144.一夜明けて
ログインしたらベッドの上だった。
床で寝ていたはずなのだが、ログアウト中にカミラが起きたらしく代わりにベッドに寝かされたらしい。そして左右に白黒湯たんぽがいます。明け方近くに戻って、今は昼前か? ラピスとノエルが布団に潜り込んでいるわけだが、何でだ。
「ん。主、起きた?」
「おはようございます、主」
「おはよう」
この年で寝ている間に運ばれたこととか、カミラが使用した後のベッドに寝かされていることとか、潜り込んでた二人とか、何からツッこめばいいのか戸惑ってる間に挨拶を受ける。まあいいか、大型犬と一緒に寝たときのようにヨダレで布団が湿ってることもないようだし。半身を起こし、もふもふと二人の頭を撫でる。普段はどうもテリトリー意識があるらしく、二階にも滅多に上がってこないのだが、ここで私以外も雑魚寝していたからか、範囲が広がったのかね?
「カミラは気がついたんだな?」
「はい、今下にいます。水を大量に飲んで、入浴された後です」
「カミラ、寝るの飽きたっていってた」
ノエルとラピスが現在の状況を教えてくれる。ラピスがグリグリと額を押し付けてくる。匂いつけ? 匂いつけなのか?
それにしてもカミラはまだ本調子じゃないのではないのだろうか? そんなにすっきり治るものなのか。
顔を洗ってすっきりしたところで、下に降りると、休憩室にはカル・レーノ・ガラハド・イーグル・カミラが居た。
「狭い!」
「第一声がそれか!」
いや、だって最大身長前後の男が四人居るような広さの部屋じゃない、さらに私が加わったら五人だ。プラス、カミラにラピスとノエル。完全に定員オーバーです。ラピスとノエルが私の部屋に居た理由がわかった気がした。
……あと何か、ガラハドとイーグルの頬に手形が見えますが、何があったんですか?
「おはよう、カミラはもう大丈夫なのか? 酒屋の三階改装するか」
雑貨屋の三階もちょっと改装して、三階同士で行き来ができるようにすれば便利かもしれない。
「おはよう、悩み事が平和で何よりだわ。おかげ様でもう大丈夫よ」
「おはようございます、主。対処が早かったので、なんの後遺症もないようです。ただ、短い間にかなり体重を失っていますので無理は禁物ですね」
カルが補足しつつ、無理はするなとカミラに釘を刺す。
「とりあえず食事にしましょうか? 開店時間もありますし」
「了解」
本日のメニューは平打ち麺のゴルゴンゾーラチーズスパゲティ、平打ち麺でスパゲティと言うかは謎だが。青パパイヤのサラダ、豚ロースのオーブン焼き、オニオンスープ。生クリームをたっぷり添えたガトーショコラとルビーベリーのシャーベット。紅茶orコーヒー。
ゴルゴンゾーラスパゲティは冷めると途端に不味くなる、急いで食べよう。
「相変わらず旨いな」
「絶品です」
「ありがとう」
評価はいいが、実はたいしてランクの高い料理ではない。やはり素材集めの旅に出ねば駄目か、迷宮に神々が突っ込んだという魔物も気になるところ。旨そうに食べてくれるヤツがいると作りがいがある。
「それにしても改めてお礼を言うわ、三人とも助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。救助劇の主役はガラハドとイーグルだ」
「あの灼熱の場所は進むだけで大変なんでしょう? 以前同じ病を治そうと、それなりに名の通った騎士が『火華果山』に行って『火華果実』を手に入れることはおろか、行った当人の命さえ危うかったって聞いたもの」
全力で目をそらしているガラハドとイーグル。ブーメランパンツの存在はカミラには内緒らしい。
「それはともかく、改めてレーノを紹介してくれないかな」
イーグルがさらりと話題を変えてくるが、見るものが見れば挙動不審である。カワイソウなので乗ってやろう。
「ああ、レーノは金竜パルティンに仕えているドラゴニュートで、今社会科見学に預かってる」
「「「パルティン!」」」
「なにもそんなに驚かなくても……」
「ドラゴニュートってだけで珍しいのに、パルティンかよ。仕えてる竜がいるなら、てっきり青竜ナルンの方かと思ってたぜ」
「ああ、水属性だしな、レーノ」
「いやいや? 金竜パルティンって積極的に縄張りの外にはいかねぇからマシだけど、赤竜グラシャと同じくらい好戦的だしな? 普通は交流なんか持てないからな?」
「ホムラのペットほどじゃないけどね」
「まあ、初対面で腕挫十字固は食らったな」
「いやいや? なんでそんな規模縮小してるんだ」
パルティンが好戦的だと言うガラハドに思い当たる体験を告げたら否定された、何故だ。
「確かにパルティン様はミスティフの件もあって、縄張り内に見つけた意志あるモノや害あるモノは、視界に入り次第容赦なく駆逐してますね」
レーノが補足する。
「そうなのか?」
「基本的に面倒臭がりですので、理由を聞く前に駆逐してます。何か理由があったとしてもパルティン様には大抵関係のない理由ですし。騎獣のいる場所まで手出ししているわけでなし、死ぬのが嫌なら来なければいいんですよ」
「侵入した私が言うのもなんだが、棲み分けは大切だよな」
人間より絶対竜の方が先に住んでいたんだろうし。いや、私が分け入った場所はパルティンの影響を受け無いミスティフのエリアか。
「で? なんでホムラは無事なんだ?」
「僕は時々、騎獣の様子を見まわっていて、パルティン様の領域に間違えて入り込んだ輩を見つけた時には、一度だけ警告を出してるんですよ。そこで少しありまして…」
「あ、レーノ。この三人は白のこと知ってる」
「パルティン様がミスティフ達を保護していまして、ホムラが同じ種を召喚獣としているよしみで、他のミスティフの件でもいろいろ協力をしていただくことになりました。僕の視野を広げるためと、偏った属性を本来の属性に戻す意味もあって、パルティン様から離れて、パルティン様の命でホムラの移動手段として現在騎獣をやっています」
呆気にとられているカミラ、グリグリと眉間をもんでいるガラハド、ため息をつきたそうなイーグル。
「こう、金竜パルティンに見つからないよう祈って、命がけで竜の狩場を抜けてきたオレ達って……」
「あそこを抜けてきたのか、お前たち……」
ガラハド達の話を聞いて、複雑そうな顔を向けるカル。
「見つかったら何を言っても、問答無用とばかりに殺されると思っていたんですが……」
「ホムラの友人です、ってプラカードをつけるべきね」
カミラが肩をすくめておどける。
「パルティンはナルンより意思疎通ができる感じだったが……」
「青竜ナルンの方がことを分けて頼めば、縄張り内を通すくらいならお願いを聞いてくれそうよ。他の竜は大抵話を聞いてもらうところまで持ってゆくのが至難だし」
「てか、青竜ナルンとも遭遇済みなんだな?」
「青くてプルプルしてた」
「プルプル……」
「ナルン老は確かにご老体ですが、そこまで弱ってはいなかったと思いますが。もっともお会いしたのは百年単位で昔です」
困惑気味なレーノ。手違いで脅したことになってるって伝えたほうがいいのかどうなのか。
「お互い無事でよかったけど。ホムラ、私からも聞きたいことがあるんだけど?」
にっこり笑顔のカミラ。
「あー……、着替えはラピスにしてもらった。下着はすまん、ラピスに聞かれてドロップ品をそのまま出した!」
「……、ランスロット様のことだったんだけど」
「……」
墓穴を掘った。
「ホムラ?」
「カミラにもビキニ渡したのか?」
「も?」
墓穴を掘った男が二人追加された。
「……、あんたたち愉快な道中だったのね」
ガラハド達と迷宮都市で再会した時から今までのことを洗いざらい吐かされた後だ。
「好きで穿いたわけじゃねぇよ!!」
「右に同じ」
「なんならSSもあります」
「「おい!」」
破棄しろ! 消せ! などと抗議を受けつつ争っているとカミラがため息をひとつ。
「意識を失う前は、状況がこれ以上ないってくらい悪くて、足手まといが嫌で、不安で不甲斐なくって……。意識が戻ったら、知らない部屋であなた達が倒れてて、いくら呼んでも起きなくって。ラピスとノエルの二人が声に気付いて部屋に来て、ホムラが何をしても起きなくって」
ああ、ログアウト中だったからな。
「三人で騒いでたらようやくガラハドとイーグルが起きて、爆睡してただけって分かって。思わずお礼を言う前に殴っちゃったわよ」
カミラが泣き笑いで言う。――それで二人の顔に手形がくっきりしてるのか。
「あと、ホムラ。私が騒いだせいでラピスとノエルに『異邦人の眠り』を教えることになっちゃったの、ごめんなさい」
隠してたんでしょう? と。
意味がわからんかったので黙っていると、どうやら『異邦人の眠り』は数刻であったり、数日続いたり、と不規則で、そしてそのまま起きずに永眠もある、と。そういう認識らしく、親しくなった住人にとっては、本当に目覚めるのかと、とても不安を煽るものらしい。
事実その通りなので何も言えんが、すまぬ、私がここで寝泊まりしてなかったのは単に布団を買い忘れたのと、面倒がなかったので宿屋が気に入ってただけだ。……すごく言い出せない雰囲気!
……ラピスとノエルが起きたらひっついてた理由はこれか!
とりあえず二人を撫でておく私。
「カミラは能力減退も無くって無事だったし、ジジイも無事だったし。言うことねぇな」
ガラハドも暗かったり湿っぽい空気には耐えられないタチなのか、明るく言って笑い飛ばす。
「何度目かわかりませんが言わせてもらいます、まさかランスロット様がホムラの元にいるとは思っていませんでした」
「私も君たちと不肖の弟子が主の知り合いだとは思っていなかったよ」
「ガラハドってカルの弟子なのか?」
「はい、それこそガラハドはラピスやノエルの年の頃から、手のつけられない暴れ者で何度鉄拳制裁したことか」
「ジジイ! 余計なこと言うなよ! って、あだだだだだだ」
そうか弟子か、親子だって言われたらどうしようかと思ってた。笑顔のカルにガラハドがアイアンクローを食らっている横でホッとする私。
「雑貨屋さん、というには変わったメンツよね。平和ならいいんだけど」
「ランスロット様は引退には早いと思いますけどね」
カミラとイーグルが言い合う。
「切った張ったもないですし、平和ですよ。初めての来客が、伝承でしか聞いたことの無いドラゴニュートだったり、何故か枢機卿が訪れたりしますが」
ガラハドからアイアンクローを解除して答えるカル。
「……それは平和なの?」
何かカミラに困惑されたが、概ね平和だ。
サキュバスの下着もうやむやなまま不問だったしな!!!!!!!