152.三人
とりあえずハウスはまだ建造中なので店舗にリデルを顔合わせ方々連れて帰ることにする。私は宿屋に泊まるので、当面は屋根裏部屋を使用してもらおう。……リデルを引き取ってラピスとノエルを神殿に帰すのは心情的にきついので転移ついでにエカテリーナに引き取りを打診しようか。
それにダンジョンで雑魚寝している仲とはいえ、女性がカミラ一人というのもどうかと思うし、いい機会だ。
とりあえず、リデルが店員に服を見せられている間、エカテリーナに時間が取れるかメールを入れる。この世界のメールは精霊の囁きの形だったり使い魔が届ける形だったり使う階層によって様々だ。こちらに届くとメールという形で記録されるのだが。
「とうさま、これがいい」
「とうさま禁止」
「……マスター、これがいい」
「ではこれを二着と、このワンサイズ上を一着。あと揃いになるような似た男の子向けの服を」
後者二人は狼の獣人だと告げて依頼する。
リデルが選んだのは青と黒と白、差し色に金色の入った一揃い。黒いスカートは膝より少し上の丈だが、たっぷりとした白いフリル? ――中に着るヒダヒダはなんというんだ?――で、裾が大きく広がり実際より少し短く感じる。そしてニーハイ。胸元のタイが少しかっちりしたイメージを出しており、なかなか可愛い、ラピスとノエルの分も追加。
その他にもパジャマやらその他の着替えやら必要なものを揃える。選んで来るのはリデルであるが決定するのは私らしく、持ってくるのが一種類なのに必ず見せに来る。いいんじゃないか、と許可を出すと嬉しそうに胸に抱きしめて笑う。
――可愛いんですが、パンツはやめてください。色々まずいです。
リデルがあれがいいこれがいい、迷って聞いてくるタイプでなくてよかった。どうにも服屋で取っ替え引っ替えは苦手だ。ホームセンターとかは見ていて楽しいし、無駄に色々買ってしまうのだが。ラピスとノエルの分もそれなりに揃えたのであとで部屋に入れておこう。ペテロに渡す分はクランハウスの共有倉庫に突っ込めばいいか。
買い物をしているうちにエカテリーナから返事が来て、今からなら時間が作れるとのことなので、切り上げて神殿へ転移。まあ、足らん分はカミラにでも付き添ってもらおう。
「こんばんは、すまんな突然」
「いえ、かまいませんわ。お布施は期待しますけど」
ニコニコと相変わらずである。ファストの神殿は質実剛健、拝殿の間や高位の神官服は多少装飾が施されているが控えめだ。ただ気持ちよいくらい隅々まで清掃が行き届いている。
「あらあら、可愛らしい。こちらのお嬢さん……ではないのね?」
エカテリーナは【浄眼】とかいう鑑定系の眼を持っていたのだったか。
「ああ、まあな。とりあえず店舗に住んでもらうことにしたので、ついでと言ってはなんだがラピスとノエルも本格的に引き受けようかとおもってな」
「まあまあ、ようやくですか」
「できれば一般常識や教養を身につけるまで神殿に通わせたいんだが」
「もう同年代と比べれば教えることはありませんよ。あなたに会うために頑張っていましたからね、どちらかといえば子供にしては遊び足りないんじゃないかしら?」
確かに少し子供らしさが足らんか。私は楽だが、ちょっと問題があるかもしれん。無理に子供らしく! とは言わんが好きなことを伸び伸びやってもらいたい。
「孤児院の庭には昼間は誰かしらいますから遊びに来るのは歓迎しますけど、きっとあの子達は他の事をするでしょうね」
そう言って小さく笑う。
「さて、あの子達はもう起きていますよ。今日の夜は孤児院でささやかながらお別れ会です、お引越しは明日以降。荷物はあとで取りに来る事にして、今日は一緒にお店に行ったらいかが?」
そういう事になった。
下仕えの女官がラピスとノエルを呼びに行っている間に、お布施&料理を差し出しつつ、まあこれでひと段落いちだんらくかと考える。何がどう段落なのか自分でも謎だが。だがしかし、異邦人たる私が居なくなっても店が回るようにしておくか、商業ギルドに新たな就職先の斡旋を頼んでおくしかないかな? 仕入れルートがない店だしな。――ゲームが終わった後、この世界も終了なのかもしれんが。
「主! おはよう」
「おはようございます、主」
抱きつこうとして隣にリデルがいることに気づいて踏みとどまる二人。腕を開くと安心したようにパタパタと寄ってきて、いつものように抱きつく。
「ラピス、ノエルおはよう。こっちはリデルだ。リデル、ラピスとノエルだ。三人とも一緒に暮らすことになると思うから仲良く頼む」
「ん、主が言うならラピスは仲良くする」
「僕もです」
「はい、マスター」
私の腕に抱きつきつつ、上半身だけを伸ばして匂いを嗅ぐようにリデルを見るラピス。リデルがこてん、と首をかしげると急いで腕の陰に隠れてまたリデルを見る。リデルが首をかしげたタイミングでラピスの尻尾がぼわぼわしている。動物か! 動物なんだな? 尻尾もふったらダメかこれ。
「主、三人とも一緒ということはこの子も孤児院に? 人の子とも違うようですが」
ノエルが聞いてくる。おや、さすが獣人、気配でわかるのか?
「ああ、さっきラピスとノエルを引き取ったんだ。明日以降になるが、雑貨屋に引っ越しておいで」
「本当?」
「いいんですか?」
「ああ」
ああ、だいぶ髪の手触りが良くなったな〜などと思いながら撫でているとラピスとノエルが涙目に。私のローブに顔をこすりつけてくる二人を小首を傾げてリデルが見ていた。
――ホムンクルスだったからなのか、なんなのか、名付けの時こそ抱きついてきたが、リデルに抱きついたり手をつないだりの習慣はないらしい。まあ、自分で作った幼女を抱っこしてる図とか変態と紙一重なので白の錬金術士とやらをとやかく言う気はない。
リデルは○○を頼む、とか○○をしろとか、何か用や仕事を頼まれるのがどうやら嬉しいらしい。獣人二人もやることを設定された方がモチベーション上がるらしいし、レーノはあんなだし、あまり人に縛られたくない私としてはイマイチ納得できない感覚だ。
アリス=リデル Lv.1
Rank ー
Master ホムラ
種族 ホムンクルス『アリス1/2』
職業 ー
HP 110
MP 156
STR 27
VIT 27
INT 41
MID 41
DEX 98
AGI 27
LUK 10
スキル(90sp)
種族固有
【アリスの半身】【DEX特化】
リデルのステータスはこんな感じ。自分のレベル1の時を思い起こせば破格だ。職業は私の転職可能リストに出ているものならば選べるようだ。錬金術士かな、ホムンクルスだし。
【アリスの半身】は同じ『アリス』か『永遠の少女』の分身との一時的な融合が出来るらしい。"一なる数が集まった場合"、となっているのだが『リデル』と『A.L.I.C.E』がいれば毎回融合可能ということだろうか……。
【DEX特化】は字面そのまんまだ。私が飲んだ薬の効果だろう。ペテロの『A.L.I.C.E』には【闇属性】か【闇特化】とかそんなのが付いているのだろう。
リデルは私の付属物扱いなのか【譲渡不可】の装備も装備させられる。職を変えたら、とりあえず『妖精の手袋』を装備設定しよう。
「ではエカテリーナ、また後で。感謝する」
「いえいえ、またお布施をお待ちしてますわ」
待つのはお布施なのか。
「リデル、おいで」
リデルを呼び寄せ、雑貨屋に戻る。酒屋の三階を部屋にしたのに、すでに部屋数が足りなくなった罠よ。おかしい。
リデルに私の部屋を使ってもらおうとしたら遠慮された。ラピスとノエルが一緒の部屋でいいというのでしばらくはそれでいくことにした。リデルの錬金が上がれば、大量の在庫を倉庫に突っ込んでおく必要もなくなるので、三階の倉庫をまた少々削ってリデルの部屋にしようかと思う。
ハウスが整えば移ってもいいのだが、一人で留守番させるのも心が痛い。かといって全員でいきなり引っ越すのもミスティフが嫌がりそうだし。
「おはようございます、主。ラピスもノエルもおはよう」
「おはようございます」
酒屋側の居間にいた、年齢不明年長組から挨拶を受ける。規則正しい二人組である、ちょっと見習いたい気がしなくもないが、仕事がない日に早起きは無理です。布団が至福。
「ああ、おはよう」
カルはややラフながらもすぐに外出できるような服に着替えている。レーノ君は同じ服しか見ないのだが、もしかして装備のまま寝ているのだろうか。外殻が変形した服とかだったらどうしよう? あとで聞いてみよう。
「おはよう」
「おはようございます」
「初めまして、おはようございます」
私に続いて、ラピス、ノエル、リデルの順で挨拶する。
「初めまして」
「初めまして、お名前は?」
レーノが傍のリデルに聞く。
「マスターのモノになりました。リデルです」
「ぶっ!」
なんてことを言い出すんだこの娘は!!!!
「おや、他に僕が出来ましたか」
「仕える方がいるのは幸せですね」
カルが笑顔のまま言えば、レーノも頷く。
「え!? そういう反応!?」
ラピスが頭をすり寄せてくるので何かと思ったら、気がついたらノエルの頭をもふもふしてた。白かったので白と間違えて心を落ち着かせようと無意識にもふっていたらしい。乱れたノエルの髪を手ぐしで整えつつ、ラピスの頭も撫でる。
騒いでいるとガラハドがパジャマ代わりのシャツのまま腹を掻きながら出てきたのを筆頭に、居間に全員集まった。
「朝っぱらからすまんが、今日から一緒に住むことになったリデルだ。ラピスとノエルも神殿の手続きを終えたら明日にでも引っ越してくる」
「おお! ラピス、ノエル、改めてよろしく! リデルもよろしく! 俺はガラハドだ」
「二人ともおめでとう。リデル、私はイーグル、こっちはカミラ。よろしく」
「よろしくね、二人もおめでとう」
笑顔で受け入れる三人、順応性高いな。あとラピスとノエルにおめでとうと声をかけるということは、やっぱり二人は神殿に帰るのは寂しかったのだろうか。ここに私は滅多にいないし、神殿のほうが知り合いも友達も人数多いと思っていたのだが。
「マスターのモノになりました。リデルです、よろしくお願いします」
笑顔のまま三人が固まった。
ギ・ギ・ギ・ギ、っと音がするようにリデルから私に顔を向ける三人。
「 ホ ・ ム ・ ラ ? 」
ああ、うん。
真っ当な反応だと思うよ。
三人の感覚、好きだな。
問い詰められるのが私じゃなければだが!!!!!!