かな?
それにしても【庭】で寝てよかった! 神殿行きになったらスキルが解けて、などと思っていたが、その前にEP0になった時点でスキルが止まる。……あれ、もしかして宿屋の個室とか鍵がかかる部屋なら、気にしなくともよかったんじゃあるまいか?
つらつらととりとめもなく考えながら食事をとる。MPは少し減っている程度だが、EP0はとても怠い。アボガドとサーモンのタルタルを薄切りのバケットに乗せて、クリームチーズとタラコを混ぜたディップも美味しい。スティック野菜にマヨネーズが今は正義、何せ材料が卵と酢と油だからな。
一人なのでテーブルを出すこともなく、横着してお盆を膝に置いて手づかみで食事を済ます。
人心地ついたところで貰ったものの確認。
【???の加護】については、【鑑定】【ヴェルスの眼】共に読み取ることができなかった。まあ、【ヴェルスの眼】は不正とか欺く系の意図のあるものには、突出して強いが他はイマイチな気はする。本人の印象のせいかもしれんが節穴な気がそこはかとなく。カルの【暴キ視ル眼】なら見えるかもしれんが、頼む気はない。頼むのはチャレンジャーな気がする……
【天地の越境者】は、結界やら境界やらスルーして入り込めるようです。【解結界】の立場が……っ。いや、解くことによって解放されるモノがあったりするのか、白とか。
『天地のマント』はマントです。単色茶色に織りで模様があるのだが、その模様が角度によってうっすら光る。これも効果が謎だ、というか【鑑定】すると【今のところやる気はないようだ】とでるのだが、なんだろうこれ。
あ、触ったら白くなった。触った者のステータスで色が変わるのか、コーディネイトで色が変わるのかどっちだ? ――コーディネイトで色が変わるようだ。パーティープレイ用の白と緑の装備に着替えると、モスグリーンに金の金具のマントになった。早速装備。
「ぬあっ!」
いきなりかかるG。いや、重力ではなくこれは……。ステータスがキレイに半減してるんだが! 称号までもが半減マーク、無事なのはスキルだけだ。呪い!? 呪いのアイテムか! 慌ててもう一度【鑑定】すると、鑑定結果が【とりあえず存在感をアピール中】となった。嫌なアピールの仕方だなオイ! しかも脱げません。着たきり雀!? 【パジャマと全裸は考慮するようだ】ってオイ! 夜着に装備替えをしたら脱げた、が、装備を戻したらついてきた。自動装着。
これはあれか? 今の私はパジャマ装備の方が強いのか? 一瞬、パジャマらしいパジャマの上下にボンボンのついたナイトキャップ姿で、颯爽と魔法を放っている自分の姿を想像。焦って神器装備に着替えると、今度はやたら身が軽い。
【俺はヤルぜ! ……の気分のようだ】
ああ、うん、ステータス跳ね上がってるのね……。称号は普通のようですが、素のステータスが三倍以上ですかそうですか。脱いで着てを繰り返した挙句分かったこと。神器、それも神の名前を戴く装備を三つ装備した時点で正常値に戻り、四つ目からはステータスが跳ね上がってゆく。
『タシャ白葉の帽子』『ヴェルナ白夜の衣』『ファル白流の下着』『ヴェルナの闇の指輪』『ヴェルス白星のズボン』『ヴァルの風の靴』、お世話になっています『アシャ白炎の仮面』。そして『ヴェルス断罪の大剣』装備が今の所最強装備。
まあ、私が大剣をうまく扱えんので数値だけでの話だが。
普段は『疾風のブーツ』を履いている。『ヴァルの風の靴』はどう見ても女物で、装備はできるけれど履けない罠。名前がわからんので調べたら、ベアフットサンダルとかいう種類のビーチウェディングで花嫁さんがつけるものに似ている。足首の細い女性がつけたら似合うだろう。調べるまでこんなもんがあるのも知らんかったが。あれだ、この世界では神殿に舞を奉納する剣舞の女性がつけたり、踊り子さんがつけたりするらしい。どっちにしても女性もの、ストレージの肥やしと化している。
因みに着替えを繰り返したら、特に効果に影響はなかったが、鑑定結果が【飽きてきたようだ】になった。ついでに裸になったらマントはそのままだった。パンツにマント……っ! ……考慮してくれる全裸は全裸のようです。全裸ってはっきり書いてあったが、ちょっとは大丈夫なんじゃないかと思った私が悪かった。
そろそろクランメンツがログインして来る頃なので、移動しよう。すでに菊姫とお茶漬は居る様子、クランハウスに居れば、そのうち揃うはずだ。普通装備に着替えて転移する。マントのおかげでステータスが落ちているのだが、『ファル白流の下着』を着ると、多分パーティーを組むのに丁度いいような気がするので、結果オーライだ。他の神々の装備を差し置いて、ファルの下着をつけることになるとは思わんかったが。こう、強さの調整ができるようになった、と前向きに思っていいだろうか。振れ幅激しすぎるような気がする。
【ぱら☆だいす】島――レオ命名――のクランハウスに転移すると、菊姫がふかふかの布団を抱えていた。
「こんばんは。どうしたんだそれ」
「こんばんはでしー。いい羽根がむしれたから作ったでし! 一つあげるでしよ」
どうやら作った布団をクラン共有倉庫の個人枠に突っ込んでいるところだったようだ。共有倉庫は少し特殊で、共有枠は自由に出し入れ可能、個人枠は入れることは自由にできるが、出すことは対応する個人しかできない。共有は現在500枠、個人はデフォルトが50枠、お茶漬は早速増やしている。
「ありがとう」
すでに私の分は個人倉庫に突っ込んだ後ということで、私も倉庫の端末という名の箪笥に向かい、羽根布団を取り出す。ふかふかである。貰いっ放しも悪いので、迷宮でドロップした『双頭の鷲の羽毛』『ミルハーピーの胸羽根』をお返しに菊姫の倉庫に突っ込んでおいた。他にもレオから魚介が詰められていたので、お返しに調理したマルチキの唐揚げやらを放り込んでおく。ついでに共有部分に各種薬と、『転移石』『帰還石』。
クランハウスで何をするかというと大抵が生産なので器用の上がる卵料理を詰めておく。レベル上げ生産は、ほんのちょっと高ランク素材を使って、ほんのちょっと高レベルな生産をすると、経験値が多く入る。ただ、失敗するともらえる経験値が下げられるので、なるべく失敗しないギリギリのラインで大量生産をするのだ。失敗すると売値が下がるのでお財布にも痛い。
大量生産をするときは、味わう間もないような食い方をするので、大量に詰めた卵料理は普通の卵が材料です、あしからず。タマ・ミーの卵を使った料理も少量入れたが、これは何か失敗したくない自分の装備を作るときなどに食べてもらおう。
共有枠には他にも誰かが入れたらしい属性石やら、材木やら木の実やら、皮やら雑多なものが入っている。自分で使わない素材、全員が使うだろう素材を放り込んで行ったのだろう、なかなかカオス。
「共有倉庫って並べ替えできたっけ?」
「できて欲しいでしけど、説明読んでないでし」
「個人の方はできるけど、共有はできないんだな、これが」
階下――玄関がある階を一階とカウントして下にある部屋、巨木の上にあるので、地上よりはるかに高い場所にある――から出てきたお茶漬が会話に加わる。
「不便でし!」
「もうバグに近いよね。そのうち改善されると思うけど」
「これ、レオとシンはゴミも詰めてるでし」
菊姫がぷりぷりしながら言う。
「モッタイナイ病で捨てられなくて、却って貧乏になる典型」
「あ、初期の敵の魔石くれ」
改めて覗いたら、トビウサギやらモグラやらのランクの低い魔石が詰められていた。
「何かに使えるの?」
「そのうち貴様らも大量に使うと思うぞ? HAHAHA!」
お茶漬が聞いてくるが、伏せられる情報は謎バレに直結なのでストレートに答えられない。ログイン時に"現実世界でのゲーム知識封印"にチェックを入れているので、現実世界でなら話し放題なのだが。チェックを入れないと現実世界でのことも謎バレ扱いになる。電脳世界に意識が再構築されている時点で、記憶やら考えが丸見えなんだろうなあと思いつつ。実際、気持ち悪がってチェックを入れない人もいるそうだ。まあ、処理上のことで、一人一人の見分けはつかないそうなので良しとする。
ログアウト時点で"精神ダメージクリア"というのもあるので、現実世界でゲーム内事件の精神ダメージを引きずることはない。事象そのものからではなく、記憶によるダメージはあるが、ワンクッション置くので、生活に影響を及ぼすことはほぼない。どこか映画を見ている風だと言えばわかりやすいだろうか。
「こんばんは〜」
「こんばんは」
「こんばんはでし〜」
「お帰り、こんばんは」
ペテロが来て、再び倉庫談義。そうこうしているうちに、レオとシンもやってきて全員揃った。レオとシンにゴミは容赦なく捨てると、お茶漬が宣言したところで本日の行動を決める。
「新しいとこ行きたいぜ!」
「迷宮?」
レオにお茶漬が聞き返す。
「海賊島行ってみたい!」
「ああ、ご近所さん」
シンの言葉に私が答える。
「ああ、ここ買う時に不動産屋が言ってたね」
「どこもかしこもプレイヤー向けな場所は危ない場所が近くにあるでし!」
「待って、君達。船ないのにどうやって行くの?」
お茶漬の言葉に現実に戻る。そういえば船着場もまだだった。
結局、アイルに騎獣を探しに行くことになった。何人かのプレイヤーがすでに乗っているらしい、らしいというか炎王たちとロイたちが乗っているそうだ。まだ全員分手に入れておらず、チャレンジ中だそうなので現地で会うかもしれない。
私も騎獣を手に入れに行くことに否やはない。レーノに多少後ろめたさは感じるが、人前で普通に乗れる騎獣が欲しいのだ!
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・増・
称号【???の加護】
【天地の越境者】
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