146.島……
カジノを荒らすその前に。
天人のステータスは人間より全体的に底上げされるが、進化の時に要求されたINT・MID・AGIが成長で突出する、次のレベルアップが楽しみだ。STR・VITは上がりづらくなる模様。種族固有スキルは【精霊の囁き】と【常時浮遊】。……私どんだけ浮くの?
【精霊の囁き】は小さな精霊を呼び出し一定時間HPMPの継続回復が可能。……どんだけ回復するんだ私。
で、何が言いたいかというと【常時浮遊】がですね。
やらかした感満載です。【重魔法】『グラビル』を自分にかけるプレイ、なんの修行だこれ。レベル1の魔法なので効果が切れる前に上掛けし続けてもMPの回復量が上回るので問題ない……、嘘です面倒臭いです。あれだ、マイナス補正目的で重鎧装備するか! (吐血)
『グラビル』をかけながらルーレットをプレイする。個室で効果が切れる時間を計ってアラームセットしたよ! 今まで、落ちなきゃいけない時間が近いですよ、のお知らせにしか使ったことがなかった機能だ。すぐさま『退化石』の出番かと思っていたが、これはこれで修行っぽい何か。新しいスキルが出ることを期待してしばらく続けてみようかと思う。
……保険で『退化石』を取得した私です。スキル石もちょっと上から順に取っていこうか、などと思っていたら、出るとこ出て引っ込むところ引っ込んだ婀娜っぽい美女が私の横で賭け始めた。やたら近くにくるので怪しめば、【魅了の肌】とかいう謎スキル発動中。いや、肌を見せることで【魅了】が発動するスキルという鑑定結果なのだが。
チラリ派なのでもうちょっと隠しているのが偶然見えたのを装ってくれまいか。胸に気付いた時はスキルにも気づいてしまったため、何かこう……胸の印象が巨乳から上げ底に変わった気分だ。
【魅了】は効かないんだが、空気を読んで退散。
カジノ側のあからさまなハニートラップだな。ちょっと荒稼ぎしすぎた!
☆ ☆ ☆ ☆
エリアスの店に行って後回しになっていた【大工】や【ガラス工】の生産上げをする。生産施設の設備を借りたのだが、【大工】はサー、【ガラス工】はフォスにしかなかった。カンナがけをして各種木材の綺麗な板を作ったり、フラスコを作ったり。
15までレベルを上げたところで店舗に帰って今度は販売分の生産。すでに新しい間取りに変わっていて、仕事の早さに驚くばかりだ。トリンのところの従業員のスキルによって木の床に似合わぬ防音効果なので二階の二人を起こすことはない。と思うのだが、起きている間じゅう【気配察知】系のスキルを使っているらしいカルに気付かれない保障がない。起こしてしまっていたら、すまん、すまん。一応【気配希釈】も使っているがな。
ところで錬金をしていたら生産エラーで『ネジ』が出たのだが、なんだろう。なぜ『転移石』の材料で金属っぽいネジができるのか。ネジというと単体で利用はあまり考えられないので、せっせと集めろということかな?
明けの鐘が鳴ったのを聞いて、朝食を作ろうかと酒屋に向かう。部屋を出て階段脇の廊下をまっすぐ進めば突き当たりが酒屋に続く新たな扉だ。
扉を開けるとリビングだ。頼んだ通り、家具一式を揃えてくれた様で大きめなソファなどが並んでおり、誰の趣味か暖炉が設置されていた。ドーマーと言うのか、屋根窓も追加されており、明るい室内に様変わりしていた。ソファが大きいのはデカイやつらが多いからだろうな、と思いながらダイニングの厚みのある木製の食卓を通り越し、台所に入る。台所自体は以前の装備を移しただけなので目新しさはない。
「おはようございます、主」
「おはようございます」
「おはよう、早いな」
幾らも経たないうちにカルとレーノが起きてきた。
「いい部屋になったな」
「ええ、カミラとトリンが頑張ってくれました」
「ガラハドさんとイーグルさんが、家具の配置で右往左往してましたよ」
ああ、カミラに指示されてソファを抱えて配置調整にウロウロしている二人が浮かぶ。
「さて? 朝食どうする? 三人が起きるの待つか?」
「もう少ししたら私が起こしますので一緒に摂りましょう」
「了解」
もしかして三人に規則正しい生活が訪れてしまうのだろうか。もっともイーグルは普通に規則正しそうだが。
カルとレーノにお茶を渡して料理を続ける。ストック分は足りている、甘味以外は。どんなスピードで消費してるんだこの二人……? ショートケーキは生クリーム増量、チーズケーキはベイクドチーズケーキかジャムソースをつける。シュークリームはバニラビーンズたっぷり、プリンはカルが緩めでレーノは固め……。甘味だけは好みの把握が細部まで行き届いてしまった気がする。いや、まだ和菓子を出したことがないので、そっちは未知だ。
「そういえば、ランスロットと呼んだほうがいいのか?」
とりあえず定番のお菓子とその他を半々作って倉庫に突っ込む。
「いえ、カルのままで」
「そうか?」
「ええ。気に入っているんですよ」
穏やかに微笑むカル。ランスロットって名前長いから私もカルのほうがいい、今までの習慣もあるし。
「そういえば、ホムラは魔法剣士だったんですね?」
レーノが茶を飲みながら聞いてくる。
「ああ、そうだが?」
「僕、暗器持ちの魔法使いかと思ってました」
「あー、普段私手ぶらだからな」
冒険者は象徴である武器をむしろ誇示している者の方が多いのだが、私は【装備チェンジ】ですぐに取り出せるので杖も剣も普段は仕舞っている。パーティーの時は職替えしないまま、魔法使いのロールをやっているし、魔法剣士には見えないかもしれない。
「"主のステータスをベラベラ喋るんじゃない"って、またアイアンクローくらってましたよ」
レーノは誰とは言わないが、ガラハドがアイアンクローを食らったことはすぐわかった。
「弟子が申し訳ございません」
「二人に職業まで隠すつもりはないからいいんじゃあるまいか」
カルが謝ってくるのに返して作業を続ける。
「この人、僕が職業を勘違いしているのを知ってて、勘違いを助長するように誘導してたんですよ。なかなか油断がなりません」
「申し訳ない、まさか騎獣の契約で縛られているとは思わなかったので……。全くそんな様子がなかったですし」
「放し飼いですよね、僕としては縛ってくれた方が嬉しいんですが」
「まて、その言い方は変態っぽいからやめろ」
言い合う二人に、何で契約で縛ることと私の職業をバラすことが関係してくるのか訝しく思いながらもとりあえず言うべきことを言う。一番のツッコミどころだと思います。
それにしても、騎獣になりたがるというか支配されたがるのは、レーノが特殊なのかドラゴニュートの性質なのかどっちなんだろう? パルティンのつけた首輪のせいかもしれんが。
「主の職業を知った後、すぐに私が誘導していたことに気づくレーノ殿も頼もしいですよ」
「まあ、この人がいれば日常で何かあるってことはないでしょうから安心です」
なんだかよくわからんが、ギスギスもせずにお互い認め合っているらしい。化かし合いとか駆け引きはよくわからん。
そうこうしているうちにイーグルが起き、カミラが起きてきて、ガラハドの部屋に悲鳴が聞こえた。
朝一番からアイアンクローなんだろうか。何か起きろとの声も聞こえなかったので、問答無用でいきなり実力行使にでた気配が。
朝食後、レーノとバロンのギルドへ。島の申請結果の確認だ。
ガラハド達は闘技場に『転移のスキル石』を取りにしばらく通うそうだ。カジノの景品で取ろうか? と聞いたら、しばらくは相手の出方の様子見で暇になりそうなので、気長に通うから気にするな、とのこと。
そして現在。
「大変申し訳ないが、この島は個人の持ち物として認められない」
「何故?」
「他に建造物も人も無かったですよ?」
レーノさんや、人が物のようだぞ。
仮面を被ったレンガード仕様である。
バロンの冒険者ギルドの受付で結果を告げられ、納得いかないと訴えたら応接室に案内された。だがここでも理由を言わずに認められないの一点張り。
壮年の副ギルドマスターが青い顔で汗をかいているのは【畏敬】の効果なんかじゃないからな! たぶん!
「申し訳ない、それについては私から説明しよう」
なんか、追加で男が二人部屋に入ってきた。
「バロンの冒険者ギルドマスター、ブルースです」
「ファストの冒険者ギルドマスター、アベーだ」
「……ドナルドの息子じゃなかったのか」
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
ファストのギルドマスターはドナルドの息子だと思っていたのに。モスバーガーに謝れ!
冒険者ギルドのマスターはSランク冒険者をも上回ると噂だ。なんでそんなに強いのが書類仕事が多そうな組織のトップにいるのか理解不能だが。特にファストのギルマスは伝説級らしい。
二人の様子を見ると、やはりアベーの方に主導権があるらしく、ブルースはアベーの背後に一歩下がった形で立っている。
「とりあえず、かけてくれ。【畏敬】は仕舞ってくれると助かる」
どうやら理由が聞けそうなのでおとなしく座る。
「あの島は実は冒険者ギルドの管轄でね」
一旦、もったいぶって茶を飲むアベー。無言で先を促す私。
「あの島は獣が封じられている」
「は?」
なんということでしょう、レーノと一緒に探した、地図の陸から離れた海にあった島は神々の封じた獣の一匹が眠っていたのです。
……冷静に考えると場所からしてダンジョンありそうだよな。飛空挺とか手に入れたら事前情報なくとも探しに行くレベルだ。
南の島には不釣り合いな『オークの森』、『妖精花』『青虫芋虫』『羽兎』『眠りテグー』……あと肉。
「『永遠の少女アリス』か」