125.闘技場クロノスvs烈火
試合から戻って急いでメニュー操作、ペテロの試合を見る。
ペテロの試合はスピード重視型速攻か強毒にしてよけ回るか、大体どちらかなので、どちらの展開になっているか確認してからロイと炎王たちの試合を見るつもりだ。一応、四分割もできるし、闘技場上空の巨大ウィンドウと手元のウィンドウに別々に試合を映し出すこともできるのだが、両方に意識をやる器用なことはできそうにない。
ペテロは頭巾をかぶっている。宗十郎頭巾、俗にイカ頭巾と言われるあっちではなく、頭の形に丸くなっている御高祖頭巾のほうだ。イカのほうは元々の形が複雑だが、御高祖頭巾のほうはやろうと思えば幅広の布で事足りる。目元だけを覗かせた頭巾の額には鉢金。
頼まれた『認識阻害』は布のほうについている。金属のほうがつくのかと思いきや、ペテロが持ってきた、認識阻害装備に関する本には、主に布への付与方法が沢山載っていた。うん、綺麗なお姉さんのいっぱいいるお店で見えそうで見えない装備の説明がですね……無駄な知識が増えた! そして男心を打ち砕く詐欺の匂い!
あれ、私、普通にペテロの顔、目の部分だけで見分けがつくし、トーナメントの名前もペテロの登録名【黒の暗殺者(ペテロ)】ってカッコつきで見えるのだが、これはその手の店に行っても見放題ということだろうか、行ったことないが……。
……。
うん、安定の毒展開ですね。
相手も『毒消し』、『強毒消し』は用意があるのだろうが治してもすぐ次の毒を入れられる。薬はリキャストの最中に続けて使うと、それ自体が毒になる物が多い。治癒士や聖法使いの『解毒』が楽だが、薬で回復するにしても魔法で回復するにしても隙になる。
シンのようにファストブリムで放置して毒蛇にガブガブ噛まれて『耐毒』上げした相手が出れば厄介だが。次回はきっと対策されちゃうね、とペテロ自身が言っていた。今の所、使い所が限られる耐性系にスキルポイントを使うよりも、もっと直接的にダメージや回復、防御に関わるスキルを取る者のほうが圧倒的に多い。
ペテロの毒もそうだが、風水の地形・環境ダメージもダンジョンにそういった要素が出始めればあっという間に対策を取られそうだ。スキルポイント対策としては幻想ルートで耐性系のスキル石を手に入れることで解決する。迷宮でも地形・環境ダメージはまだ少ないが、これから本格的に出てくるのかもしれない、ちょっと真面目にスキル石を集めたいところ。
ペテロの相手は見た目からして重装備戦士だが、器用に肌の露出している狭い部分に狙いを定めて浅く斬りつけ、毒を流し込んでいく。弱点をついて大ダメージを与えようなどと無理はしない。うん、時々はっちゃけるが少なくとも今回も堅実に行っている。一撃は大きいがペテロと素早さに雲泥の差がある、この分なら重戦士が出の早いスキルを使ってきたとしても避けきるだろう。安心してロイと炎王たちの試合に目を移す。
ホムラ:ただいま
菊 姫:おかえりでし
シ ン:おかえり
レ オ:わはは、おめおめ
お茶漬:相変わらず早い
帰還の挨拶をしつつ、ウィンドウを見る。自分といつものメンツ以外のプレイヤーの戦闘は見る機会がないのでどんな戦い方をするか楽しみなのだ。当然だがすでに試合は始まっている、炎王の攻撃をロイが防いでおり、それぞれの回復役を弓使いが狙う。
クラン【クロノス】は盾系戦士のロイ、隠者のクラウ、格闘家の暁、聖法使いのシラユリ、義賊のモミジ、弓使いのカエデ。
ホムラ:義賊ってなんだ?
お茶漬:モミジ?
ホムラ:そう
お茶漬:『回復』と攻撃スキルの『銭投げ』持ってる盗賊、かな。
ホムラ:貧しい家に配るのではなくて敵に投げつけるのか。
菊 姫:お財布に優しくない技でし!
シ ン:ジョブチェンジしてもオレとレオには使えねぇ技!
お茶漬:高額投げるほど強力なのはお約束w
ペテロ:自分と相手のシルの差が大きいほど攻撃に補正と自動で『シルを盗む』がつくらしいね、高額投げれば大ダメージだせるけど、シル持ってる人相手には財布をからにしておきたいというwただいま。
ホムラ:あれ? 早いな。毒待ちパターンで時間かかるかと思ってた。
ペテロ:HP1残す【自爆】喰らって負けましたw
シ ン:えぇ〜っ! 安パイだとおもってたのに!
ペテロ:避け様のない広範囲はやばいねw何か対策しないと
お茶漬:耐久の問題が浮き彫りに
ホムラ:すまん、いつものパターンに嵌ってたから大丈夫だと思って見てなかった
レ オ:派手だった! あれ欲しい!!!
菊 姫:ハイリスクハイリターンすぎるでし! わたちの側で使うのはやめるでしよ?
シ ン:ところで職業ってこっから【鑑定】できんの?
お茶漬:あの面子はパートナーカードがあるでしょ
ペテロの試合は毎度同じパターンだったので油断してた、見とけばよかったな。レオは見ていたみたいだが、ヤツは本当に何処を目指すつもりなのか。
そして【義賊】怖い、今やるべきことは手持ちの金を預けられるところを探すことな気がする。カジノに現金引き出し用とかで商業ギルドのストレージないかな。あれ、スロットなんかはともかく、賭けってここからもできるよな?
無事、闘技場の端末から預けられてホッとした。闘技場で死んでもデスペナやロストが無いと思って油断していた。まめに預ける癖をつけんと、レオのようになってしまう。全部持ち歩いているわけでは無いが、恐ろしいことに所持金は三億を超えてる。属性石の買取をちょっとお高めに設定しているにもかかわらず、だ。私はモミジに瞬殺されるんじゃなかろうか。危ないところだった。
クラン【烈火】は剣系戦士の炎王、盾系戦士の大地、武闘家ギルヴァイツア、弓使いクルル、魔法使いハルナ、聖法使いコレト。最後の2人は一緒にパーティーを組んだことが無いのでどういう人となりなのか謎だ。
ペテロ:正統派なパーティー同士だねw
お茶漬:見てて安心できる。これくらい安定してたら僕も回復読みやすいのに!
シ ン:気のせい気のせい。フィーリングが一番だぜ!
レ オ:わははは!
菊 姫:うちはやっぱりイロモノなんでしか
ホムラ:色物というか、ちょっとトリッキーパーティーな気はしないでもない
ペテロ:構成的には普通だよね、シーフ系二人で速攻型か状態異常型かってとこだけど。
お茶漬:正統派かって聞かれたら即答できない
クラウが【木魔法】か【ドルイド】かどちらかの魔法を使ったのだろう、烈火側の全員に薄茶色い何かの芽のようなものが数本生えた。
シ ン:うぇ、きもい。
ペテロ:【木魔法】の『冬虫夏草』かな。HPとMP一定時間少しずつ吸い取る魔法だね。
レ オ:うわー、カビ色に変わってきた!
シ ン:ペテロ、よく魔法の効果なんか把握してんな
ペテロ:掲示板に基本魔法のレベル35位までのは一覧まとめ載ってるからw
ホムラ:覚えきれない何か。
お茶漬:ホムラは把握しなきゃでしょ!
魔法の種類が多い上に、中には人前で使いたくないとか色々こう。とりあえず、タシャは『薔薇の檻』と『冬虫夏草』の【木魔法】の見た目なんとかしてくれんか。
ちょっと私もスキルを隅々まで把握して弱いと言われるような技を組み合わせて勝つ!とか華麗にしてみたい気はするのだが。
そんな行動に向いているのがクラウで、一発でHPを幾つ削る! とかではなく、チェスか詰将棋みたいな数手先で確実に仕留める、静かな侵食みたいな戦い方をする。
炎王のところの魔法使いはハルナ、容姿は謎。ローブのフードを目深にかぶっていて顔が見えない。完全に固定砲台、そして無詠唱。と、言っても私のスキルの【無詠唱】と同じわけではなく、自分の周りにウィンドウをいくつも展開して、パネル操作をしている。正面には本が開いて浮いているのだが操作の度に頁がめくれ、呪文の詠唱の代わりなのか、魔法文字っぽいものが空中に現れ発動と同時に弾けてゆく。
なんか電子オルガンでも弾いているかのような指さばき。こちらも詠唱の長い高レベル呪文を避けて、早く発動する魔法をいくつも組み合わせているようだ。避けた先にもう一発とか。【結界】なのかお茶漬の言う【盾】系なのか自分でも防御もしている、なかなか多芸。
ホムラ:炎王のところの魔法使い、変わってるな。武器は本?
シ ン:プログラミングやってるみてぇだな
菊 姫:強いでしよ。盾がちゃんと守り切るの前提でしが
ペテロ:高ダメージの魔法使いたいんだろうけど、お互いすかさず弓士に止められてて発動早いのしか打ててないね。でも、二人とも手数的にWスキル持ってそうね。
レ オ:ギルヴァイツアとモミジが凸凹すぎww
お茶漬:パーティー戦なのにリーダーがソロみたいになっちゃってるね
炎王vsロイ状態で他をそっちのけに、傍目にも熱血して戦っている。クロノスの方は盾が留守状態なので暁とクラウで攻撃を潰している感じか。ただ守りに徹していると見せかけて、クラウが時々挟む状態異常系の魔法が全体を地味に削っている。
シ ン:あー、ギルさんさすがだなぁ、コンボ切れない
ペテロ:暁はちょっとクラウとシラユリ守らなきゃだから位置取り辛そうね
レ オ:剣戟は派手! 他は地味!
お茶漬:脳筋二人と頭脳派その他
ペテロ:感じ方で自分がどっちのタイプか分かるw
ホムラ:派手&頭脳派と感じた私はニュートラル。
菊 姫:ホムラは考えて準備して、最後の最後に気が変わって力技でしね
シ ン:わかるw
ホムラ:ひどいが否定できない何か。
ペテロ:おお
シ ン:お、新技! 見たことねぇヤツ!
ギルヴァイツアが暁を正面に、背後のクラウ、シラユリを巻き込んで派手なエフェクトのついた大技を放った。一貫してモミジを相手にしていたところでの方向転換だ。しかも先ほどの【自爆】ではないが自分のHPも削れる大技、あっという間にフリーになったモミジの餌食だ。だがしかし、同時にクラウとシラユリがクルルとハルナに沈められた。
お茶漬:これは終わった
ペテロ:バランス崩れたねw
二人の言葉通り、この後すぐに【烈火】の勝利が確定した。
うん、何か炎王がステージの上で残ったパーティーの面々にお説教食らっておりますが、これは控え室でロイが同じ目にあっているということだろうか。
準決勝は、黒百合の【黒百合姫】、炎王の【烈火】、私、そしてシードの誰か。シード権を持つくらいだから強いのだろうが誰だろう? 人数合わせの住人だろうか、前回優勝者とかだったら嫌だな。宿屋で聞いた噂話だと引退してそうなんだが。
『白さんや』
『珍しく前回から呼び出すのが早いの』
『まあ、再召喚時間はきたけど、召喚時間回復全部してないな。だが次と次くらいは時間持つだろう?』
『ふん、準決勝か』
白が対戦表を見て鼻を鳴らす。
『シードがどんなヤツ等かわからんが、白がいれば心強い』
照れた白に噛まれた不条理。
本気噛みではないし、可愛いからいいのだが。
闘技場上空の巨大ウィンドウでは対戦カードがシャッフルされ対戦表に収まってゆく。
【烈火】vs【黒百合姫】
【レンガード】vs【バベル&ホルス】
……
お前等か!




