127.闘技場 決勝
総合パーティーの三位決定戦と総合個人戦が終了。
三位がバベル&ホルスってどうなのか。
総合個人戦は何とか言う武闘家が優勝、決勝の拳士同士の試合は中々見ごたえがあった。個人的には相手の魔拳士のほうが強いと思ったのだが、MP切れを起こして攻撃力がガクッと下がって負けた。
シン曰く、MP回復のコンボを入れるべきところ、相手のHPの残量を見て欲張って攻撃力上昇のコンボに差し替え削りきれなくて流れが変わったそうだ。MP回復コンボはごく少量の回復ではあるけれど、魔拳士にとっては必須らしい。
シ ン:ギルが出てたら優勝だったろうに
菊 姫: パーティかソロどっちかしか参加できないのはちょっとあれでしね。
レ オ:拳士系多いな!
お茶漬:シーフ系は不意打ちとかスキルがソロだと難しいし、剣士は今回STR振り多くて当てられてないみたいね。
ホムラ:個人戦、魔法使いは出場自体少ないな
ペテロ:もう少しして【詠唱短縮】とか、『ヘイスト』とか出回ると増えるんじゃないかな?
お茶漬:普通の魔法使いは今はまだ攻撃を当てるまでが大変、当たれば大きいんだけどね。
シ ン:ソロ同士ならオレでさえ詠唱中に潰せるしなぁ
レ オ:『蔦』とか『泥』とか早いのも距離があれば避けられるぜ!
ペテロ:パーティーでは活躍するからいいじゃないw
お茶漬:ところでホムラはその悪役鎧で決勝出るの?
ホムラ:無理矢理脱げば脱げるのかもしれんが脱げん!
レ オ:流血鎧www
菊 姫:でっかいドラゴン見てみたいでし
シ ン:大きすぎて近いと見えねぇってのもすげぇな
ペテロ:聞いてはいたけどあそこまで大きいとは思ってなかったw
お茶漬:制御できるのあれ?
ホムラ:基本的にペットも召喚獣も放し飼いです
ペテロ:www
バハムートの血は止まらない、本当にHP総量いくつなんだ。いや、総量というか神々がつけた傷だからか? 『蒼月の雫』でしか癒せないのだろうかと、不安になったころようやく流血が止んだ。三位決定戦から個人戦決勝まで延々かけて漸くだ。白の強い要望で帰還させていた、というか、決勝の時間になったら喚べと自主的に帰還してしまって一人だったのもあって、せっせと回復に勤しんだ。MPポーションの消費がアホみたいなことになったが。
『漸く止まった』
血をきれいにして更に回復、これから動くからまた傷が開かないか心配だ。
『ほんにこの竜は規格外じゃの』
『白にもついてる』
決勝に向けて喚び出した白や、椅子、床なども【生活魔法】できれいにする。何か私、試合以外でMP使いまくってるんだが。ちなみに白は白の希望でクランメンツにもどんな召喚獣かも言っていない、あいつらにはモフられそうで嫌だとのこと。
『この鎧を着ている限り、懸案だった物理もほぼ無効じゃの』
確かに炎王の攻撃を食らってもノーダメージな気がする、だがしかし。
『いや、バハムートがまた出血しても困るし、避ける方向で』
『ここに居る者達の攻撃を受けたところで、彼の竜にはたいして変わりはなさそうじゃがの』
《只今より、総合パーティー戦・決勝を開催いたします》
運営のアナウンスが入って、再び光の円柱の出現。だが今回はステージに出されるのではなく、何処かの小部屋に出された。小部屋には闘技場の制服を着た案内係とバベルとホルスがいて、またかと吐血しそうになったが、今回二人とも至極真面目に控えている。時々上気した顔でじっと見られるのは居た堪れない気分になったが、とりあえずは平和だ。ごく普通に振舞っていれば、眺める分には眼福の部類なのに何故あんな性格なのだろう、悔い改めて欲しいところ。
「こちらから会場へご入場ください。入り口までは私がご案内いたしますが、そこから先はステージの下まで【皇帝の騎士】が付き従います」
そういえば個人戦も決勝は紹介と共に、ステージのあるフロアに徒歩で現れていたな。演出というやつだろうか。案内係が説明する間も、闘技場内には第一試合の組み合わせ時からの賭けの倍率、払戻金、これから新たに賭ける場合の現在の倍率などのアナウンスが流れている。第一試合前に賭けた倍率と、今から賭ける倍率が逆転してるということは、今までの結果でソロでも私が勝つと思う人が増えたということか。
先導の後に続き細い通路を抜けて、会場へ。
先行していたバベルとホルスがステージに上がる階段の手前で左右に分かれて跪く。このまま私は階段を登ればいいのであろうが、段差のせいで、二人のさげた顔の近くに足が行くのに抵抗があり、ついでに私の手をお踏みください! とか言い出して手を差し出してきそうで怖い。なので回避。
手前で地面を軽く蹴って【空翔け】を発動、【滞空】を使ってステージに静かに着地する。装備で『浮遊』が常時発動しているので正確には"着地"ではないのだが。
ステージ上で炎王達と対峙する。
開始の合図と共に使うつもりだろう、炎王達の手にはアイテムが握られていた。
鍋。
ちょっと貴様ら、レオじゃないんだからネタアイテムはやめろ。
『こやつらは笑いを取る気かの? いや、見た所アイテムとしての性能は脅威じゃの。スキルが使えんのじゃ』
白が冷静に分析する、白もスキルか称号に【眼】を持ってそうだ、でなければ解析系のなにか。
『ああ、『反射強結界』だったか。何も無ければ発動は一分間、スキルが当たればそのダメージを反射して消える、使用回数は10回』
『雷神の鉾』を当てても『ファイアニードル』を当てても結界は消える。範囲魔法なぞ使ったら六人分、六倍になって返って来るわけだが、『ファイアニードル』で消すなら私は問題無いだろう。問題は白に反射が行くかも知れないこと。
『スキル禁止ステージだな』
『多少のダメージは覚悟の前じゃぞ』
白と話しながら、炎王達の愉快な姿をSSに収めてゆく。多分、パーティー会話をしているのだろうが、炎王達も無言だ。無言で腹のあたりで黒光りする鉄鍋を構えている、なかなか愉快。特に炎王がすごい真面目な顔してるのでギャップが酷い、炎王にはネタ武器装備を好まない少し固いイメージがあったのでちょっとびっくりである。
◇【レンガード】vs 【烈火】◇
◇Ready◇
◇Go!◇
「行くぞ!」
「おう!」
炎王の掛け声に五人の声が重なる。小柄な女性まで「おう!」なのかとチラッと思ったが、円陣を組まないまでもあれが【烈火】の戦いの合図なのだろう。
【烈火】の全員が『三匹のオークの鍋』を使い、腹のあたりから体を包むように半球状に金色の光が現れる、鍋型の。
六人分の金色の鍋バリア、クルルはちょっと笑っているが他は至極真面目な顔。
『白、どうしよう笑いたい』
新たにSSをですね。対戦相手に失礼とは思いつつも、炎王達が真面目であればあるほどギャップが酷く、笑いがこみ上げる。
『笑ってもいいが、相手が散開したのじゃ。我はスキルがなくばレベル相応の非力な存在じゃぞ』
『ああ、一旦鍋は忘れよう』
【時魔法】『ヘイスト』、スピードアップ。
【ドルイド】『エオロー』、防御力アップ。
【精霊術】『黒耀』『闇の翼』、防御力アップ。
『エオロー』は防御の意味を持つルーン文字らしい、他に友情という意味も。パーティーの人数が多いほど防御力が上がる魔法だ。なのでソロの今は上昇率は低い。『闇の翼』は発動の速さ優先で使用を選択。
真面目にエンチャントを使っていれば、魔法剣士は強化魔法の系統も発現し、使い勝手がいいらしいのだが生憎不真面目だった。つい攻撃魔法に偏ってしまうため、私が現在自分にかけられる能力上昇系はこれくらいだ。後で系統を出すくらいまでにはしよう。
【能力貸与】『素早さ』
【能力貸与】『知力』
【能力貸与】『精神』
【能力貸与】『器用』
『白?』
『ふむ、他に役に立たんからの。我は大分弱体化するが特に問題ないじゃろう』
白の戦闘スタイルはスキルに大きく依存するため、今回白は肩に陣取ったまま攻撃には加わらない。
『こんな能力あったんだな』
『お主は己が召喚獣くらい鑑定せい』
『なんか嫌がりそうだったからな、しとらん。自己申告でお願いします』
弓使いのクルルが飛ばす矢を『月影の刀剣』で払い、突っ込んでくるギルヴァイツアの攻撃を逸らし、聖法使いのコレトを斬る。鍋を最初に使ったせいで、クルルが牽制に飛ばしてきた矢は発動の早い通常攻撃、ギルヴァイツアの攻撃はコンボを繋げておらん初撃だというのに当たったら痛そうだ。盾の大地が動くが、生憎、強化された私のスピードは魔法剣士としては異常だ、それどころかシーフ系であっても異常かもしれない。
そして白の能力も乗った『月影の刀剣』はコレトを一撃で沈めた。
「おい、おい、魔法使いじゃなかったのかよ!」
ギルヴァイツア、おネェ言葉では無くなっている、やはり男らしいそっちが素なのか? 職別拳士の部優勝は伊達ではなく、言葉は動揺しているが攻撃の手は緩めない。逸らし、いなしているためダメージは無いのだが、コンボを確実に繋いで行っている。当たった時が怖い。
「魔法使いから剣士に変身にゃ!?」
語尾が「にゃ」、なままのクルルの方が余裕があるのだろうか。真上に向けて矢を放ったかと思えば、先ほどまで私が居た場所に矢の雨が降った。
「速くて当てられないにゃ! ハルナ足止め!」
「はい、【土】『泥濘』。【水】『バブル』」
混乱しているのだろうか、『浮遊』がかかっている相手に『泥濘』とは。『浮遊』がなくとも【運び】もあるわけだが。
『泥濘』は足止めの魔法、敵のそばに泥濘を作り出し、その場所を踏むと素早さが極端に低下する。『バブル』もやはり敵の周囲にINTにもよるが十個ほどのシャボン玉のようなものが浮遊し、触れたものの体にまとわりつき、同じく動きを緩慢にさせ素早さを奪う魔法だ。『バブル』の方は斬れるので斬り飛ばして処理。
炎王がスキルを発動し、斬りかかってくるが避けながら軽く反撃して、そのまま固定砲台になっているハルナへ、と見せかけて守るためにハルナ側に盾を突き出し、隙を見せた大地に攻撃。ハルナの側に近づかねばという心の逸りが、隙を生む。ハルナの側に向けられ伸ばされた首の上、鎧と兜の間にできた隙間に剣を差し入れる。視線はハルナにやったまま、大地の喉元を斬り裂く。急な方向転換でGがかかって、うぇっとなるが、再び斬りかかって来た炎王の気配にそのまま一歩下がって躱す。
速いのはいいのだが、減速する時の負荷がきついなコレ。白の素早さは一体いくつなのだろうか? この分だとかなり高そうだ。
「大地!」
「大地のHPでも一撃なの!?」
弱点攻撃で【一閃】が発動している。【一閃】は弱点を攻撃した場合、ダメージ増加、一定確率で即死を与える。ダメージ増加の方だろうか、即死の方だろうか、なんにせよ反射しなくて何よりです。『三匹のオークの鍋』は攻撃が当たる前に発動し受けるはずのダメージを反射させる、ついうっかり癖で発動させてしまったが、【一閃】は攻撃を当ててからの判定のため鍋バリアをすり抜けられるようだ。
ハルナの魔法が効くならこれもOKだな。
【風水】『溶岩』
「きゃあっ!」
「あわわわ」
「生命活性飲め!」
「……っ! 黒いとこ上がれ!」
ステージ上を溶岩が流れる不思議な光景、バハムートのブレスの穴の範囲くらいに溶岩が流れている。一定の場所に行くとスッパリ切ったように溶岩が無くなる、やはり今回も観客席とは別な空間のようだ。
『溶岩』地帯を踏んでいる限り【燃焼】の状態異常は消えない、そして思った通り反射されない。一応所々に黒々とした温度の低い部分が存在し、安全地帯になっているようだが、ステージから降りられない以上、燃焼によるダメージを食らい続けることになる。
慌てて黒い溶岩石の上に移動しつつ薬を飲むハルナに攻撃を加えれば、ギルヴァイツアが割って入る。燃焼食らってるんだが大丈夫か? そのままギルヴァイツアに相手を替えれば、今度は炎王が割って入る。やっぱり燃焼食らってるんだが大丈夫か?
生命活性薬を飲め、溶岩石に上がれ、と他には言っておきながら飲んでいないし、安全地帯に上がってもいない二人。まあ、飲んでいたらその隙に斬りとばすが。
飲んでいない二人にクルルが薬を投げつけている。ハルナで安全地帯がふさがっているので、炎王とギルヴァイツアは溶岩の中だ。地形に関しては『浮遊』が素晴らしいと思う、後でこれも錬金して消費アイテムとして売り出そう。売れるかな?
『お主、容赦ないのう。ほれ、あっちで何かやっとるのじゃ』
私に容赦がないと言いながら、白がクルルが何か溜めのいる技を使おうとしているのを指し示す。ロイたちの【クロノス】とやっていた時もそうだったが、ハルナに攻撃が向けばクルルが溜めのいる大技を使い、逆にクルルに攻撃が向かえばハルナが詠唱の長い魔法を使う。だがしかし。
「クルル! ストップ!」
「反射中だ!」
ギルヴァイツアと炎王からストップがかかる。残念、ロイたちに使ったスキルならば私は避けてここにいる三人には当てて、反射でクルルを仕留められたのに。フレンドリーファイア防止が出る前に反射するので私以外に当たると向こうが痛いのだ。攻撃を仕掛けるためだけでなく、それも踏まえて必ず射程や範囲の間に誰かが入るように行動する。魔法はともかく、弓は不勉強でどんなスキルがあるか分からんのだが。
『いい具合に減ってるよな』
『お主、これだけ実力差があって何故そんな用心深いんじゃ! 傍から見たら酷いぞ』
『一撃必殺が危なくなくていいじゃないか。反撃怖いし』
『刀剣はSTRが全部のらん代わりに、DEXとAGI依存じゃろ? 我の速さも足した今、一撃じゃないのかの?』
『一撃な気はするが、私、異邦人同士で刀剣で戦ったことがないから用心だ』
本当はあれです、お茶漬とペテロに確実に勝つようにと言い渡されてるんです。レオとシンのクランハウス資金問題が私が勝てば解決するのもさることながら、あの二垢二人、全財産賭けやがってまして、負けるとやばいのだ。
狭い安全地帯にいるハルナとクルルを守るために、炎王とギルヴァイツアは溶岩に踏み入り、生命活性薬の効果を上回る燃焼のダメージを受けてジリジリHPが減っている。
とりあえず、ギルヴァイツアを沈める。速さは装備と白の【能力貸与】のおかげで我ながら阿呆みたいなことになっている。白より速いってすごくないか? かといって遠距離職のハルナとクルルならともかく、フルHPの炎王とギルヴァイツアを一撃で仕留められるほどの自信はない、大地は【一閃】が即死発動したのかもしれんし、用心したいところ。
なので、HPが四分の三くらいになったのを確認して弱点に一撃。大地や炎王と違ってギルヴァイツアは首回りを防御するような防具は着ていない。防御力は無視できるが、防御されているところは弱点にならないので【一閃】の能力を引き出せない。
「ギル!」
「きゃあ!炎王っ!」
光となって消えてゆくギルヴァイツアに意識が持って行かれた炎王にも退場願った。闘技大会の戦闘不能でそこまで冷静さを失わなくてもいいのに、と思うほど動揺や驚愕が見て取れる、それは隙だ。
『隙がなくても後ろに回るのが間に合ってしまう速さっていったい』
『我は力は無いが、誰にも触れさせないほどの速さはあるのじゃ』
シーサーペントや他の敵との戦いを見ていても白が最初から速かったことを思い出す、レベル依存の速さではなく何かスキルか称号だろうか。
フレンドとはいえ戦闘のための戦闘で容赦する気はないが、大地はフルフェイスなのでそうでもなかったのだが、顔の見えるギルヴァイツアや炎王の首が胴体から離れるのはちょっとトラウマになりそうといえばなりそうなのだが、消えるまで金色に光る鍋も消えないんだよな。
『ちょっと白さん、女性の甲高い声で悲鳴を上げられると悪役感ハンパないんですが』
悲鳴あげているハルナももちろん鍋である。
『自業自得じゃ』
白に切って捨てられた。
残った二人はHPも低く、近接戦に弱い遠距離職。
《レンガード WIN!》
無事勝った……っ!
 




