12.光と闇
「そういえば名前は何ていうんだ?」
「名前を自分から教えるのは主と認めたものにだけじゃ、誰が名乗るか! それに封印前の名前しかない。我は精霊に近しい、名前が持つイメージで呼ばれれば、そのイメージに引きずられて過去を繰り返すことになりかねん」
「繰り返したらダメな生き方して封印されたのか」
破壊を繰り返す白い生き物を想像してみたが、皿をひっくり返したりスカートにもぐりこんだりしている姿しか浮かばなかった。
「じゃあ、仮の名前で白って呼んでいいか? 呼び名がないと不便なんだが」
「安直な名前じゃが、まあいいじゃろう」
「じゃあちょっと六箇所、いや祈りの間を入れると七箇所か、回ってしまうか」
「祈りの間にしか行かない者の方が多そうじゃの、わざわざ回って祈るのか?」
掲示板の影響か、拝殿には目もくれず祈りの間に直行するプレイヤーが多い。
「この世界に来た挨拶をしなくてはな。たぶんわざわざ参拝の順を書いてくれてる訳だし」
白の耳の後ろを掻いてやる、ここが一番気持ち良さそうだ。
六柱の拝殿は正方形を九つに等分し、北を上段とすると、アシャ・ヴァル・ドゥルと並び、中段はタシャ・中庭・ルシャ、下段は祈りの間・広間・ファルの拝殿となっている。
が、多分正しくはレリーフがある側が祈りの間だ。レリーフの脇の岩壁の削り方が他と違う、丁度反対にある祈りの間の入り口サイズに。
祈りの間の入り口は広間にあるが、拝殿の入り口は中庭を囲むようにしてある通路側にしかない。
たぶん社務所棟を建増ししたときに、拝殿と繋げる訳には行かず、祈りの間とファルの拝殿を入れ替えたのだろう。ファルの拝殿の今ある場所は広場と大通りに面した角だ。
ファルの拝殿で軽く祈る、気づけばファルの神像に1シルが供えてある。私以外にも参拝者がいて、さらに日本人らしい行動をしていることが分かってちょっと笑う。
私も先達に倣って1シルを台座に置いた。
あ、だが池やら木なんかに賽銭は自然を傷めるからNGだぞ。
さて、効率よくいけば隣のルシャへ行くのだが、多分それでは逆打ちだ。
お遍路街道逆走はいけません。
今の配置で素直に廻るならファルから反時計回りで最後に祈りの間だが、昔の配置を考えれば最初はファル、そして時計回りだ。
中庭から広間と祈りの間をスルーしてタシャの拝殿へ。その後は右まわりに順番に抜け、またファルに挨拶をする。「巡る」ではなく「廻る」だ、元に戻らないとな。
そして祈りの間。
またもや淡く輝く発光体。今度は女性なのでもふらない。
「私は旅人と自由を司る、風の神ヴァル」
しなやかな銀髪を風に舞わせる美女が名乗ってきた。鈴の音の様な声とはこんな声を言うのか。
「そなたの旅はこの街から始まる」
「力の破片を全て持ち」
「来る者、来る者、力、偏る中で」
「正しく力を廻らせた」
「来る者、来る者、始まりを誤まつ中で」
「正しく、廻るを始めた」
「来る者、来る者、ひと年で終わる中で」
「正しく季節を廻らせた」
「貴方に廻る力を授けましょう」
「これは表裏の力」
「二つで廻る力」
エコーがかかった詠うようなセリフが終わるとヴァルは此方に手をかざして、そして消えた。
《スキル【光魔術】【闇魔術】を取得しました》
《称号【廻る力】を手に入れました》
《称号【謎を解き明かす者】を手に入れました》
《お知らせします、『世界の謎』を初めて解き明かしたプレイヤーが現れました。これにより情報を開示いたします》
「コレを狙っておったのか、お主……」
いいえ。
レリーフに書かれた通り参りたい単なる変な拘りでした。謎を謎と思ってなかった!
力の欠片はなんとなく六柱に対応してるし初期の魔術5つに風だろうな、とは思った。揃ってないまま 祈ったら失敗で一つしか選べないのだろう。
後は拝殿の順番が一箇所入れ替わっているのに気づいただけだ。
まあ、通常廻り易い配置にするだろうしファルの拝殿と祈りの間が入れ替わっている事に気づけば後は特に考えなくても順番通りかと。
こんな特典があると知っていたら、掲示板で誕生日で何の属性と親和が高かったかとかもっと調べて考えていただろう。
《『世界の謎』は大小様々世界中にございます》
《『世界の謎』を解くことにより、様々な特典が得られます》
《また、『世界の謎』は人から答えを聞くと特典を得る権利を失いますのでご注意下さい》
《『世界の謎』を解いた方は答えを教えないようご注意下さい。謎のある場所、得た特典については話していただいて大丈夫です》
《以降、メニューに『世界の謎』が追加されます》
《注意事項等をお確かめください》
《戦闘を楽しむ方、のんびり楽しむ方、どちらにも特典を得られる機会があります》
《どうぞこの『異世界』をお楽しみください》
ああ、ボス初討伐でだけ特典ついてたらどんどん強さの格差広がるからな、誰にでも、むしろのんびりタイプに機会があるのはいいかもしれん。
「疲れた、白で癒されよう」
「我は癒しの存在とは程遠いわ!」
白の言い分は聞かず、もふりながら社務所に向かう。
「転職されますか?」
「はい」
「ではこちらのオーブに手をかざしてください。貴方の現在就くことのできる職業が現れますのでお選び下さい。但し職業により、神殿でなく他の場所で転職する職業の場合、一覧にでませんのでご注意ください」
剣士(初期職)
拳士(初期職)
魔術士(初期職・現在)
魔法使い(魔術士上位職)
治癒士(初期職)
シーフ(初期職)
精霊使い(魔術士・特殊)
現在の職業は色が暗くなっていて選べないようになっている。私は予定通り剣士を選んだ。
《スキルリストに【剣】【盾】【剣術】【盾術】【挑発】【スラッシュ】【突き】【剣術強化】【腕力強化】【体力強化】が追加されました》
「お主、さっき魔法を貰わなかったか?」
「ああ、貰ったぞ」
「なのに何故剣士なんじゃ」
「約束だし、最初から魔法剣士目指しているからな」
しゃべりながらも急ぎ足で辻馬車を目指す。
「なんで出られるのじゃ!」
いきなり叫ぶ白。耳元です、やめてください。
「何が?」
「我が、じゃ!」
「うちの子になれと言うことだろう」
愕然とする白。
「多分だが、神像を動かしたから封印の効力無くなったんではないか?」
実際に動かしたかは、話してるひまが無くて確かめてないが。
神殿の階段を降り、広場の石畳を踏んだ瞬間。
本日、三度目の発光体。
急ぐので今は勘弁して欲しいのだが!
「急ぐ、すまん!」
「これ、急ぐでない。我らと話している間は世界の時からはなれておるわ」
さっき会ったヴァルと早速再会だ。
普通に話せたんだな。
白がちょっと不機嫌だ、そう言えば拝殿でもヴァルが現れている間もしゃべっていなかった。
「そなたが抱いているのはこの神殿に封じられし獣。しかし神像による封印が緩んでいるとはいえ、出られる程に弱ったか、改心したかは事実、そなたが連れ行くをさし許そう。
じゃが、代わりにそなたが連れている我が眷属を貰い受ける、それに与えていた役割を引き継ぐものが必要でのう」
ヴァルが軽く首を傾げて目を細める、選べ、と言うことだろう。
「それでいいなら」
「まて、契約精霊が居なくなれば精霊が向こうから寄ってこなくなるのじゃ」
「そうだの、普通なら精霊同士惹かれてレベルが上がるごとに新たな精霊が得られるが、自力で探すしかなくなるのう。じゃが精霊の気配だけなら獣にも嗅ぎ分けられよう、まるきりチャンスがないわけでもないぞ」
「ああ、それで白が連れて行けるならそれでいいぞ」
魔術あるし、精霊術は無かったことにしよう。
「ほほ、 獣よ、そなたその人間に従え。その人間がそなたの新たな鎖じゃ」
白に向かってヴァルはフッと吐息を吹きかける、それで何かが成った様だ。白が神殿の封印から解き放たれたのか、私に新たに縛り付けられたのかどちらかだろう。
白の意見を挟む暇もない。
「人よ、私に二度も会うのは稀なこと。精霊を奪った代わりに私の祝福を与えよう」
《称号【ヴァルの祝福】を手に入れました》
《【風魔術】が【風魔法】に変化しました》
「機嫌がよければ他の神々も祝福をくれようぞ」
ヴァルが消えてゆく。さっきまで静かだった広場の音が戻ってくる。
私は白を抱えて馬車に駆け込んだ。
ゴトゴト揺れる馬車の中で白は先ほどから黙ったままだ。
膝の上に丸まっているので修復不能なほどではないと思うが、やはり本獣に意見を聞かず処遇を決定したのはまずかったか。
「白、神殿にもどるか? 外に出たい時だけ私が付き合うとかにしてもいいぞ?」
チラッと半眼でこちらを見てため息一つ。
《「白」からパートナーカードを受け取りました》
《スキル【召喚】【念話】を取得しました》
《職業に【召喚士】が追加されました》
「ん?」
『我は、お主以外に見えておらんし、声も聞こえておらん』
「え」
『【念話】で話すのじゃ、対象を意識して思うだけでいい。せっかく我が気を遣って黙っておったのに。お主、はたから見て相当変じゃぞ』
白が居ない状況を想像する、ずっと自分の太ももの上を撫で回しながら独り言を言う男。ぐふっ!
馬車の中を見ると、何人かが視線をそらした。
『ダメージがでかいんだが……』
『知らぬわ。よいか、真名を教える気もなければ貴様の命令など聞かぬからな』
起き上がってこちらをキッと見ながら白が言う。
『はいはい』
変と思われても手遅れだし、白をなでる。
『色々ありすぎて疲れたのじゃ、我はもう休む!』
宣言して白が消えた。
さて色々確認をば。
メニューを開くとパートナーカードの項目がプレイヤー・住人・召喚獣と増えており、そのすぐしたには精霊の祝福とある。
召喚獣を開くと一覧には白だけが載っておりパトカには「白」という名前と再召喚までの時間がカウントダウンされていた。ステータスの類は伏せられていて見ることができない。
精霊の祝福は空っぽかと思いきや、風の精霊「ウィン」が灰色文字で載っており「逃亡」とあった。
逃げられ扱いなのかあれ……
次にスキルの確認。【スキル鑑定】では取得したスキルが鑑定できる、レベルが低いせいか、まだ未取得のものはスキルリストにあっても鑑定ができない。
【召喚】
・契約した召喚獣を呼び出せる。
・呼び出し中はMPを消費し続ける。
・契約方法は真名を教えてもらうか、生まれたばかりの場合は名づけることによる。
・契約前でもついてくることがあり、その場合召喚はできるが命令は一切できない。
一緒に居る間に好感度を上げると真名を教えてもらえ契約できる。
好感度が下がった場合はそのまま去る。
・契約が成立した後であっても好感度が下がりすぎると逃亡する場合がある。
・呼び出せる時間は決まっており、時間が切れると帰還する。
・再召喚できるまで時間がかかる。
・職業が召喚士の場合、召喚獣を同時に五体まで呼び出すことができる。
パーティー人数にカウントされる。
召喚士以外の場合三体まで呼び出せるが、スキルの使用等命令ができるのは一体のみ。
・職業が召喚士の場合、呼び出している召喚獣に能力アップの効果がかかる。
・職業が召喚士の場合、契約しやすくなる。
大体以上のようなことが書かれていた。白の好感度を上げろということか……
【精霊術】
・祝福をもらった精霊を呼びだし魔法などを行使することができる。
・呼び出しにはMPを消費する、また触媒を必要とする場合もある。
・行動を完了するとすぐに帰還する。
・祝福は精霊の好感度を上げることで通常得られる。
・祝福前でもついてくることがあり、その場合は戦闘中にランダムで能力を使う場合がある。
・一緒に居る間に好感度を上げると祝福をしてもらえる。
好感度が下がった場合はそのまま去る。
・祝福を受けた後であっても好感度が下がりすぎると逃亡する場合がある。
・再召喚できるまで時間がかかる。
・精霊が仲間を連れてくる場合がある。
・職業が精霊使いの場合、精霊の覚える能力が全て使える。
職業が精霊使いでない場合、幾つかの能力が使用できない。
・職業が精霊使いの場合、呼び出している精霊に能力アップの効果がかかる。
・職業が精霊使いの場合、祝福を受けやすくなる。
・好感度が高い場合、精霊から贈り物をされることがある。
召喚と精霊術は被るところがあるな、と思いながら謎解きの称号効果を確認したところで力尽きた。乗り物で字を読むなということは重々承知してたんだが、確認したかったんだ……
【廻る力】は神殿の謎解きの報酬で、起点は何でもいいが属性を順番に使うか、間に風を挟みながら順に使うと"最初に使った属性"に戻った最後の技・魔法の威力が増大するというもの。これはボス初討伐と一緒で初めてその謎を解いたものに与えられる称号だ。
【謎を解き明かす者】の方はガラハドのパートナーカードと一緒で情報開示に繋がる行動をとった結果の報酬だ。
謎解きの称号効果は「謎に遭いやすくなる」。謎がある場所がなんとなくわかるらしい? よくわからん。ああ、馬車酔いから回復したら剣士のスキルとらなくては……SPが2しかないのだが、残しておいてよかった。
□ □ □ □ □
・増・
称号
【ヴァルの祝福】
【廻る力】【謎を解き明かす者】
スキル
【召喚】
???『白』
【風魔術】→【風魔法】
【光魔術】【闇魔術】
【念話】
・減・
風の精霊【ウィン】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.10
Rank E
職業 剣士 薬士
HP 214
MP 347
STR 10
VIT 11
INT 40
MID 14
DEX 9
AGI 10
LUK 10
NPCP 【ガラハド】【-】
称号 【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【ヴァルの祝福】
スキル(2SP)
■魔術・魔法
【木魔術Lv.2】【火魔術Lv.4】【土魔術Lv.2】
【金魔術Lv.3】【水魔術Lv.3】【☆風魔法Lv.1】
【光魔術Lv.1】【闇魔術Lv.1】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
ー
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.3】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.3】【植物食物鑑定Lv.3】
【動物魔物鑑定Lv.3】【スキル鑑定Lv.2】
【武器防具鑑定Lv.2】
【気配察知Lv.3】【気配希釈Lv.3】
■強化
【知力強化Lv.2】
■その他
【MP自然回復】【暗視】【地図】【念話】