142.溶岩地帯での戦闘
「あたたたたたっ!」
火華蛇から尻尾を食らうガラハド。
「水を司る癒しの神ファルは、私も祝福を頂いたが儚げな少女神だったぞ!? ランスロット様ほどではないが、一言二言言葉も頂いた」
イーグルが火華蛇を斬り払う。
「夢見がちな意見、ありがとうございます」
残った火華ネズミに『氷のエストック』を撃ち込む。場所の火の勢力が強いせいか、『フロストフラワー』など、普段は強い周囲にも効果が及ぶ氷魔法が弱体化している印象。代わりに対象が魔物のみに絞られた『氷のエストック』はダメージ量が上がっている。一応、魔物自体は氷には弱いらしい。
ちょっとだけ洞窟に【風水】も試してみたのだが、変えた緑はあっという間に熱を持ったオレンジに飲み込まれた。住み込んでずっとかけ続けていれば、あるいは緑の大地――というか緑の洞窟――になるのかもしれんが、そんな暇なことはやっていられない。
「ちょっと待て、ちょっと待て」
「……ホムラ、どう考えても私の今言ったイメージが、女神ファルに大多数が持つイメージだぞ?」
「えーと、私はファルのイメージ戦略に感心すればいいのか、それとも踊らされているのを生暖かく見ていればいいのか、どっちだ?」
「……すまん、この話題は止めにしよう」
ガラハドが一番に視線を逸らした。
「私もそれに賛成する」
「ホムラが神々をどう思っているか一度聞きたい気もするが、アシャにまでホムラの意見が及んだら、オレのダメージが大きい気がする」
「意見じゃなくて事実だが」
アシャはパンイチだったけれど現在は更生してるぞ。よかったな、お揃いで、などと心の中で思うに留める。武士の情けだ。
焼け溶けた石の流れる、溶岩の小さな流れが幾筋も枝分かれして行き先を覆う。迷宮の足元が水で覆われたダンジョンはこの練習だったのだろうか? 今回は動きが阻害されるだけでなく、足元の確かなところを選び損ねると、ダメージが入る。その上、時々熱い蒸気や、溶岩の泡がはじけて飛ぶ飛沫で『火傷』のダメージや、『燃焼』の状態異常が入る。広い空間とそれをつなぐ洞穴を繰り返し、進むごとに環境は厳しくなった。
『浮遊』をかけているので溶岩の流れは気にしなくても良いのだが、時々起こる破裂や爆発で二人がダメージを負う。ブーメランパンツには【全気候耐性】が付いているので『灼熱』のこの環境でも平気だが。
「時間があれば避けてくんだが、今はねぇからな」の、言葉通り、『生命活性薬』を飲んで弾ける溶岩に当たるのもいとわず進んで行く。すぐ治るとはいえ、当たった瞬間肉の焼ける臭いがして……って嘘です、そんな美味しそうな匂いはしません。まあ、とにかく痛そうなのだが、かまわず進む二人。
私は【火の制圧者】の効果が火属性系からのダメージ半減、灼熱などの気候、溶岩などの地形からのダメージ効果無効なもので、普通にノーダメで後ろをついてゆくだけだ、HAHAHA。『ファル白流の下着』についていた【全天候耐性】もあるしな、どれだけ環境から守られてるんだ、私。
現在のところ、敵との戦闘と、薬のリキャストの間、回復をかけまくるのが仕事だ。MPの回復量が相変わらずなので大盤振る舞いだ。
ただついて行くだけで心苦しいが、【火の制圧者】もパーティーに多少影響を与えているだろうし、【環境を変える者】は灼熱や極寒、多湿やらの体調ステータスに影響を与えるレベルの環境を緩和するものなので『熱波』とか『高温の水蒸気』からのダメージを緩和しているはずだ。これ無しでは『生命活性薬』を飲んだところで回復が間に合わないため、急がば回れで、溶岩の爆発ポイントなどを迂回して進むことになっていただろう。
でもまあ、一番有効だったのは【全気候耐性】つきのブーメランパンツだな! 私の称号効果よりなにより、自分で持っている方が効果が高いに決まっている。三人全員が環境に対応できていることが、移動のスピードを驚異的なものにしている、ハズ。
「うをぅっ!」
ガラハドのサンダルが溶岩の飛沫に当たって火を噴いた。
「何をやってるんだ何を」
イーグルが呆れたように言い、回復をする。
「耐久0になりやがった! まあ、戦闘用の装備じゃねぇからな」
「いつもの靴にしたらどうだ」
「……裸足でいい」
「……っち」
イーグルがパンツブーツ仲間を作ろうとしている気配、いつもと立場が微妙に逆転している様子。ガラハドの靴ってゴツい安全靴みたいなブーツだったか、剣はゴツいのに防具の方は金属部分が少なく結構ラフだ。
「だけどパンツのお陰で敵ともやれてるし、ホムラのお陰でHPの減りも気にしなくていい。当初想像してた状態で来てたら、ただでさえ焦ったところに、戦闘外でHP減ってイライラしてしょうがなかったろうな」
「その状態でどこが破裂するか観察しながら進むのは骨が折れたろうね」
「無理にパンツをいい話にしなくていいんだぞ? 素直に笑える話ポジションで」
「ホムラ」
「うん?」
「カミラに言うなよ!」
「もちろんホムラは、黙っててくれるよね?」
「私は別に黙っててもいいが、カルとレーノはどうだろう?」
カルから尋問……じゃない『火華果山』攻略にあたっての準備対策などを確認されて、ガラハドが言いよどんでいたところにレーノがあっさりパンツの存在を告げた。
そのあと実物を見たカルのなんとも言えない表情が忘れられない。
「うをーーーーっ! 厄介すぎる! ホムラ、あいつの弱点とか知らねえか!?」
「さあ、どうだろう?」
人参? ピーマンもあやしいところ。
阿呆なことを話しつつも足を止めずに進む。敵も迷宮のボスほど大きくも強くもないが、道中の敵としては強いサラマンダーが出てきたりと、当然強くなっている。体に斑模様のようにオレンジが広く広がっている敵よりも、額に小さく星の様に集まっている個体が強いのだが、その数も増している。
ガラハドが愚痴ならぬ軽口を叩いているが、迷宮のフェル・ファーシルートの道中よりも、二人が気を張って戦っているのがわかる。
目の前にいるのは巨大な火の鳥、『火華果山のフェニックス』
「すごく自己回復が得意なボスの気配が……」
「ちっ! 聞いちゃいたが、時間がねぇのに長期戦になりそうなヤツだぜ」
「焦るな」
【精霊術】闇『黒耀』の『闇の翼』、【時魔法】レベル35『ハイヘイスト』、【氷魔法】レベル5『エンチャント』。サボらず『エンチャント』を真面目に使用していれば、【付与士】の職業出現とともに、効果の高い『ハイエンチャント』がレベル30で使える様になったはずだ。……ちょっと反省しよう。
戦闘開始前にHPMP各活性薬を飲み、思いつく補助魔法をかける。
「『ブラックローズ』『騎士への抱擁』」
同じようにガラハドも闇の精霊を呼び出し、攻撃力増強の能力を使う。
魔法を使うと、その気配を合図にフェニックスが攻撃を始める。
威嚇する様に広げた翼は纏った炎をさらに燃え上がらせ、火の粉を散らす。バトルフィールドはフェニックスが飛べるほど広く、その割に足元はあちこちに溶岩溜まりができており、足場が少ない。ところどころに石柱があるのは、登って戦えということだろうか? カッパドキアの奇岩のように上に少し平たい丸い岩の乗った石柱が並ぶ中、何本かは上に何も乗っておらず利用できそうだ。
「『グラビティ・ミリオン』」
【重魔法】や【風魔法】には飛んでいる敵を叩き落とす効果を持つ魔法がある、今使える魔法の中で一番その効果が高いであろう【重魔法】レベル30。
狙い通りにフェニックスが落ちてくる。地面につくかという時に地上に繋ぎとめるために【木魔法】レベル20『薔薇の檻』を発動。あまり人前で使いたくない魔法なのだが今は急ぐ。
「【アステュート】」
「【鋼の一撃】!!」
間髪入れずにイーグルとガラハドがスキルを発動する。
「あっ! くそ! 逃げやがる!!」
ガラハドが大剣を構え直す。
地上に繋ぎとめるはずの薔薇の蔓は、あっという間に燃え尽き、フェニックスはすぐに飛び立ってしまった。
「私の攻撃はなんとか入ったけど、これはそこの石柱に登るしかないかな」
「耐性ついちまうしな」
状態異常系は同じものをかけ続けると、相手に耐性がついてだんだんと効かなくなってしまう。そのうち『グラビティ・ミリオン』ではダメージだけ入って落ちては来なくなるだろう。方針変更だ。
イーグルの方が素早さと器用さがガラハドより上のため、すでに『浮遊』がかかった状態での動きに慣れている。ガラハドは戦闘の動きには慣れて来たようだが、石柱を登るための動きの調整に多少苦労している様子だ。
「うをうっ!」
ガラハドの腕を掴んで、【空翔け】で石柱を駆け上がる。何かデジャブを感じつつ、頂上にガラハドを置いて私は隣の石柱に飛ぶ。ガラハドが踏み込んだり、剣を振りかぶったりすることを考えれば、同じ石柱に二人は居られない。
フェニックスが羽ばたくと、火の渦を伴った強風が起こる。強風による全体ダメージと、六本の柱のうち二つに向かう、ダメージとスリップダメージが入る『燃焼』がつく【炎の渦】。【炎の渦】が向かった柱にいる者は攻撃を中止し、石柱の頂上から降りて柱の陰に隠れてやり過ごすことができるようだ。
「ホムラ、『闇の翼』が効いているうちは自己回復するから攻撃してくれ」
近接ではフェニックスが石柱から離れると攻撃が届かない。魔法がある私がコンスタントに削った方が効率がいい。
飛んでいる敵になら【風魔法】もいけるかとおもったが、思ったほどダメージが出なかったので結局『氷のエストック』をチャージして連発。ガラハドもイーグルも刃を飛ばしたり、気弾を飛ばしたりと遠距離攻撃の手段は持っている。
結構なダメージを与えた、と思ったらフェニックスがマグマ溜まりに飛び込んでHPフルになりやがりました。
「ああ、クソッ! 面倒くせぇ敵だぜ!」
「焦るな。確実に行こう」
イーグルがまたガラハドをなだめる。
「あの穴に飛び込まれる前に、たたみ込むのか、あの穴を塞ぐ方法が何かあるのか、どっちだ」
「塞ぐほうかな、さっきから石柱に乗ってる岩がフェニックスの【炎の渦】がある間、当たってないのに揺れる」
「おーじゃあ、マグマ溜まりのそばの石柱に誘導すりゃいいんだな」
「了解、私登るのも降りるのも楽だから誘導してみる」
「頼む」
誘導の角度とかあるのかね? 【誘引】効くかな?




