15.日曜日
三連休の初日、起きたのは十時近かった。
つい二度寝を。
『異世界』と違ってすっぱり起きられない、それでも起きだして用事を済まし、ログイン。
菊姫とシン以外はすでに入っているようだ。
と、思ったら隣でペテロが起きだした。ほぼ同時にログインしたようだ。
「おはよう」
「おはよう、パジャマ用買った?」
「ああ、汚れないとはいえいつまでも外着やアンダーで寝たくない」
人がいなければアンダーもありかもしれんが。実際シンは気にせずアンダーで寝ている、裸族め。
「私も買おうかな、和服であればいいな」
「忍者だから?」
「忍者だから」
「菊姫に頼んでみたら?」
「そうしよう」
顔を洗って食事をしながら話す。
「あ、お茶漬からシンたち二人が来たらどっか行こうってメール来た」
「こっちにもきた」
「猫元気?」
「元気すぎるんで部屋から締め出した。最近は親のところいってるね。あ、盗賊ギルド探してたら暗殺者ギルド見つけたよ」
「物騒だな、おい」
「場所を人に教えると、その人の暗殺者の資格剥奪のうえ拠点替えるって言われたから教えられないけど」
なるんですね? 暗殺者。
「そういえば露店の古本屋見つけたから場所教えたいのだが、これは教えて大丈夫なのか不安だ」
「世界の謎といい、人に教わるな! 自力で解け! って方向だね」
「教えない方が無難かな。すぐ見つかるだろうし」
「平気かな、もし謎扱いのクエストでも『パーティでフラグを立てた場合』に当たるだろうし。てか、アナウンス前だったんで昨日、お茶漬たちに住人とフレになることとか条件を思い切り話しちゃったんで、すでに謎じゃなくって一般クエストに分岐した気がする」
世界の謎扱いのクエストは完了するまでクエスト一覧に反映されず、完了後に謎一覧に記載される。自分で謎を解く前に答えを知った状態で完了させると、謎でなくクエスト一覧の方に記載される。
決定的なことを言わなければ大丈夫だそうだが、探す相手の位置情報はダメな部類に入る気がする。ただし、パーティで謎のフラグを立てた場合パーティメンバーとは何でも話せる。自分と私はこれに当たるとペテロは言っているのだ。
パーティは組んでいたがフラグを立てていない他のメンツは残念ながら除外される。
もっともアレが謎のフラグなのか、一般クエストが起きる前の単なる前振りイベントかどちらか分からないのだが。
「では教えようか」
「うん。あ、住人にパトカもらったし、フラグ回収しに行かなきゃ」
「幼女の」
「ちがう。ひっぱるな!」
「私も露店で葡萄買って、工匠区で装備買わなくては」
というわけで連れ立って露店街に来ると、そこに古本屋の露店はなく香辛料の販売をしていた。
「すみません、ここって古本扱ってませんでしたか?」
「あー、古本屋のじいさんには十日にいっぺんくらい替わってもらってるんだよ。休みが取れなくてね、店開いとかないと次の出店場所決める時に不人気な場所に移動がかかるかもしれなくてね」
なるほど、だからやる気がなかったのか、あと一緒に置いてあった謎の雑貨は香辛料を調合したり潰したりする道具だったのか。
仲が良くても同業者には場所取りがかかってるから頼めないとかそんな話を後に露店街をでる。
「食事買いにきがてら、気長に通おう」
「初日夜はいたから、計算すればいる日でそうだけど。平日昼にあたったら長くなるな」
工匠区へ自分も行くといい広場に向かおうとするペテロを古本屋教えるからと引き留め連れ立って歩く。馬車には乗らせぬ!
「おっと、閉まってる」
「私がいるからかな。フラグ回収してないと入れないのかも」
「なるほど」
中々ガードの固い古本屋である。
「あ、薬士ギルド寄っていいか? レシピとか買っておきたい」
クエストに移行しないままフラグへし折ったとかじゃないよな、と少々気になりつつ東門前に位置する薬士ギルド経由で工匠区へ。
「刀どんな感じなんだろうか」
「力だけじゃなく器用か素早さが乗るかんじだね、どっちかはまだ検証中みたいだけど」
「剣と斧が力で、投擲が器用、杖が魔力か精神、弓が器用と力、突剣が素早さと力、だったか、今分かってるの」
「だね、槍が力と器用で刀が力と素早さって予想だったかな。素材で違うって疑惑もでてて結論でてないね。私は職業適性で大体決まる気がするからいいけど、盾メインじゃない剣士って武器の幅が広いね。でもやっぱり自分の使いやすさってあるみたいで安い武器で色々試して使いやすかった武器のスキル取るといいのかな」
はっ、今ならパーティー空いてるしペテロはレオや菊姫と違って小動物に全力投球なかんじでもない、白を紹介するいい機会なのか?
「初期装備の片手剣系以外は一番安いのでも1000からだから全部試すとなると結構なお値段に。なんで手槍まで売っているのか」
いやいや、まずパーティーだからと言って白が見えると限らないし白が嫌がるかもしれん。
「売りはらうにしても半値以下になるしね、広場の店だけで済ますとまだオーソドックスなのしかないんだけど」
後で白に確認とってからにしよう。
「ん、とりあえず好みで刀系買ってみる。ぴんとこなかったら大剣いってみよう」
武器を選びつつ全く違うことを考え、双方に結論を出す私。
ルバに打ってもらうのはせめて方向性を決めて金がある程度できてからだ。
値段も性能もごく普通の量産品を手に取る。
「ペテロはメイン武器どうするんだ? 暗器は幾つか買いそうなイメージだけど」
「今は短刀かな。小太刀か忍者刀にしたいけど、同じ刀でも日本刀型って無いんだよね」
私が持っている刀は、刀身が細く片刃で反りはついているがファンタジーらしい見かけの武器だ。
「米とともにそのうち国ごと発見されるか実装されるかしそうだけどな、日本」
「新しい街が発見された時、ワールドアナウンスで発見した街や国で交易が始まるって言ってたね」
「まあ、見つかるまでは今ある刀で刀身黒く塗って、らしくしといたらどうだ?」
「おお。そうしよう」
ペテロは職業のせいか両手持ちの武器はマイナス補正がつくらしく上手く扱えない、私も魔術士の時は剣がダメだった。武器は自由に選べるけれど職業によって装備できるRankが決まっており、その中から自分に合った武器を選ぶのだ。職だけでなく、武器や武器に使われる素材でスキルとの相性の良し悪しもある。
って杖の少年に顔合わせづらいな。長杖と剣使い分けしながら行くか。唐突に工房の少年の顔が浮かびメイン武器にまた悩むのだった。
ローブと間にあわせで着けていたプレートを売り払い、ペテロと同じ店でコートを買う。軽鎧は装備できるが、最初にローブだったせいか装備していると違和感があったのでコートにして、小手と金属で補強されたブーツにした。
プレートのほうがもちろん物理防御が高いが、コートはかわりに魔防が高く、回避を邪魔しない。
買い物が終わったころには日がとっぷり暮れて、昼間から空にあった白い月を追って黄色い月が顔をのぞかせていた。すでに仕舞いにしている工房も多く、路地は少しさびしくなっていた。
お茶漬から連絡が来てまだシンと菊姫は来ていないがレストランで集まろうということになった。
馬車の時間だ、もう馬車苦手なのをカミングアウトしてしまうかな。
「おー! キタキタ」
「こんばんは」
レオが手を振ってくるのに答え、席に着く。
注文を聞きにきた店員にポトフのような料理とジンジャーエールっぽい甘くない炭酸飲料を頼む、ペテロはソーセージ盛り合わせとビールだ。この街にアイスティーは存在しないのだろうか。ただ飲むだけなら暖かいものでいいのだが……
「おー、カンパイ~!」
グラスを当てて日本式の乾杯。レオが毎回やるので一杯目は必ずグラスで飲むものにしている。レオも飲めないのに何故乾杯が好きなのか。
「シンと菊姫きてないけど、予定決めちゃおう。ボス行って次の街行かない?」
「ああ、Dランクになってここ以外の街通行許可になるのだったか」
「そそ、転移石登録しとけば街の移動は有料だけどすぐ出来るし」
誰かがボスを倒すと街が解放されて行き来が可能になるが、移動は徒歩か馬車という事になる。ボスが落とす転移石を神殿にある転移の門に登録すると一瞬で転移が可能になるため、結局街を解放した人に続く他のプレイヤーもボスは倒すことになるのだ。
「今、見つかってんのは西のセカンだっけ?」
「東のサーもさっきワールドアナウンスきたよ」
「まあ、名前からして順当に見つかった感じだね」
「北に首都ファイナがあるらしいぞ」
立ち読みでつけた知識披露。
「ほうほう」
「この街から北へでる道ないからどっか他の街経由していくのかな」
「北行真っ直ぐ行こうぜ~!」
無茶を言い始めるレオ。
「いやいや、迷って終わる予感しかしない」
そう、この世界は普通に街と街の間の距離が長い、道なき道を進めば、迷子になるのは間違いない。
せめてマップで街の方向がわかってから道のないエリアは探索したい。ちなみにお隣のセカンまで二日と半日かかったらしい。
「えー! 道なき道を獣道したい~」
「まあ、現実世界と違って食料の持ち歩き楽だし、行ってもいいけどね」
「敵が強すぎて無理だったらすぐ戻るんなら」
ペテロが同意してお茶漬が流されている。
「私は明日休みだからいいけど、下手するとフィールドで本格的に落ちなくてはならんからシンと菊姫がそれにO.K.だしたらな」
そういえばリアルでも廃墟とか好きだったなレオ、探訪につきあった事ないが。
「野営の準備せんと」
「一日でつけないからな~」
シンと菊姫がログインするのを待って野宿の準備をし出発することにした。
西に行くか北に行くかは二人次第だ。
どちらにしても今のうちに休憩を取ろうという話になり宿屋にもどった。宿屋の予約をどうするかも決めんとならん。
「ログアウトしたらシンと菊姫にメールしとく~。で、時間変わったら連絡するわ」
「じゃあ十二時半に」
「昼食べてくらぁ!」
再集合の予定を立ててログアウト。
私はもう昼というかブランチというかを食べたあとだったので、夕食用の準備でもしよう。